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ローゼンベルク家の食卓

★★★夜に奏でる

2010/04/10 22:05 短編十海
 
  • このページには男性同士のベッドシーン「しか」ありません。
  • 十八歳以下の方、ならびに男性同士の恋愛がNGと言う方は閲覧をお控えください。
 
 
 
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 illustrated by Kasuri


「レオン……いつまで指しゃぶってるんだ……うっ」

 答えの代わりに、ちゅぷっと吸い上げられた。

「っくっ」

 笑ってる。
 ふさふさしたまつげの下からのぞく瞳は、明らかに今の状況を観察し……楽しんでいる。

「いい加減……ちゃんとキス……させ……ろ……」

 乱れた息の合間から切れ切れにささやく。
 もどかしくてなめまわした。どんな彫刻家にも再現できそうにない、形の良い唇の周りを。それなのに奴は知らんふりしてしつこく指をしゃぶってる。
 指先に舌をからめてくすぐってる。その動きが、別の場所を舐める感触を生々しく呼び起こす。
 首筋に赤く浮かぶ火傷跡。耳たぶ。鎖骨のライン、胸板、乳首、足の指。背中の『翼』は特に念入りに。キスして、舐めて、またキスをする。
 そして、全ての熱が凝縮する足の間の……。

「レオ……ン……んっ」

 夢中になって舌を動かした。たっぷり唾液をからめて、ぺちゃぺちゃと湿った音を立てる。
 本当はそのかわいい唇の中に突っ込んでやりたい。思う存分なめまわして、お前の舌を吸い上げてやりたい。

「う……ん……」

 レオンがこくりと何かを飲み下す。わずかに上下するそのなめらかな咽を舐めあげた。
 二人分の唾液が混じりあってつ……と口の端からこぼれ落ち、火照った肌を濡らした。

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illustrated by Kasuri
 
 胸を。背筋を。腹を通って足の間に熱い血流が流れ込み、飢えた獣がむくりと立ち上がる。
 痛いくらいに張りつめている。

「んっ……ふ……は、ふ、ぅ、んぅっ」

 俺はもしかして変態なんじゃないか? 見られてるだけで。指をしゃぶられてるだけで、全然関係ない場所がこんなに堅くなっちまうなんて……。

「あ」

 後ろの穴が、生き物みたいに呼吸を始めている。

 さっきまで腰に巻き付き、押さえ込んでいたレオンの左手はじりじりと滑り降り、太ももをなで回している。
 気持ちいい……だけど物足りない。
 もっと触ってくれ。もっと……奥を。もっと強く。
 遠慮なんかするな。
 弄れ。

「ん、あぅっ」

 いきなり、握られる。反り返る背筋を押さえ込まれ、唇をむさぼられた。

「う……くぅ……」
「ん」

 ずるいぞ、レオン。ああ、でもやっと……キスできた……
 しゃぶりつくされ、すっかり赤く濡れた右手を背に回し、抱き寄せた。
 その瞬間。

「ぃっ!」

 ぬるりとした水音とともに、痛みにも似た快感に襲われる。瞬時に瞳孔が拡散し、瞼が限界まで跳ね上がる。
 ばか、いきなりそんなに強く、しごく奴があるかっ!

「う、ぅ、くぅ」

 がっちり押さえこまれてろくに首を振ることができない。言い返そうにもくぐもったうめき声が漏れるばかり。

「ふ……んふぅ」

 ペニスに巻き付けられた指がもぞりと波打ち、根元から先端にかけて、絞るように蠢いた。
 
「く、う、うぅっ」

 体中さんざんいじり回されて溜まりに溜まった熱がどっと一点に集中し、濡れそぼった先端から込み上げる。だが、出口がない。レオンの指がぴたりと先端をふさいでる。
 為す術もなくぴくぴくと震えていると、念入りに舌を吸い上げられた。新たな波が込み上げる。
 身じろぎすればするほど強くつかまれる。もみしだかれる。たまらず悶え、また追いつめられる……逃げられない。

「う、う、ううーっ」

 ようやく口が解放された。むさぼる深い口付けが、何度も小刻みに与えられる、小鳥みたい優しいキスに変わる。
 しかし、無慈悲な指は相変わらず俺をしっかり捕まえたまま、ゆるむ気配がない。

