ようこそゲストさん

とりねこの小枝

【6】その頃二の姫

2011/11/09 0:32 お姫様の話十海
 モレッティ家の二の姫、レイラはあいにくと、妹の晴れ姿を目にすることはできなかった。
 試合後、天幕に寝かされて、治癒術師の治療を受けていたからだ。

「見事だね。的確にして強烈だ。正に改心の一撃って奴だな」
「ああ。私が女だから。団長の娘だからと、誰しもが感じていた無意識の遠慮を軽々と振り切っていた」

 治癒術師は傷の上に手をかざし、静かに祈りの言葉を唱えた。
 手のひらに集まる柔らかな光がレイラの胸元に吸い込まれ、内側から傷を癒して行く。
 肌に浮いていた赤い痣が薄らぎ、消えた。文字通り跡形も無く。

「どう?」
「ありがとう、楽になった」

 ほっと息を吐くと、レイラは肌着に袖を通した。

「あいつは『本物』だ。最初から最後まで、一人の騎士として、私に全力で向き合った。手加減の手の字も見せずに」
「………試合が終わるまではね」

 試合後、『勝利の行進』の始まるまでのわずかな間に、ディーンドルフはこの天幕に、息急き切って駆けて来たのだ。
 レイラの無事を知らされるまで、決して動こうとはしなかった。

「惚れた?」
「そうね、貴方と出会う前なら、あるいは……ね」

 ほほ笑みながら治癒術師は上着を広げ、レイラの肩に着せかけた。
 見つめ合う瞳、求め合う唇の距離が0になる。
 相思相愛の恋人たちには、試合の結果より大事なことがあるのだ。
  

次へ→【7】はみ出したのは君だけじゃない
    web拍手 by FC2

名前:  非公開コメント