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とりねこの小枝

【24-2】どこを舐めろと

2012/12/08 0:03 騎士と魔法使いの話十海
 
 足が。ねっとりと甘ったるいにおいをまとわりつかせた足が、びったんっと顔面に乗っかってる。
 足で、止められた。勢い付けてのしかかろうとしてたもんだから、自分から蹴られに行ったようなもんだ。衝撃が頭の後ろに突き抜ける。顔に当たってる足の裏は柔らかいのに、触れ合う場所はけっこう痛い。

「うー……」
「がっつくなよ、騎士サマ」

 ぐいっと顔から足をどける。

「ってお前、そりゃないだろ! 待たせるなとか言っといて」
「はぁて、そんな事、言ったかなぁ」

 そらっとぼけやがってこの中年。ぐい、と詰め寄ろうとしたら、また足で押さえられる。

「ンだよ」

 へちょっと足の裏が顔面に張り付いた。今度は痛くない。ただ柔らかさと何とも艶めかしい匂いだけがまとわりつく。
 汗かいて蒸れた足の匂いなんて、自分のは嗅ぎたくもない。考えただけでげんなりする。だけど、こいつの匂いは別だ。確かにきつい。だが鼻腔から咽へと抜けた途端、また欲しくなって、吸い込む。
 その状態が延々と続くのだ。
 吸った匂いはじわじわと滴り、体のど真ん中で燃える炎を煽り立てる。

「舐めろ」
「ふぇ?」

 とっさに奴の言う事が理解できなかった。舐めろって、どこを。何を?

「舐めろよ、ダイン」

 もに……と顔に張り付いた指が動く。ようやく得心が行った。

「足を?」
「そ、足」
「何で」
「お前は俺の何だ、ダイン?」

 ついっと顎を反らしてこっちを見てる。目を細めて、口元にゆるい笑みまで浮かべて。どんな答えを期待してるのか、すぐに分かった。
(この野郎!)
 口をヘの字に結び、歯を食いしばる。そう簡単に思い通りになると思うなよ!

「答えろ。お前は、俺の……何だ?」

 赤い舌が唇をなぞる。フロウはわざと片足を曲げ、太ももに手を当てた。そのまま腹に向って引き寄せる。
 濡れて震える奴の『息子』と、その下にぶら下がる袋、さらに奥に隠れていた肉厚の入り口を見せつける。既に俺が上がって来るまでに自分で弄ってたんだろうか。赤く充血して、息でもするみたいに開いたり、すぼまったりしてる。

「犬だよ」

 咽元までせり上がった熱い塊が、言葉になって零れ出す。求められた答えの形に連なって。

「お前の、犬だ」

 くっ、くっとフロウが咽を鳴らした。

「それでいい。舐めろよ、ダイン。一本一本丁寧に……な」

 口の中いっぱいに溢れた生臭い唾液を飲み下す。自分の咽が上下するのがはっきりと分かる。咽の中をしたたるぬるっとした感触と、向けられたフロウの目の動きで。
 だんっと床板に膝をつき、背中を屈める。しっとりと汗ばむ足を両手で抱えて、迷わずつま先をほお張った。

「……おう……」

 フロウが目を細め、ぴくりと肩を震わせる。舐めさせるってことは、この行為が気に入ってるって事……つまり好きだって事だ。
 だったら、ためらう理由はどこにもない。

「んふ、んー、ん、んんん……」

 口に含んだ指を一本一本、舌でなぞって数え上げる。中指を舐めたら、きゅっと握ってきた。吸ったり、離したりを繰り返し、満遍なく唾液でべっとり濡らしてから一度口から引き抜いた。唾液が滴り、ぽとりと干し草に落ちる。

「おいおい。まだいいって言ってないぞ?」
「……わかってる」

 改めて小指を口に入れた。

「ふっ、くっ」

 咽、反らせてる。感じてるんだな、フロウ。
 広げた舌で包み込み、根元から先端にかけて舐め上げる。奴の股間でぷるぷる震えてるモノを舐める時と同じ要領で。唇で挟んで抜き差しし、薬指との間を広げた舌先で突き回す。

