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とりねこの小枝

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2012年1月の日記

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【3000ヒットお礼】とりねこ待ち受け画面

2012/01/28 23:18 ギャラリー十海
  • サイトアクセス3000ヒットを記念して。そしてご愛読を感謝して、携帯用待ち受け画面を作りました。
  • 希望するサイズのサムネイルをクリックすると原寸大の画像が表示されます。QRコードを携帯に読み込ませれば直接、携帯でアクセスすることができます。
 
  • なお、pixivにiPad用の壁紙をアップしました。こちらからご覧いただけます。
 
  • ワイドQVA用(400×240)
    • torineko_qvs.jpg qv.png
 
  • 普通画面用(320×240)
    • torineko_fs.jpg fs.png
 
  • 縦長携帯用(240×427)
    • torineko_ts.jpg ts.png
 
  • IPhone用(960×640)
    • torineko_ip.jpg ip.png
  • お気に召しましたらぽちっと拍手をいただけると、今後の励みになります。些少ながら拍手お礼用に、加工前の大きなサイズの絵を展示しました。
 
  
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ギャラリー

2012/01/28 23:08 ギャラリー十海
  • 月梨さんの手によるイラストを展示するコーナーです。
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【おまけ】神域の楡

2012/01/28 23:04 騎士と魔法使いの話十海
  • 拍手お礼用短編の再録。エミリオとシャルダンの子供の頃のお話。
  • 楡の古木から削り出した杖杖と弓は、こんな風にして二人の手元にやって来たのです。
  • 2012.02.11 表紙画像掲載。クリックで拡大します。

神域の楡表紙.png

 
 果樹神ユグドヴィーネは、樹木の女神マギアユグドと人間の男性の間に生まれた娘。
 弓の名手であり、優れた織り手。母に似て奔放、恋多き女性だったが、それが仇となり命を落とす。

 言い伝えでは嫉妬に駆られた男に刺し殺されたされたとも。数多の恋敵によって木に吊るされ、揚げ句八つ裂きされたとも言われている。

 彼女の墓からは蔓が伸び、葉を茂らせ、みずみずしくも甘い果実を実らせた。それが葡萄であると伝えられている。
 死して後、ユグドヴィーネの魂は神として母なる女神の元に迎えられ、今では狩人と果樹の守護者として信奉されている。

 山間の小さな村、ヴァンドヴィーレは女神の故郷にしてかつて人であった頃の体の眠る場所だ。
 女神となってからも、ユグドヴィーネは狩人の娘だった頃と変わらず自らの故郷を愛していた。村では果実がよく実り、ことに葡萄は地面にこぼれた種からも芽吹き、立派な木となりたわわに実をつけるほど。
 実りの季節ともなれば、村中いたるところに葡萄の房が下がり、人も獣も鳥たちも、みずみずしい果実を心ゆくまで食べることができた。
 女神の恵みは生の果実に留まらず、ヴァンドビーレは古くから優れたワインの産地としても名をはせている。
 
     ※
 
 この村で生まれた子らは皆、七つになるとユグドヴィーネの墓所を守る深い森へと赴き、女神からの『贈り物』を授かる風習があった。
 それは、花であったり。種であったり、木の枝や葉、実であったり。あるいは美しい小石、抜け落ちた鳥の羽や獣の牙と言った、森の中にごく、自然に存在する何気ない物だった。
 だが、出会った瞬間、確実にその子に語りかけるのだ。
 その子にだけ、わかる言葉で。
 持ち帰った『贈り物』は、小さなロケットに収められて。あるいは、それ自体がペンダントや腕輪、指輪や髪飾りに加工され、以後ずっと身に付けられる。

