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とりねこの小枝

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2012年1月の日記

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ニコラ

2012/01/29 18:47 登場人物十海
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    illustrated by Ishuka.Kasuri 
 
  • ニコラ・ド・モレッティ
    • 騎士団の団長の娘。四人姉妹の末っ子。
    • 金髪に青い目、勝ち気で元気でちょっとはみだした14才。
    • 優れた魔法の素質をフロウに見出される。
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フロウ

2012/01/29 18:45 登場人物十海
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    illustrated by Ishuka.Kasuri
 
  • フロウライト・ジェムル
    • 薬草師にして樹木の神の祭祀。面倒見のいいおいちゃん。通称「フロウ」
    • 身長159cm、体重56kg、小柄な割に確りした体つき。美尻。
    • 亜麻色の髪に眠たげな蜂蜜色の瞳、無精ヒゲの可愛い無自覚キュートな困った四十路。
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ダイン

2012/01/29 18:41 登場人物十海
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    illustrated by Ishuka.Kasuri
 
  • ディートヘルム・ディーンドルフ
    • 西の辺境を守る騎士団に所属する騎士。通称「ダイン」。
    • 身長180cm、体重75キロ、がっちりした筋肉質。
    • 金髪混じりの褐色の髪に緑の瞳、血気盛んな21才。
    • 実は猫背癖がついている。
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2.食って食われて

2012/01/29 1:24 騎士と魔法使いの話十海
 がっしりした肩に両手をかけてのしかかる。本来なら、こんなガタイのいい男を押し倒すなんざ不可能だ。腕力で張り合った所で、到底敵うはずがない。
 だが、こっちには秘策があった。

 屈みこんで胸板に顔を近づける。無垢な肌の香りを存分に楽しみにつつ、乳首に吸い付いた。

「うぉわっ!」

 未知の刺激にのけ反った体は、ちょいと一押しするだけで簡単に草の上に倒れた。
 そのまま、さんざん吸ったり舐めたり、歯を立てたり。いちいち上がる声と、がっちりした体が身もだえする振動を堪能してから体を起こす。

 胴体をまたいで馬乗りになって乗っかってやった。

「はー、はー、はー……」

 息が荒いぜ、騎士さま。うろたえながらも、だいぶ『雄』の顔になってきたじゃねぇか。
 わざと見せつけながら服を脱ぐ。
 些細な一挙一動に至るまで、食い入るように見つめている。肌をさらすと、ごくっと咽を鳴らした。
 震える手が伸びてくる。触りやすいように上体を倒してのしかかる。
 ぺたり、と手のひらが胸乳を覆った。

(っ、熱い)

 我知らずため息が漏れる。 

「あんたの体……何ってーか、すごい、こう」
「ははっ、それほど見せるような体でもないけどな」
「そんなことない。すげえ美味そうだ」

 美味そう、ね。
 色事に疎いが故に。適切な言い回しを知らぬが故にあまりに露骨で、まっすぐで、聞いててむず痒くなる。確かめるように揉んでくる手のひらから。指先から、若い男の熱が浸みてくる。

「もっと、見たい。触りたい」
「いいぜ。そら」

 脱ぎかけの服を全て取り去り、一糸纏わぬ裸体を晒す。とっくにダインは素っ裸だ。身につけてるのは首からかけた銀色のペンダントのみ。
 それが残っているから余計に裸を意識する。

「……どこ見てる」
「勃ってる」
「ああ。お前さんの吠えるとこ、悶えるとこ、たっぷり楽しませてもらったからな……そら」

 人さし指を唇に押し付けてやった。

「舐めろ。俺がしゃぶってたの思い出して」
「う、う、うっ」

 ぶるっと身震いするとダインは目を細めて、指を口に入れた。
 ぬめった唇で挟んで抜き差ししながら顔を前後に動かし、上あごと舌で挟んで舐め上げる。

「いいぜ……その調子だ。もっとツバ絡めろ」

 音が濡れる。
 じゅぶ、じゅぶぶっと水音が混じり、すする息遣いを感じた。それでも追いつかずに口の端からこぼれてる。拭うことも忘れてるらしい。
 
(夢中になって、おっさんの指しゃぶりやがって、まあ……)

 妙にうっとりした顔してやがるし。
 
 お世辞にも花の盛りとは言いがたい己の躯が、こうも若い男を釘付けにしてるのかと思うと……。

(たまんねぇな、おい)

