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とりねこの小枝

【24-4】今何て言った?

2012/12/08 0:05 騎士と魔法使いの話十海
 
 汗でてらてら濡れそぼり、いやらしく尖った乳首を口に含み、吸ってやった。舐めてやった。
 フロウは手を口に当てて声を殺そうと必死だ。その仕草があんまり可愛いもんだから、ついしつこくしゃぶってしまう。指を舐めたのと同じくらい丁寧に。口からあふれる涎でべとべとにしてやりたくなる。

「はふっ、ふ、ん、んふぅ……」

 かすかに息が乱れてるのが聞こえる。吸ってる胸から伝わって来る。ぞわあっと皮膚の表面で細かい泡が弾けた。やや遅れて、股間が疼く。

「っはぅっ」
「んぐっ」

 押さえ込んだ腕の中で、またフロウが跳ねる。水に上げた魚みたいに。折り曲げて離した若木みたいに。

「……っだ、だから締めるなってっ」

 震える手が延びてきて、髪を撫でる。気持ちいい……。一瞬気が緩んだその隙に、口の端をつままれぐいっと引っ張られる。

「んぎゅっ」
「この、馬鹿犬がっ」
「いひゃいよ、フロウ、いひゃい」
「いつまでしつっこく人の乳吸ってやがる。ええ、お前さんも男なら、俺が今どうなってるかわかるだろうが」
「うぇ?」
「さっさと動け」

 切なげに眉を寄せ、つやつやに濡れた蜜色の瞳で上目遣いに見上げてきた。背中にフロウの足が伸ばされ、きゅっと抱え込まれる。(ほんと器用な足だな)
 頬を染め、弾む息の合間に囁かれる。

「これ以上焦らすな……おかしくなっちまう」
「う」

 その一言で、頭の中と股間が爆ぜた。

「おうっ、お前っ、真顔で、何、でっかくしてやがるっ」
「お前がそんなに可愛い顔するからだ」
「お前の目は腐ってる!」
「お前は何もわかっちゃいない。どれくらい自分が可愛いか」
「だーっ! 四十も過ぎたおっさんを可愛いとか抜かすな!」

 ああ、またいつもの問答だ。きゅっと唇を噛んで、目ぇそらしちまった。
 手の甲で頬を撫でてから、改めてフロウの脇に両手をついて支える。

「動くぞ」 
「いいぜ、好きにしろ」

 相変わらずそっぽ向いたままだ。でも咽がひくんと動いてる。
 少し緩んで皴の寄った肌が、蠢く。途端に火が着いた。夢中になって腰を振った。膝の下で、手の下で干し草がよじれてがさがさ鳴ってる。床板が派手に軋む。

「ふっ、んっ、はふっ、ふっ、は、はーっ」
「あ、あ、あっ、んふぅ、あ、やっ、あ、あんっ」

 蠢く白い咽から押し出される悲鳴が、どんどん艶めいて行く。さっきまでの憎まれ口が嘘みたいだ。
 フロウの手が干し草をかきむしる。亜麻色の髪が乱れて広がり、汗ばむ肌にまとわりつく。
 ぷるん、ぴたんっと何かが腹をたたく。当たるたびにフロウの声が高くなる。

「あ……」

 フロウの一物が張りつめていた。表面にくっきりと血管を浮かび上がらせて、濡れて火照って震えてる。

『お前さんも男なら、俺が今どうなってるかわかるだろうが』

 ああ。こう言う事だったのか。

「やっ、ダイン、何、をっ」

 片手で掴む。熱くて、ぬるぬるしていて、今にも内側からぱちんと弾けそうだ。奴の体内に埋まってる俺のと同じように。

「うぐっ、お前、また膨らんでっ、どこまででかくする気だこのエロ犬がーっ」

 答える余裕なんか、あるはずがない。
 背中、腹、肩、腕。あらゆる場所の筋肉を使い、腰を前に突き出して、後ろに引いて。
 自分の一物で、フロウの中を擦るのに夢中になる。突き上げるほどにフロウが奥へ奥へと誘うみたいに絞り上げて来るから、たまったもんじゃない。

「はー、はー、はっ、はっ、はっ、うぐ、ん、おう、いい、気持ちいいっ」
「はっ、あ、そ、そんなに、気持ち、いい、かよっ」
「いい、フロウ、フロウ、お前ん中、すげ、気持ち、いい、あふっ、おふっ、く、うーっ」

 手が勝手に動いていた。
 ぬるぬるのとろとろになったフロウをしごいていた。ぴちゅ、ぷちゅっと生々しい水音が響く。
 日の光を吸った干し草の匂いに混じり、生臭い雄のにおいが漂う。建物の中にいるのに、草原で交わってるような錯覚にとらわれる。

「あ、お、おお、も、出る、出る、出るっ」
「んふっ、いいぜ」

 汗ばんだ顔で、乱れ切った髪の間から甘ったるい声がする。少しかすれて、時々、途切れながら。

「出せ、よ。俺の……中、に!」
「っ、フロウっーーーっ!」

 狂ったようにフロウをしごきながら、腰を振ってた。交尾する犬みたいに。互いの体がぶつかり、ばちん、ぶちゅんっと派手な音が腰骨に響く。その刺激でさらに血が沸騰し、足の間に流れ込む。今にも破裂しそうだ。
 みっともないとか、恥ずかしいとか。今が真っ昼間だなんてこともきれいさっぱり頭ん中から吹っ飛ぶ。

