▼ エミルのお料理教室2
2013/04/18 3:56 【お姫様の話】
「……どう、師匠」
薬草店の台所で、ニコラが緊張した面持ちでフロウを見上げた。
授業で教わったルバーブのパイを、さっそく作ってみたのだ。その間、フロウは見守るだけ。何度かひやひやする局面もあったが、あくまで見守るだけ。
皿にとりわけた一切れのパイは、あらかじめ少し冷ましてあった。フロウが猫舌だからだ。
それを、さらにふーふーと冷ましてから、ぱくりと口に入れる。
「ん……初めて一人で作ったにしちゃ、上出来だな」
「やったぁ!」
「でもよお、ニコラ……これは……いくらなんでも……」
味は悪くない。生地も上手い具合に混ざっていて、こんがりいい感じに焼き上がっていた。
だが、この大きさはどうなのか。
「多い」
「えー授業で教わった通りに作ったのに……」
「どう見たってこれ、お茶会用とかの5人か6人分ある分量だぞ」
おそらく授業では5~6名のグループで一皿のパイを作ったのだろう。その分量そのままで作ったものだから……ルバーブのパイが、巨大なパイ皿にぎっしりこんもり山盛りに。
『エミリオの奴、またずいぶんとダイナミックな指導したもんだなあ……』
若い男ならともかく、さすがに中年の胃袋にはいささかきつい。
「6人分食えと」
「しまった、それ考えてなかった」
「んぴゃ!」
フロウは苦笑して、肩に飛び乗ってきた猫を撫でた。
「ま、ちびがたらふく食うから大丈夫だろうけどな」
「ぴゃあ」
「余ったらダインに食わせりゃいいし」
「ぴぃ」
噂をすれば影とやら、ちょうど店のドアが開いてのっそりと、背の高い人影が入ってきた。
「あ、ダイン来た」
「ただ今!」
金髪混じりの褐色の髪、緑の瞳のがっちりした体つきの青年は、ひくひくと鼻を蠢かせて空気のにおいをかぎ、柔和な顔をほころばせた。
「美味そうなにおいだな!」
※
ちょうどその頃。エミリオも大量のパイを前に冷汗をかいていた。
お盆に山盛りになったルバーブのパイを、ささげ持っているのは他ならぬシャル。女神のごとき丹精な顔いっぱいに、あどけない笑みを浮かべている。
「魔法学院の生徒さんたちが、差し入れてくれたんだ」
この展開、予測すべきだった。
銀髪の騎士様は、魔法学院の女生徒たちにたいへん人気があったのだ。
「うん……いいんじゃないかな。美味しいものを食べると、幸せになれるしね」
「だよね! あ、ロベルト隊長や隊のみんなにもおすそ分けしてきたよ!」
おすそ分けしてもこの量なのか。
『分量通り』に作るのが大事だと教えた。
けれどまさか、素直に生徒の一人一人が実習で教えた分量で焼いて来るとは……。
(次からは、もっと小分けにしよう)
心に決めるエミリオだった。
「こっちはダイン先輩にとっておこうっと」
特大の一切れを取り分けるシャルに、思わずエミリオは目を丸くした。
「え、そんなに?」
「うん。先輩、ちびさんの分も食べるから」
「あ、そっか使い魔の維持に必要なのか」
「美味しいもの食べると、すごく嬉しそうな顔するしね!」
確かに事実なのだけれど。
ルバーブは食べ過ぎるとお腹がゆるくなります。くれぐれもご用心。
次へ→ちびの一日1
薬草店の台所で、ニコラが緊張した面持ちでフロウを見上げた。
授業で教わったルバーブのパイを、さっそく作ってみたのだ。その間、フロウは見守るだけ。何度かひやひやする局面もあったが、あくまで見守るだけ。
皿にとりわけた一切れのパイは、あらかじめ少し冷ましてあった。フロウが猫舌だからだ。
それを、さらにふーふーと冷ましてから、ぱくりと口に入れる。
「ん……初めて一人で作ったにしちゃ、上出来だな」
「やったぁ!」
「でもよお、ニコラ……これは……いくらなんでも……」
味は悪くない。生地も上手い具合に混ざっていて、こんがりいい感じに焼き上がっていた。
だが、この大きさはどうなのか。
「多い」
「えー授業で教わった通りに作ったのに……」
「どう見たってこれ、お茶会用とかの5人か6人分ある分量だぞ」
おそらく授業では5~6名のグループで一皿のパイを作ったのだろう。その分量そのままで作ったものだから……ルバーブのパイが、巨大なパイ皿にぎっしりこんもり山盛りに。
『エミリオの奴、またずいぶんとダイナミックな指導したもんだなあ……』
若い男ならともかく、さすがに中年の胃袋にはいささかきつい。
「6人分食えと」
「しまった、それ考えてなかった」
「んぴゃ!」
フロウは苦笑して、肩に飛び乗ってきた猫を撫でた。
「ま、ちびがたらふく食うから大丈夫だろうけどな」
「ぴゃあ」
「余ったらダインに食わせりゃいいし」
「ぴぃ」
噂をすれば影とやら、ちょうど店のドアが開いてのっそりと、背の高い人影が入ってきた。
「あ、ダイン来た」
「ただ今!」
金髪混じりの褐色の髪、緑の瞳のがっちりした体つきの青年は、ひくひくと鼻を蠢かせて空気のにおいをかぎ、柔和な顔をほころばせた。
「美味そうなにおいだな!」
※
ちょうどその頃。エミリオも大量のパイを前に冷汗をかいていた。
お盆に山盛りになったルバーブのパイを、ささげ持っているのは他ならぬシャル。女神のごとき丹精な顔いっぱいに、あどけない笑みを浮かべている。
「魔法学院の生徒さんたちが、差し入れてくれたんだ」
この展開、予測すべきだった。
銀髪の騎士様は、魔法学院の女生徒たちにたいへん人気があったのだ。
「うん……いいんじゃないかな。美味しいものを食べると、幸せになれるしね」
「だよね! あ、ロベルト隊長や隊のみんなにもおすそ分けしてきたよ!」
おすそ分けしてもこの量なのか。
『分量通り』に作るのが大事だと教えた。
けれどまさか、素直に生徒の一人一人が実習で教えた分量で焼いて来るとは……。
(次からは、もっと小分けにしよう)
心に決めるエミリオだった。
「こっちはダイン先輩にとっておこうっと」
特大の一切れを取り分けるシャルに、思わずエミリオは目を丸くした。
「え、そんなに?」
「うん。先輩、ちびさんの分も食べるから」
「あ、そっか使い魔の維持に必要なのか」
「美味しいもの食べると、すごく嬉しそうな顔するしね!」
確かに事実なのだけれど。
ルバーブは食べ過ぎるとお腹がゆるくなります。くれぐれもご用心。
次へ→ちびの一日1