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電子書籍「我は誓う剣に友に〜バルナ・クロニカより」配信中

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  • 何の変哲もない古い剣に、一人の少年が名を与え、魂を分かつ過程を丹念に描いた一般向けファンタジー。BLではありませんが相棒は一癖も二癖もある中年のおっちゃん、ヒロインはぴっちぴち元気な人外娘。
  • あえてレトロに直球勝負、ど派手な能力バトルや棚ボタハーレムは無いけれど、乾いた大地を踏みしめて、妖鬼や不屍の怪物、厳しい自然の驚異に晒されながら図太く生きる人々の物語です。図書室で夢中になってページをめくった日々を思い返してみませんか?
  • IOS用の専用ビューワー「パピレスREADER」+iPadで表示するとこんな感じで読めます。フォントのサイズと段組、ページの背景画像は変更可。ページめくりアクションのonof設定可。(クリックで拡大)
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  • 同じアプリを柄ってiPhoneで表示すると1ページ=1画面。いずれにせよブラウザで読んだ時よりかなり読みやすいです。
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  • 幸運にもイラストを漫画家櫓刃鉄火さんにお願いする事ができました。pixivにて設定ラフと表紙イラストが公開されています。躍動感のある人物、装身具の一つ一つに至るまで細かに描き込まれた衣服や装備は必見。
 
  • 私自身も、追加サプリへのシナリオ執筆と言う形で創作の一端に関わったTRPG「バルナ・クロニカ」の世界を舞台としたノベライズ作品。
  • 一時期、初稿をネット上で公開していましたが、今回の書籍化にあたって元のゲームをご存知ない方も純粋に小説として楽しんでいただけるよう、大幅に手を加えました。

【NPCデータ】

※名前は便宜上つけた仮の名前です。
※可能ならば「幼なじみ」設定のPCのプレイヤーに名前を決めてもらう事をお奨めします。

メイガン(若夫婦の妻)
種族:ザハール 性別:女性 年齢:23歳 髪の色:黒 瞳の色:銀灰色 
能力値【体力3】【機敏3】【感覚3】【知性4】【魅力5】
心魂値【愛4】【希望1】【勇気3】【賢明4】
技能〈語り部1〉〈古言語1〉〈説得1〉〈騎乗1〉〈動物1〉〈誘惑2〉
《背景》
 流れ者の羊飼い一家の娘として生まれる。
 流浪の日々に疲れ、安定した暮らしを求めてエイベルの求婚を受けた。
 打算から始まった結婚だが、彼女なりに夫を愛している。六ヶ月前に、エイベルが『狼』に襲われ、重傷を負った時も必死で看病した。
 一度は死んだと思った夫が起き上がり、自分を見て、名前を呼んでくれた瞬間から、彼女の秘密が始まった。表面上は「気立てのよい働き者」を演じつつ、裏では人狼屍鬼と化した夫を庇い、大荒野の開拓村を転々としている。
 PCのうち一人と過去に強い絆で結ばれていた。今、その絆を利用して彼(もしくは彼女)を味方に引き入れようとしている。
〈仮面舞踏会〉の技能判定に成功すれば、彼女が常に何かを隠しているとわかるだろう。
「何人犠牲になってもかまわない。今の安定した暮らしを守るためなら」
「ただ穏やかに、普通に暮らしたい、それだけ。何がいけないの?」

エイベル(若夫婦の夫)
種族:ザハール 性別:男性 年齢:30歳 髪の色:黒 瞳の色:琥珀色 
能力値【体力6】【機敏5】【感覚6】【知性3】【魅力4】
心魂値【愛5】【希望3】【勇気10】【賢明1】
技能〈語り部1〉〈古言語1〉〈説得1〉〈裁縫3〉(〈格闘3ないし4〉)
《背景》
 エルルタンタ出身の、腕の良い毛織物職人。羊飼い一家の娘メイガンに恋をして求婚、妻に娶る。
 真面目で朴訥な男で、一途に妻を愛していた。しかし六ヶ月前、彼の幸せは打ち砕かれた。
 山道で『二本足で歩く赤い目の狼』に襲われた。かろうじて村に帰り着いたものの、高熱を出して寝込んでしまう。メイガンの手当ての甲斐もなく、三日後、一度死ぬ。しかし日没とともに彼は再び起き上がった。
 人狼屍鬼として、新たな命を得て。
 もう、自分は以前の自分ではない。人間には戻れない。そうと知りつつ、必死で「穏やかな日々の暮らし」を守ろうとしている。妻を奪われることを何よりも恐れている。
 月齢とともに次第に凶暴化し、月齢12〜16の夜は人狼屍鬼の姿に『戻り』、殺戮に走る。
「何人だって殺す。彼女を守るためなら」
「彼女を奪う奴は許さない。彼女は誰にも渡さない」
※戦闘時のデータは、ルールブックP159およびP169の「人狼屍鬼」の項目を参照してください。
※その際、技能と心魂値に関してはこの記事の数値を適用してください。