 太ももで腰を挟み、尻をすり付けてやった。既に一度放ってるにも関わらず、相も変わらず元気な一物に。

「んんうぅっ」

 呻く口からちゅるっと指を引き抜く。
 そのまま、後ろに回して自分の尻肉の間に潜り込ませ、後ろの穴を弄った。
 疼いて、ぱくぱくと息でもするみたいに開いたりすぼんだりしている、ぽってりと肉厚の穴。触れただけで、何本もの細かな針の先でくすぐられたようなこそばゆさと、むず痒さがこみ上げた。
 嫌でも感じる。

(ああ、俺、欲情してるな)

 その間も伸びてきた手が、ぎこちないながらも胸や腰をなで回す。

 肌が、飢えている。美味しい刺激(えさ)を少しでも逃すまいと。貪ろうと。
 よだれ垂らして口開けて、鼻息荒くして待ちかまえてやがる……。

 背中をなで下ろされた時は不覚にも高い声が漏れちまった。誘われるようにさらに手が下がり、まとわりついて来た。
 
「ん、あ、こら、何揉んでやがるっ」
「尻。むっちりして、もっちりして、すげえ気持ちいい……」

 揉まれてさらに尻穴がほぐれ、予想外のタイミングでつぷ、と指がめり込んだ。

「っくぅう……」
「お前こそ、どこ弄ってるんだ?」

 切なげな息の合間にこぼれるあどけない問いかけに、ぞわああっと皮膚が泡立った。
 ああ、もうダメだ、我慢できねぇ。
 食ってやる。
 初物をいただいてやろうじゃないか!

「ここ……だよ」

 ぬちっと尻穴を広げ、一物の先端をくわえ込む。

「お、あ、な、何だっ、これっう、うう?」
「逃げるなよ、ダイン」

 じりじりと腰を落とす。
 圧倒的な質量が、肉の道をかき分ける。痛みと快楽。ぎりぎりの瀬戸際で、意識が激しく揺さぶられた。

「お、おおっ、んんうぅ……」
「うあ、あ、何だ、これ無理無理無理、入らない絶対に無理だっつの、きつい、きついって!」

 おいおい、何て声出しやがるかな、んーなぶっといもん、人の尻穴に挿してるくせに!
 ……これじゃ、どっちが襲ってんだかわかりゃしねえ。
 ぎちぎちに広がり、皮膚の表面が引っ張られてちりちりする尻穴を、にゅるっと先端が通り抜ける。
 亀頭で広げられた穴が即座にすぼまり、続く竿を締め上げ、扱き上げる。

「つぁあ……」
「おわっ」

 逃げ場を求めて悶える活きのいい体を押さえつけ、ずぶっと一気に根元まで入れた。内部が奥まで押し広げられ、背骨にずしんと響いた。

「んああっ」
「入ってる、入ってる、う、あ、あっ!」
「っかぁ……こりゃ、何とも……たまんねぇなあ」

 ちょろっと目の縁に涙が浮かんだ。
 海のものとも山のともつかぬ予想外の拾いもんだったが、どうやら大当たりを引いたようだ。

     ※

「うっ、あ、あうっ、んうっく、あうっ」

 欲望の赴くまま快楽を求め、腰を揺するたびに下に組み敷いた男が悶え、悲鳴が挙がる。

「おう、あおう、よせ、そんな、動くな、んぐうっ」
「いい……ぜ……もっと吠えろよ。聞かせてくれよ。お前の雄声をさあ」

 カリ首の段差がわかるほどの勢いでぎゅうっと締め上げると、咽をそらせて生臭い声を挙げた。

「う、んぐう、おうっ」

 艶声なんてもんじゃない。剥き出しの雄の声だ。獣の声だ。技巧も駆け引きもあったもんじゃない。ただ気持ちいいから動く。吠える。
 一心不乱に生まれて初めて性の快楽をむさぼる、削り出したばかりの『素』。
 体内で暴れる獣に密着した肉壁が、突かれるたびに奥にねじこまれ、引かれれば外側に引っ張られる。
 押し広げられた入り口から脳天まで、ずうん、ずうんっと雷にも似た痺れが突き上げてくる。腰骨はおろか、背骨までも打ち砕く甘さを伴って。