 果樹神ユグドヴィーネの祭司の子シャルダンと農夫の息子エミリオは、同じ年、同じ月の生まれで親同士が親しいこともあり、それこそ兄弟のように育った。
 ころころと子犬のようにじゃれ合って、すくすく成長して共に今年で七つ。
 シャルダンは今日。そしてエミリオは二週間前に誕生日を迎えたばかり。家族と村の長老に見送られて神殿を出立し、今、二人そろって神域の門に立っていた。
 それは人の手による門ではなかった。右と左から伸びた葡萄の古木がしっかりと絡み合ってできあがった、見事な天然のアーチ。
 
「行こう」
「うん」

 本当は、口に出さずとも互いに通じていた。それでもあえて言葉にしたのは、声が聞きたかったからだ。
 どちらからともなくしっかりと手を握り合い、歩き出す。
 一足ごとに人の痕跡は薄れ、森の気配が濃くなる。だが不思議と怖いとは思わなかった。感じたのだ。女神のしなやかな指先が、自分たちを導いてくれていると。
 かすかにしのびやかな笑い声を奏でつつ、時に優しく頬を撫でて。
 姿こそ見えないけれど、確かに女神はそこにいた。

 ちいさな足を運ぶたび、かさり、かさりと落ち葉が鳴る。昨日の夜はことさらに風が強く、神域の森には沢山の葉や枝や、木の実が散らばっていた。
 
(これだろうか)
(それとも、あれ?)

 きょろきょろと見回しながら、奥へ、奥へと進む。
『女神の贈り物』に出会った時、本当にそれだってわかるんだろうか。今、何となくあの葉っぱ、きれいだなって思った。これがそうじゃないのかな。
 
 もうこうなってくると、あらゆる物全てが呼びかけて来ているような気がした。
 逆に、どれも違うような気もした。

(どうしよう)
(どうしよう)

「あ」

 その時。急に森が途切れ、目の前にぽっかりと草地が広がっていた。その真ん中に、こんもりと。家1軒分はありそうな緑のドームが茂っていた。
 楡だ。
 中央の太い幹から広がる枝葉が、神殿さながらに半球を形作っている。
 楡の古木の周りには、一段と大量の枝や葉、実が散らばっていた。

「こっちだ」
「うん、こっちだね」

 しっかりと手を握り合ったまま、楡の幹の周りを回る。ぐるりと半分回って、来た方角と反対側に着いた瞬間、『それ』と出会った。
 昨夜の嵐に吹き落とされたのか。大人の背丈ほどもあろうかと言う、大きな枝が1本、地面に横たわっていた。
 あまりに静かで厳かで、落ちたと言うより、見えない腕が丁寧にそこに置いたように見えた。

「これだ」
「これだ」

 銀髪のシャルと黒髪のエミル。二人の少年は手を伸ばして贈り物に触れた。
 まちがいない。これは、自分たちのために用意されたものだ。

「どうやって持って帰ろう」
「俺が、根っこを持つ。シャルは先っぽを持てばいい」
「わかった!」

 力を合わせて運んだ。同じ一つの贈り物を受けとったことを、欠片ほども不思議と思わずに。

     ※

 夕陽が山陰に沈む頃。
 神殿で、はらはらしながら我が子の帰りを待っていた両親たちは、シャルダンとエミルの姿を見てほっとすると同時に驚いた。
 何とまあ、この子たちときたら。それ自体が小さな木と言っても通じるくらいの、巨大な枝を運んできたのだ!

「こんな大きな贈り物、初めて見たよ」
「がんばったなあ! 重かったろう」

 重くて、かさばって、途中で何度も座りこんだ。どんどん暗くなる空に、泣きそうにもなったし転びもしたけれど……。
 二人の少年は汚れた顔をあげて胸を張り、とても誇らしげだった。

「それで。お前たちはこれで、何を作るつもりだね?」

 長老に問われ、シャルダンは答えた。

「僕は、これで弓を作りたいです!」
「それはよい考えだ。だが、そうとう大きな強い弓になるだろう。今のお前には、到底無理だ」
「父さんに習います。毎日稽古して、どんなに強い弓でも引けるようになります!」

 シャルの父は、この上もなく幸福そうな笑みを浮かべて息子の頭を撫でた。愛おしげに、何度も。

「では、エミリオ。お前は何を作る? やはり弓か?」
「ううん」

 その瞬間、シャルは打ちのめされた。頭の上にがごぉんっと音を立てて、見えない石が落ちてきたような気がした。
 
(エミルは、僕とちがうことがしたいんだ……)

 いつも、いつまでも、ずっと一緒だって思ってたのに。信じてたのに。

(ひどいや、エミル!)

