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2010年4月の日記

【ex10-7】シスコ側のターンその2

2010/04/25 16:37 番外十海
 
 月曜日の朝。いつものように始業より20分早く出勤してきたシンシアは、社長室のドアを開けようとしてフリーズした。

「まあ………そんな、こんな事が?」

 滅多にないことだが、彼女は動揺していた。
 あろうことか、社長が。カルヴィン・ランドール・Jrがデスクに座り、熱心にパソコンを叩いている!

「やあ、おはよう、シンディ」

 ちらりとこっちを見て、再びモニター画面に目を戻す。すさまじい集中力だ。いったいこれはどんな天変地異の前触れか。
 ただでさえ寒波の襲来したカリフォルニアに、ブリザードでも吹き荒れはしないか。あるいは霜のかわりにニシンの大群でも降ってくる?

「お……おはようございます」

 内心の動揺を押し隠し、にこやかに答える。

「今朝はずいぶんとお早いんですね?」
「ああ、ちょっと調べ物をしておきたくてね」
「あら、でしたら私にお申し付けくださればよろしいのに……」

 さりげなくデスクに近づき、画面に目を走らせる。

(社員名簿?)

 彼は社長だ。社員名簿を見るのに何ら問題はないし、正当な権限もある。しかし、企業のトップに立つ彼が何だっていきなりそんな気を起こしたのか。個人的に気になる社員でもいたのだろうか?
 シンシアはすっとアーモンド型の瞳を細めた。

「何を……調べてらっしゃるのかしら」
「いや、大したことじゃないんだ」

 ランドールは素早く頭を巡らせた。シンディは有能だ。頭の回転も早く、目の付け所も鋭い。下手なごまかしはかえって疑惑を招く。ここはストレートにありのままを語ろう。
 ただし、肝心な部分は伏せて。

「日本の知人が、向こうでうちの元社員と知り合ったらしいよ。世界は広いけれど……世間は狭いものだね」
「そうでしたか、日本の……」

 そのひと言が、有能な秘書の耳から脳の内部に飛び込み……魔法にも似た虹色の閃光を散らした。

(日本の知人……ですって)

 さらりとした長い黒髪。つやつやの卵形の頬。サクランボのような唇。抱きしめたら折れてしまいそうな華奢な体、そしてぷりっと愛らしいお尻。

(まさか、あの子? あの子のことなの?)

 思わず頬がゆるみかけた所に、畳みかけるようにランドールが話しかけて来る。

「そう言えばシンディ、知り合いの知り合いを伝っていくと、驚くほど少ない人数で世界中の人と繋がるらしいよ?」
「ああ………そんな話、聞いたこともありますわね」
「間に六人挟めば何らかのつながりができてくる、とも言うね」
「ええ……まあ……」

 この瞬間、彼女は全力で顔も知らぬその『元社員』をうらやましく思っていた。何故、日本に居るのが自分ではないのかと。
 普段の明晰な思考も、鋼の理性もこの時ばかりはアンドロメダ星雲の彼方へと放り投げて。

「それで……シンディ」
「はい?」

 有能秘書が上の空なのを幸い、ランドールはさりげに話を望む方向に誘導した。

「今日のランチは、中庭で食べる事にしたよ。午後一番に人と会う予定は入っていなかっただろうね?」
「え、ええ……」
「では少しゆっくりしても問題ないね?」
「そうですわね……ええ、社内にいらっしゃるのでしたら……」
「ありがとう」

 
 ※ ※ ※ ※


 そして、昼休み。
 ランドールは最寄りの市電の駅までサリーを車で迎えに出た。

「やあサリー。待っていたよ。ランチはもう済ませたかな?」
「はい。いつでも準備OKです」
「では、行こうか……」

 銀色のトヨタに乗り込んだのは二人。
 しかしランドール紡績の門をくぐった時は、車に乗っているのはランドール社長ただ一人になっていた。

「お帰りなさいませ」
「やあ、ご苦労さま」

 守衛に軽くうなずいて車を走らせる。
 駐車場に停車すると、ランドールはゆったりとした歩調で歩き出した。自分のオフィスのある本社ビルではなく、社員食堂に向かって。
 ランドール紡績の社員食堂は、本社ビルと、隣接した工場、双方の職員が利用できるように敷地のほぼ中央に建てられていた。
 二階建てのガラス張り。入り口で食券を購入するカフェテリア形式。先代社長の意向に従い、提供される料理も、それを食べる場所も、きわめて快適に整えられている。
 快適な食生活は、健康を培うとともに効率的な労働を支える。それがカルヴィン・ランドール・シニアの持論なのだ。

「もうすぐだからね……」
「きぃ」
 
 角を一つ曲ったところでばったりと、グレープフルーツジュース(当然、100%のしぼりたてフレッシュ)を満たしたカップを手にしたシンディと出くわした。

「あら、社長」
「やあ、シンディ」
「今……だれかとお話し中でした?」
「ああ、ちょっと電話をしていた」

(何かしら……今、ものすごく好みの子の気配がしたのだけれど)

 怪訝な表情で見回すシンディに、ランドールはうやうやしく道をゆずった。

「どうぞ」
「ありがとうございます。これからランチですか?」
「うん、まあ、そんな所だね」
「ごゆっくり……」

 シンディとすれ違った直後、ランドールのポケットの中で小さな何かが動く。
 ポケットチーフにしてはいささか風変わりなふかふかしたものが、ちょろりと覗き……もそもそっと奥に潜り込んだ。 
 
 
 ※ ※ ※ ※
 
 
 ライ麦パンにベーコンとレタスとトマトのサンドイッチを一つ、ベーグルにスモークサーモンとチーズのサンドイッチを一つ、リンゴとコーヒーの大を一つ。
 外での食べやすさを重視すればこんなものだろう。みずみずしいオレンジにも心魅かれたが、汁が飛んだら厄介だ。

 よく晴れた日だった。そして冬でも新鮮な空気と日光、そして解放感を求めて、外のテラス席で食事とる社員は多かった。
 社員名簿に記された、ゴードン・ベネットならびにグレース・ベネットの所属部署と。食堂内に散らばる社員の顔を照らし合わせつつ、テーブルの一つに足を向ける

「失礼、ここは空いてるかな?」
「ええ、どうぞ……って、社長?」

 若社長に気付き、テーブルに着いていた数名の男女が慌てて背筋を伸ばす。

「いや、そのままでいい。私も君たち同様、外の空気を吸いたいだけだからね……秘書には内緒にしておいてくれよ?」

 ぱちっとウィンクして、唇の前に人さし指を立てる。

「OK!」
「了解しました!」

 若い社員たちはくすくすと笑いながらうなずいた。シンディの鬼秘書ぶりは、社内のすみずみまで普く知れ渡っているらしい。
 サンドイッチをかじりつつ、ランドールはのんびりと話しかけた。最初こそ緊張していたものの、若社長の気さくな物言いに社員たちが打ち解けるのに、それほど多くの時間はかからなかった。
 グループの中に、日本通の青年が一人いたことも幸いし、ごく自然に話題をかの国に向けて誘導することができた。

「おお、これがジンジャの写真ですか!」
「素敵、何てエキゾチック」
「ニッポンかあ……いっぺん行ってみたいなあ。友人が今、そっちに居るんですよ」
「おや、そうかね」
「ええ、奥さんのおばあさんが向こうの出身だそうで。確か、地元の織物会社に転職したって言ってたな」
「ほう。やはりシルクかな?」
「そうです。ツムギって言ってました」
「日本の絹織物は最上級だそうだね……しなやかで、つやがあって……」

 藍色の夜を背景に、はらりと散り咲く薄紅色。八月の日差しの中、そこだけが春の夜を夢見ていた。まだ名前すら知らなかったあの日、初めて会った時に彼女が着ていた桜のキモノ。
 間近に目にした日本のシルク。細やかな刺繍の織りなす光と質感に一瞬、目と心を奪われた。

(……しっかりしろ、カルヴィン・ランドール!)

「機会があったら、取り寄せてみたいものだな。その、何と言ったかな、君の友人は」
「ベネットです。ゴードン・ベネット」
「そうか。ありがとう」

 為すべきことはした。自分の勤めはここまでだ。
 空になったトレイを手に、ランドールは立ち上がった。

「お先に失礼するよ。楽しかった。ありがとう」

 軽快な足取りで遠ざかる社長の背中を見送ると、居合わせた社員たちの一人が誰ともなくぽつりとつぶやいた。

「ベネットか……いい奴だったけど」
「災難だよな」

 さすがに社長の前では口にできなかった、もっと込み入った話がぽつり、ぽつりと誘い出される。記憶の海の底から、糸で連なる真珠のようにつらつらと。

「あんな事がなければな……」
「……あら、かわいい」

 女性社員の一人が手近の木の枝を見てほほ笑んだ。ふわふわの尻尾、ぴんと立った耳、つぶらな黒い瞳。リスだ。
 逃げもせずに首をかしげ、ちょろちょろと近づいて来る。

「人懐っこい奴だなー」
「ナッツ食べる? リンゴの方がいい?」
「きぃ、きぃ」

 小さなリスは前足でリンゴの欠片を抱え込み、コリコリと美味そうにかじり始めた。

「結局は、家族を選んでケリを着けたんだろうな」
「カリフォルニアは自由な土地だけど、さすがに大っぴらに不倫はいかんよ……しかも社内で」
「奥さんの親友相手は、なあ……」
「ほんとに、ね。彼女とグレース、まるで姉妹みたいに仲が良かったのよ?」
「ああ、シモーヌは子どもの頃、妹を地震で亡くしてるから。余計にグレースのことが可愛かったんじゃないかな」
「だよね。年は同じだったけど、日系の子ってちっちゃくてキュートだものね」
「確か、大学の同期生だって言ってなかったっけ」
「うん。会社に入る前からの付き合いだったって」
「今、思うとさ……ゴードンもグレースも。引っ越す直前あたりから、シモーヌのこと避けてたよ……ね」
「あー、確かに……前はしょっちゅう、家に行き来してたのに。会社でも、ほとんど顔合わせてなかった」
「そうなの?」
「うん、そうだった」

 しばし会話が途切れ、コーヒーをすする音がやけに大きく響いた。
 やがて、男性社員の一人がふーっと深くため息をついた。

「結果としてあれでよかったんだよ。さすがに海を越えれば、シモーヌだって」

 話の間、リスはずっとテーブルの回りや芝生の上で首をかしげたり、毛繕いをしたりと愛らしい姿を惜しみなく披露していた。
 そして、そろそろ昼休みが終ろうと言うころ、またちょろちょろっと木立の間に戻って行った。

「あ、行っちゃった……バイバイ」
「まるで人間の言葉がわかるみたいだったわね、あのリス」
「ははっ、まさか。単にリンゴが好物ってだけだろ?」

 ちょろちょろとリスが走ってゆく。枝から枝へと飛び移り、最後に上等のスーツの肩にぴょいっと飛び乗った。

「お帰り、サリー」
「きぃ、きぃ」
 
 
 ※ ※ ※ ※
 
 
 数分後。ランドールは自分のオフィスに居た。デスクの傍らにサリーが立ち、一緒にパソコンの画面をのぞき込んでいる。

「名前は、シモーヌ……年齢は、グレース・ベネットと同じなんだね?」
「はい、大学の同期生だそうです」
「だとすると、条件に合致するのは……」

 画面上に白人女性の写真が表示された。波打つ黒髪は長く肩を覆い、ぽってりと肉感的な唇が印象的。緑を帯びた青い瞳は、まるで晴れた日の海のようだ。

「彼女だ。シモーヌ・アルベール」
「きれいな人……ですね」
「ああ。美しい女性だね。だが危うい女性だ」
「え?」

 サリーはまばたきして、じっと写真を見つめた。言われてみれば、そんな風に思えなくも……
 ううん、やっぱりわからないや。

「この人が、ナイトメアに寄生されてるのかな」
「私の狩人としての経験はわずかだがね。恋する男女は数多く目にしてきたつもりだ」
「はあ………」
「情熱的な恋と言うものは、ひとたび道を違えれば憎しみにも変わる。彼女はその種の激しさを秘めているように思えてならないんだ」

