▼ 【30-6】模擬戦……?
2013/05/21 0:31 【騎士と魔法使いの話】
魔法学院の中級魔術師、エミリオ=グレンジャーがやってくる頃には、訓練場は混沌とした有様だった。
冒険者だけでなく、途中から参加したナデューが召還した妖精や幻獣が入り乱れ、訓練用の刃を潰した剣を持った騎士達と火花を散らしている。
フロウとニコラは後半はもっぱら、怪我をした騎士や幻獣達の手当てに追われることとなっていた。
そんな光景を見ながらもエミルは、その中から訓練が一段落して身体を休めているシャルダンをすぐさま見つけて声を投げる。
「シャルー!今日はまだ訓練中なのかー?」
「エミルっ?ううん、もうすぐ終わるはずだよ。」
「む、エミリオか。」
訓練場の内と外……窓越しの会話が耳に入ったのかロベルトが大柄な魔術師の姿を認めると……何やら少し考え込むように沈黙する。
「…………よし。エミリオ!こちらに来い。ディーンドルフ、シャルダン、ハインツ、レオナルド!」
『はい!』「はい?」
騎士達は返答と共にロベルトの前にザッと並び立ち、急に呼ばれたエミリオは疑問符を浮かべながらも訓練場の中へと入ってくる。
「訓練の最後に、俺達で冒険者の面々と模擬戦を行う。エミリオ、お前も後衛として入れ。」
「え?でも俺は騎士じゃぁ……。」
と言いかけた所で視界に入るのは、ロベルトの前に立つシャルダンの姿。……そう、『俺のシャルと一緒に模擬戦!』だと認識した時点で、
エミリオから断るという選択肢は空の彼方へ飛び去った。
「はい!頑張ります!」
「よし。」
魔術師を一人後衛に獲得出来たことに満足そうにロベルトは頷く。模擬戦といえども手を抜く気は全くないらしい。
(これは模擬戦だ。断じて気に入らない薬草師の鼻を明かすチャンスなどではない。断じて……!)
ぐっと握りこぶしを作りながら自分に言い聞かせたロベルトは、引き締めた表情のまま冒険者達に呼びかける。
「薬草師!最後に俺達と手合わせしてもらおう!」
「んぁ?……こりゃまた、知った顔ばっかりだねぇ。お~い、最後に派手にやるってよ。」
声を掛けられた薬草師が他の面子に声をかけるとそれぞれが集まってくるが、四の姫が後からやってきた召喚師ナデューによって制される。
「今度は私に入らせてくれないか。この面子とは久しぶりだからね。」
「え……ん~、まあナデュー先生じゃしょうがないか。」『しょうがないかー』
頭の上の水妖精と一緒に首を傾げながらも、納得したように下がった四の姫に微笑を向ければ、彼も冒険者達の陣に加わった。
金髪の少女と水妖精の少女の間に居たはずの黒いとりねこは、いつの間にか自分の主の金褐色の頭の上に戻っている。
「ちび、お前はエミルを手伝え。」
「ぴゃ、えーみーる!」
ぱさっと翼を羽ばたかせて、深緑のローブの肩の上にたしっと乗っかるのを、銀髪の騎士が羨ましそうに見ていた。
(いいなぁ、エミルの上にふわもこ……良いなぁ。)
羨ましがっているのがエミルなのかその肩の上のとりねこなのか、それは誰にも分からない。
「よし、それでは……。」
ギュッと剣の柄を握り締め、試合の始まりを告げようとした瞬間……バン!と砦に繋がる扉を開けて衛視が一人飛び出してきた。
「隊長、大変です!」
「っ……どうした!」
一瞬ギリッと歯軋りした気がするのは、本人も含めて気付かない。先を促された衛視がビッと背筋を立てて言葉を紡ぐ。
「放牧していた羊の群れが野犬に追い立てられて街の中に逃げ込んで走り回っています!衛視だけでは数が足りません!」
「……分かった。ではこれにて訓練を終了し、羊の暴走に対処する!いいな!?」
『はい!』
次へ→【30-7】羊を捕まえろ!
