▼ 2.食って食われて
2012/01/29 1:24 【騎士と魔法使いの話】
がっしりした肩に両手をかけてのしかかる。本来なら、こんなガタイのいい男を押し倒すなんざ不可能だ。腕力で張り合った所で、到底敵うはずがない。
だが、こっちには秘策があった。
屈みこんで胸板に顔を近づける。無垢な肌の香りを存分に楽しみにつつ、乳首に吸い付いた。
「うぉわっ!」
未知の刺激にのけ反った体は、ちょいと一押しするだけで簡単に草の上に倒れた。
そのまま、さんざん吸ったり舐めたり、歯を立てたり。いちいち上がる声と、がっちりした体が身もだえする振動を堪能してから体を起こす。
胴体をまたいで馬乗りになって乗っかってやった。
「はー、はー、はー……」
息が荒いぜ、騎士さま。うろたえながらも、だいぶ『雄』の顔になってきたじゃねぇか。
わざと見せつけながら服を脱ぐ。
些細な一挙一動に至るまで、食い入るように見つめている。肌をさらすと、ごくっと咽を鳴らした。
震える手が伸びてくる。触りやすいように上体を倒してのしかかる。
ぺたり、と手のひらが胸乳を覆った。
(っ、熱い)
我知らずため息が漏れる。
「あんたの体……何ってーか、すごい、こう」
「ははっ、それほど見せるような体でもないけどな」
「そんなことない。すげえ美味そうだ」
美味そう、ね。
色事に疎いが故に。適切な言い回しを知らぬが故にあまりに露骨で、まっすぐで、聞いててむず痒くなる。確かめるように揉んでくる手のひらから。指先から、若い男の熱が浸みてくる。
「もっと、見たい。触りたい」
「いいぜ。そら」
脱ぎかけの服を全て取り去り、一糸纏わぬ裸体を晒す。とっくにダインは素っ裸だ。身につけてるのは首からかけた銀色のペンダントのみ。
それが残っているから余計に裸を意識する。
「……どこ見てる」
「勃ってる」
「ああ。お前さんの吠えるとこ、悶えるとこ、たっぷり楽しませてもらったからな……そら」
人さし指を唇に押し付けてやった。
「舐めろ。俺がしゃぶってたの思い出して」
「う、う、うっ」
ぶるっと身震いするとダインは目を細めて、指を口に入れた。
ぬめった唇で挟んで抜き差ししながら顔を前後に動かし、上あごと舌で挟んで舐め上げる。
「いいぜ……その調子だ。もっとツバ絡めろ」
音が濡れる。
じゅぶ、じゅぶぶっと水音が混じり、すする息遣いを感じた。それでも追いつかずに口の端からこぼれてる。拭うことも忘れてるらしい。
(夢中になって、おっさんの指しゃぶりやがって、まあ……)
妙にうっとりした顔してやがるし。
お世辞にも花の盛りとは言いがたい己の躯が、こうも若い男を釘付けにしてるのかと思うと……。
(たまんねぇな、おい)
太ももで腰を挟み、尻をすり付けてやった。既に一度放ってるにも関わらず、相も変わらず元気な一物に。
「んんうぅっ」
呻く口からちゅるっと指を引き抜く。
そのまま、後ろに回して自分の尻肉の間に潜り込ませ、後ろの穴を弄った。
疼いて、ぱくぱくと息でもするみたいに開いたりすぼんだりしている、ぽってりと肉厚の穴。触れただけで、何本もの細かな針の先でくすぐられたようなこそばゆさと、むず痒さがこみ上げた。
嫌でも感じる。
(ああ、俺、欲情してるな)
その間も伸びてきた手が、ぎこちないながらも胸や腰をなで回す。
肌が、飢えている。美味しい刺激(えさ)を少しでも逃すまいと。貪ろうと。
よだれ垂らして口開けて、鼻息荒くして待ちかまえてやがる……。
背中をなで下ろされた時は不覚にも高い声が漏れちまった。誘われるようにさらに手が下がり、まとわりついて来た。
「ん、あ、こら、何揉んでやがるっ」
「尻。むっちりして、もっちりして、すげえ気持ちいい……」
揉まれてさらに尻穴がほぐれ、予想外のタイミングでつぷ、と指がめり込んだ。
「っくぅう……」
「お前こそ、どこ弄ってるんだ?」
切なげな息の合間にこぼれるあどけない問いかけに、ぞわああっと皮膚が泡立った。
ああ、もうダメだ、我慢できねぇ。
食ってやる。
初物をいただいてやろうじゃないか!