 サリーは小さく感嘆のため息をもらした。

(やっぱりランドールさんって、大人なんだな)

「グレースさんとは、姉妹みたいに仲が良かったはずなのに。旦那さんと……」

 こくっとのどが鳴る。

「不倫、していたなんて」
「結婚していると言う事実が、ブレーキにならない場合もあるんだよ、サリー……」
「ええ、それは……俺も、よくわかります」

 おそらくは、秘めたる思いで終らせるつもりだったのだろう。だが、ぽっかりと開いた穴に生じた『歪み』がそれを許さなかった。
 シモーヌ・アルベールにとっては、ただ夢を見ているだけにすぎない。
 彼女が眠っている間、心の闇に巣くった夢魔が理性の枷からから解き放たれ、ゴードン・ベネットを苦しめているのだ。
 少しずつ彼を衰弱させ、生命の最後の一滴まで絞り取るまで悪夢は終らない。
 そして無自覚に夢魔の力を使えば使うほどシモーヌ・アルベールはより深く侵食され、主導権を奪われて行く。

「……報告書はこんな感じでいいかな?」
「ええ。十分です」
「それでは、メールで送っておこう。君のパソコンにも」
「お願いします。それじゃ、そろそろ帰りますね」
「ああ、送ろうか?」
「いえ、大丈夫です。あ、そこの窓開けていいですか?」
 
 
 ※ ※ ※ ※
 
 
「……失礼します」

 シンシアが昼休みから戻って来ると、窓際に社長が立っていた。

「やあ、シンディ。お帰り」
「何をなさっているんですか」
「ああ、うん、ちょっとバードウォッチングをね」

 窓の外に目をやると、今しも白い鳩が一羽、遠ざかって行くのが見えた。

「あら、きれいな鳩」
「この距離でわかるのかい?」
「ええ、わたくし、視力には自信がありますの」

 にこやかに答えつつ、シンシアは内心、首をかしげていた。

(何かしら、また、とてつもなく好みの子の気配がしたような……)
(わたくしとした事が! どうかしてるわ)

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【ex10-8】彼女の織った海

2010/04/25 16:38 番外十海
 
 日曜日の午後。
 結城羊子は緋色の袴と白衣(はくえ)の巫女装束に身を包み、すたすたとせせらぎの遊歩道を歩いていた。
 真新しい一戸建ての並ぶ住宅街は、昨日ランチをとった犬カフェといくらも離れていない。

「この辺りかな」
「ええ、そろそろですね」

 同じく白衣に浅葱の袴を身に着けたロイと風見が後に従う。

「どーした、二人とも。表情固いぞ?」
「いや、だって神社の外でこの装束来て歩くのは、始めてで、緊張しちゃって……」

 羊子は歩みを止め、引き返すと教え子たちを前後左右からじっくり検分。しかる後、うなずいてポン! と風見の背を叩いた。

「問題ない。剣道の装束とちょっと色が違ってるだけじゃないか」
「あ、そうか」
「二人とも決まってるぞ。中々に男前だ。もっと自信持て!」
「カタジケナイ」
「ありがとうございます……」
 
 道行きを再開してまもなく。ロイがすっと立ち並ぶ家の一軒を指さす。やはり母国語だ、英語の表札をいち早く見つけたらしい。

「あ、ありましたヨ、先生!」
「B、e、n、n、e、t、t……ベネット。本当だ」
「意外に近くでしたね」
「よし、では手はず通りに」
「了解!」
「御意!」

 とことこと玄関に歩み寄ると、羊子は伸び上がって呼び鈴を押した。

「ごめんください」

 インターホンから返事がかえって来る。かすかに巻き舌で、日本語ではあるけれど微妙にイントネーションが違う。

「どなたデスカ?」
「結城神社の者です。昨日、ご主人のゴードンさんが当社にご参拝になったのですが、その時に忘れ物がありまして……」
「少々お待ちください」

 よし、第一関門クリア。途中から流ちょうな英語に切り替えたのも大きかった。
 やや間があって、玄関の扉が開かれ、お腹のまぁるく膨らんだ黒髪の女性が顔を出した。日系のクォーターと言う話だったが、外見はほとんど日本人と変わらない。ただ身に付けた服や、うっすらほどこしたメイクにどことなくアメリカの空気を感じる。
 ポップでカジュアル、くっきり鮮やか。
 まちがいない。彼女がグレース・ベネットだ。

「こんにちは」

 3人そろってきちっと一礼する。わずかながら残っていたグレース夫人の警戒が解かれる。神社の装束と、ロイの存在に気付いて安心したのだろう。

「主人はあいにくと出かけておりまして」
「はい、かまいません。忘れ物をお届けにあがっただけですので」

 羊子は手にした袱紗を解き、薄紙に包んだお札を風見に差し出す。受け取ると風見光一はしずしずと前に進み出た。

「昨日のご参拝の際に、こちらのお札をお渡しするのを忘れておりまして……」
「まあ、わざわざありがとうございます」

 グレースはほっそりした両手でお札を受け取り、しみじみと眺めた。それから、ややためらいながらも口を開いた。

「あの……一つ、お聞きしてもよろしいですか?」
「はい、どうぞ」
「このお札は何のお守りなのですか?」
「それは、安産祈願です」
「アンザン?」
「元気なbabyが生まれるようにって言うお守りデス!」
「ああ……そうだったんですね!」

 グレースの顔にほっと安堵の笑みが広がる。
 ゴードン氏が神社の参拝の理由をどのように彼女に伝えていたかはわからない。しかしながら彼は妻に心配かけまいと必死だった。だとすれば。
 夢のガーディアンにお参りした……とは、伝えていない可能性が高い。それほど悪夢に深刻に悩まされているのだと、妻に気取らせてしまうから。
 それに、嘘はついていない。両親の安全を守ることは、広義の意味で安産祈願でもある。
 大らかなかつ柔軟な解釈に基づき、安産のお札を持参したのだが……ベネット家を訪れた本当の目的は直接グレースと対面し、夫妻の家を見るためであった。

 幸いにも夢魔の被害はグレースには及んでいなかった。
 しかし、ゼロではない。目をこらすとやはりゆらゆらと水に揺れる藻のような影がまとわりついているのがわかった。
 風見がお札を手渡す時に送った念のおかげで精神的な疲労は和らいだようだが……まだまだ予断は許されない。

「あら?」
 
 ふと、羊子は玄関の壁に目をとめた。
 縦にすらりと青い色が揺らぐ。最初は水槽でも置いてあるのかと思ったが、ちがっていた。空の青から海の青、そしてさらなる深い緑へと、微妙に変化してゆくグラデーション。海と空が織り込まれた薄い、しなやかなタペストリー。
 美しい、けれど怖い。見つめれば見つめるほど、糸で織られた海はゆらめき、さざめき、渦を巻き、すうっと意識が奥底に引きずり込まれそうになる……。

(引き込まれてどうする。しっかりしなきゃ!)

「わあ、きれい。ひょっとしてこれ、手織りですか?」
「はい。私が糸をつむいで、染色しました」
「織ったのも、ご自分で?」
「いえ、それは……………」

 グレースは目を伏せ、きゅっと左手を握った。

「友人が………」

 うつむきながら右手で薬指に光る銀色の指輪をなでさすっている。

「アメリカの?」
「え、ええ………向こうの。彼女は良い友人でした。とても、とても」

 微妙な『間』。含みのある物言い。それに応えるようにゆらゆらと、グレースにまとわりつく『もや』がわずかに濃くなる。
 羊子は教え子二人に目配せし、首にかけた細い鎖に手を伸ばした。風見とロイもそれぞれ懐に手を入れる。

 りん!

 微かに鈴が鳴る。悪夢を祓う夢守りの鈴が大小合わせて三つ。三人の指先で鳴り響き、一つの音色に溶け合った。
 その刹那。
 おぼろな影は散り散りに弾き飛ばされ、床に落ちる。すすーっとこぼれた水銀のように床面を走り、壁を上り……
 吸い込まれて行った。
 
 青いタペストリーの中に。

(見得た)

「あの……奥さん」
「はい」
「あのタペストリー、もう少し近くで拝見してもいいですか」
「あ、ど、どうぞ」

 三人は玄関の壁際に歩み寄り、しみじみとタペストリーを観察した。
 今はただの布にしか見えない。ついさっきはうねり、渦を巻く水面に思えたのに。
 そう、触れればそのまま捕まり、引き込まれそうな深い海に……。

(惑うな。迷うな。するべきことをしなければ)

「………」

 改めて間近に見ると空にはカモメが一羽、飛んでいるのがわかった。くっきりと浮かび上がる白い翼は、つややかな絹糸で施された刺繍だった。さらにタペストリーの右下に刺繍がもう一ヶ所……こちらは文字だった。

(S.A……イニシャルか?)

 深く息を吸うと結城羊子は瞳を閉じ、意識を滑らせた。現つから夢へ。あらゆる物が動きを止めたもう一つの時と空間の中、彼女は袖の中から鈴をとり出した。赤い組み紐の先に揺れる小さな金色の鈴。
 タペストリーをつり下げる糸に組み紐を絡め、裏側に垂らす。
 あからさまに護符を貼り付ければ、さすがに目立つ。発覚した時に怪しまれ、即座に剥がされてしまうだろう。しかし、何の変哲もない小さな鈴なら……まず気付かれない。何より、呪術的な意味合いを気取られる可能性はぐっと低くなる。
 鈴の位置を整えてから、羊子は集中を解いた。
 途端に現実の音と気配が戻ってくる。

「このカモメ、刺繍なんですね」
「はい……生成りの絹糸を使いました」
「ああ、だからこんなにつややかなんだ」
 
 何喰わぬ顔でうなずき、つつましく後に下がる。

「それでは、これでおいとまいたします」
「ありがとうございました」

 
 ※ ※ ※ ※

 
 ベネット家を辞してしばらく歩く。ある程度離れてから、羊子がぽつりと言った。

「とりあえず、悪夢の侵入口は塞いだ。いつまでもつか、わからないけれど」
「大丈夫ですよ、先生。俺、いざとなったら、鈴を頼りに飛びます!」
「ボクも、いざとなったら壁抜けして!」

 にまっと羊子はほほ笑み、教え子たちの肩をたたいた。

「頼んだぞ、風見。ロイ」
「はいっ」
「ハイ!」
「んじゃ、帰るか………っとと、あっ」

 いきなり小さな体がバランスを崩し、段差を踏み抜いたようにがくっと傾く。白い袖が。緋色の袴が翻り、なめらかなふくらはぎがあらわになる。
 とっさに風見とロイは目をそらした。

「あ」
「しまった!」

 びったん! 