「おぅっ、ふっ、い、いいね。慣れてるじゃないか」
「馬鹿言え」
 
 ムキになって言い返したら、ぽとっとまた涎が垂れた。慌てて手の甲で拭う。

「お前以外にこんな事する奴なんか、いない!」
「わーってるよ。ほら、続けろ、騎士サマ」

 余裕たっぷりな喋り方だ。でも息が荒くなってる。肌にさす赤みが濃くなってる……素っ裸だからよく分かる。口の中にどっとまた涎が溢れる。慌ててすすると、妙に粘つく音が聞こえた。
 早く入れたい。抱きつきたい。だけどフロウがいいって言うまで、できない。
 だったら、触るのを許されてる部分をしやぶりつくすしかない。
 力いっぱい薬指をしゃぶった。舐めた。吸った。頭の中で自分が馬鹿みたいに鼻を鳴らす音が反響する。口ん中で粘つく水が動いてる。鼻息が荒い。舌の上で指がぴくぴくと震えてる。そんなに気持ちいいのか。

「うっ、んっ、んんっ、ふ、っくぅ、はぁ……」

 やけに声が生々しいなと思って顔をあげて、硬直した。こいつ、自分で自分のモノ擦ってやがる! 指をしゃぶる俺の姿を見て、興奮してるって事か。オカズにしてるって事か。
 かあああっと顔の表面が熱くなる。

「何……見てんだよ……」

 ぷいっと顔を横に向けちまった。視線だけこっちに向けて、睨め付けてくる。

「ほら、口が止まってるぞ、ダイン?」
「う……うん」

 慌てて中指をぱくりとくわえ、今度はさっきよりゆっくりと出し入れしてみる。

「ふ……っはぁ……いい、顔しやがって。可愛い奴」

 フロウの手が動く。まちがいない、こいつ俺が舐めるのに合わせて手、動かしてるんだ! 気付いた瞬間、股間と心臓がほぼ同時に脈打った。皮膚だの骨だの肉なんか、あっさり突き破りそうなくらいに強く。

「うぐ、うー、うー、っんぐ、ふ、くぅ」

 俺がしゃぶれば、フロウの手もそれだけ早くなる。舐めてるのが足の指なのか。それとも股間のアレなのか。
 嫌でも動きが早くなる。ちゅくっ、ちゅくっと音を立てて吸い上げる。甘ったるい足の匂いが一段と強く口と鼻の中に広がる。

「ははっ、そうだよ、もっとしゃぶれよ。舐めろよ……っはぁ……っ、そんなに……俺の指……美味いか……?」

 くらくらするほど刺激が強い。やばい、やばい、やばい。はぁはぁ言いながら自分のナニをしごいてるフロウから目が離せない。
 思わず力いっぱいぢゅーっと吸い上げると、フロウはぴんっと全身を突っ張らせてぴくぴく震えた。

「ふ……はうっ、ダ、イ、ン……」

 目を閉じて眉根を寄せて、自分のをぎちっと握ったまま、小刻みに震えてる。

「んんっ……はぁ……はぁ、はぁ、はぁ……」

 肩をすくめ、硬直したな、と思ったら少しずつ力が抜けた。荒い呼吸を繰り返してる。
 イったのか? その割には、何も出てない。
 首を傾げたまま、ちゅっちゅっちゅっと小刻みに指を吸ってると……。
 うっすらと瞼が開いて、瞳孔の広がった蜜色の瞳が見つめて来た。すっかり潤んで、つやつやしてる。舐めたいくらいにきれいだ。
 唇が動く。

『……来いよ』

 確かにそう言った。にゅるんと口から指を引き抜き、改めて口づける。

「ふっ」

 また、振動が伝わって来た。
 ぶるっと首を左右に振ると、フロウはすっかり桜色に色づいた顔を歪めて言った。

「いつまで舐めてんだよ。待たせるな。さっさと、来い!」

 ああ、その一言が、聞きたかったんだ。

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