「ここ……だよ」
ぬちっと尻穴を広げ、一物の先端をくわえ込む。
「お、あ、な、何だっ、これっう、うう?」
「逃げるなよ、ダイン」
じりじりと腰を落とす。
圧倒的な質量が、肉の道をかき分ける。痛みと快楽。ぎりぎりの瀬戸際で、意識が激しく揺さぶられた。
「お、おおっ、んんうぅ……」
「うあ、あ、何だ、これ無理無理無理、入らない絶対に無理だっつの、きつい、きついって!」
おいおい、何て声出しやがるかな、んーなぶっといもん、人の尻穴に挿してるくせに!
……これじゃ、どっちが襲ってんだかわかりゃしねえ。
ぎちぎちに広がり、皮膚の表面が引っ張られてちりちりする尻穴を、にゅるっと先端が通り抜ける。
亀頭で広げられた穴が即座にすぼまり、続く竿を締め上げ、扱き上げる。
「つぁあ……」
「おわっ」
逃げ場を求めて悶える活きのいい体を押さえつけ、ずぶっと一気に根元まで入れた。内部が奥まで押し広げられ、背骨にずしんと響いた。
「んああっ」
「入ってる、入ってる、う、あ、あっ!」
「っかぁ……こりゃ、何とも……たまんねぇなあ」
ちょろっと目の縁に涙が浮かんだ。
海のものとも山のともつかぬ予想外の拾いもんだったが、どうやら大当たりを引いたようだ。
※
「うっ、あ、あうっ、んうっく、あうっ」
欲望の赴くまま快楽を求め、腰を揺するたびに下に組み敷いた男が悶え、悲鳴が挙がる。
「おう、あおう、よせ、そんな、動くな、んぐうっ」
「いい……ぜ……もっと吠えろよ。聞かせてくれよ。お前の雄声をさあ」
カリ首の段差がわかるほどの勢いでぎゅうっと締め上げると、咽をそらせて生臭い声を挙げた。
「う、んぐう、おうっ」
艶声なんてもんじゃない。剥き出しの雄の声だ。獣の声だ。技巧も駆け引きもあったもんじゃない。ただ気持ちいいから動く。吠える。
一心不乱に生まれて初めて性の快楽をむさぼる、削り出したばかりの『素』。
体内で暴れる獣に密着した肉壁が、突かれるたびに奥にねじこまれ、引かれれば外側に引っ張られる。
押し広げられた入り口から脳天まで、ずうん、ずうんっと雷にも似た痺れが突き上げてくる。腰骨はおろか、背骨までも打ち砕く甘さを伴って。
「あっ、あっ、ひぐっ、う、あ、あ、あんっ」
喉元まで、びちっと詰まってるみたいだ……肉が。『ダイン』って名前の雄臭い肉が。
さっきから口から勝手に、甲高いあえぎ声が押し出されている。こんなに悶えるつもりなんてなかったのに。止められない。
「フ、フロウ、フロウっ、気持ちいい……どうにかなりそうだっ、も、我慢できねえっ」
「え?」
夢中になって腰振ってる所を、いきなりがっと肩を掴まれ、うろたえる。
「あっあっ」
ダインの奴は起き上がっていた。角度が変わり、妙な方向に尻穴が引っ張られてまた悶える。
本能がためらいを吹き飛ばしたか。あるいは気持ちよすぎて血が沸いたか。
世界がぐるりと周り、星空が目に入る。逆に押し倒されていた。
ダインがのしかかってくる。すっかり欲情しきった目で俺を見てる。
(何て目、してやがる)
濡れた視線がからみつく。実体のない指が何本も。何十、何百と肌の上を滑るような錯覚に囚われる。とっさに腕で体を覆って遮ろうとした。が、抱きしめたのは引き締まった広い肉厚の背中。
いち早く奴の体がぴったりと覆いかぶさっていたんだ。
「うっんっんん、ん、ん、んんーっ」
鼻の奥でくぐもった声を上げながら上半身を密着させて。腰だけがっくがっく振ってやがる。
そんなに俺に引っ付きたいのか。
触れていたいのか。
(ってかよくこの体勢でそれだけ動けるなおいっ!)