 派手な音に我に返った時は既に遅く。結城羊子はものの見事に路面に突っ伏していた。

「いったぁあ……」
「大丈夫ですか、先生!」
「あ、ああ。これぐらいなら、大したことない」

 ずれた眼鏡をかけ直し、乱れた髪をかき上げる。すりむいた手のひらも、ひねった足首も、ちょいとこすればもう元通り。

「珍しいな、先生がこけるなんて……あ!」

 足下を見て、合点が行く。草履の鼻緒がぷっつり切れていた。

「あーあ……」
「何で、切れるかな」

 羊子はじとーっと目を細め、うらめしげに草履を脱ぎ、片手でぶらさげた。

「ちゃんと新しいの履いてきたのに」
「そう言うこともありますよ」

 風見は慣れた手つきで懐から手ぬぐいをとり出し、口にくわえてびっと細く引き裂いた。

「貸してください」
「あ、ああ……ありがとう」
「ロイ、先生を頼む」
「OK」
「おわ」

 ひょいっとロイに支えられる。

「意外に力あるんだな、お前」
「鍛えてマスから!」

 一方で風見は裂いた手ぬぐいを紐状にし、切れた鼻緒の代わりに穴に通した。

「器用だなあ、風見」
「じっちゃんから教わりました。庭で稽古してる時、しょっちゅう下駄の鼻緒、切ってましたから……」
「すごいや、コウイチ!」
「いや、俺にしてみればロイの方がすごいよ」

 風見はしみじみと親友を称賛のまなざしで見つめた。

「お姫さまだっこで微動だにしないなんて!」
「……うん、それ、私も思ってた」

 ロイは履物を失った羊子を軽々と両腕で抱きかかえていたのだ。

「おじい様の教えです。ご婦人を支える時は、お姫さまだっこ以外に選択肢はないと!」
「ハリウッド式か!」
「ハイ!」
「さすがだな、ロイ!」

 誇らしげに胸を張りつつ、ロイはちょっぴり切なかった。

(どうしてボクの鼻緒が切れなかったんだろう……)


 ※ ※ ※ ※


 神社に戻ると、大鳥居の前で背の高い黒服の男が待っていた。

「お帰りなさい」
「ただいま」
「……おや?」

 三上蓮は羊子の足下に目をやり、首をかしげた。

「どうしたんですか、それ」
「ああ、うん、帰り道で鼻緒が切れちゃってさ」
「おや、それは大変でしたね。お怪我はありませんか?」
「ん、もうないよ?」
「それは何より……ああ、お昼ご飯の仕度、できてますよ」
「わーい、もーおなかぺっこぺこ!」

 土曜日から羊子とロイ、風見の三人は神社に泊まり込んでいた。
 その方が九時間の時差のあるサンフランシスコと連携が取りやすいし、何よりベネット夫妻の家にも近いからだ。
 正月に引き続き、事件解決までは合宿状態。当然、月曜日は三人そろって神社から通学する予定である。

(寝てもさめてもコウイチと一緒だなんて……一緒に通学して、一緒に帰ってきて、ご飯も一緒だなんて。ああ、夢のようだ!)

 悪夢事件解決のためだとわかっていても、ロイはあふれる喜びを噛みしめずにはいられなかった。
 ひっそりと。あくまで心の中で、ひっそりと。

 
 ※ ※ ※ ※
 

 火曜日の早朝。
 9時間の時差を超えて、サンフランシスコのランドールとサクヤから報告のメールが届いた。

「シモーヌ・アルベール……S.A。タペストリーのイニシャルと一致する」

 社務所のパソコンでメールを開き、じっくりと目を通してから三上はうなずいた。

「確かにこの写真の女性でしたね。ゴードンさんにまつわりついていた蛇女は」
「その言い方やめて……」

 羊子が顔をしかめる。

「ああ、これは失敬。苦手でしたね、蛇」
「そーよ。巳年の年賀状も、蛇革のベルトも鞄も上着も、沖縄のサンシンもハブ酒もだめ!」
「……あれって、飲み終わったら『具』はどうするんでしょうね」
「やめてーっ」

 風見とロイの背後に隠れ、涙目でじとーっと三上をにらみつける。

「失敬失敬。もう言いません」
「うー……」
「ひとまず、レジストコードを付けておきますか。メデューサ……いや、メリジューヌとでも」

 風見が首をかしげて問いかける。

「メリジューヌ?」
「ええ。フランスの伝承に語られる、腰から下がヘビの姿をした水の妖精です」
「フェアリーですカ」
「いいかもね」

 抑揚のない声で羊子が応える。

「愛する人に裏切られ、永遠に半ばヘビの姿でさまよう女。ぴったりだ」
「本当に、そう思いますか?」

 三上はずいっと身をかがめ、赤いフレームの奥の瞳をじっと見つめた。まばたきをして、視線をそらされる。

「ああ、やはり。自分の言葉に納得してませんね」
「……参ったなあ。お見通し?」
「はい」

 がっしりした骨組みの手のひらが、小さな肩を包む。

「言ってください。どんなに些細な疑問でも。違和感でも。私たちは決して軽んじない。真剣に聞きますよ……他ならぬあなたの言葉なのですから」
「……うん」

 こくっと小さくうなずくと、羊子はぽつりと言った。

「小泉八雲の怪談で『破約』って話があるの、知ってる?」

 かいつまんであらすじを語ると、こうだ。

 とある武士の妻が病にたおれ、今際の際に懇願する。「決して後妻をめとってくれるな」と。
 夫は約束したが、彼らの間に子はまだなかった。親戚や同僚から『再婚しろ』『子がいなければ家が絶える』と責められ言いくるめられ、やむなく後妻を娶る。
 すると亡き妻の死霊が現れ、後妻を惨たらしく殺した。
 体が朽ち果ててもなお、死霊の手はカニのように引きちぎった後妻の首をかきむしり、ずたずたに引き裂いてしまった。
「ひどい話だね。なぜ彼女は約束を破った男を恨まなかったのだろう?」八雲の問いかけに友人が答える。
「それは殿方の考えです」

 語り終えると羊子は小さく息をついた。

「訳本によってはこの『友人』を『彼』と訳しているけれど、実は女性だったんじゃないかなって思うんだ……」

 きょとん、とした表情で風見とロイは首をかしげた。

「えーっと、つまり?」

 ああ。やはり通じないか。
 羊子はひょい、と眼鏡の位置を整えると顔を上げ、きっぱりと言い切った。

「恋人をとられた女が祟る時、その対象は本人じゃなくて、新しい相手だってこと!」
「そう言うもんなんですかねえ……」

 三上さんまで……
 いや、いや、無理もない。
 この人だってまだ二十代、しかも独り身なのだ。どろどろした女の情念に疎くとも致し方ない。

「そーゆーもんよ」
「何故?」

 あまりに素直な少年の問いかけが、すうっと胸に染み透る。あらゆる防御壁を通り抜け……癒えきらぬ傷を貫いた。

(まだ好きだから)

『ずるいよ、カル……こんなことしても………どうせ、テリーの方が好みなんでしょ?』
『そうだよ』
『っ!』

(あの時、一瞬テリーのことをねたましいと思った。憎らしいと思ってしまった)
(彼のせいじゃないって、わかっていたのに……感情が理性のコントロールを振り切った)

 恋しい、愛しい、憎らしい、恨めしい。表裏一体なんて単純に割り切れはしない。入り交じり境目はあまりにも曖昧。

 ぎりっと奥歯を食いしばる。噛みつぶした言葉の苦味がじっとりとのどの奥に広がり、浸透してゆく。
 無理やり唇の端をひっぱりあげて、さばけた笑顔と声を取り繕った。

「それだけ、去ってった相手への執着が強いってことでしょ?」
「なるほど。ではそーゆーもんとして話を進めますが、であれば憑かれたのがゴードン氏であるのはいささか奇妙ですね?」

 ほんの少しためらってから、羊子はこっくりとうなずいた。

「本当に不倫関係にあったのだとすれば、グレースさんの方に憑いているのが妥当でしょう。つまり……」

 三上はさりげなく視線を滑らせ、奇妙なほどに落ち着いた横顔を見据えた。視線を感じた彼女がこうべを巡らせ、こちらを見る。その瞬間をとらえ、じわり、と言葉を進めた。

「メリジューヌが本当に執着しているのは、グレースさんの方……と見ていますか?」

 息を飲む気配が伝わる。どうやら、的を射貫いたようだ。

「その方が、自然だと思うの」
「そうですね。あの時の『返せ』もこれで繋がります」

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【ex10-9】喪失の痛みは重なり歪み

2010/04/25 16:39 番外十海
 
 火曜日の朝。
 サンフランシスコのランドール紡績本社ビル。その最上階でシンシアはまたしても信じられない光景を目にした。
 昨日一日なら、たまたまとか気まぐれとか。あるいは年に一度の珍事で済ませることもできただろう。だが、まさか二日連続で社長が自分より早く出勤しているなんて!
 しかも、またしても熱心にパソコンに向かっている。

「やあ、おはようシンディ」
「おはようございます」
「早速ですまないが、濃いコーヒーを一杯入れてもらえるかな。ブラックで」
「いつものお茶ではなく?」
「ああ。カフェインが欲しい気分なんだ」
「かしこまりました。少々お待ちください」

 首をかしげつつシンシアは簡易キッチンに向かい、コーヒーを入れた。

「お待たせいたしました」
「ありがとう」

 カップを置きながらさり気なく画面に目を走らせる。よもや私的な目的で会社のパソコンを使っているとは思いたくないが、一応、念のため。
 画面上には一人の社員のデータが呼び出されていた。ぽってりと官能的な唇に青緑の瞳、波打つ長い黒髪の……女性。少なくとも個人的な趣味で眺めている訳ではなさそうだ。が。

「あら、この娘は……」

 ぴくっと耳を動かし、ランドールは顔を上げた。

「知りあいかい?」
「いえ、2、3度すれ違っただけです。うちの社員だったんですね」
「ってことは会ったのは社の外なんだね?」
「ええ」

 そう言って、美人秘書は艶然とほほえんだ。サンゴ色の唇からちらりと白い歯がのぞく。

「可愛い子は、忘れませんから」

 ピン、ときた。シンディがそんな表情をすると言うことは。
 シモーヌ・アルベールは同性愛者だ。彼女が愛するのは女性だ!
 霧に閉ざされていた視界がさっと晴れ渡り、知り得た情報の意味ががらりと変わる。わずかに感じていた違和感が消え、全てがあるべき位置に収まった。
 ランドールは素早く立ち上がり、美人秘書の手をとると、うやうやしく口付けた。

「……ありがとう、シンディ。君の有能さに改めてほれぼれするよ!」
「え?」

 シモーヌとグレースは学生時代からの親友ではなく、仲むつまじい恋人同士だったのだ。
 既に二人が一緒に部屋を借りていたことは調べがついている。
 休日は、二人で一緒にファーマーズ・マーケットにクラフトショップを出店していたと言う。
 グレースが糸を紡ぎ、染色し、シモーヌは布を織る。二人で一つの作品を作る時間は、恋人同士の濃密な甘い語らいの時でもあったに違いない。
 しかし、グレースは男性も女性も同じように愛せる人間だった。ランドール紡績に入社後にゴードンと出会い、魅かれて……プロポーズを受け入れた。
 女である以上、シモーヌ・アルベールはグレースと正式に結婚することはできない。愛しているからこそ二人を祝福し、これからはよき友人であろうと心に決めた……かつて自分がひっそりとアレックスの結婚を見守ったように。
 失われた恋の記憶が共鳴し、夢魔への怒りがふつふつと沸き起こる。厳しい表情で口元を引き締めると、ランドールは秘書にしばらく席を外すように命じた。

「大事な電話があるんだ」
「………」

 青い瞳に強靭な意志の力がみなぎっている。目を合わせているだけで、見えない流れにぐいぐいと押されるような心地さえする。気迫に飲まれ、シンシアは理由を問うこともできずにうなずいてしまった。

「かしこまりました」

 ドアが閉まる。
 ランドールはおもむろに携帯を開き、電話をかけた。

「Hello,サリー?」
「ランドールさん。何かわかったんですね?」
「ああ……色々とね。我々はとんだ見込み違いをしていたようだ。シモーヌ・アルベールと恋愛関係にあったのは、ゴードンではなくグレースの方だったんだ」
「えっ?」
「別に驚くことではないよ。我が社では同性愛者はそれほど珍しくはない。ここはサンフランシスコだし、私自身が就任当時からゲイであることを公表しているしているからね」

 手短に、かつ要領良く。ビジネスの時と同じくらい、いや、ひょっとしたらそれ以上の的確さでランドールはサリーに己の知り得た情報を伝えた。

「彼女たちは、自分から積極的にカムアウトはしていなかったようだが……頑なに隠してもいなかった」

 夢魔の行動基準は寄生した宿主の抱く秘かな欲望によって決まる。宿主の願いを叶えると見せかけて、より深く食い入り、吸い取るために。
 何故、彼女が心の中に歪みを生じ、夢魔を巣くわせるに至ったか。
 狩人は識らねばならない。識らねば夢魔を追いつめ、根源から断つことはできない。

