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ローゼンベルク家の食卓

【ex2-4】アレックスは見た

2008/05/12 0:30 番外十海
 2002年2月。

 マクラウドさまの引っ越し準備は着々と進んでいる。
 あの方がレオンさまと同じマンションに引っ越したいと言い出した時は心の底からほっとした。あの方と離れている間、レオンさまは痛々しいほどに荒んだ生活をなさっておられたから……。
 これで、レオンさまも落ちつかれることだろう。
 すぐさま隣の部屋をご用意し、ロウスクールでの勉学と法律事務所でのバイトに忙しいレオンさまに成り代わり準備に手をつくした。

 今日もマクラウドさまのアパートを訪れたのだが、いかにも実用本意のがっちりしたシンプルな家具ばかりで。
 あの方らしいと思ってみていると、ふと風変わりな物体を見つけた。
 クマのぬいぐるみだ。だいぶ年季が入っている。

 はて……どこかで見たことがあるような……。

「すまんね、アレックス。わざわざ足運んでもらって」
「いえ。それが私の勤めでございますから……時に、マクラウドさま。何か必要なものはありませんか?」
「んー……」

 荷造りの始まった部屋の中をぐるりと見回していらっしゃる。

「今あるものだけで充分……あ、いや、ちょっと待て。本棚、しっかりしたの、用意してもらえるかな」
「本棚でございますか?」
「うん。一部屋まるごと書庫にしたいんだ」
「さようでございますか。どのお部屋をお使いになる予定ですか?」

 書庫に使う部屋と、収める本の量を確認してからアパートを出た。

 やはりあのクマは見覚えがある。しかしレオンさまに渡したはずのクマが、なぜマクラウドさまの部屋にあるのだろう……。
 首をかしげながら階段を降りて駐車場に向かう途中で……視線を感じた。
 さりげなく目を向ける。
 街路樹の陰に男が一人立っていた。ほとんど灰色に近い鋭い水色の瞳にブロンズ色の髪、浅黒い肌。ギリシャ系かイタリア系の血が混じっているのだろうか。
 
 こちらの視線に気づくと、ぷいと目をそらして足早に去って行く。
 妙だ。
 男が視界から消えてから、彼の居た位置に立ってみた。
 
「これは……」

 マクラウドさまの部屋の窓がよく見える。カーテンが開いていれば部屋の中まで見えそうではないか。ふと足元を見ると、真新しい吸い殻が何本も散らばっていた。
 そうとうな時間をこの場所ですごしていたようだ。

 レオンさまにお知らせするべきだろう。一刻も早く。


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