「俺、これで杖を作りたい」

 涙に潤む青緑の瞳をまっすぐに見つめ返し、エミリオはきっぱりと言い切った。

「俺、将来、魔法使いになりたい。魔法使いになって、シャルを助けたい。だからその時、これで杖を作るんだ!」

 ヴァンドヴィーレを流れる力は二つ。異界との境目である『境界線』と、この世界を形作る魔力の流れる『力線』。
 境界線を感じ、動かし、整えるのは神職の役目。だが、力線を手繰り、調和させるのは魔術師の役目なのだ。
 エミリオは幼いなりにちゃんと、そのことを理解していたのである。

「エミル!」

 シャルダンは輝くばかりの笑顔でエミルに飛びつき、抱きしめた。

「うわわっ」

 勢い余って二人してころんとひっくり返る。だけど、笑っていた。声を合わせて。
 楽しくて、嬉しくて、たまらなかった。

    ※

 そして今、シャルダン・エルダレントとエミリオ・グレンジャーは共にアインヘイルダールで暮らしている。
 方や騎士として、方や魔術師として修業を積む一方で、季節ごとに故郷の村へと帰り、神事を執り行っている。
 方や女神の祭司として、方やその助祭として二人で力を合わせている。村を通る大いなる力の流れが濁らぬように。あふれぬように。乱れぬように。
 神域の楡より削りだしたる強弓と、魔術の杖を手にして。

 ヴァンドヴィーレの子供は七つの年に神域の森に入り、女神の贈り物を受けとるのが習わしだ。
 この時、二人で一つの『贈り物』を受けとる子供たちもいる。
 その二人は、生涯を通じて何者にも決して引き離せない、強い絆で結ばれると言う。

「俺と猫、どっちがいい?」
「エミル!」
「よし!」

 その絆を何と呼ぶべきかは……女神のみぞ知る。

(神域の楡/了)
 
次へ→【10】千に至る始まりのキス★★★
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【10】千に至る始まりのキス★★★

2012/01/28 22:59 騎士と魔法使いの話十海
  • サイトアクセス3000hits越えを記念して、そして読者の皆様への感謝をこめて。
  • 【6】騎士の瞳は虹色の★の直後の展開。ダインとフロウの最初のキスは……こんなんでした。
 
※男性同士の恋愛描写並びにベッドシーンが含まれます。と、言うか、それだけです。苦手な方、および18才未満の方は閲覧をお控えください。

記事リスト

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【おまけ】ニワトコの木の下で

2012/01/20 18:31 騎士と魔法使いの話十海
  • 拍手お礼短編の再録。「【8】蜂鳥よりも軽やかに」を、おいちゃんの視点から。
  • 「30年後が怖いよ」フロウがその言葉を口にするまでに何があったのか。何を思っていたのか。
 
「お前の30年後が怖いよ」
「どう言う意味だそりゃ」

 面食らってるな、ダイン。そりゃそうだろう。お前さんはまだ、やっと20と1年生きてきたところだ。
 自分のこれまでの生涯より長い時間なんざ、想像もつくまい。
 だがな。俺は違うんだ。四十路を超えれば、考えずにはいられないのさ。
 自分の老い先、余命ってもんをな。

「30年も過ぎれば、俺は70だ。死んでてもおかしかないだろ?」
「死に別れた後のことなんざ、そん時考えりゃいいことだろう。今はそんなこと口にすんじゃねぇっ」

 あーあ。やっぱ拗ねたか、若者。しょうがねえなあ。
 こんな時は頭撫でれば大抵機嫌を直すんだが、今夜ばかりはなかなか、ダインの鼻息は収まらなかった。
 
      ※

 薬草師って仕事柄、おのずと人の生き死にに立ち合う機会は多くなる。時には永年付き合ってきた客を見送る事もある。
 ついこの間も、家まで薬を届けに行ったら葬式の準備の真っ最中だった。