「あっ、あっ、ひぐっ、う、あ、あ、あんっ」

 喉元まで、びちっと詰まってるみたいだ……肉が。『ダイン』って名前の雄臭い肉が。
 さっきから口から勝手に、甲高いあえぎ声が押し出されている。こんなに悶えるつもりなんてなかったのに。止められない。

「フ、フロウ、フロウっ、気持ちいい……どうにかなりそうだっ、も、我慢できねえっ」
「え?」

 夢中になって腰振ってる所を、いきなりがっと肩を掴まれ、うろたえる。

「あっあっ」

 ダインの奴は起き上がっていた。角度が変わり、妙な方向に尻穴が引っ張られてまた悶える。
 本能がためらいを吹き飛ばしたか。あるいは気持ちよすぎて血が沸いたか。
 世界がぐるりと周り、星空が目に入る。逆に押し倒されていた。
 ダインがのしかかってくる。すっかり欲情しきった目で俺を見てる。

(何て目、してやがる)

 濡れた視線がからみつく。実体のない指が何本も。何十、何百と肌の上を滑るような錯覚に囚われる。とっさに腕で体を覆って遮ろうとした。が、抱きしめたのは引き締まった広い肉厚の背中。
 いち早く奴の体がぴったりと覆いかぶさっていたんだ。
 
「うっんっんん、ん、ん、んんーっ」

 鼻の奥でくぐもった声を上げながら上半身を密着させて。腰だけがっくがっく振ってやがる。
 そんなに俺に引っ付きたいのか。
 触れていたいのか。

(ってかよくこの体勢でそれだけ動けるなおいっ!)

「ご、おごぉっ、ダイン、ダイン、奥、奥ぅに、当たって、んぐ、う、うぉ、おっ」
「はっ、はっ、はっ、はっ、はー、はー、はー、あー、あー……」

 気持ちよさそうな顔しやがって………。
 ええ、可愛いなあ。
 手加減の『て』の字もないぐらいにがっつんがっつん突きやがって、やってることは、ぜんっぜん可愛くないが。

 灼熱の塊に抉られ、突き上げられて。中が溶けて行く。崩れて行く。内側に向かってどろりと蕩けて、引き絞られて……。わずかな動きさえ逃すまいと、一物の形がくっきり脳裏に浮かぶほど、きつく絞り込む。
 勝手に。
 そこだけ別の生き物が住み着いたみたいに。

「うぐっ」
「う、んー……」

 叫ぼうとした口をキスで塞がれ、行き場を無くした絶叫が逆流し、咽を灼く。
 ぐちゅっ、ぬぷっと水音が口の中に響く。
 繋がったまま、舌つっこんで舐め回してやがる。舌をからめると、さらに腰の動きが激しくなり、中に埋まった肉棒が膨れ始める。
 ぎちぎちと締めつけ、密着する肉壁を押し広げて。すさまじい刺激が最奥を抉る。腑を犯される。

(食われる)
(食い尽くされる!)

「う、う、うーっ」
「んんん、んんうぅっ」

 がくっ、がくっと世界が揺れた。地震かと思ったが勝手に自分の体が揺れていた。
 背筋を弓なりに反らせて、びたんっ、びたんっと草地を叩いて。
 上からぴったりと濡れた男の体がしがみついてくる。
 容赦なくじゅるっと舌を吸い上げられた。

(うわっ)

「ん、ん、うぅっ!」

 凄まじい勢いで、熱い液体が放たれる。ぶしゃあっと体の奥で。真ん中で弾けて、ぶちまけられる。

「ほぐっ」
「ふっ、くぅんっ」

 それでもキスしたままだった。上も下も繋がったまんま。男二人、情けない声で呻きながらびゅくびゅくと放っていた。
 俺は奴の腹に。
 奴は俺の中に。
 滴るのが自分の内側か外側か。あいつのか俺のなのか。ぐしゃぐしゃのどろんどろんに一緒くたになって、もうわからない。

「はぁ……気持ち……いい……」

 わずかに離れた唇の間で、こぼれた呟きが伝わってきた。

「気持ちいい……フロウ……」

     ※

 ちゅるっと舌が引き抜かれる。
 離れた唇の間につーっと、絡み合った唾液が糸になって滴り落ちる。

「はぁ………」

 もっちりとした幼子にも似た肌を上気させ、フロウは濡れ溶けた吐息を零した。

「やらしいな、フロウ。お前、今、最高にそそる顔してる」
「ったく、いらんことばかりぐんぐん覚えやがって。誰のせいでこうなったと?」

 ぺちっと手のひらで額を張り倒す。だがこのわんこはその程度じゃめげやしない。
 陽に透ける若葉色の色した瞳がのぞき込み、ぺろっと口元を舐めた。糸の滴りがまとわりつくぽってりとした唇の周りを、丹念に。舌のひらで、先で、なで回す。

