▼ 【24-3】説明不要
2012/12/08 0:04 【騎士と魔法使いの話】
やっとお許しが出た。
喜び勇んで覆いかぶさろうとすると、途中で肩をつかまれた。またお預けか? いや、違う。逆にぐいっと引き寄せられた。
「んぅっ?」
不意打ちだ。まったくの予想外のタイミングで唇を奪われていた。歯こそ立てちゃいないが、噛みつくように重ねられ、問答無用で舌を突っ込まれた。
「うぐっ」
容赦なく奥まで入り込む肉厚の舌が、口の中を好き勝手になめ回す。
(やったな!)
負けじと吸い返す。もう、絡めるなんて生易しいもんじゃない。上になり下になり、横に滑って暴れ回る。ぴったり重ねた二人分の口の中、取っ組み合う。隙を狙って飛びかかる、ねじ伏せる、押さえ込む。
キスするってことは味わうってことだ。味覚の伝えてくれる事は多い。
どれだけ欲情してるか。俺がフロウに。フロウが俺に夢中になってるか。むさぼりたいのか。
混じり合う唾液と、なめ回す舌に伝わってくる。
発情する時ってのは単に股間のナニが立つだけじゃない。頭のてっぺんから腑の中まで「やりたい」気持ちで埋め尽くされて、収まり切れずに滲み出す。汗とか唾液とか、その他の体液や匂いになって。
「俺の足舐めてこんなに盛りやがって」
「そっちこそ俺が舐めてんのをオカズにしてたろ」
「おう、したともさ。お前さんが犬みたいにべろべろ舐めてるとこをじっくりとな」
「う」
「お」
一度立っちまうと、股間の一物って奴は情けないくらいに欲情に直結してる。根元から込み上げたものの勢いでぴくっと、そこだけ別の生き物みたいに震えちまう。
「おいおい。犬、犬、言われてそんなに嬉しいのかよ」
「嬉しい」
「どM」
「そんなんじゃない。単純に、好きだから」
「ほぉう?」
「犬が」
「……」
眉を寄せるとフロウは口をヘの字に結び、おもむろに俺の鼻をつまんだ。
「んぐっ?」
ひるんだ所を膝で腹をまさぐられた。当然、股間も。
「う、やめろって、やばい、やばいからっ」
「ちったぁ空気読め、アホわんこ」
「何でそうなるっ」
「そこは嘘でも『お前が』ぐらい、言えっつの」
「わけわかんねーしっ」
「ほれ、とっとと入れないと足でしごいちまうぞ」
実際、こいつの足は妙に器用だ。前に一発抜かれた事もある。うかうかしてたらまたやり兼ねない。
「お前、ずるいぞ! 自分から誘っておいて、さっきっから邪魔ばっかしてるじゃねぇか!」
「はっ、この程度で怖じ気づくお前さんがへたれなんだよ」
片方の眉を上げて、口の端っこ斜めに釣り上げて。白い歯まで見せて、最高にいやらしい顔で笑ってる。得意げで、尊大で、いまいましい。図々しい。馬鹿にされてる。からかわれてる。悔しい。
だが、そんな顔で見られてこっちは萎えるどころか余計に奮い立つ。
「問答無用で押しのけて、ずぶっと一発やりゃいいじゃねえかよ」
調子に乗りやがって、屈辱もいいとこだ! ぎしっと奥歯を噛みしめる。
できないって、わかってて挑発してる。
俺がこいつに逆らえる訳がない。無体にねじ伏せてるように見えても、それはあくまでフロウの許可があるからできる事。最終的な主導権はこいつが握ってるんだ。いつだって。
「おら、腰が引けてんぞぉ、騎士さまよお。よもや、やり方を忘れちまった訳じゃねぇだろ?」
ああ。
どんだけ人をそそのかせば気が済むのかこのおっさんは! すぐにでも飛びかかりたい。だがここでほいほい誘いに乗るのも何だかシャクに障る。猛り狂う本能となけなしの意地の板挟みになって、馬鹿みたいに仏頂面晒しながら立ちすくむ。
今の状況そのものが、どうしようもなく……馬鹿だ。
「しょうがねぇなあ」
へっとため息とも苦笑いともつかぬ息を吐くと、忌忌しくも可愛いクソ親父は手を離し、とんっと足で俺を押しのけた。
「うぉっとお?」
不意を打たれて後ろによろめき、干し草の上に仰向けにひっくり返る。
のしかかって来る気か? また、あん時みたく上から乗る気か。身構えていると(いや、ひょっとしたら期待してるのか)。
「ああ、すっかりぬるぬるになっちまったなぁ……」
自分の右手を顔の前に掲げてしみじみ見てる。ああ、くそ、何でお前、そんなに悠々と構えてられるんだよ。せっぱ詰まってんのは俺だけか?