「シモーヌ・アルベールは、子どもの頃に妹を地震で失った。彼女と親交のある社員たちはそう信じていたが、事実はちがっていたんだ」
「……記憶を夢魔に書き換えられたんですね」
「ああ。君の言う『現実の侵食』が起きていたようだ」

 夢魔は人の記憶と認識を歪ませる。真実を歪め、己の作り出した『現実』を割り込ませて行く。
 最初は宿主の周囲の人間から。侵食の範囲が広まるにつれ、本来の現実は希薄になって行く。やがて限界を超えた時……悪夢が現実に取って代わるのだ。

「シモーヌの実家はオークランドだ。1989年10月17日に、サンフランシスコのロマ・プリータ地震を体験している」
「今25歳だから……8歳の時、ですね」
「ああ。あの地震の事は私もよく覚えているよ……」

 それまで安全だと信じていた自分の世界が崩れ去り、根底から覆される恐怖。ニュース番組で繰り返し報道された崩落したベイ・ブリッジの映像は、幼いランドールの記憶に強烈に焼き付いた。

「だが、奇妙なことに、ロマ・プリータ地震の犠牲者の名簿に、彼女の妹に該当する少女の名前はないんだ。彼女の両親も、遺族会には参加していない」
「よく、わかりましたね」
「顔はそれなりに広いからね。それに、私はシモーヌ・アルベールの雇用主なんだ」

 夢魔による現実の侵食は、まだ宿主の周囲の人間の記憶を書き換えるのにとどまっている。
 彼女から離れた所にあり、認識の薄い公的な記録を書き換えるのには至らなかったのだ。

「シモーヌには確かに妹がいる。だが、その子は地震のあった日は、サンフランシスコにいなかったんだ。1987年に両親が離婚して、母親は妹を連れて北欧に移住していたんだよ」
「そんなに、遠くに?」
「ああ。もともと母親は北欧出身だったらしいね」
「それじゃあ、シモーヌさんの妹は、地震で亡くなったんじゃなくて……」
「両親の離婚で生き別れになったんだ」

 夢魔はその記憶を、より悲惨に書き換えた。
 恋人だったグレースと、妹。現在と過去、二つの喪失の痛みが混在し、あいまいになり……奪った者=ゴードンへの憎しみを増長する。

「俺の方でもお知らせすることが」
「何だい?」
「ゴードンさんたちの住んでいた近所で聞き込みをしてみたんですけれど……シモーヌさんは執拗に二人に付きまとっていたらしいです」
「そんな事までしていたのか」
「はい。夜遅くに、じっと外に立って中をのぞき込んで、無言電話をかけたり。捨てられたゴミをこっそり持ち帰ったり。グレースさんが外出する度に、後をつけていた、とも」

 サリーの情報源はホモ・サピエンスのみに留まらない。
 犬や猫、そして鳥、もちろんリスも。動物たちは実に率直に己の見たまま聞いたまま、人間たちの行動を語ってくれた。

「ストーカーそのものじゃないか。ベネット夫妻は警察には相談しなかったのかい?」
「……おそらくは」

 少しずつ、彼女は歪んでいたのだろう。夫妻のよき友人を演じている間にじわじわと……。
 夢魔に侵食され、次第に常識を逸脱してゆくシモーヌから逃れるため、ベネット夫妻は日本への移住を決意したのだ。

「だいぶ、見えてきましたね」
「ああ。では、この事を君からヨーコたちに伝えてくれるかい?」
「いいですけど……」

 どうしてランドールさんは自分で電話しないんだろう。

『意外に似てないんだな、と思ってね』

 あんなこと言うくらいなら、直接、話せばいいのに。
 よーこちゃんはよーこちゃんで、最初に連絡してきたときに「カルに伝えてね」なんて言ってたし。
 二人とも何って言うか……

「素直じゃないなあ」

 思わず日本語でつぶやいていた。ランドールがあっけにとられた声で問い返してくる。

「What's?」
「いえ、何でもありません。それじゃ、また」
 
 
 ※ ※ ※ ※
 

 水曜日、午前0時。

「……うん、わかった。ありがとう」

 サンフランシスコのサクヤからの電話を受け、結城羊子は即座に風見とロイ、三上を招集した。深夜ではあったが3人は速やかに寝床から起き上がり、着替える間も惜しんで居間に集った。

「確定したな。ナイトメアに寄生されているのは奥さんの元恋人シモーヌ・アルベールだ」
「海を隔てても『恋人を奪った男』への憎しみは尽きなかった、と言うことですね」
「返せ、って言うのはMrs.ベネットのことだったんだ」
「確かに恋人本人じゃなくて相手に祟ってる……」
「見事な洞察力です、結城さん」
「う、ううん。そんなんじゃないよ」

(私も、同じ……だから)

「ひゃっ」

 懐の携帯が震える。良くない知らせだと開く前に分かった。

「どうしたの、サクヤちゃん」
「シモーヌさんが無断欠勤してる。これから、すぐにランドールさんと彼女の家に向かう」
「OK。気を付けて」

 羊子はきりっと表情を引き締め、一同を見渡した。

「サクヤちゃんとカルがレミング(夢魔の宿主)の確保に向かった。ただちにドリームダイブの準備に取り掛かる。OK?」
「はい!」
「御意」
「では、仕度して来ます」
「私もちょっくら水浴びてくる」

 羊子は足早に風呂場に行き、しゅるりと紐をほどいて寝巻きを脱ぎ捨てた。
 本来なら奥の泉に行きたい所だが、あいにくと時間が無い。手おけに水を満たし、浴びる。冷たい水が肌に触れ、ゆらいでいた意識がはっきりと定まった。
 
 為すべきことは一つ。
 夢魔を狩り、人を救え。


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【ex10-10】黒い涙は止めどなく

2010/04/25 16:40 番外十海
 
 サンフランシスコ、火曜日、AM9:00。
 ランドールとサリーは、車でバークレーの住宅街の一角に急行した。白い玄関ポーチに小さな芝生、レモン色の壁。お菓子のように愛らしく、エンピツみたいに縦に細長い小さな家。

「ここですね」
「ああ、ここだ」

 かつて若い恋人たちが仲むつまじく暮らした愛の巣。そして今、残されているのは思い出と……シモーヌ・アルベールただ一人。
 玄関のポーチに上がり、呼び鈴を鳴らす。

「おや?」

 ………応答無し。
 さらに数回呼び鈴を押し、ノックもしてみたがやはり答えは無かった。

「ここには居ないのかな……」
「いや……待て」

 ランドールは意識を集中し、自らの意識をスライドさせた。現実と重なり合うもう一つの世界へと。
 街路樹を鳴らす風の音、道路を行き交う車の音、枝の上で鳴き交わす鳥の声。周囲の色と音、空気の流れ。あらゆる感覚の波長が変わり、分厚いアクリル板を間に挟んだように、もわっと霞む。
 サリーの目にはその間、現実のランドールの姿に夢の中のイメージが重なっているように写る。
 黒いマントをまとい、青白い顔の口元から鋭い犬歯をのぞかせた、吸血鬼めいた姿が。
 
「む……」

 青い瞳が閉じられ、わずかに尖った耳がぴくり、と動く。

 ガシャン、ジャッ、バタン。ガシャン、ジャッ、バタン……

 聞き慣れた音がした。ランドールにとっては極めて身近な音。
 織り機だ。何者かが布を織っている。
 しかし奇妙なことに。機械仕掛けの自動織り機のごとき早さでありながら、あまりにその音は不規則で、背後に紛れもなく人の息遣いを感じた。いや、それどころか鬼気迫る気配を感じる。まるで髪を振り乱し、狂わんばかりの勢いで全力疾走しているような……。

 集中を解く。
 霞んでいた現実が再び戻って来る。

「彼女は中に居る。だが、既に『普通の』状態では無さそうだ」
「急がないと!」

 ドアノブに手をかけると、さしたる抵抗もなく、がちゃりと内側に開く。鍵はかかっていなかった。
 二人は無言で中に入った。玄関ホールの壁には、海を織り込んだつづれ織りが飾られていた。

 ガシャン、ジャッ、バタン。ガシャン、ジャッ、バタン……

 織り機の音を頼りに廊下を奥へと進む。ドアは開け放たれ、戸口は幾重にもつり下げた布でふさがれていた。のれんでもない。ロールアップスクリーンでも、カーテンでもない。ただ闇雲に布をぶらさげ、外界とのつながりを遮断しようとしている。
 ランドールは手を伸ばしてざっと布を払いのけ、奥へと進んだ。サリーが後に続く。

「これは……」
「まるで、巣穴ですね」

 そこは、庭に面した日当たりの良いリビングだった……本来ならば。
 大きなガラス張りの窓の前にはドアと同じく幾重にも分厚く布がつり下げられ、ふさがれていた。壁も、床も、家具の上も、あますところなく布、布、布。
 布を積み上げ、広げ、張り巡らせた薄暗い部屋の中には、湿っぽい生き物の匂いが充満していた。
 巣穴の中央には、まるでグランドピアノのように織り機が鎮座し、ひっきりなしに新たな布を吐き出している。
 今この瞬間も、猛烈な勢いで。

 織っているのは黒髪の女。この寒いのに薄い黒いローブを一枚羽織ったきり。
 長い髪を振り乱し、一心不乱に手を動かし、足で踏む。上下に別れた縦糸の間に、目にも留まらぬ早さでシャトルをくぐらせ横糸を通し、リードでがしゃん、と手前に打ち込む。その繰り返し。
 織られている布は、最初のうちこそ美しい青色をしていた。だが次第にどす黒く変色している。
 青から鈍いブルーグレイ、ついには灰色、鉛色へ。今、手元で織られている部分はほとんど真っ黒だ。
 彼女の指先からぽたり、ぽたりと黒い雫が滴り落ち、織りかけの布を染めてゆく。
 糸の青を、黒く濁らせる。

 サリーに目配せするとランドールは慎重に歩を進め、穏やかな声でゆっくりと話しかけた。

「シモーヌ?」
「だ……れ……」

 機を織る手は休めずに、シモーヌはろれつの回らない口調で返事をした。

「カルヴィン・ランドールJr。君の雇い主だよ」
「しゃ……ちょ……う?」
「そうだ」
「な……ぜ……?」
「君が心配なんだ。今日、だまって会社休んでしまっただろう? 普段は真面目な君が……」
「……も……いいの……会社にいっても、あの子はいないもの」

 ぽとり、とまた黒い雫が指先から滴り落ちる。暗がりに慣れた目がようやく、雫の出所を突き止めた。
 顔だ。
 シモーヌの顔からとめどなく黒い雫が流れ、肩から腕へと伝い落ちているのだ。着ているローブも、元から黒かったのではない。裾の方に本来の白さが残っている。

(危険だ。すぐに止めさせなければ!)

 ランドールはさらに一歩、また一歩とシモーヌに近づく。彼女は相変わらず見向きもせずに一心不乱に織り続けている。
 その後ろ姿を見て、ふと違和感を覚えた。
 おかしい、写真の彼女の髪の毛は肩を覆う程度の長さだった。だが目の前のシモーヌの髪はさらに長く伸び、床にまで広がっている……。
 さらに近づく。もう少し。手を伸ばせば、彼女の肩に触れる。

 その時、気付いた。

(これは髪の毛ではない。影だ!)

 その瞬間。床を這う髪の毛がぶわっと生き物のようにかま首をもたげ、ランドールに巻き付き、締め上げた。

「うっ」
「ランドールさん!」

 ねっとりと湿り気を帯びた糸の束が手に、足に、胴体に、首に絡みつき、ぎちぎちと容赦なく締め上げる。
 しかも先端は釣り針のように尖り、顔や手足の皮膚を掻きむしっている。

「く……うう」

(落ち着け。攻撃してくると言うことは、実体があると言うことだ……)

 シモーヌが、ばっと立ち上がり、振り向いた。青緑の瞳は真っ赤に充血し、とめどなく黒い涙が流れ落ちる。

「ひ……あ……あ……」

 ぎくしゃくと口を開き、絶叫した。泣き叫んでいるのか、それとも笑っているのか……。

「あー、あー、あー、あーーーーーーーーーっ、い、いひぃ、あーーーーーーあああぅううううぃーーーっ」
「シモ……ヌ………」

 確実なことが一つある。彼女は、苦しんでいる。

(止めなければ)

 ランドールの指先からぱらぱらと小さな粒が落ちた。床に転がり、芽吹き、トゲをまとった蔓となる。
 一本、二本と絡み合い、すんなりと彼の手のひらに収まった。くっと拳を握るやいなや、ランドールは無造作に茨の鞭を振るった。

 ざん!