「なん……で……も……許し……」
「ガマンして。もう少し」
「う……」

 すぐそばでほほ笑むレオンの顔がぼんやりと霞んでる。涙がにじんでるんだ。
 目元にキスされ、舐められる。

「ふぁっ」

 くすぐったい。
 思わず首をすくめた。

「かわいいな」
「ふ……」

 笑っちまった。
 爆発寸前まで弄られ、追いつめられて。揚げ句に出口を封じられ、荒れ狂う欲情に嘖まれながら、つい。

「かわいいのは、お前の方だ」
「そうかな」
「そうだよ……」

 ああ、その顔だ。最高にかわいい。うっとりと見つめながら鼻先にキスをした。頬に。額に。口をとがらせ、それこそ小鳥のさえずりみたいな音を聞かせてやった。
 不意にペニスを握っていた指が離れ、解放される。イく寸前のもどかしさを抱えたまま……収まることも、達することもできない。

「は……は……はー……あぁ……」

 すがりついて、必死で息を整えた。

「大丈夫かい?」
「あ、ああ」
「そう……か…」

 くるりとひっくり返され、ベッドにうつぶせに押し倒されていた。

「っ、レオンっ? く、うっ」

 起き上がる間もなく肩を押さえこまれる。ばさりと散った髪の毛が、無造作にかきわけられるのがわかった。

「きれいだ……とても」

 見られている。剥き出しの体を。肌に刻んだライオンと翼を。声だけでわかる。お前が今、どんな表情(かお)をしてるのかも。

「いい色になってる」

 声が近づいてくる。翼の付け根に手のひらが触れ、なでまわされ……ぎりっと爪を立てられた。

「っくっ」

 歯を食いしばってこらえる。それでも全身を襲う細かな震えは押さえきれなかった。火照り、研ぎ澄まされた肌が食い込む爪の数まで数え上げ、突き立てられた針の記憶を呼び覚ます。

『動くなよ? 余計に痛い思いをすることになるぜ』
『お前に似合いのを入れてやったよ』

 巻き戻る時間を必死で引き止め、意識をそらした。目に見えぬ堅い何かがのど元を押し上げてくる。たまらずかすれた声を振り絞った。

「レ……オ……ン」

 不意にレオンの手が離れ、爪のかわりに暖かな唇が押し付けられた。

「ぁ……」

 うっすらと唇を開き、息を吐く。滑る舌先が。繰り返し与えられる口付けが、背に刻まれた柔らかな翼の形を教えてくれる。
 そこにあるのは隷属の刻印ではない。二人だけの秘密なのだと。

「来てくれ。今すぐ、お前が欲しい!」
「まだ早いよ。ちゃんと、ほぐさないと」
「いいから!」

 自分から足を開いて高々と腰をあげ、後ろに回した指でアヌスを広げた。

「も……待ちきれないんだ……たのむっ」

 肩越しに振り返った視界の隅で、レオンがうなずくのがわかった。

「君が、望むのなら」

 ぐいと腰を引き寄せられ、堅いものが入り口に当てがわれた。開いた指の先に濡れた彼を感じた。

「あ……ひっ!?」

 息を吐く暇もなく、一気に貫かれた。入り口の皮膚が引っ張られ、内側に向かって絞り込まれる。

「う、あ、あうっ」

 稲妻が走る。
 堅く締まった内部を抉られる衝撃が、背骨を突き抜けた。
 歯をくいしばっても押さえられない。咽の奥からくぐもった音が漏れる。呻いているのか、鳴いているのか、自分でもわからない。
 たまらず両手を前につき、シーツに顔をすり付けた。握りしめる指の間で布地がぐしゃりと皺になる。

「ぐ……う……うぅ」
「あぁ……ディフ……っ」

 俺の中でレオンが震えてる。
 お前も、ずっと我慢してたんだな。嬉しいよ……。
 そっと振り返る。気配が伝わったのだろうか。レオンは閉じていた目をひらき、ほほ笑んでくれた。
 ごそっと前に手が回され、萎えかけたペニスをいじり回される。手のひらで包み込み、もみしだかれる。