(どうしたものか)

 この家のじーさんはとにかくきっちりした性分で、薬はいつも届いた時に現金払い、貸し借りなし。支払いは全て済んでることだし、やはり出直すか。
 今後は届ける必要もない。帳簿に一言書き加えればそれでおしまい。『取引終了』、ってな。
 引き返そうとしたその時、ふと玄関先のポーチに置かれた椅子に目が行った。
 じーさんがいつも座ってた場所だ……鼻の脇に白い斑点のある、ばかでっかい、オレンジ色の縞猫を膝に乗っけて。
 重くないかと聞いたら決まってこう答えたもんだ。

「当たり前だ、何年こいつを乗っけてると思っとる?」

 椅子の上に今は、猫だけが残されている。さんさんと陽射しが降り注いでいるのに。そこは家中でいちばん日当たりのいい場所のはずなのに、寒そうに背中を縮めて……。
 何故だか無性に胸が痛んだ。
 やばいな。以前ならどうってことない、ただそうなのか、と流してたものを。
 自分の家にも猫がいるせいか?(羽根が生えていて、本来の飼い主はダインだが)

 家に帰ってからも、ぽつんとうずくまる猫の姿が瞼の裏から消えなかった。
 この先ずーっと、あいつはあそこにうずくまってるんだろうか。もう二度と、飼い主のじーさんは戻って来ないのに。

 翌週、花を持って弔問に行った。そろそろ落ち着いた頃合いだろうし、永年のお得意さんだ。これぐらいはしたって罰は当たらないだろう。
 玄関でつい、きょろきょろと見回し、ぎょっとした。

 たった一週間過ぎただけなのに、これが、同じ猫か?
 つやつやのふっかふかだった毛並みが、針金みたいにぱさぱさしてる。まるっきりつやがない。まるまる太ってた体も急に一回りか二回り、縮んでしまったみたいだ……。
 何より、目が。
 いつでもくるくると動くものを追いかけていた、金色の目が。
 目やにがこびりつき、どんより濁って、まるで薄汚れたガラス玉だ。何も写しちゃいない。しかも半分くらい、白い膜に隠れてる。

「お前………」

 ぼう然と立ち尽くしていると、オレンジ猫はのっそりと床に降りて、どこかに行っちまった。
 妙に足音が軽い。体の中で、骨がカラカラ鳴るのが聞こえそうだ。あいつ、飯食ってないんだ。

 猫でさえこうなんだ。
 これが犬ならどうなる。増して、人間なら?
 その夜、つい口に出しちまった。

「お前の30年後が怖いよ」って。
 
      ※

「行ってくる」
「ああ、気をつけてな」

 のっそりとでっかい背中が戸口を出て行く。扉が閉まるのを見届けてから、こっそりと奥に引っ込んだ。
 袖をめくる。二の腕にくっきりと指の痕がついていた。

「ったく、あんの馬鹿力が!」

 媒介となる軟膏を擦り込み、小声で治癒の呪文を唱える。
 普段はのほほんとした騎士さまも、どうにかすると不意にタガが外れちまう事がある。
 前に一度、あいつの見てる前で不覚にも弩で撃たれた事があった。またその時、あのばかでっかい黒馬の上に居たもんだから、たまらない。ぶっつり左腕に矢をさしたまま、もんどり打って地面に落ちた。
 