 絡みつく黒い糸が切れ切れに飛び散る。まるで飴細工打ち砕いたように、あっけなく。
 床に飛び散り、水銀みたいにころころ転がり、凝縮して行く。

 ぞろり。
 髪に溶け込んでいた影が全て集まり、一つになった。
 それは、上半身はシモーヌ・アルベールそのものの美しい女の姿をしていた。ただし、額にころん、と丸みを帯びた小さな角状の突起が生えている。
 美しい緑色の瞳は絵の具で描いた人形の目のようだ。うすっぺらで立体感がまるでない。見えているのかすらも定かではない。
 そして、腰から下は巨大な水蛇だった。びっしりと真珠のきらめきをまとった鱗に覆われたその姿は、背筋を逆なでされるほど美しい。
 サリーがかすれた声でつぶやいた。

「メリジューヌ……」

 ずるり、と真珠色の蛇体がくねる。両腕を広げ、夢魔(ナイトメア)はじりじりとランドールの前に立ちはだかり、のびあがり……覆いかぶさった。

「む」

 茨の鞭を振るい、迎え撃つ。確かに横になぎ払ったはずなのに……
 ランドールの一撃は夢魔の体を素通りし、髪の毛一筋ほどの傷もつけられない。まるで流れる水を通り抜けたような感触だった。
 からかうようにメリジューヌは後ろに反り返り、ゆらり、ふらりと体を左右にくねらせる。

「くっ……どうなってるんだ」

 唇がめくれあがり、ちらりと尖った歯が覗いた。笑っている。いや、あざ笑っている。

「ランドールさん、下がって!」

 とっさに横に飛び退き、道を空けた。

「神通神妙神力、加持奉る!」

 ぱしん、と華奢な手のひらが打ち鳴らされた刹那、サリーの体からパリっと青白い光が立ち上り………電光一筋走り抜け、真っ向から夢魔の体を貫いた。

「キッシャアアアアアアアアア!」

 じゅうっと蒸気を発すると、メリジューヌの体は一瞬で崩れ去り、ばしゃり、と床に広がる。

「ごぼっ、ぐぷっ、う、けほっ」

 崩壊した夢魔は一塊の黒い水となってシモーヌの口に流れ込み、完全に姿を消した。
 まるでフィルムの早回しを見ているようだった。最後の一滴が消えると同時にシモーヌの体から力が抜け、がくりと崩れ落ちる。
 素早くランドールは駆け寄り、受け止めた。

 ……軽い。
 げっそりとやつれ、やせ細っている。一体どれほどの間、彼女は織り続けていたのだろう。己自身の命を。魂を削りながら……。
 
「ランドールさん」

 涼やかな声に名を呼ばれ、はっと我に返る。

「急ぎましょう。彼女を助けないと」
「ああ……そうだったね」

 サリーはてきぱきと用意してきた道具をとり出した。小さく切った和紙、塩の詰まったジップロック、お神酒を満たしたボトル。

「シモーヌさんを、そこに」
「わかった」

 横たえたシモーヌを囲むように東西南北の四隅に塩を盛り、お神酒を注ぐ。次いでランドールと共に結界の中に立ち、携帯を取り出した。

「準備できたよ、よーこちゃん」


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【ex10-11】歪な記憶は眼を塞ぎ

2010/04/25 16:41 番外十海
 
 日本、綾河岸市、午前1:00。
 静まり返った境内に、玉砂利を踏む音が響く。一つ、二つ、三つ、四つ……鳥居の前に集合する。

「お待たせしました」
「よし、全員そろったな」

 一番軽い足音の主がくるりと振り返り、一同を見渡した。
 風見とロイは学生服。それぞれ愛用の日本刀とニンジャ道具を携えて。
 羊子は白衣に緋袴の巫女装束に身を包み、三上は神父服の上にベージュのトレンチコートを羽織っている。
 いつも背負っている十字架は左手に。
 横木のすぐ下を握り、いつでも引き抜けるように身構えて……明らかに武器とわかる持ち方をしているのは、本来の用途を隠す必要がないからだ。

「どうしたの、そのコート」
「今回の相手は水妖ですからね。一応、濡れてもいいようにと思いまして……まあ、気休め程度ですが」
「あー、だったら私も傘持って来れば良かったかな……いっそ水着とか?」
「いいですね、夏ならば」

 真顔で軽妙なやり取りを交わしつつ、悠々と本殿へと向かう。そんな大人二人に、風見とロイはひそかに感嘆した。
 社殿の扉の前には神職の装束をまとった人影が三人、厳かな面持ちで待っている。
 一人は神社の宮司であり、羊子の父でもある結城羊司。左右に控える二人の巫女のうち一人は羊子の母藤枝、今一人はサクヤの母桜子だ。それぞれ榊の枝と幣(ぬさ)を手にしている。

「……それでは、行ってまいります」
「気をつけて」

 扉の前で一礼。履物を脱ぎ、中に入って再度一礼する。
 羊子、風見、ロイ、そして三上。四人が中に入ると、背後で静かに扉が閉ざされた。
 それまで外とつながっていた空間が、不意に小さく区切られる。
 音と気配は内側にこもり、ほんの小さな息遣いさえ壁に、天井に反響し、大木の枝を鳴らす風よりもなお大きく、はっきりと聞こえる。
 扉の外で、ざざ、ざらり、としめ縄を張る気配がした。狩人たちが悪夢を祓い、再び現に戻るまで扉の開くことはない。
 この社殿そのものが、結城神社と言う大きな結界の中に作られた、もう一つの小さな結界なのだ。

 しかしながら海を越え、夢魔の待ち受ける夢の中に跳ぶには二重の結界に守られてさえ、大きなリスクが伴う。

(こんな大掛かりなドリームダイブは初めてだ……)

 風見光一はいつになく緊張していた。平常心を保とうと勤めても、どうしてもちらっと先生の顔を……始めて夢の中に跳ぶことを教えてくれた人の横顔を見てしまう。

(あ、目が合った)

 まばたき一つすると、羊子先生はにまっと笑った。いつもと同じつるりと愛らしい少女のような顔に、どこか不敵さをにじませて。
 あまつさえ右手をぐっと握り、親指を立ててサムズアップまでしている!

(……そっか。いつもやってるように、やればいいんだ)

 肩から力が抜け、全身の強張りが解けたような気がする。大きく深呼吸すると、風見は自分からもサムズアップを返した。

 羊子は小さくうなずき、再び正面に向き直る。左手の指を右手の上に重ね、背筋をピンと伸ばしてすっ、すっとすり足で祭壇の前に進み出る。
 立ったまま、深々と二礼。身を起こして両手のひらを胸の前で合わせる。しかる後右手をわずかに下方にスライドさせ、一呼吸置いてから手を打ち鳴らした。
 パァン……パァン……。
 張りのある、小気味よい音が響く。
 おもむろに羊子は神前から、一本の軸を中心に環に連ねた鈴を縦に三段、ピラミッド状に重ねた鈴……神楽鈴を取り上げ、うやうやしく両手でささげ持つ。

 一礼して後ろに下がった丁度その時、懐の携帯が鳴った。

「準備できたよ、よーこちゃん」
「OK。行くよ」
「はい!」
「御意」
「いつでもどうぞ」
 
 わずかなタイムラグの後、海の向こうから二人分、返事が返ってくる。
 
「うん」
「Yes,Ma'am」

 しゃらりん。
 3連の輪に連なった金色の鈴が鳴る。悪夢を祓い、やすらかな眠りを守る『夢守りの鈴』。祈りを込めた音が成る。

「掛まくも畏き 伊邪那岐大神 筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に」

 リィ……ン。
 サンフランシスコでは、サクヤが携帯のストラップに下げた小さな鈴を鳴らし、詠唱を重ねる。

「禊祓へ給ひし時に成り座せる祓戸の大神等 諸々の禍事 罪 穢有らむをば」

 リ、リィ………ン。
 ランドールの胸元から澄んだ音が響く。十字架に添えられた鈴が、ひとりでに鳴り始めたのだ。

「祓へ給ひ 清め給へともうす事を」
「祓へ給ひ 清め給へともうす事を」

 海を越えて二つの声が一つに溶け合う。

「聞し食せと 恐み恐みもうす………」

「神通神妙神力……」

 鈴の音が互いに呼びあい、共鳴し……遠く離れた二つの空間を結び、重ねる。

「加持奉る!」

 リ、リィン……。

 つかの間、風見たちは見た。分厚く張り巡らされた布の合間から漏れる、かすかな昼の光を。
 サクヤとランドールは、しん……と静まり返った畳敷きの部屋を感じた。
 アメリカと日本。遠く離れた昼と夜が交じり合い、境目が揺らぐ。

 リン!

(落ちる!)

 大切な人が、落ちる。
 手のひらをすり抜け、まっすぐに落ちてゆく。
 絶望に満ちた目で見上げ、私を呼ぶ。
 どんなに手を伸ばしても届かない。そのまま、足下からすとんと暗い水に吸い込まれた。消えてしまった。
 二度と取り戻せない。
 名前を呼ぼうにも咽が詰まり、声が出ない。封じられた叫びは内側にこもり、荒れ狂い……

 心臓を真っ二つに引き裂いた。

「っ」

 がくり、と落ちる感覚が止まり、青空が広がる。まぶしい太陽の光、赤レンガの広場、そして四角い時計台。
 頭上には高々とヤシの木がそびえ、葉擦れの音が聞こえる。
 見えるものは全て全体的に黄緑が強く、いくら目をこらしても微妙にピントも合わず、ぼやけている。

 そして、彼らは共に居た。
 まるで古びた写真にも似た、あり得ざる景色の中で。

「あ……」

 あの人に会ったら何て言えばいいんだろう。
 どこを見れば良いんだろう。いろいろ思い、悩んだけれど実際に彼の姿を見たら、憂いも悩みもどこかに消し飛んでしまった。
 ただ、今、そばに居ることが嬉しい。間近にあるサファイアブルーの瞳を見上げているだけで、胸の奥がほろほろと温かくなる。

「ヨーコ……」

 離れる日々が重なれば重なるほど、君との絆が希薄になるような気がしていた。
 ひょっとしたら、もう失われてしまったのではないかと恐れていた。
 ああ、だけど今、目の前にいる君は……

「っ、カル?」

 手を握るだけのつもりだった。けれど指先に彼女の確かな温もりを感じた瞬間。たまらず引き寄せ、抱きしめてしまった。
 すっぽりと、目の覚めるように赤い裏地の黒いマントの内側に包み込む。

「会いたかった」
「………私も……」

 ささやく声。胸に響くかすかな振動。
 確かに、彼女はここにいる。
 ここに、居るんだ……。

「あー、その」

 こほん、と誰かが咳払いした。
 青いニンジャスーツのロイは、珍しく現実世界と同じレベルのシャイさを発揮し、頬をかすかに赤らめつつあらぬ方角に目を向けている。
 浅葱の陣羽織を羽織った若武者姿の風見に至っては、完全に背を向けていた。
 サクヤは羊子とそろいの巫女姿。にこにこと静かにほほ笑み、見守っている。
 そして、トレンチコートを羽織った神父が一人。視線がかち合うとおもむろに一歩踏み出し、一礼した。

「そろそろ、よろしいですか?」
「はい、Father!」

 聖職者の姿に、条件反射でランドールは居住まいを正した。名残を惜しみつつも腕を緩めると、羊子は自分からするりと抜け出していった。

(あぁ……)
 