「んんっ」
「……ヒゲ、当たった」
「悪ぃかよ」
「いや。お前とキスしてるって感じがして」

 骨組みのがっしりした手が背中を滑り降り、むちっと。手のひらいっぱいに尻肉をつかんで揉み上げた。

「あ」
「好きだ」

 一つに始まったキスは、一年を待たずして千に達した。
 もう、歯をぶつけるようなヘマはしない。
 ……………たまにしか。

(千に至る始まりのキス/了)

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1.衝撃の口付け

2012/01/29 1:22 騎士と魔法使いの話十海
 
 一日に一度、キスをすれば三日で三度、百日で百度、一年で三百と六十五回。
 一日に三度、キスをすれば一年で千を越える。

 それはやがて千に至る始まりのキス。

     ※

 一口にキスと言っても色々ある。祝福のキス、敬愛のキス、挨拶のキス、友情のキス。そして、そのどれとも違う、性愛のキス。
 ディートヘルム・ディーンドルフが生まれて始めて交わした「性的な」キスは……

「うぐっ」
「いってぇええなあ」

 がちーんっと歯と歯がぶつかり、目の奥から火花が散る、それはそれは『衝撃的』な口付けだった。
 たまらず、二人して口元を押さえてうずくまる。

「ちょっとは加減しろっつのこの童貞が!」
「大きなお世話だ! ってか童貞とか言うな、このヒゲ中年!」
「童貞を童貞と呼んでどこが悪いか、童貞!」
「やーめーろーっ!」

 傷ついた騎士と、通りがかった薬草師。湖のほとりで出会った二人。傷の手当てを申し出た薬草師が、薬と称して渡した木の実を騎士は何の疑いも抱かずに口にした。
 しかし、それにはちょっとばかり厄介な副作用があった。
 結果、騎士の若い血潮は燃えたぎり、股間が疼いて火照っていきり立ち、どうにも動けない状態に。
 自らの体の反応に戸惑い、困り果てた様子にフロウは秘かにほくそ笑みつつ、優しく声をかけた。
「それ、抜いてやろうか?」と。
 
 素直にうなずくダインにまず命じた。

「脱げ」
「何で?」
「いいから脱げよ。でなきゃ俺がひっぺがしてやろうか? んん?」
「わかった、脱ぐ、脱ぐからっ!」

 もとより傷の手当てのため、既にダインは上半身裸だった。
 のぼせた頭ではもう、何故脱ぐのか疑問に思うだけの余裕もないのだろう。むしろ、体が火照って衣服を身に着けているのがつらくなっているはずだ。
 もどかしげにベルトを外してズボンをずりおろし、何処かにひっかかったのか、咽奥で呻いている。
 効果てきめん。股間が下着の上から形がわかりそうなほど、ぱんぱんに膨らんでいた。
 まとわりつく視線が気になるのか。半ば引きちぎるように紐を解き、ズボンと一緒くたに脱ぎ捨てた。
 ぷるんっと濡れた熱い塊がそそり立つ。

「ほぉう。なかなかにご立派なモノをお持ちでいらっしゃる」

 顎に手を当ててしげしげと検分し、片手を掲げて指で大きさなんぞを測ってみる。

「何、ガン見してやがるっ」

 ブーツを引っこ抜く手を止めて、にらんできた。別に脱がなくてもいいのになあ。全裸に靴履いただけってすげえ卑猥な眺めだし。

「人並みだぞ、人並み!」
「んー、そーゆーことにしときますかね」

 その堂々たる体躯に相応しく、太さといい、長さといい、申し分のない一物をねめ回す。
 竿は弓なりに反って先端は天をめざしてそそり立ち、先端からは既に先走りが滲んでいる。服を脱いだ時にこすりでもしたか。ふむ、なかなかに弄り甲斐がありそうだ。
 何やら居心地が悪いのか、さすがに視線が気になるか。ダインはおずおずと股間を両手で覆ってしまった。