「おうっ!」
「んぐぅっ」

 自分の意志とは無関係。体が勝手にがくがく揺れる。その癖、フロウをしごく手の速度は全然落ちない。
 どっぷんっと込み上げるどでかい波に乗り上げて、天井高く持ち上げられる。てっぺんで奴の名前を叫んだ。
 自分の口で。同時に、フロウの中の『俺』も叫んでいた。声の代わりに熱い、どろどろした粘つく精を吐き出して。

「……フロウっ!」
「おふっ、ダインっ、奥、奥に当たって、あ、ひ、いいっ!」

 同時に手の中のペニスが弾ける。ぐしゅ、じゅぶっと粘つく熱い飛沫が飛んだ。滴り落ちる汗とも、唾液とも涙とも違う。男が快楽のまっただ中で放つ、煮え滾った欲情と本能の凝った肉汁。外側にも内側にもあふれてる。飛び散ってる。

「あー……」

 お前も今、イったんだな。
 顔と体からいっぺんに力が抜ける。そろっと手を離して顔の前にかざした。

「すげ……どろどろだぁ」
「っかやろっ、わざわざ確認するなっ」
「んぷ」
「舐めるなぁっ」
「……何で? お前いつも、俺の舐めてるじゃないか」
「うー、うー、うーっ」

 真っ赤になって目を閉じてる。
 ほんと、可愛いよ、お前って。

「あー、なんか、すっげえだるい……」

 フロウを抱えたまま、ごろっと横になる。

「……あれ。左腕、しびれてる?」
「そりゃそうだろ。腕一本でずっと自分の体支えてたんだからな」
「そうだっけ?」
「無意識かよ、っかーっ、この馬鹿力め!」
「馬鹿、馬鹿言うな」
「るっせぇ」

 干し草をつかんで人の顔に投げつけてきた。

「うぶっ、何すんだよ」

 ぐいと頭の後ろに手が当てられ、引き寄せられる。
 ぬるぬるした唇が耳たぶをくわえる。首をすくめた所に、囁かれた。

「………」
「え?」

 聞き取れなかった。多分、祈念語だ。神官が祈りを捧げ、術を行使する時に使う言葉。基礎は教え込まれたが、こんな風に込み入った言い回しをさらっと囁かれると……。
(くそ、もうちょっと真面目に勉強しときゃよかった)

「今、何つったんだよ」
「秘密」
「わからないと思って、好き勝手言ってるだろ」
「さぁて、何のことかなぁ」
「すっとぼけやがって、このエロ中年」
「うるさいエロ犬」
「……見てろ」
「っ!」

 親指でつー……と唇をなぞる。フロウは小刻みにふるふると体を震わせ、目を伏せた。

「この唇、この咽の言う事、全部聞き取ってやらあ」
「ははっ、せいぜいがんばれ」

 笑う咽元に唇を這わせる。緩んだ肌をなぞり、流れ落ちる汗の珠を舌先で拾う。
 
「っつ……跡……つけんなよ」
「わかってる」

 しばらくの間、フロウは俺のしたいようにさせてくれた。
 ごほうびのつもりか。
 だったらありがたく堪能させてもらおう。思う存分喉をなめ回し、ゆるいキスを繰り返す。そのまま鎖骨までなめおろして、くぼみに顔をすり付ける。

「こら、いつまでやってる」

 耳を引っ張られた。時間切れってことらしい。渋々体を離した。
 出すものを出し切って、ようやく元の大きさに戻り始めた一物を引き抜く。余計な刺激を与えないように、ゆっくりと。それでもずるりっと抜け出した瞬間、フロウは目を閉じて小さく震えた。

「どうした、大丈夫か?」
「ん、ああ……」

 瞼が細く開く。口元がゆるんで、微かに笑ってる。と思ったらいきなりへばーっとため息つきやがったよこのおっさんは!

「あー、だりぃ」
「はいはい。好きなだけよりかかってろ」
「んじゃま、遠慮なく」

 気だるげな口調でだらーんと手足の力を抜いて、もたれかかって来る。
 腕の中に収まる、わがままで、気まぐれで、熱くて、いいにおいのする生き物。そいつの言う事に俺は逆らえない。心底惚れてるから。夢中だから。

    ※

 フロウは秘かに安堵していた。唇からこぼれ落ちる寸前、とっさに言葉を祈念語に置き換えた。案の定、ダインは理解できなかった。

 それでいい。まちがってもこいつに聞かせられるもんか。
『俺の可愛い騎士さま』なんて、絶対に。

 寄り添い、抱き合ったままゆらゆらと漂った。湯上がりにも似た心地よい気だるさの中を。
 髪を撫でたり、撫でられたり。首筋や頬に軽く柔らかなキスを滑らせたり。ゆるやかな愛撫の合間に下の物音が耳に入って来た。荒い鼻息、踏み鳴らす蹄。時折漏れ聞こえる短いいななき。
 
「なあ、ダイン」
「ん?」
「黒の奴、妙に荒れてないか?」
「んー……」

 答えが返ってくる前にまず、唇をついばまれる。汗ばむ額と額がこつりと触れ合った。

「ほっとけ」

(干し草遊び/了)

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