 あと五秒。いや、一秒でいい。離れずにいたかった。
 迷いを振り切るように、羊子は顔を上げ、きびきびした口調で告げた。

「カル、こちらは三上蓮。神父さんなの。三上さん、彼がカルヴィン・ランドールJrよ」
「お目にかかれて光栄です、Mr.ランドール」

 三上神父は左胸に手を当て、丁寧に一礼した。

「お噂はかねがね」
「お恥ずかしい。まだまだ未熟もので……」

 神父と吸血鬼は礼儀正しく握手を交わした。その時になってようやく、風見とロイは声を出すことができた。

「何だかここ、見たことがあるなぁ」
「とってもアメリカっぽいネ! この青空といい、建物の作りとイイ!」

 サクヤが答える。

「フェリービルディングだよ」
「本当だ、あの時計塔、まちがいないでゴザルよ! でも、どうしてここに出たんだロウ?」
「思い出の場所だから……かな」

 ランドールが後を続ける。

「恋人だった頃、シモーヌとグレースは毎週土曜日、ここで開かれるファーマーズマーケットにクラフトショップを出店していたんだ」

 羊子は目を伏せ、ぽつりとつぶやいた。

「……布を?」
「ああ」
「グレースが紡ぎ、シモーヌが織った」
「そうだ」

 ベネット家の玄関に飾られていたタペストリーを思い出す。空の青から海の碧へと連なるグラデーション。縫いこめられた白いカモメ。

「シモーヌさんの部屋には、彼女の織った布があふれていた」
「青い布?」
「うん。部屋中一面に敷き詰めてあった。まるで思い出を守る巣穴みたいに」
「そう………」

 サクヤは話した。
 ナイトメアに憑かれたシモーヌが、一心不乱に命を削りながら布を織り続けていた事を。真っ黒な涙を流し、青い布をどす黒く染めながら。

「胸が痛みますね……」

 厳かに十字を切ると、三上はさりげなく一歩ランドールに向けて身を乗り出し、ささやいた。低い声でぼそりと、彼にだけ聞こえるように。

「あなたですね。結城さんを泣かせた色男というのは」
「ユウキ………?」

(はて、誰のことだろう?)

 目をぱちくりさせて首をかしげ、真顔で考え込んでいる。三上は秘かに舌打ちした。

(しまった、ファーストネームで呼ぶのがあちらさんの流儀でしたっけ……それにしても、ここまで天然だったとは)

 どうやら変化球は通じないらしい。作戦を変更した方がよさそうだ。

「Missヨーコのことですよ。何やら愛の伴わない行為をされた、と聞き及んでおりますが」
「っ!」

 一瞬、ランドールはぎょっと青い瞳を見開いた。深く、深く息を吸い、ゆっくりとまばたき一つ。

「その、通りです。Father」

 キスへの言い訳、理由付けはもはやチャーリー相手に出尽くした。この期に及んで何を言っても逃げになる。素直に認めるしかない。

 泣かせた、と彼は言った。

(彼の前で泣いたのか、ヨーコ?)

 いつも凛としている君が。時にもろく、か弱い面も見せる。だがそれは、あくまで自分の前なればこそ、と思っていた。

(私とキスした時の事も……このFatherに話したのか)

 告解室で打ち明けたのかとも思ったが、そんな事はあり得ない。神父が告解を漏らすはずは無い。
 だとしたら……

「つかぬ事をお聞きしますが、神父様」
「何でしょう?」

 ちらり、とヨーコの後ろ姿に視線を向ける……まばたきよりも短い間。サリーとコウイチ、ロイと熱心に話している。
 きりっとした横顔には、いささかの迷いもないように見えた。

「彼女とは……ヨーコとは、いったいどのようなお知り合いなのですか?」

 言ってから気付く。分かり切ったことを聞いてしまった。ハンター仲間、それ以外に何があると言うのか。

「んー……先輩と後輩、と言った所ですかね?」

 予想は裏切られた。どうやら、単なるチームメイトではないらしい。

「以前、同じ人に師事していたんですよ。その縁で、今は結城さんのご両親のところでご厄介になっています」

 自らの名を聞き留めたのだろう。ヨーコがひょい、と神父の背後から顔をのぞかせる。

「よく言う。久々に会ったらころっと忘れてたくせに!」
「あれは忘れてた訳じゃありませんよ。最初に会った頃とは見違えるように可愛くなっててわからなかっただけです」

 神父は肩越しに振り返り、彼女にほほ笑みかけた。

「ちゃんと後でわかったじゃないですか……和尚に『メリィ』って言われたからですが」
「だーかーらーメリィちゃん言うなっつーとろぉがああ」
「私は『ちゃん』まではつけてませんよ……っと」
 
 頭から突っ込んでくるヨーコを神父はコートを翻し、闘牛士さながらにやり過ごした。実に鮮やかな手際だ。

「そっちこそ『あの事』をころっと忘れていたくせに」

 身をかわしつつ、さらりと言ってのける。

「わーったったたった、それは無し、言わないでーっ」

 効果てきめん。ヨーコは真っ赤になっておろおろ、右往左往。一体、何があったのか。

「あの事?」
「ああ、大したことじゃありません。メリィちゃんはね。初めて会ったとき……」
「すとっぷ、すとーっぷ!」
「私に、プロポーズしたんです」

(そうか………そうだったのか……)

 ようやく合点が行った。先刻の彼の言葉の意味。愛の無い行為と断じた理由も。
 なるほど。意外な所に伏兵が居た、と言う訳か。
 年上で、中々に頭の切れる人物と見た。ヨーコに言いくるめられないだけの器量も。守るだけの腕も備えているようだが、果たして生涯の伴侶としてはどうだろう?

「つまり……その……」

 いささか年が離れすぎてはいないか? それに、彼はカトリックの神父だ。本来なら生涯、独身を通すはずの身ではないか!

「しかし、Father……あなたは、クリスチャンではありませんか?」
「問題ありません、日本ではキリストもお釈迦様も等しく八百万の一柱扱いですよ? 結城神社さんは女系で、今の宮司さんも婿養子ですからねえ」
「みーかーみーっ!」

 暴れヒツジの突進をするりとかわし、再度向き直る頭を手のひらで軽く押さえてしまった。
 押さえ込まれて近づけず、ヨーコは手足をじたばたさせるばかり。

「くーっ、はーなーせーっ」
「はい、どうぞ」
「わっ」

 急に手を離され、前につんのめる体をぽふっと受け止めている。ランドールは苦笑しつつ差し伸べた手で空をつかみ、引っ込めるしかなかった。

「おや? 景色が変わりましたね。潮の香りが強くなった」
「ふぇ?」

 いつしか青い空には濁った鉛色が混じり、沖合から冷たい風が吹き始めていた。

「ここは……どこなんでしょうね?」


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【ex10-12】あり得ざる橋は崩れ

2010/04/25 16:42 番外十海
 
 霧が出ていた。
 透明な水の中にミルクをほんの少したらして、かきまぜる。すっかり混ざりきる直前の、ほわっと漂う淡い白が、視界を覆っていた。
 それほど濃くはない。だが、距離が離れるにつれて次第に白が厚く塗り重ねられ、やがて見えるものは全て霧の中に飲み込まれて行く。目をこらすと空気中を漂う細かい水の粒が見える。
 吸い込むと、強く海のにおいがした。

「ここは……」

 ハンター達は橋の上に居た。海の上にかかる、長い長い吊り橋の途中に。前にも後ろにも橋は伸び、来し方も行く末も霧に閉ざされている。どこまで続くのか、見当もつかない。

 それでも、橋そのものの形状は容易に見て取ることができた。
 土地勘のある三人がいち早く気付く。

「ベイブリッジだな」

 ランドールの言葉に羊子はうなずき、すっと行く手を指さした。

「そうね。あっちがオークランドで」

 サクヤが背後に視線を向ける。

「こっちがサンフランシスコだね」
「でも、変ね、この比率」
「ああ。橋が、いささか大きすぎる」
「……そうか……これ、子どもの視点なんだ!」

 その言葉に応えるようにして目の前の霧が分かれ、子どもが二人現れた。小さな女の子だ。どちらも十歳にもなっていないだろう。

「おねえちゃん、つかれたよ」
「大丈夫よ、マリエ。おねえちゃんが手を引いてあげるからね」
「はやくおうちに帰りたい」
「もう少しよ。この橋を渡れば、すぐだからね」

 黒い髪のおねえちゃんと金髪の小さな妹。おそろいのワンピースを着て仲良く手をつなぎ、トコトコと歩いてゆく。
 サクヤは目をこらし、少女の横顔にまごう事無きシモーヌ・アルベールの面影を認めた。

「あれは……シモーヌさん?」

 がくんっと橋が揺れる。

「あっ」
「うわっ」

 ぐらん、ぐらんと足下が波打つ。ついさっきまであれほど強固に自分たちを支えていたはずの橋が……ぐにゃりぐにゃりと上下にくねり、かと思えばぼこんとへこむ。まるで生のパン生地だ!
 立っていられない。

「くっ」
「むっ」

 とっさに男性陣は踏ん張り、持ちこたえる。だがサクヤと羊子は地面に倒れ、ころころ転がって行く。

「サクヤちゃんっ」
「よーこちゃんっ」

 かろうじて二人で手をとりあう。投げ出された足に風見とロイが飛びついた。

「先生っ」

 寸での所で二人の体はがくん、と引き止められた。サクヤの足が片方、橋の手すりから空中にはみ出した状態で。

「風見くん、ロイくん!」

 三上の手の中に不意にロープが現れる。空中で2、3度振り回して勢いを付けると、少年たちめがけて投げた。
 
「かたじけない!」

 すかさずロイが受け取り、風見とサクヤ、羊子の体に巻き付けた。

「Mr.ランドール、手を貸していただけますか?」
「Yes,Father!」

 二人がかりで引き寄せる。

「もう少しです、がんばって!」
「……っせいっ」

 凍りついたソリを引っ張る橇犬もかくやと言う勢いで、ランドールはロープに体重をかけ、ぐいっと引っ張った。

「わ」
「ひゃっ」

 ずるりっ。
 凄まじい勢いでロープがたぐりよせられ、四人の体が引き戻される。
 一同がそろった所でロープは細かい光の粒となり、霧散して消えた。

「さんきゅ、助かった!」
「危ない所でしたね……しっかりつかまって」
「う、うん」
「ありがとうございます」

 ビシ。
 ビシ、バシ、ビキっ!