「こらこら。隠してどうするよ」
「う、あ、いや、だって」
「男同士だろ? 恥ずかしがってどーするっての。ほら」

 手首をつかんで持ち上げると、さしたる抵抗もなくあっさりとはがれた。
 つくづく素直な奴だ。

「見なきゃ、抜けないだろうが。そうなったら、お前だって困るだろ?」
「う……うん」

 ぴーんっとそそり立った肉の剣におもむろに手を伸ばし、指を巻き付ける。ダインはびくっとすくみあがった。

「うぇっ? な、いきなり、何するか貴様ぁっ!」

 それでも手を振り払わないあたり、素直と言うか、生真面目と言うか。
 抜いてやろうと言う自分の言葉を、疑いもせず従っているのだ。これも『手当て』の一環なのだと信じて。
 他ならぬその勃ちっぱなしの状態を引き起こしたのも、自分なのだが。

(感心感心)

「はい、動かない、動かない」

 根元を押さえたまま、かぽっと先端を口に含む。

「おぁっう、うぉわっ」

 いい声だ。
 口の中のナニも、ぴくぴく震えてる。
 いいねえ。素直に反応してくる。可愛いじゃねえか。

「何だ、これ、あったかいっ、ぬるっとして、あ、あ、やめ、何舐めて、あ、あ、あぁっ」

 そのまま、言い訳する暇も説明する暇もあらばこそ。腰を抱えてじゅっぷじゅっぷとすすり上げ、一気に一発目の濃いのをいただいた。

「う、んう、よせ、だめだ、も、出る、出るっ」

 咽奥を穿つほどの勢いで放たれるのをたっぷりと。あんまりに勢い良く出たもんだから、ちょっとばかり口の端から溢れちまった。
 ごくりとわざと音を立てて飲み下し、満足して口を拭う。

「ぷっはぁ……雄くせぇ」
「てめっ、自分からやっといてっ」
 
 涙をにじませてにらみ付ける緑の瞳を見返しながら、からかい半分、口にした。

「初々しいねえ。あ、あれか。お前さんもしかして、男とヤるのは初めてかい?」
「っ」

 上気した顔がさらに赤みを増し、それこそ熟した野いちごみたいに真っ赤になった。

「図星、か。って言うかお前、もしかして……」

 咽に絡みつく濃い精を、ごくっと飲み込む。

「童貞、か」
「……………………………………悪ぃかよ」

 その先の行動は、あまりに迅速で強烈、予測不能。肩をひっつかんでいきなり、ものすごい勢いで顔を近づけてきた。いや、ぶつけてきた。
 結果が、これだ。

「おーいってぇ! ったく、キスの時は歯ぁ食いしばるんじゃねえ! がっちんがっちんぶつかってたまったもんじゃねえだろうが!」
「う………ごめん」

 気圧されたのと、痛かったのでしゅんとうなだれるわんこに、ここぞとばかりに畳みかける。

「それと。斬り合いじゃあるまいし、猪突猛進に突っ込んでどーするよ。俺ぁ逃げも隠れもしないから。慌てるな。な?」
「う……うん」
「ほら、もういっぺんやってみろ。ただし、そーっとだぞ。そーっとな」

 ダインは素直に従った。
 
     ※
 
 二度目のキスは、唇と唇を触れ合わせる所から始まった。相変わらずぶるぶる震えてるが、かえってその初々しさに胸が躍る。降ったばかりの真っ白な雪に初めて足跡を記す。あの素朴な高揚感と優越感が入り交じった心地よさにくらくらする。
 どんな男も、女も、まだこいつの肌身には触れていないのだ!

「うー、うー、うー……」
「ん?」

 薄目を開けてみると、目を白黒させて妙に真っ赤な顔で唸ってる。照れてるとか興奮してるとか、そんな単純な問題じゃないらしい。もっとせっぱ詰まった。要するに。

「ぷっはああっ」
「……息、しろよ」

 まさかファーストキスまで頂いちまった訳じゃ、ないよな?