「ご、おごぉっ、ダイン、ダイン、奥、奥ぅに、当たって、んぐ、う、うぉ、おっ」
「はっ、はっ、はっ、はっ、はー、はー、はー、あー、あー……」
気持ちよさそうな顔しやがって………。
ええ、可愛いなあ。
手加減の『て』の字もないぐらいにがっつんがっつん突きやがって、やってることは、ぜんっぜん可愛くないが。
灼熱の塊に抉られ、突き上げられて。中が溶けて行く。崩れて行く。内側に向かってどろりと蕩けて、引き絞られて……。わずかな動きさえ逃すまいと、一物の形がくっきり脳裏に浮かぶほど、きつく絞り込む。
勝手に。
そこだけ別の生き物が住み着いたみたいに。
「うぐっ」
「う、んー……」
叫ぼうとした口をキスで塞がれ、行き場を無くした絶叫が逆流し、咽を灼く。
ぐちゅっ、ぬぷっと水音が口の中に響く。
繋がったまま、舌つっこんで舐め回してやがる。舌をからめると、さらに腰の動きが激しくなり、中に埋まった肉棒が膨れ始める。
ぎちぎちと締めつけ、密着する肉壁を押し広げて。すさまじい刺激が最奥を抉る。腑を犯される。
(食われる)
(食い尽くされる!)
「う、う、うーっ」
「んんん、んんうぅっ」
がくっ、がくっと世界が揺れた。地震かと思ったが勝手に自分の体が揺れていた。
背筋を弓なりに反らせて、びたんっ、びたんっと草地を叩いて。
上からぴったりと濡れた男の体がしがみついてくる。
容赦なくじゅるっと舌を吸い上げられた。
(うわっ)
「ん、ん、うぅっ!」
凄まじい勢いで、熱い液体が放たれる。ぶしゃあっと体の奥で。真ん中で弾けて、ぶちまけられる。
「ほぐっ」
「ふっ、くぅんっ」
それでもキスしたままだった。上も下も繋がったまんま。男二人、情けない声で呻きながらびゅくびゅくと放っていた。
俺は奴の腹に。
奴は俺の中に。
滴るのが自分の内側か外側か。あいつのか俺のなのか。ぐしゃぐしゃのどろんどろんに一緒くたになって、もうわからない。
「はぁ……気持ち……いい……」
わずかに離れた唇の間で、こぼれた呟きが伝わってきた。
「気持ちいい……フロウ……」
※
ちゅるっと舌が引き抜かれる。
離れた唇の間につーっと、絡み合った唾液が糸になって滴り落ちる。
「はぁ………」
もっちりとした幼子にも似た肌を上気させ、フロウは濡れ溶けた吐息を零した。
「やらしいな、フロウ。お前、今、最高にそそる顔してる」
「ったく、いらんことばかりぐんぐん覚えやがって。誰のせいでこうなったと?」
ぺちっと手のひらで額を張り倒す。だがこのわんこはその程度じゃめげやしない。
陽に透ける若葉色の色した瞳がのぞき込み、ぺろっと口元を舐めた。糸の滴りがまとわりつくぽってりとした唇の周りを、丹念に。舌のひらで、先で、なで回す。
「んんっ」
「……ヒゲ、当たった」
「悪ぃかよ」
「いや。お前とキスしてるって感じがして」
骨組みのがっしりした手が背中を滑り降り、むちっと。手のひらいっぱいに尻肉をつかんで揉み上げた。
「あ」
「好きだ」
一つに始まったキスは、一年を待たずして千に達した。
もう、歯をぶつけるようなヘマはしない。
……………たまにしか。
(千に至る始まりのキス/了)
次へ→【11】見えないさん、ちっちゃいさん
だが、こっちには秘策があった。
屈みこんで胸板に顔を近づける。無垢な肌の香りを存分に楽しみにつつ、乳首に吸い付いた。
「うぉわっ!」
未知の刺激にのけ反った体は、ちょいと一押しするだけで簡単に草の上に倒れた。
