▼ 【6】その頃二の姫
2011/11/09 0:32 【お姫様の話】
モレッティ家の二の姫、レイラはあいにくと、妹の晴れ姿を目にすることはできなかった。
試合後、天幕に寝かされて、治癒術師の治療を受けていたからだ。
「見事だね。的確にして強烈だ。正に改心の一撃って奴だな」
「ああ。私が女だから。団長の娘だからと、誰しもが感じていた無意識の遠慮を軽々と振り切っていた」
治癒術師は傷の上に手をかざし、静かに祈りの言葉を唱えた。
手のひらに集まる柔らかな光がレイラの胸元に吸い込まれ、内側から傷を癒して行く。
肌に浮いていた赤い痣が薄らぎ、消えた。文字通り跡形も無く。
「どう?」
「ありがとう、楽になった」
ほっと息を吐くと、レイラは肌着に袖を通した。
「あいつは『本物』だ。最初から最後まで、一人の騎士として、私に全力で向き合った。手加減の手の字も見せずに」
「………試合が終わるまではね」
試合後、『勝利の行進』の始まるまでのわずかな間に、ディーンドルフはこの天幕に、息急き切って駆けて来たのだ。
レイラの無事を知らされるまで、決して動こうとはしなかった。
「惚れた?」
「そうね、貴方と出会う前なら、あるいは……ね」
ほほ笑みながら治癒術師は上着を広げ、レイラの肩に着せかけた。
見つめ合う瞳、求め合う唇の距離が0になる。
相思相愛の恋人たちには、試合の結果より大事なことがあるのだ。
次へ→【7】はみ出したのは君だけじゃない
試合後、天幕に寝かされて、治癒術師の治療を受けていたからだ。
「見事だね。的確にして強烈だ。正に改心の一撃って奴だな」
「ああ。私が女だから。団長の娘だからと、誰しもが感じていた無意識の遠慮を軽々と振り切っていた」
治癒術師は傷の上に手をかざし、静かに祈りの言葉を唱えた。
手のひらに集まる柔らかな光がレイラの胸元に吸い込まれ、内側から傷を癒して行く。
肌に浮いていた赤い痣が薄らぎ、消えた。文字通り跡形も無く。
「どう?」
「ありがとう、楽になった」
ほっと息を吐くと、レイラは肌着に袖を通した。
「あいつは『本物』だ。最初から最後まで、一人の騎士として、私に全力で向き合った。手加減の手の字も見せずに」
「………試合が終わるまではね」
試合後、『勝利の行進』の始まるまでのわずかな間に、ディーンドルフはこの天幕に、息急き切って駆けて来たのだ。
レイラの無事を知らされるまで、決して動こうとはしなかった。
「惚れた?」
「そうね、貴方と出会う前なら、あるいは……ね」
ほほ笑みながら治癒術師は上着を広げ、レイラの肩に着せかけた。
見つめ合う瞳、求め合う唇の距離が0になる。
相思相愛の恋人たちには、試合の結果より大事なことがあるのだ。
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