 その瞬間、ダインはぶち切れた。咆哮を挙げ、弩を射た奴に飛びかかり、素手でぼこぼこに殴りつけた。相手の顔面が腫れ上がり、歯が折れ、血を吐いても拳を止めなかった。
 ちびのお陰で、どうにか俺の声が届いたからいいようなものの………あのまま放って置いたら、殴り殺していただろう。荒れ狂う怒りのままに、容赦なく。
 あまりの気性の激しさ、攻撃性の強さに背筋が冷えた。
 と言っても、あいつ自身が怖いって訳じゃない。そこまで俺に執着してる、その事実が、だ。
 俺はダインより20も年上だ。どう足掻いたって、先にお迎えが来るのは目に見えている。左腕に矢がぶっ刺さっただけであれだけぶち切れる男が、俺と死に別れたらどうなるんだろう?
 想像しただけで、怖くなる。

 食事も取らず、眠ることも忘れ、ただただ俺の死を嘆いて、求めて、追いすがり、それでも得られず打ちのめされて……。
 干からびちまうんじゃないか。
 
 閉ざしたまぶたの裏を、よろよろと猫が横切る。足を引きずり、うなだれて。すっかり乾いて小さくなったオレンジ色の猫が。

(俺のことなんか、忘れちまえばいい)
(さっさと次の相手を見つけて、そいつに夢中になってくれればいい。できればいいとこのお嬢さんで)
(今度こそ、お前が本来居るはずだった場所に戻ってくれれば、こっちも草葉の陰で安心できるってもんだ)

 人間ってのはとことん強欲だ。
 その反面、甘美な痺れが体の奥底を震わせるのを感じてもいた。
 そこまで、ダインに想われていることが。請い、求められていることが………嬉しい。
 こいつを支配している。従えていると思うと、尚更に。
 ひくっと口の端が震え、つり上がる。

 業腹だねえ。
 ったく、救いようがねえや。

     ※
 
 四日後、バンスベールの町まで配達に出かけた。
 聖地母神殿の施薬院に、薬草を卸しに。いつもの仕事だ。乗り合い馬車を使えば日帰りもできる距離だ。
 一泊することも考えたが、ちびに留守番させるのはまだ心配だ。俺がいないのをいいことに、何やらかすかわかったもんじゃない。

 朝一番に出たから、時間にはだいぶ余裕があった。いつものように施薬院に頼まれた薬草を届け、次の注文を受ける。さて帰りの馬車が出る前に、軽く腹ごしらえでもして行こうか。
 石畳の町をそぞろろ歩くうち、目抜き通りの四つ角に出た。戸口にニワトコの生えた家の前で、しばし足を止める。
 
 異界から迷い込んだちびを、ここで一度は故郷に返した。俺が術式を引いて、ダインが向こうに渡って。
 結局その後、あいつは正式にダインの『使い魔』としてこっちに戻って来た訳だが。

『なあ、フロウ。これどうしても着けてなきゃだめなのか?』
『当たり前だ』

 白いほわほわしたキャラウェイの花冠を、ずぼっと頭に被せてやった時のダインの顔ったら、なかったなぁ……ちょいとくすぐってやったら素直に最後まで被っていたけれど。
 本当は、花一輪、胸ポケットにでも挿しときゃ充分だったんだ。
 こみ上げる思いだし笑いをかみ殺しつつ、ニワトコの根元を見下ろしていると。

「ん?」

 見覚えのあるオレンジ色が、ひゅうっと視界の隅をかすめた。

(まさか、な?)

 にゅるん。
 ニワトコの木を回って、オレンジ色の猫が顔を出した。

「お前っ!」

 似た猫かと思ったが、鼻の脇にぽちっと浮いた白い斑点は見間違えようがない。あいつだ。あの、じーさんのオレンジ猫だ!