冒険者だけでなく、途中から参加したナデューが召還した妖精や幻獣が入り乱れ、訓練用の刃を潰した剣を持った騎士達と火花を散らしている。
フロウとニコラは後半はもっぱら、怪我をした騎士や幻獣達の手当てに追われることとなっていた。
そんな光景を見ながらもエミルは、その中から訓練が一段落して身体を休めているシャルダンをすぐさま見つけて声を投げる。
「シャルー!今日はまだ訓練中なのかー?」
「エミルっ?ううん、もうすぐ終わるはずだよ。」
「む、エミリオか。」
訓練場の内と外……窓越しの会話が耳に入ったのかロベルトが大柄な魔術師の姿を認めると……何やら少し考え込むように沈黙する。
「…………よし。エミリオ!こちらに来い。ディーンドルフ、シャルダン、ハインツ、レオナルド!」
『はい!』「はい?」
騎士達は返答と共にロベルトの前にザッと並び立ち、急に呼ばれたエミリオは疑問符を浮かべながらも訓練場の中へと入ってくる。
「訓練の最後に、俺達で冒険者の面々と模擬戦を行う。エミリオ、お前も後衛として入れ。」
「え?でも俺は騎士じゃぁ……。」
と言いかけた所で視界に入るのは、ロベルトの前に立つシャルダンの姿。……そう、『俺のシャルと一緒に模擬戦!』だと認識した時点で、
エミリオから断るという選択肢は空の彼方へ飛び去った。
「はい!頑張ります!」
「よし。」
魔術師を一人後衛に獲得出来たことに満足そうにロベルトは頷く。模擬戦といえども手を抜く気は全くないらしい。
(これは模擬戦だ。断じて気に入らない薬草師の鼻を明かすチャンスなどではない。断じて……!)
ぐっと握りこぶしを作りながら自分に言い聞かせたロベルトは、引き締めた表情のまま冒険者達に呼びかける。
「薬草師!最後に俺達と手合わせしてもらおう!」
「んぁ?……こりゃまた、知った顔ばっかりだねぇ。お~い、最後に派手にやるってよ。」
声を掛けられた薬草師が他の面子に声をかけるとそれぞれが集まってくるが、四の姫が後からやってきた召喚師ナデューによって制される。
「今度は私に入らせてくれないか。この面子とは久しぶりだからね。」
「え……ん~、まあナデュー先生じゃしょうがないか。」『しょうがないかー』
頭の上の水妖精と一緒に首を傾げながらも、納得したように下がった四の姫に微笑を向ければ、彼も冒険者達の陣に加わった。
金髪の少女と水妖精の少女の間に居たはずの黒いとりねこは、いつの間にか自分の主の金褐色の頭の上に戻っている。
「ちび、お前はエミルを手伝え。」
「ぴゃ、えーみーる!」
ぱさっと翼を羽ばたかせて、深緑のローブの肩の上にたしっと乗っかるのを、銀髪の騎士が羨ましそうに見ていた。
(いいなぁ、エミルの上にふわもこ……良いなぁ。)
羨ましがっているのがエミルなのかその肩の上のとりねこなのか、それは誰にも分からない。
「よし、それでは……。」
ギュッと剣の柄を握り締め、試合の始まりを告げようとした瞬間……バン!と砦に繋がる扉を開けて衛視が一人飛び出してきた。
「隊長、大変です!」
「っ……どうした!」
一瞬ギリッと歯軋りした気がするのは、本人も含めて気付かない。先を促された衛視がビッと背筋を立てて言葉を紡ぐ。
「放牧していた羊の群れが野犬に追い立てられて街の中に逃げ込んで走り回っています!衛視だけでは数が足りません!」
「……分かった。ではこれにて訓練を終了し、羊の暴走に対処する!いいな!?」
『はい!』
次へ→【30-7】羊を捕まえろ!