そのまま、さんざん吸ったり舐めたり、歯を立てたり。いちいち上がる声と、がっちりした体が身もだえする振動を堪能してから体を起こす。
胴体をまたいで馬乗りになって乗っかってやった。
「はー、はー、はー……」
息が荒いぜ、騎士さま。うろたえながらも、だいぶ『雄』の顔になってきたじゃねぇか。
わざと見せつけながら服を脱ぐ。
些細な一挙一動に至るまで、食い入るように見つめている。肌をさらすと、ごくっと咽を鳴らした。
震える手が伸びてくる。触りやすいように上体を倒してのしかかる。
ぺたり、と手のひらが胸乳を覆った。
(っ、熱い)
我知らずため息が漏れる。
「あんたの体……何ってーか、すごい、こう」
「ははっ、それほど見せるような体でもないけどな」
「そんなことない。すげえ美味そうだ」
美味そう、ね。
色事に疎いが故に。適切な言い回しを知らぬが故にあまりに露骨で、まっすぐで、聞いててむず痒くなる。確かめるように揉んでくる手のひらから。指先から、若い男の熱が浸みてくる。
「もっと、見たい。触りたい」
「いいぜ。そら」
脱ぎかけの服を全て取り去り、一糸纏わぬ裸体を晒す。とっくにダインは素っ裸だ。身につけてるのは首からかけた銀色のペンダントのみ。
それが残っているから余計に裸を意識する。
「……どこ見てる」
「勃ってる」
「ああ。お前さんの吠えるとこ、悶えるとこ、たっぷり楽しませてもらったからな……そら」
人さし指を唇に押し付けてやった。
「舐めろ。俺がしゃぶってたの思い出して」
「う、う、うっ」
ぶるっと身震いするとダインは目を細めて、指を口に入れた。
ぬめった唇で挟んで抜き差ししながら顔を前後に動かし、上あごと舌で挟んで舐め上げる。
「いいぜ……その調子だ。もっとツバ絡めろ」
音が濡れる。
じゅぶ、じゅぶぶっと水音が混じり、すする息遣いを感じた。それでも追いつかずに口の端からこぼれてる。拭うことも忘れてるらしい。
(夢中になって、おっさんの指しゃぶりやがって、まあ……)
妙にうっとりした顔してやがるし。
お世辞にも花の盛りとは言いがたい己の躯が、こうも若い男を釘付けにしてるのかと思うと……。
(たまんねぇな、おい)
太ももで腰を挟み、尻をすり付けてやった。既に一度放ってるにも関わらず、相も変わらず元気な一物に。
「んんうぅっ」
呻く口からちゅるっと指を引き抜く。
そのまま、後ろに回して自分の尻肉の間に潜り込ませ、後ろの穴を弄った。
疼いて、ぱくぱくと息でもするみたいに開いたりすぼんだりしている、ぽってりと肉厚の穴。触れただけで、何本もの細かな針の先でくすぐられたようなこそばゆさと、むず痒さがこみ上げた。
嫌でも感じる。
(ああ、俺、欲情してるな)
その間も伸びてきた手が、ぎこちないながらも胸や腰をなで回す。
肌が、飢えている。美味しい刺激(えさ)を少しでも逃すまいと。貪ろうと。
よだれ垂らして口開けて、鼻息荒くして待ちかまえてやがる……。
背中をなで下ろされた時は不覚にも高い声が漏れちまった。誘われるようにさらに手が下がり、まとわりついて来た。
「ん、あ、こら、何揉んでやがるっ」
「尻。むっちりして、もっちりして、すげえ気持ちいい……」
揉まれてさらに尻穴がほぐれ、予想外のタイミングでつぷ、と指がめり込んだ。
「っくぅう……」
「お前こそ、どこ弄ってるんだ?」
切なげな息の合間にこぼれるあどけない問いかけに、ぞわああっと皮膚が泡立った。
ああ、もうダメだ、我慢できねぇ。
食ってやる。
初物をいただいてやろうじゃないか!
