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とりねこの小枝

【1】美姫三人、おまけ一人

2011/11/09 0:17 お姫様の話十海
 モレッティ家の娘は四人。
 長女のマイラは春のように優しく、美しい。次女のレイラは夏のように勇ましく、三女のセアラは冬のように鋭く賢い。
 そして四番目のニコラは暑くもなく寒くもなく。きれいな花が咲くでなし。そう、まるで秋のように……中途半端。

 うん、よっくわかってる。さすがに面と向かって言う人はいないけど、噂ってそれとなく耳に入ってくるしね。
 別に今さら、気にしてないわ。四人も居れば一人ぐらい、『はずれ』が混じってるものよ?
 その辺、お父様とお母様は心得てるから助かっちゃう。生まれてきてから14年、そろそろお友だちは花嫁修業や行儀見習いが始まる頃だけど、私は割と自由にやらせてもらってる。
 必要なことは、みんな姉さまたちが教えてくれるし。
 ダンスにお作法、お裁縫。勉強に、剣の稽古だって完ぺきなんだから! ……そりゃ、ちょっとは向き不向きがあるけど。
 マイラ姉さまは、いつも言ってくれるわ。

『ニコラにはニコラの素敵な所があります。まだ、それに気付く人に出会っていないだけなのですよ』って。

 だから安心して、今日は留守番させてもらえるって信じてたのに。

『でも、まず出会うためには、人のいっぱいいる所に行かなければね?』
 
 姉さまって、時々地道に強引だ。にっこり笑って、有無を言わせない。
 あれあれっと思ってる間に髪の毛がとかされ、お気に入りの空色のドレスを着せられて。(ほんと、しっかりしてる! これ選べば私がご機嫌だって、わかってるんだから)
 気がついたら、馬上槍試合の会場にぽんっと放り込まれてた。
 馬のいななき、鎧や剣のがちゃがちゃ触れ合う音、ぴーちくぱーちくけたたましい、観客席の御婦人方の金切り声。
 もしも猫みたいに耳が動かせるなら、まちがいなく伏せたい所。

(何で私、ここにいるんだろ?)

 眉の間にしわ寄せて、首をすくめながら思ったわ。

(あー、帰りたい……)

     ※
 
 試合の前は、会場の御婦人たちはみんな張り切ってる。
 年は関係ないの。大人も。子供も。要するにレディって呼ばれる年ごろの人はみんなそわそわしてる。さりげなくハンカチを手に持ってひらひらさせたり。ちっちゃなバッグから出し入れしたりで、いそがしいったらありゃしない。
 それもこれもみんな、妙てけれんなあの風習のせい。
 誰が始めたのか知らないけど、試合に出場する騎士はみんな、自分じゃなくて『私のレディ』の為に戦うことになってるのね。

(何でそんなめんどくさいことするんだろう? 訳わかんないし)

 恋人とか奥方のいる騎士は、その人のために。
 そうでない若い騎士は、会場をうろちょろして、これぞと心に決めたレディの前に跪く。
 その騎士がお気に召したら、レディはうやうやしくハンカチを賜わるの。
 騎士はそれを受け取り身に付けて、レディの名誉をかけて戦うって訳。

 要するに、試合にかこつけて、気になる女の子にアピールしようって魂胆よね。ほんと、男の子の考えなんていつでも同じ。底が浅いって言うか、単純って言うか?
 試合の日に持たされるハンカチがやけに大きくって、派手な色なのはそのせいね、きっと。
 そもそも何でハンカチ? 別に旗でも盾でもいいじゃない。いっそリボンとか。
 ひらひらの大きなリボンを結んで、颯爽と試合してる騎士さまたちの姿を想像してみる。
 うーん……いまいち、可愛くない。
 って言うか、変。笑える。

「ぷっ、くくくっ、あはっ、あははっ」

 がまんできなかった。レディっぽくない『はしたない』笑い方だけど、どうせ誰も見てない、聞いてない。
 会場をうろつく騎士は沢山いるけれど、誰一人、私の所に来るはずなんてないんだから。
 これまでもそうだった。
 今日だって同じ。
 姉さまたちの周りには、順番待ちの列ができている。ハンカチだって一枚二枚じゃ足りないから、いつも束で持ってくる。
 それこそ『ハンカチ屋が開けますわね』って、ばあやがしょっちゅう冗談言うくらいに。

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