「何だ、この音は」
「あ、アレをっ」

 ぐらん、ぐららんと上下にくねり、波打つ路面に耐えかねたか。
 橋を支えるワイヤーがねじれ、たるみ、その直後にピンと引っ張られ……切れる。
 
「橋が……落ちる!」
「危ないっ」

 轟音とともに橋が崩れ落ちる。崩壊の中心は、まさしく幼い姉妹の歩いている場所だった。

「きゃーっっ」

 甲高い悲鳴があがる。小さな妹の体が地面に叩きつけたゴムまりのようにバウンドし、空中に投げ出された。

「おねえちゃーんっ」
「マリエ!」

 伸ばした手の指先をすりぬけ、妹が落ちてゆく。絶叫が遠ざかり、姿が小さくなり……
 遥か足下に広がる暗い海面に、すうっと飲み込まれてしまった。

「お願い、お願い、妹を助けてっ」

 幼い姉が泣き叫ぶ。髪の毛を振り乱し、こちらに向かって両手を伸ばした。

「たすけてーっ!」
「今行く!」
「待て、風見、ロイ」

 身を乗り出す少年の肩を、小さな手が押さえた。

「何故でござるっ」
「これは夢魔の作った偽りの記憶だ」

 しっかりと地面を踏みしめ、結城羊子が立ち上がる。

「思い出せ。シモーヌ・アルベールの妹はロマ・プリータ地震で死んではいない」

 三上もまた身を起こし、首を左右に振った。

「そうと分かっていても、目の前で落ちる少女を救おうと、とっさに体が動いてしまう。あざといやり口ですね……」

 空中に左手を延ばし、くっと握る。手の中に使い慣れた仕込み十字架が現れる。

「実に、許し難い」

 鯉口を切り、すらりと抜き放った。黒木造りの十字架から、ぎらりと銀色の刃がこぼれ落ちる。

「シモーヌ・アルベール。聞きたまえ」

 ランドールは一歩前に踏み出し、英語で呼びかけた。雇い主である彼の声が届いたのだろうか。ぴたり、と橋の揺れが止まる。
 静まり返った霧の中、朗々たる声が響く。

「君の妹は。マリエは、地震が起きた1989年はアメリカには居なかった。離婚した母親と一緒に、北欧に渡っていたんだ」

 真実を暴き立てられ、少女はあどけない顔をくしゃり、と醜く歪ませた。

「ちくしょう。ちくしょう、ちくしょう!」

 静かにサクヤが言葉を続ける。

「それにね。ベイブリッジは、自動車専用の橋だよ。徒歩では、渡れない………」

 すっとサクヤは手を伸ばし、ぐるりと指し示した。
 崩れた橋を。
 眼下に広がる暗い海を。

「これは、夢魔の紡いだ偽りの夢」

 羊子が言葉を繋ぐ。

「シモーヌ・アルベール。あなたの妹は、生きている。それが、真実」
「ちくしょう! あんたたちなんか、嫌いだ……」

 ぶわっと幼いシモーヌの髪が伸び、広がる。

「だいっきらいだあ!」

 一瞬で少女の体が膨れ上がり、ナイトメア『メリジューヌ』に姿を変えた。
 
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 illustrated by Kasuri
 
 女の上半身と水蛇の下半身、コウモリの翼。全身くまなく美しい真珠色、だがその目だけは、黒い布が幾重にも巻き付き、ふさがれている。

「返せ! あの子を返せぇええ!」

 泣き叫ぶ声は黒い水と成り、狩人たちめがけて迸る。渦巻く激流が襲いかかってきた。

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【ex10-13】そして滅びの波が来る

2010/04/25 16:43 番外十海
 
 逆巻く激流が迫る。波しぶきに至るまで漆黒の、うかつに視れば奥底に、誘い呑まれる渦が来る。

(………あ……)

 刹那。
 瞬きよりも短い間、羊子は渦に見入っていた。戦況を見通し、導く司令塔としての役目を忘れていた。

「ここは、私が」
「っ!」
「手伝って」 
 
 三上の声に我に返り、慌てて彼に念を送る。
 間に合うか。間に合って。自らの犯した過ちを打ち消すのに……。
 5人の手から淡い光のラインが伸びる。五筋の光が三上の手のひらに結晶し、輝く。

「Light on!」

 両手の中に巨大な火球が出現し、真っ向から夢魔の放つ激流とぶつかった。

 獣の悲鳴にも似た音が響き、もうもうと蒸気が噴出した。湿った熱風が髪を、衣服を吹き流し、頬を撫でる。火球と互いに打ち消しあい、一瞬にして黒い水撃は蒸発した。
 ただ、わずかに水の威力が上回っていたものか。名残の奔流が三上を襲う。

(ここで避ければ後列に当たる。持ちこたえられるか?)

 腹をくくり、足を踏ん張る。だが。

「風よ舞え!」

 びゅう。
 疾風一陣走り抜け、空気の壁が水を弾く。
 砕かれた水撃はぱらぱらと、細かな水滴となって飛び散った。

「風神流……《旋風陣》」
「お見事」
 
 ぱちり、と風見は刀を収め、兄弟子に軽く目礼を返した。
 吹き散らされた黒い水しぶきは、海の匂いがした。浴びた瞬間、夢魔の絶叫に重なりシモーヌの声が聞こえた。音ではなく、直に頭の中に響いてきた。

『もう終わりにしなきゃいけない。あきらめなければ……』
『祝福しなきゃいけない。あの二人を祝福しようって決めたのに。決めたはずなのに!』
『頭で理解していても、感情が納得してくれない。収まらない、苦しい!』
『お願い、こっちを見て。私を忘れないで。置き去りにしないで。私を抜きにして、幸せになんかならないで……』
『返せ! 彼女を返せ!』

 それは、あまりに生々しい感情だった。意識をそらそうとしても、今の己の中に共に震え、応える物が確かにある。
 羊子はぶるっと頭を左右に打ち振り、右手を前に伸ばした。

「終らせてあげる……」

 手の中にちかっと金色の光が瞬き、瞬時に形を変える。夢の外側から、愛用の中折れ式の小さな拳銃……ダブルデリンジャーが呼び出される。グリップに走る斜めの傷。握りしめるとざらりと手のひらに当たる。

「終わりにしよう、シモーヌ」

 狙いをつけ、引きがねを引いた。

「おおおおおあああああああああ!」

 チュイ……ン。
 放たれた弾丸は、水蛇の鱗を弾いてあらぬ方へ。

(外れたっ?)

 動揺する羊子めがけて、蛇の尾がびしりと叩きつけられる。慌てて放つ二発目が夢魔の体に食い込むが、止めるほどの勢いはない。

(間に合わないっ)

 赤が閃く。鮮やかな色が目に染みる。
 ざんっ………。

「……あ……」

 守られていた。黒いマントの内側にすっぽりと包まれて。恐る恐る目を向ける。
 そしてメリジューヌの蛇体は、がっきと交叉する二振りの刃に阻まれていた。

「く……」
「む……」

 見交わしもせずただひゅうっと呼気のみを合わせ、風見光一と三上蓮は流れるような動きで刃を振るい、ぐいっとばかりに夢魔を押し戻した。
 食い込んだ刃が引き戻され、メリジューヌの体にすっぱりと鋭い傷が刻まれる。

「ひぃいいあああああああっ」
『お願い。私の憎しみを止めて!』

 のたうつ真珠の蛇体めがけ、どかかっと一列にクナイが突き立った。鉄の刃が深々と食い込み、ごぼっとどす黒い血が噴き出す。

「サクヤ殿、今でござる!」
「はい!」

 サクヤがぱしん、と両手を打ち合わせた。

「神通神妙神力……加持、奉る!」

 迸る雷光が、メリジューヌの体に刺さったクナイに『落ちる』。バチィンと、轟音が空を叩いた。

「あ……あ……ああああっ」

 びきびきと夢魔の美しい顔が縦にひび割れ、ばくっと割れた。
 その下からより禍々しい顔が現れる。角はより大きく捩れ、尖った歯がガチガチと耳障りな音を立てた。

「ああ、あ、あ、ひー………ぃあああううううううううう」
 
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 illustrated by Kasuri

 ぽってりと官能的な唇は、鳴き叫ぶほどにめりめりと割れ裂け、耳元に達する。
 目を覆っていた黒い布の下からは、抉られて真っ赤に血が溜まり、肉のしたたり落ちる無残な眼窩が現れた。

「お……おお、おー、おー、おー………」

 鱗の色が変わって行く。美しい真珠色から、嵐の前の空の色。ずっしりと重たく冷たい灰色へ。しかも、一枚一枚がざわざわと逆立ち、鋭く尖る。己が胸を掻きむしる指先の皮膚が破れ、ぞろりと禍々しいカギ爪が生えそろった。

「崩れましたね。夢魔の障壁……」
「あ、ああ」

 羊子はそっとささやいた。小さな声で「ありがとう」。それだけ告げてマントをかき分け、外に歩み出す。
 優しい腕の主を振り返ることは……できなかった。

「ぐ、ご、が、おごぉっ」

 夢魔の変貌はまだ続いていた。次第に体が膨れ上がり、髪は長々と伸びて果てしなく広がってゆく。
 もはや上半身だけで15mはあろうか? だが、彼女の鱗は錆び付き、動くたびにぼろぼろとはがれ落ちている。
 メリジューヌは崩れながら巨大化していた。いつしか橋は消え、暗い海辺に変わっていた。履物を履いているにも関わらず、素足で湿ったコンクリートを踏むようなじっとりした嫌な湿気が足底を浸す。
 不吉な黄みを帯びた雲が渦まき、水平線の彼方へと凄まじい早さで流れてゆく。黒い海の水さえも引きずられ、見る見る海岸線が干上がる。

「くそっ、サイズが違いすぎる……」

 羊子はかすれた声でつぶやき、よろりと一歩後ずさった。灰色の砂にかかとがめり込み、白い足袋にじっとりと染みが広がる。
 這い登る嫌悪感に鳥肌が立った。

「反則だよ……こんなばかでっかいの相手に、どうやって戦えばいいんだ……」

 弱々しい声を聞きつけ、風見とロイはちらりと先生を振り返った。
 いつだって、先生は弱音を吐かない。どんな相手にも。どんなに不利な状況でも、不敵な笑みさえ浮かべて立ち向かう。
 時には皮肉めいたジョークの一つも交えつつ、活き活きと指揮をとってくれる。励ましてくれる。
 山羊角の魔女に子どもに変えられた時でさえ、それは変わらなかった……。

 その先生が、今、怯えている。戸惑っている。

(先生っ)

「しっかりなさい、メリィちゃん」

 のほほんとした声が、すとっと脳みそに突き立った。瞬時にかーっと熱いものが沸き起こる。

「メリィちゃん言うな!」

 条件反射。もはやパブロフの羊。気付いた時は、くわっと歯を剥いて三上に食ってかかっていた。

「何度言えば気がすむか、三上蓮!」
「……それでいいんです、羊子先生」

 笑ってる。瞼の隙間から穏やかなまなざしが見おろしている。

「……」

 自分が何者で。何を為すべきなのか。
 迷子になっていた『当たり前のこと』が、すうっと在るべき場所に収まった。

 かちりとデリンジャーを開き、空になった薬きょうを落とす。本来なら必要のない操作だが、手を動かすことでいい具合にスイッチが切り替わった。

「さんきゅ、レン。頭が冷えた」
「どういたしまして」

 深く息を吸い、整える。
 夢魔を祓う術は、正面からぶつかるだけじゃない。
 宿主にとって大切な人の記憶や思い出は、夢魔の障壁を崩す弱点となる。

(思い出せ。自分は既に視ているはずだ……夢に入る前に、彼女の最愛の人と会っているのだから)

 グレースの声、顔、髪、手、指先……。

(あ)

 見つけた。

「タペストリー……」
「あれかっ!」
「ソレでござる!」

 ぴくっと身震いすると、羊子は勢い良く顔を上げた。

「カル。サクヤちゃん。レン。しばらく集中する。その間、守って」
「うん」
「任せたまえ」
「……ありがとう」
「それでは、派手に行きましょうかね」

『かぁああええええせえええええ。がぁえええせ、かえぇゼ、かえせェええええ!』

 干からび、捩れた蝙蝠の翼がばさりと打ち下ろされる。あれで叩かれたらひとたまりもない。
 だがサクヤは静かに前に進み、さっと袖を打ち振った。

 ほとんど体を揺らさず、あたかも舞うような優雅な所作。だがその引き起こす稲妻たるや、すさまじい威力であった。

 ピシャァアア………ドォン!