「ここ……だよ」
ぬちっと尻穴を広げ、一物の先端をくわえ込む。
「お、あ、な、何だっ、これっう、うう?」
「逃げるなよ、ダイン」
じりじりと腰を落とす。
圧倒的な質量が、肉の道をかき分ける。痛みと快楽。ぎりぎりの瀬戸際で、意識が激しく揺さぶられた。
「お、おおっ、んんうぅ……」
「うあ、あ、何だ、これ無理無理無理、入らない絶対に無理だっつの、きつい、きついって!」
おいおい、何て声出しやがるかな、んーなぶっといもん、人の尻穴に挿してるくせに!
……これじゃ、どっちが襲ってんだかわかりゃしねえ。
ぎちぎちに広がり、皮膚の表面が引っ張られてちりちりする尻穴を、にゅるっと先端が通り抜ける。
亀頭で広げられた穴が即座にすぼまり、続く竿を締め上げ、扱き上げる。
「つぁあ……」
「おわっ」
逃げ場を求めて悶える活きのいい体を押さえつけ、ずぶっと一気に根元まで入れた。内部が奥まで押し広げられ、背骨にずしんと響いた。
「んああっ」
「入ってる、入ってる、う、あ、あっ!」
「っかぁ……こりゃ、何とも……たまんねぇなあ」
ちょろっと目の縁に涙が浮かんだ。
海のものとも山のともつかぬ予想外の拾いもんだったが、どうやら大当たりを引いたようだ。
※
「うっ、あ、あうっ、んうっく、あうっ」
欲望の赴くまま快楽を求め、腰を揺するたびに下に組み敷いた男が悶え、悲鳴が挙がる。
「おう、あおう、よせ、そんな、動くな、んぐうっ」
「いい……ぜ……もっと吠えろよ。聞かせてくれよ。お前の雄声をさあ」
カリ首の段差がわかるほどの勢いでぎゅうっと締め上げると、咽をそらせて生臭い声を挙げた。
「う、んぐう、おうっ」
艶声なんてもんじゃない。剥き出しの雄の声だ。獣の声だ。技巧も駆け引きもあったもんじゃない。ただ気持ちいいから動く。吠える。
一心不乱に生まれて初めて性の快楽をむさぼる、削り出したばかりの『素』。
体内で暴れる獣に密着した肉壁が、突かれるたびに奥にねじこまれ、引かれれば外側に引っ張られる。
押し広げられた入り口から脳天まで、ずうん、ずうんっと雷にも似た痺れが突き上げてくる。腰骨はおろか、背骨までも打ち砕く甘さを伴って。
「あっ、あっ、ひぐっ、う、あ、あ、あんっ」
喉元まで、びちっと詰まってるみたいだ……肉が。『ダイン』って名前の雄臭い肉が。
さっきから口から勝手に、甲高いあえぎ声が押し出されている。こんなに悶えるつもりなんてなかったのに。止められない。
「フ、フロウ、フロウっ、気持ちいい……どうにかなりそうだっ、も、我慢できねえっ」
「え?」
夢中になって腰振ってる所を、いきなりがっと肩を掴まれ、うろたえる。
「あっあっ」
ダインの奴は起き上がっていた。角度が変わり、妙な方向に尻穴が引っ張られてまた悶える。
本能がためらいを吹き飛ばしたか。あるいは気持ちよすぎて血が沸いたか。
世界がぐるりと周り、星空が目に入る。逆に押し倒されていた。
ダインがのしかかってくる。すっかり欲情しきった目で俺を見てる。
(何て目、してやがる)
濡れた視線がからみつく。実体のない指が何本も。何十、何百と肌の上を滑るような錯覚に囚われる。とっさに腕で体を覆って遮ろうとした。が、抱きしめたのは引き締まった広い肉厚の背中。
いち早く奴の体がぴったりと覆いかぶさっていたんだ。
「うっんっんん、ん、ん、んんーっ」
鼻の奥でくぐもった声を上げながら上半身を密着させて。腰だけがっくがっく振ってやがる。
そんなに俺に引っ付きたいのか。
触れていたいのか。
(ってかよくこの体勢でそれだけ動けるなおいっ!)