「はー、はー、はー……」

 うーわー、水に潜った後みたいに、咽鳴らして空気をむさぼってやがるし。

「できる訳ないだろ、口、ふさがってんのに!」

 冗談じゃ、ないよな。ものすごく真剣な目ぇしてる。やっぱ、初めてのキスだったか。

「鼻で息すりゃいいじゃねえか」
「あ」
「んじゃ、もう一度試してみるか? ん?」
「う、うん」

 癖のある褐色の髪に指をからめる。こしがあって、それでいて堅過ぎない。もつれてるのは、手入れが雑な上に汗かいて、ずっと兜を被っていたせいだろう。

(もったいねぇなあ)

 何度も撫でて、指で梳く。少しでも本来のつややかな毛並みに近づくように。ダインは眉を寄せて、もぞもぞと身じろぎした。

「……くすぐったい」
「ちょっとぐらい我慢しろ。肩の力抜けって、ほら」
「う、うん」

 言われるまま、深く呼吸をしている。心なしか手足の強ばりが抜け、不自然にせり上がっていた肩が下がってきた。

「そうだ、それでいい」

 手のひらでわんこ騎士の頭を支えたまま、今度はこっちから顔を寄せた。
 一瞬、びくっと後ずさりしそうになるのを、肩に置いた左手でやんわりと引き止める。距離が近づいて行くと、まばたきして目を閉じた。

 いいね。ここまで委ねてくるか。まったく可愛いわんこだよ、お前さんは。

「口、ちょっと開けろ……うん、それでいい」

 ちゅくっとわざと音を立てて唇を吸う。手のひらの下の体がぴくんっと震えた。
 少し開けた口と口が重なり、ぬるりとした湿り気が共有される。
 じゅううっと強く吸ってから放すと、おずおずと自分から吸い返してきた。
 唇だけであむあむと噛み合わせる。しばらく動きを止めると、同じようになぞってくる。可愛いやら、楽しいやらで、こっちもつい念の入った動きになってくる。

 上唇だけあむ、としゃぶって軽く引っ張り、また放す。続いて下唇を同じように。
 こっちの動きが止まると、ややあってダインが後に続く。
 顔の角度を変えて、すっかり粘度の上がった口で吸い付き、舌を潜り込ませ……
 浅く重ねたまま、互いの口をぬるぬると抜き差ししてやると、『う』と咽の奥で呻いた。
 ははあん、舌入って来たんでびっくりしたか。

(どんだけ箱入りだよ、お前さん)

 普通、この年なら上司なり先輩なりに色街に連れてかれて、艶事の手ほどきを受けていそうなもんだが……

 ついさっき、見たばかりの『瞳』。砕いた雲母を鏤めたようなきらめきが脳裏をよぎる。
 もし、そんな風に世話を焼いてくれるような人間が身近にいたら、置き去りにされたりなんかしないだろう。こんな人里離れた寂しい場所に、怪我の手当てもされずに、一人ぼっちで。

 柄にもなくしんみりしてると、ぶふーっとなまあったかい風が顔に吹きつけた。
 髪が舞い上がるほどの勢いで、妙に短いストロークで、ふは、ふはっと。

(ったく)

 舌を吸い上げながら口を離す。追いすがってくるのを、胸板に手のひらを当てて押しとどめた。

「う?」
「鼻息当たってるだろうが。少しは落ち着け!」
「無理」
「即答かよ!」
「お、俺だって、困ってんだ。こんなの初めてなんだ。一回抜いたのにまだ、おさまんねーし。ムズムズして、ちっとも楽になんねーしっ」

 おーおー、眉根に皴が寄っちゃってるよ。うろたえちゃってまあ、さっきまでのつっけんどんな態度が嘘みたいじゃないか。

「そ、それに……」
「ん? どーした」

 視線が左右に泳いでいる。右手で頬を包んでのぞき込んだ瞳は、左目の色がすっかり変わっていた。どうやら、感情が高ぶると発現するようだ。
 逃げ場を失い、観念したのだろう。ちろ、とこっちを見上げて、もごもごと口の中で呟いた。

「聞こえねーよ、騎士さま」
「……何か、あんたが可愛く見えてきた」
「ははっ、そいつぁ傑作だ」

 自分の方が、よっぽど可愛い面さらしてるくせに!

「ま、可愛く見えた方がいいんじゃね? これから本番なんだからよ」
「へ?」

 キョトンとした顔で、ぱちくりまばたき。はたと何か思いついたのか、血相変えてすくみ上がった。

「ま、まままま、また舐めるのかっ」
「いんや。入れる」
「入れるって、どこへ?」
「ああもお、じれってぇなあ」

 このまんまじゃ、らちが明かねえ。童貞相手なら、こっちが手綱を握るまでだ!

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