【サンプル7:終幕】

小説十海
 
 村を囲む壁の外。雪姫川を渡った北側、ほとんど人の手の入らぬその岸辺に、薪が積み上げられていた。その上には、息絶えたエイベルとメイガンの亡骸が横たえられている。
 二人一緒に布で包み、固く固く紐で結んだ。離れぬように。分けられぬように。
 髪も瞳も唇も。肉も骨もあまさず灰になるように、薪にも布にも、しっかりと油をしみ込ませた。

 そこまで準備を整えておきながら、グレンは立ちすくんでいた。燃える松明を手に、石になったように動かない。
 長い長い沈黙の後、ハーツが声をかけた。
「代わってやろうか?」
「いや。俺が、やる」
 ずずっと鼻水をすする気配がしたが、聞こえないふりをした。
「メイガンは、俺に頼んだんだから」
「……だよな。惚れた女の、最後の願いだものな」
 のっそりとグレンはうなずいて、一歩進み、手を伸ばした。松明の火が薪に触れる。
 燃え上がる炎が、鮮やかな赤毛と精悍な横顔を照らした。
 ぼとぼと涙を流し、鼻水をすすっている。みっともないことこの上ない。だが、目はそらさない。惚れた女の亡骸が、炎に包まれる有り様を見守っていた。
 見届けていた。

 グレンは悔しかった。
 愛した夫のために、メイガンが自分を誘惑したことが。
 そんなにまでして彼女の愛した男が、とっくの昔に死んでいたことが。
 よりによってその男が、自分なんかに嫉妬して、彼女を道連れにしたことが。
「もしも。もしも俺が、もっと、上手くやっていたら。メイガンは……」
 問いかけても答えはなく。雪姫川はただ、滔々{とうとう}と。滔々と流れ行くのみ。
「グレン……泣いてる?」
 ハンカチを手に歩き出そうとするネイネイを、ハーツが押しとどめる。
「おじさん」
「あいつ、女の子の前だとかっこつけちまうからさ。泣かせてやってくれよ」
 ネイネイは片方だけ耳を伏せた。
 それからスミレ色の瞳でハーツを見て。ずびずび鼻をすするグレンの背中を見て。もう一度ハーツを見上げてから、改めて、ぴっと両耳を立てた。
「お茶をいれてくる。泣いた後はのどが渇くからね」
「そうだな。それがいい」
 ポットの底にカミツレ敷いて、仕上げにシナモンひとつまみ。
 熱いお湯とハチミツ注いで……。

(青き月影、白い牙/了)

次へ→【NPCデータ】

【シナリオ6:結末】


 人狼屍鬼と化した夫を倒せば、このシナリオの目的は達成されます。
 果たしてどのような結末を迎えたことでしょう?
 
 バルナ・クロニカの恒例であるしめくくりの文章は、あえて記しません。
 あなたの物語を締めくくる言葉を導き出せるのは、あなた自身に他ならないからです。

【終わりに】
 サンプルストーリーでは、物語は悲しい結末を迎えてしまいました。
 これは一つの失敗例。決してほめられた展開ではありません。
「何で判定に失敗してしまったのか。あそこで真力を使っておけば……」
「もっと手がかりを上手く伝えていれば」
 GMとしても、PLとしても、色々と悔いの残る幕切れです。