「ご、おごぉっ、ダイン、ダイン、奥、奥ぅに、当たって、んぐ、う、うぉ、おっ」
「はっ、はっ、はっ、はっ、はー、はー、はー、あー、あー……」
気持ちよさそうな顔しやがって………。
ええ、可愛いなあ。
手加減の『て』の字もないぐらいにがっつんがっつん突きやがって、やってることは、ぜんっぜん可愛くないが。
灼熱の塊に抉られ、突き上げられて。中が溶けて行く。崩れて行く。内側に向かってどろりと蕩けて、引き絞られて……。わずかな動きさえ逃すまいと、一物の形がくっきり脳裏に浮かぶほど、きつく絞り込む。
勝手に。
そこだけ別の生き物が住み着いたみたいに。
「うぐっ」
「う、んー……」
叫ぼうとした口をキスで塞がれ、行き場を無くした絶叫が逆流し、咽を灼く。
ぐちゅっ、ぬぷっと水音が口の中に響く。
繋がったまま、舌つっこんで舐め回してやがる。舌をからめると、さらに腰の動きが激しくなり、中に埋まった肉棒が膨れ始める。
ぎちぎちと締めつけ、密着する肉壁を押し広げて。すさまじい刺激が最奥を抉る。腑を犯される。
(食われる)
(食い尽くされる!)
「う、う、うーっ」
「んんん、んんうぅっ」
がくっ、がくっと世界が揺れた。地震かと思ったが勝手に自分の体が揺れていた。
背筋を弓なりに反らせて、びたんっ、びたんっと草地を叩いて。
上からぴったりと濡れた男の体がしがみついてくる。
容赦なくじゅるっと舌を吸い上げられた。
(うわっ)
「ん、ん、うぅっ!」
凄まじい勢いで、熱い液体が放たれる。ぶしゃあっと体の奥で。真ん中で弾けて、ぶちまけられる。
「ほぐっ」
「ふっ、くぅんっ」
それでもキスしたままだった。上も下も繋がったまんま。男二人、情けない声で呻きながらびゅくびゅくと放っていた。
俺は奴の腹に。
奴は俺の中に。
滴るのが自分の内側か外側か。あいつのか俺のなのか。ぐしゃぐしゃのどろんどろんに一緒くたになって、もうわからない。
「はぁ……気持ち……いい……」
わずかに離れた唇の間で、こぼれた呟きが伝わってきた。
「気持ちいい……フロウ……」
※
ちゅるっと舌が引き抜かれる。
離れた唇の間につーっと、絡み合った唾液が糸になって滴り落ちる。
「はぁ………」
もっちりとした幼子にも似た肌を上気させ、フロウは濡れ溶けた吐息を零した。
「やらしいな、フロウ。お前、今、最高にそそる顔してる」
「ったく、いらんことばかりぐんぐん覚えやがって。誰のせいでこうなったと?」
ぺちっと手のひらで額を張り倒す。だがこのわんこはその程度じゃめげやしない。
陽に透ける若葉色の色した瞳がのぞき込み、ぺろっと口元を舐めた。糸の滴りがまとわりつくぽってりとした唇の周りを、丹念に。舌のひらで、先で、なで回す。
「んんっ」
「……ヒゲ、当たった」
「悪ぃかよ」
「いや。お前とキスしてるって感じがして」
骨組みのがっしりした手が背中を滑り降り、むちっと。手のひらいっぱいに尻肉をつかんで揉み上げた。
「あ」
「好きだ」
一つに始まったキスは、一年を待たずして千に達した。
もう、歯をぶつけるようなヘマはしない。
……………たまにしか。
(千に至る始まりのキス/了)
次へ→【11】見えないさん、ちっちゃいさん