「ったりめぇだ、さっき、自分のをさんざんいじくってだろーが。ええ、このエロ親父!」
くいっと奴の口の端が上がる。
「そのエロ親父に惚れてんのは誰だ。ええ?」
「……」
「答えろ、ダイン。エロ親父が股間いじくってんの見て、てめぇの肉棒ギンギンにおったてててるのはどこの騎士サマだ、あぁん?」
蜂蜜色の瞳がじっと見つめてる。俺の顔から咽、胸板、腹と滑り降りて、足の間で止まる。
つられてつい自分でも見てしまう。
体は正直だ。腹につきそうなくらいにそっくり返って先端からもう、滲んでる。
生の魚介類を思わせるにおいがツンと鼻を突く。これは俺のだけじゃない。フロウのも混じってる。
二人分の愛欲の匂いが、干し草に混じって香る。
せっぱ詰まってるのは、俺だけじゃない。
「……………俺だよ」
フロウが笑ってる。くつくつと咽を鳴らして、濡れて光る指を広げて俺に見せつける。
ゆっくりと自分から足を曲げて、太ももを抱えて。金魚の口みたいにぱくぱく言ってる後ろの口に、右手の人さし指と中指をあてがって……開いた。
「そら、ここだよ。ここにお前さんのガチガチに固くなった棒を突っ込むんだ。わかってるだろ?」
舌を出して自分の口の周りを舐めてる。
「したいんだろ?」
魔法にでもかかったみたいにうなずいていた。
むくりと起き上がって、開かれた足の間に入り込む。むっちりした質感と共に肌が吸い付く。生きた体。熱い体。発情しきった体。
ぬるぬるになった先端を、フロウの後ろにあてがうと、指ではさまれた。思わず声が漏れる。
「いい子だ、ダイン。いい子だ」
ぶるっと体が震えた。
触り心地のいい足を抱えてじりじりと押し込む。フロウが咽をそらせて喘ぐ。
「ああ……いい、ね……どう、よ、俺の『そこ』は?」
「熱い」
「そんだけか?」
「熱くて、柔らかくて、でもぎちぎち絞めてる」
「痛いか?」
「いや……気持ち……い、いっ」
じわじわ広がった入り口が亀頭を飲み込んで行く。ひだが伸び切って、薄くなって、目一杯広がってるのが分かる。
息苦しいのか、フロウが口を開いて、は、はっと息を荒くした。
「そう、だ、それで、いい……んっ、く、はぁっ……」
「フロウ」
「ん、あ、う、んっ!」
俺が力を入れるタイミングと、フロウが喘ぐのとが一緒だった。
とどめの長い一押し。ずるっと締めつけのきつい肉の輪をくぐり抜け、内側に入る。
「おぅっ」
「しまりのねぇ顔しやがって。そんなに気持ちいいか?」
「ああ……。いい。こすれる感じが、すげ、いい」
「そうかよ、っくっ」
「あぐ、う、また、締まってっ……っ!」
「締めてんだよ」
竿の真ん中あたりがぎゅっと締め上げられる。漏れそうになった声をかみ殺した。
「お前こそ、蕩けそうな顔してるじゃねーか。そんなに、気持ちいいのか?」
「ああ、気持ちいい、ね……ん、はあっ」
悩ましげな音と共に生あったかい息が顔に吹きつけられる。
「お前さんの、でっかいナニがケツん中こじ開けて、ずるずる中に入って来るのがよぉ。気持ちよくって……うぅ、たまんねぇや……」
「いちいち説明すんなっ」
「ひっ!」
照れ臭いやら決まりが悪いやらで、じっとしていられない。動かずにいられない。一気に根元まで押し込んで、弾みをつけて出し入れした。
「うぐっ、ん、ふっ、あふっ」
「はあっ、はっ、はっ、ふっ、くっ」
言葉を交わすことも惜しんでひたすら貪った。フロウを味わった。でも段々それだけじゃ物足りなくなって来た。
「……」
上体を倒し、屈みこむ。勢い腰が前に出て、ペニスがさらに奥までねじ込まれる。フロウが目を見開き、背中を反らせて、跳ねた。
「っはうっ!」
「動くなよ」
体重をかけてのしかかり、手を伸ばして掴んだ。汗ばみ薄紅色に染まった、奴の胸を。
「っ、どこ、触ってやがる!」
「乳」
「あぁ? ふざけるな、男に乳があるかっ」
「ある。ここに」
手のひらいっぱいにむちっと張りつめた肉を掴み、揉む。手のひらにこりこりと尖った乳首が当たってる。
「はぁううっ、や、やめろってっ!」
「嘘だ。お前の後ろ、きゅんって締まったぞ、今」
唇を噛みしめて、うるんだ目でにらみ付けて来た。
「気持ちいいってことだろ?」
「はっ、馬鹿言うな……っ!」
さらに念入りに揉みしだく。しっとり濡れた肌が手のひらに吸い付いて、触れば触るほど、もっと欲しくなる。
震える胸に顔をすりよせる。
「あ……いい感じだ」
「馬鹿か、お前は」
「馬鹿だよ」
「あ、こらダイン!」
「お前のためなら、いくらでも馬鹿になる」
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