 本記事のシナリオデータとサンプルストーリーは、あくまで材料に過ぎません。
『もっと別の選択肢があるはず』
『もっと別の道があったはずだ』
 そこから、あなたの物語は始まるのです。

次へ→【サンプル7:終幕】

【サンプル6:それが君の願いなら】

小説十海

 刻印の出現は、グレンにナジャとしての使命を思いださせる。だが同時に、人狼屍鬼エイベルに宣戦布告をしたも同然だった。よりによって彼自身の家(縄張り)で。
 結果として、怒り狂ったエイベルは日没も待たずに襲って来た。充分な対策を練ることができず、ナジャたちは苦戦を強いられる。

 計画では、あえて守りの薄い家畜小屋を用意し、そこに狼を誘い込む手はずだった。しかし、敵は準備ができ上がる前に。陽の落ちる前に襲ってきたのだ。
 罠は動かせない。中まで狼を誘導しなければ意味がない。
 幸い……そう、幸いなことに、エイベルは執拗にグレンを狙ってきた。
「こっちだ。俺はここにいるぞ。俺が怖いか、エイベル!」
 怒り狂った狼は、あっさりと挑発に乗ってきた。
(そうだ、俺を追って来い!)

 月影青く尾を引いて
 闇に閃く 白い牙
 凍える息は生臭く、墓場の土の味がした。

 行く手に、家畜小屋が見えてくる。開け放たれた入り口から飛び込んだ。すぐ後ろを人狼屍鬼が追ってくる。
 かちっと、背後で牙が空を噛む。
 間一髪、窓から強引に抜け出たその直後。全ての出入り口と窓に、鉄格子が落とされた。
 小屋の中にはあらかじめ薪と、油をしみ込ませた藁が積み上げられていた。
「今だ!」
 ハーツの合図で一斉に火が放たれた。
「メイガン! メーイーガーン……メイガァアアアン!」
 燃え盛る小屋の中、人狼屍鬼の断末魔の絶叫が響く。
「やめて! 私の夫に何をするの!」
 半狂乱になって駆け寄る妻の目の前で、小屋は無残にも轟音とともに崩れ落ちた。
「あ……あ……」
 ぼう然とへたり込むメイガンの肩に、ためらいながらグレンが手を乗せる。
 彼女が振り向いた。止めどなく涙を流す虚ろな瞳が、ゆっくりと焦点を結ぶ。
「ディー……」
 その時だ。
 小屋の残骸から、焼け焦げた肉塊が飛び出した。
 ぱあっと真っ赤な花が咲く。頬に。手に。熱い、真っ赤なしぶきが飛んだ。それが、彼女の首から迸る血だと理解するのに、ほんの少し時間がかかった。
 何と言う執念。
 エイベルは最後の力を振り絞り、メイガンの咽を噛み裂いていた。
「お前に……彼女は……………渡さない」
 妻の鮮血に染まる口でニタリと笑うと、エイベルは息絶えた。今度こそ、永久に。

「メイガン……メイガン……」
 倒れた彼女を抱き起こす。噛み裂かれた首筋から血が噴き出し、地面に赤い水たまりを作る。
「ハーツ! 頼む、彼女を助けてくれ、治してくれ! お前ならできるだろ?」
「グレン」
 ハーツは動かない。ただ見ているだけ。そして、告げた。スミレ色の瞳が厳しいほどに、まっすぐに、震え、おののく若い心を貫き通す。
「彼女に先はない。仮に魔法で傷を塞いだとしても、屍病で死ぬ運命が待っている」
「でもっ!」
 傷口を手でふさぐ。だがそれだけじゃ、とてもじゃないけど止められなかった。
「このまま見送ってやれ」
「嫌だ!」
「デ……ィー……」
 指先にかすかな動きが伝わる。メイガンが首を振っていた。
 小さく、だがはっきりと、横に。
「私と……彼を……一緒、に、焼いてっ……離れたく、ないの」
 ひゅう、ひゅうと咽を鳴らしながら。口から血を吐きながら。彼女は奇跡的な努力を振り絞って言い終えた。
「どちらがどちらの骨なのか。灰なのか。分からなくなるまで……お願い」
 それは、彼女の最後の言葉。
 死に行く女から、残される男に託された、たった一つの願い。

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