「く、うあ、あ、んっ」

 たまらず、再びシーツに突っ伏す。

「な、何……をっ」
「元気がない。やっぱりきつかったようだね……」

 妙に楽しそうな口調だった。顔は見えないがきっとほくそ笑んでる。

「ごめんよ」
「っ、全然、悪いとか思ってないだろ、お前っ」
「うん、実はそうなんだ……ああ、だいぶ堅くなってきたね」
「あっ、あ、あ、ああっ」

 前をいじられる度に、後ろが絞まる。自分の意志とは関係なく、くい、くい、と打ち込まれたレオンのペニスにしゃぶりつく。

「そろそろ……いいかな……」

 すっかり勢いを取り戻した息子から手を離すと、レオンは改めて俺の尻をがっちりと抱え込んだ。

「いい眺めだ」
「っ?」

 言われて不意に気付く。今、俺はどんな格好をしてるんだろう?
 シーツに顔を押し付けて、尻を高々と掲げている。
 じわじわと腹の底がむずがゆくなってきた。
 そんな、プレイボーイのグラビアみたいな格好を、いつの間に!

「ちょ、ちょっと待て、レオン。この格好はっ! せめて、もうちょっと、ポジションチェンジを」

 支離滅裂に口走りつつ起こしかけた上半身を、ぐいっと押さえ込まれる。体がシーツにめり込むほど強く。

「あうっ」
「………待てない」

 低く押し殺した声でささやくやいなや、レオンは猛然と動き始めた。
 さながら交わる獣のように。本能のまま腰を振り立て、突き入れる。がくんがくんと体が容赦なくゆすられる。
 猛り立つ熱塊が後ろを出入りし、こする。えぐる。尻に打ち付けられるレオンの身体と俺の間で、ぱん、ぱん、と音がする。肉と肉がぶつかって、あられもない声が押し出される。

「あ、あ、やっ、あ、ん、くっ、うぐっ、ふ、あうっ、あっあっ、あっ」

 ローションもゴムもない。生の体と体が直にこすれ合う凄まじい快楽に溺れ、夢中になって腰をゆすった。声をあげた。

「お、ぅっあ、あうっ、レ……オ……ン」

 レオン。
 レオン。
 見てくれ。聞いて、感じてくれ。どれほどの甘い衝撃が俺の中に荒れ狂っているか……。

(お前のためなら、どんなことでもする)
(獣にもなる)

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illustrated by Kasuri
 
「あ、あ、あー、あー、あー」

 もう、かすれた咽からはAの音しか出ない。
 突き上げられる後ろから、もどかしいような熱が体内を伝わり、触ってもいないペニスがどんどん膨れ上がる。
 一方で腰が勝手にガクガクと揺れ、全身の毛穴と言う毛穴から、玉のような汗が噴き出し、重なる肌身を濡らす。

「んくっ、ううっ、あ、はふ、あう、レ、オ、ンっ」
「ディフ……」
「う、あ、あ、あ、あっ、あっ、あっ」

 最初の絶頂に達した時、奇妙なことに前からは何も出なかった。
 体中の筋肉が内側に引き絞られるような奇妙な感覚の中、腰が不規則に上下し、時間が止まる。
 貫かれたアヌスの奥に、意識が一気に吸い込まれる。

「レオンっ!」
「く、ううんっ、ディ……フっ」
「あ。あっ」

 身も心も真っ白に焼き尽くされながら、彼が俺の中に放つのを感じた。
 手は届かない。だけど確かに今、お前を抱きしめている……。

「は……あ……あぁ……」

 急速に力が抜ける。
 射精こそしていなかったが、強烈なエクスタシーを感じた。しかし熱は引かず、昇りつめた意識が覚めることもない。ぽやーっと暖かな春の日差しにも似た充足感に包まれていた。
 頬をあたたかな雫が伝い落ちている。
 気だるい。ゆですぎのパスタにでもなった気分だ。だけど、すごく……気持ちいい。

「ふ……あ……あぁ……」

 深く息をしながら震える手を背後に伸ばす。汗ばむレオンの腰をなで、引き寄せた。

「ディフ……」
「ん……レオン」
「おや? 君はまだ、堅いままだね……」

 ごそっとしなやかな指が蠢く。

「よせ、どこ触ってっ、くっ!」
「大丈夫、夜はまだ長いんだ……」
「っ!」

 ひそやかな忍び笑いと共に、耳たぶを噛まれる。

「じっくり、愛し合おう」
「う……ん……」
 
 ぬるぬるとぬれそぼった指が、そろりと咽をなでる。

「鳴き過ぎて声が枯れても」

 顎を這い登り、唇をなぞり……

「離さないよ、ディフ」

 ずぷりと、ねじ込まれる。
 今度は俺がしゃぶる番だった。
 
(夜に奏でる/了)

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