 空を震わせ夢魔の翼を弾き返し、あまつさえ片方を木っ端みじんと吹き飛ばす。

『あーあぁぁああああ。痛い、痛い、いたいぃいいいいい!』

 メリジューヌは身もだえして泣き叫んだ。割れ裂けた口、ぞろりと生えそろう牙の合間から悲痛な叫びがほとばしる。抉られた眼窩から赤い涙が飛び散り、歪に尖った氷に変わり……降り注ぐ。
 ちかちかときらめく様は、さながら砕け落ちる窓ガラスの欠片。鋭い切っ先は一枚残らず、地面に立ちすくむちっぽけな標的を狙っている。
 だが、なまじ巨大に膨れ上がったのが災いした。氷の刃が地表に立つハンターたちに届くまでに、いささか間があった。
 その隙に三上が動く。

「そは我が炎に非らず。いと高き天より下る裁きの炎なり……」

 中世の修道騎士さながらに十字架剣を掲げ、祈りを捧げた。朗々たる詠唱の声に呼応し、剣の刃に沿って炎が燃え上がる。かすかに硫黄のにおいを漂わせて。

「Megid Flame!」

 目を開くや天突く火柱と化した剣を構え、無造作になぎ払った。
 燃え盛る炎は巨大な竜巻となり、天空高く巻き上がり……降り注ぐ紅蓮の炎が夢魔の放つ黒い雹を相殺する。
 生き物の体の焦げる、強烈な悪臭が漂った。

「Amen」

 口元にかすかな笑みを浮かべ、三上神父は軽く十字を切った。

「今だ、風見、ロイ、行け!」
「はいっ!」
「御意!」

 ロイが懐に入れた手を勢い良く突き出す。開いた拳の中から折り畳んだ紙が宙に飛ぶ。

「忍法、忍び凧(Ninja kite)!」

 くるりと翻ったかと思うと紙片ぱたぱたと開き……瞬く間に巨大な凧が出現した。白地に黒で真ん中に、一筆でかでかと『忍』の文字。
 あいにくとひし形の洋凧ではあったが、あくまでニンジャ凧。ひらりと飛び乗り、手をさしのべる。相手は言うまでもなく、唯一無二の相棒……

「コウイチ!」
「おう!」

 しっかりと凧に背を付け、横骨を握る。

「行くぞ、ロイ!」
「がってん、承知でござる!」
「風よ舞い上がれ、《烈風》!!」

 風見の巻き起こす風に乗り、ニンジャ凧は高々と舞い上がる。
 羊子は目を閉じ、両手をぱしぃん、と打ち鳴らした。

(思い出せ……あの日、あの家で見た物。聞いた事。話す声)

 合わせた手のひらの中に、ぽうっと淡い光が生じる。

『いぃいいやめろぉおおおお!』

 メリジューヌはきりきりと爪で己の胸をかきむしり、髪を振り乱す。群雲のごとき黒髪が襲いかかってきた。
 ぎゅるぎゅるとねじれ、不吉な音をたてながら迫る。
 今しも形を為そうとゆらめく、ちっぽけな光を打ち砕こうと……。

「生憎だが、Lady」

 ばさり。
 真紅の裏地をひらめかせ、黒いマントが翻る。
 ぱら……とマントの裾から小さな種が地面にこぼれ落ち、芽吹く。

「彼女には、指一本触れさせない」

 音も無く萌え出でる茨の壁は、意志を持った生き物のようにその身をくねらせ、黒髪をからめ捕る。

『く、う、あ……や……め……て……』
「聞けないな」

 ランドールは無造作に右手を振る。瞬時に茨の刃が黒髪を引きむしり、ずたずたに切り裂いてしまった。
 その間に、風見とロイを乗せた凧は巨大なメリジューヌの顔の辺りまで舞い上がっていた。

「……よし」

 我が事成れり。
 そ、と手を開く。
 花びらのように優しく膨らむ手のひらの間に、ぽう……と青い、小さな光が現れた。
 ふ、と唇をすぼめて吹く。くるくると回りながら青い光は糸の玉へと姿を変えた。

「風見! ロイ!」

 羊子の手から青い糸玉が飛ぶ。
 受け取る風見の手の中で糸玉は広がり、はらりと一枚の織物が出現した。鮮やかな青から優しく煙るブルーグレイ、目のさめるようなマリンブルーの深みへと連なるグラデーション。そして空の青のただなかに、白く縫い込まれたカモメが一羽。

 タペストリーだ。
 グレースが紡ぎ、シモーヌが織った空の青と海の碧。

「シモーヌさん、これ、覚えてるでしょう?」

 ぎょろり。
 真っ赤な眼窩が、風見を見据える。見えているのだろうか……いや、外見に騙されるな。既に目を塞ぐ黒布は破れた。
 見えているはずだ。

 風になびき、ひるがえった織物の一端をロイが受け止める。
 二人は見交わし、頷きあい、ざーっとタペストリーを左右に広げた。
 青い布はくるくると広がり続ける。かすかに輝きながら、くるくると。開ききってもまだ止まらない。広げるほどに拡大し、より鮮やかさを増してゆく。
 やがて実際の大きさをはるかに超え、メリジューヌの目の前に広がった。

「お、おお……」
「海に悲しい記憶しかないのなら、こんなきれいな青は織れない。思い出してください。海は、あなたの妹を奪ってなんかいない……」
「ゴードン殿も、グレース殿を奪ってなどいないのでござる!」
「おおおおおおっ!」

 確かに彼女には見えていた。
 メリジューヌの額がごぽり、と波打ち、シモーヌの顔が。首が。肩が浮かび上がる。

「今だ!」

 抜きざまに切りつけた風見の一撃が、乾涸びた顔を切り裂く。すかさずロイはシモーヌの肩をつかみ、渾身の力で引きずり出した。

「忍法……火事場のくそ力ぁあああっ!」

 ず……ずぶぶぶ……じゅるり……

「WOOOOOOOOOOO!」

 ずぼっ!

「やった!」

 夢魔の体からシモーヌの体が分離した。すかさず風見は風を繰り、遠ざかる。宿主を失い、メリジューヌは一気にミイラ状に干からびた。

『ひぃいいいあああああああああああああああああああ!』

 頬がこけ、骨の上に干からびた皮が貼り付き、髑髏の形を浮かび上がらせる。眼窩は黒く落ちくぼみ、ばらばらと鱗がはがれ落ちる。
 崩壊する一方で黒髪はなおもその艶とかさを増し、広がってゆく。伸びて行く。
 ねっとりと濃密な生き物の臭気が立ちこめていた。
 鼻腔に侵入し、のど奥にまとわり居座る……女の髪のにおいが。

『別れた恋人が幸せそうだと、ムカつくのよ!』

 干からびたメリジューヌの体表にいくつもの口が生じていた。ぱくぱくと動き、叫び、歯を食いしばる。きしらせる。

『あの人は私と別れて不幸になった。そうとでも思わなきゃ、自分が惨めで仕方ないじゃない!』
『私と別れた人たちが……私の居ない所で幸せになるのが我慢できない。許せないのよぉおお!』

「何だ……これ………」
「コウイチ、アレを!」

 果てしなく広がる黒髪は海へと変わっていた。
 地面が鳴いていた。空気が鳴いていた。
 そして、水平線の彼方から、滅びの波が来る。
 せり上がった漆黒の海面が壁となり、押し寄せる。風見光一は腹の底が冷えるような戦慄を覚えた。

「津波だ!」

『あーははははは、あーはははははははは、死ね、死ね、皆死ねぇえええっ』

 断末魔の夢魔は、自らの崩壊に狩人たちをもろとも巻き込むつもりなのだ。
 サクヤが叫ぶ。

「急いで、離脱して!」
「わかった!」

 ねっとりと粘りを帯びた空気が見えない手となり、逃すまいとまとわりつく。だが、振り払うのは容易だ。
 そのはずだった。

『あなたは私と同じ……』
「っ!」

『ずるいよ、カル……こんなことしても………どうせ、テリーの方が好みなんでしょ?』
『そうだよ』

 羊子はほんのわずかに動きが遅れた。その「ほんのわずか」が致命的だった。
 背後に漆黒の壁がそそり立ち……振り向くより早く、崩れ落ちる。

 サクヤ、風見、ロイ、三上、そしてランドール。
 悪夢から離脱し現実の空間にシフトしかけた5人の目の前で、羊子は波に呑まれ、消え失せた。

「…………………………っ!」

 叫んでも、聞こえない。声が、音にならない。
 
 
 ※ ※ ※ ※
 
 
 がくん、と段差を踏み抜いたような衝撃とともにランドールは目を開いた。
 布で閉ざされた部屋。結界の中には横たわるシモーヌ・アルベール。

「う……」

 すぐ隣でサクヤが起き上がる気配がした。
 舌の上にいやな苦みが。耳の奥に鈍い衝撃が残っている。この感覚は覚えがある。夢から強制的に弾き出されたのだ。

「大丈夫か、サリー」
「ええ……俺は…………っ!」
 
 続く叫びは完全に日本語に戻っていた。それでもすぐに分かる。誰を呼んだのか。誰を案じているのか。

「くっ」

 ぎりっと唇の端を噛む。尖った歯の先が皮膚に食い込み、かすかに鉄錆びの味が広がった。
 彼女がいるのは……いや、彼女の肉体が『ある』のは、海を隔てた遠い日本。

 しっかり握っていたはずの大事な人の手が、するりと抜け落ち、沈んでゆく。
 止められない。

「ヨーコ……」

 確かに手の中にあった存在が、今はどこにもいない。

to be continued……
後編に続く

【ギャラリー】

2010/04/28 19:15 イラスト展示十海
  • イラストの展示場。
  • 月梨さんの手による挿し絵や表紙、バナーの原画、季節のイベントに使ったカラーイラストをまとめてご覧いただけます。
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 ↑ちなみにこちらはサイトのトップ絵の縮小前のもの。クリックで拡大します。

記事リスト

過去のイベント絵

2010/04/28 19:16 イラスト展示十海
  • 季節のイベント用に月梨さんが描きおろしてくれたカラーイラスト。サイトの歩みとともにけっこうな点数がたまってきました。
  • そこで、その時それぞれイベントを題材にした短編を添えてして掲載したものを、改めてこのページでまとめてご紹介します。
  • 画像はそれぞれクリック出拡大します。
  • タイトルをクリックすると短編掲載ページに移動します。(一部イラストのみの場合もあります)
  • いずれもまずイラストありき。それにあわせて小説(初期はほとんどコント)を書きました。
年賀状2009
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  • 丑年なので牛コス。真ん中の眼鏡子牛が涙目なのは、男女あわせて自分が一番ぺったんこだから……。
バレンタインデー
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  • 彼氏から彼氏へのプレゼント。既婚者は夫から妻へ。
  • この時点でまだ恋人にすらなってない人たちもいますが気にしない方向で。
  • 一応、それぞれお相手と本人に合わせたプレゼントを持っています。ロイの選択があんまりにあんまりで……。
ハロウィン
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  • ハロウィン用短編「『H』はHOOKのH」の挿し絵として掲載。
  • ピーター・パンに扮したディーンくん、ティンカー・ベルなオーレさん、そして大人げないフック船長ヒウェルさん。
【クリスマス】
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  • サイトの表紙を飾ったもの。絵本風タッチで描かれた双子を抱いた『まま』。
  • 「ぱぱが一緒じゃなくてかわいそう!」と言う理解あふれる温かなコメントをいただいた一枚。
  • 実は別々のイラストを一枚に合成してあります。
2010年新年
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  • 新年特別番外編「虎嫁」の挿し絵に使用。
  • 年賀状用のイラストのラフから話を作ってじわじわ時間をかけてイラスト、小説ともども作成。新年に一気に掲載したと言う、何とも気の長い「年賀状」。
  • どっちが産んだんですか、と読者さんから突っ込みやら質問やらいただきましたが、結論は「虎が産みました」(だって神様だもの)

日常生活

2010/04/28 19:17 イラスト展示十海
  • ギャラリーパート2、日常生活編。いずれも月梨さんのイラストに十海が背景を合成して作成。
【飲み会】
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  • 大人三人のダメすぎる飲み会の図。
  • うちの子同盟の掲示板に掲載したもの。そろそろログが流れたので改めてこちらに掲載。
  • 年齢、体格のゴツさ、紹介文のテンションと、あらゆる意味で異彩を放っていた一枚。

【カリフォルニアの空の下】
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  • 表紙の元絵その1。
  • 大人三人、ヤシの木の下。デフォルメしても目つきの悪い人はやっぱり目つきが悪く、心の狭い人はやはり狭いのでした。
  • 背後のヤシの木も青空も、実は近所の散歩道で撮影した写真を加工したものだったりして……。

【双子】
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  • サイトの表紙とバナーに使用。登場人物紹介でもおなじみ。
  • 背後に飲み会の名残がちらっと。