「なんで、ここに?」

 猫はすりっと足に巻き付き、一声鳴いた。

「んなーっ!」

 張りのある声。毛並みもつやつや、さすがに体格はまだいくぶん細いが、足取りにも、しっぽの動きにも力がみなぎっている。
 目は透き通りぱっちりと開いていた。白い膜に閉ざされ、目やにでびとびとだったのが嘘みたいだ。

「あら、薬草屋のおじさん!」

 活き活きとした声で呼びかけられ、顔を上げると見覚えのある娘さんがいた。何度か顔を合わせてる。じーさんの孫娘だ。確か嫁に行ってたはずだが。

「こちらにお住まいだったんですか」
「ええ、ここが嫁ぎ先です」
「えーっと、えーっと、それで、あの、この、猫」

 孫娘は、よっこらしょっとオレンジ猫を抱きあげた。

「はい。祖父の猫です。私が引き取りました」
「………ああ」
「この子、おじいちゃんが亡くなってから餌食べなくなっちゃって。見かねて、びしっと説教してやったんです。あんたが干乾しになったら、おじいちゃん喜ばないよ。私の家においでって。おじいちゃんの代わりにはなれないけど、ご飯と寝るとこは用意するから、一緒に暮らそう、って……」

 オレンジ猫は孫娘の腕の中、目を細めてごろごろノドを鳴らしてる。ほんの三日前まで死にかけていたのが、嘘みたいだ。もうすっかり、ここをわが家と決めたようだ。

「言って、通じたんだ」
「はい。通じました」
「かしこいなぁ」
「頭に『悪』がつきますけどね」

 大したもんだ、猫って生き物は。なかなかどうして、図太いじゃないか。
 てっきり、あのままじーさんの後を追うんじゃないかと案じていたのに。まったく、意表を突いてくれるよ。

     ※
     
 アインヘイルダールの裏通り、店に戻った時はもう、夕方だった。
 鍵を開けてる間ドアの向こうでぴゃあぴゃあ鳴く声が聞こえ、中に入るとちびが飛びついてきた。
 文字通り羽根を広げて、ばさばさと。

「ふーろう。ふーろう!」
「ただいま、ちび公。いい子にしてたか?」
「ぴゃあ!」
「ほんっとーに?」
「……ぴゃ」

 一応、天井にこいつ専用の出入り口がある。出入り自由のはずなんだが、それでも中にいるってのはどう言うことかね?
 家の中を一通り確かめる。寝室、台所、居間、書斎、そして店。

「ふむ」

 無くなった物や、ひっくり返ったものは無さそうだ。爪でばりばりやからしたり、前足でていっとひっくり返した痕跡もない。クローゼットもベッドもきれいなもんだ。

「よし、やらかしてないな」
「ぴぃ」

 えらそうな顔で、ひゅうっとしっぽを振ってる。

「そら、ご褒美だ」
「ぴゃっ」

 じーさんの孫娘から土産にもらった、ニワトコの実のジャムを開ける。
 黒に近い紫色で、汁気たっぷりのこってり甘いジャムをパンにつけてやると、目をかがやかせてがっついた。

「んまいか?」
「んびゃぐぐぐ、ぴゃぎゅるるる」
「そーかそーか」

 自分もひとさじすくいとって口に入れる。

「ん、美味いな」

 もう一口、と手を伸ばしたその時だ。
 ばたーんっと勢いよくドアが開いた。

「お?」

 思わず知らず、椅子の上ですくみあがる。金髪混じりの褐色の癖っ毛をもわもわと逆立たせて、肩幅の広い、背の高い男が立っていた。
 しかも、両足踏ん張って仁王立ち。 
 大抵、こいつが飛び込んで来る時は前もってちびが知らせてくれる。だが今回は食うのに夢中で出遅れたらしい。

「ダイン!? どうした、何しに来た!」
「言わなきゃならないことがある」

 いきなりどうした。ってかお前今、勤務中だろう!
 ったく、こいつも大概意表を突いてくれるが、仕事はどうした仕事は。

「聞け」
「やだっつっても言うだろお前」
「ああ。言う」
「わかった、わかった」

 伸び上がって、ぽんっと肩を叩いた。

「聞いてやる。だから、言ったらちゃんと砦に帰れよ?」

 さあて、何を言うつもりかな、ダインくん……。

(ニワトコの木の下で/了)

次へ→【9】氷雪の檻と白銀の騎士
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