▼ 【side7】★★蜜月の夜
- 【3-15】サムシング・ブルー後編の直後、新婚さんの夜のお話。一応、注意書きを掲げてはありますが実際はベッドシーンが「含まれる」どころかむしろそれだけです。
【attenntion!】タイトルに『★★★』の入っている作品には男性同士のベッドシーンが含まれています。十八歳未満の方、および男性同士の恋愛描写がNGの方は閲覧をお控えください。トップヘ
記事リスト
- 【side7-1】★★蜜月の夜1 (2008-07-27)
- 【side7-2】★★★蜜月の夜2 (2008-07-27)
- 【side7-3】★★★蜜月の夜3 (2008-07-27)

▼ 【side7-1】★★蜜月の夜1
初めて恋人とキスした日。
初めて恋人とベッドインした日。
何をもって初夜と呼ぶのか基準はさまざまだが……wedding nightと言うからにはやはり結婚式の夜と考えるべきなのだろうか。
脱いだ上着を左肩にかつぐようにしてひっかけて、右の手をレオンの腰に回して寄り添いながら寝室に向かう間、ディフはずっとそんな事を考えていた。
もっとも彼に限って言えば初めて恋人としてレオンとキスをしたのも、ベッドを共にしたのも同じ日の出来事なのだが。
寝室のドアを開けて中に入る。もう何十回もくり返した動作だが、部屋に入った瞬間、感じた。
いつもと違う。
わずかな差異ではあるのだが、確かに今朝出た時と同じ部屋ではない、と。
まず感じたのは空気に混じるほのかな花の香り。
見ると結婚の祝いにと贈られた花の一部だろうか。薔薇と、マーガレット、そしてほんの少しだけど百合の花も。小さな花瓶に活けられて、部屋のそこ、ここにさりげなく飾られている。
適度に自己主張しつつ、鼻腔の奥にも喉の粘膜にもしつこい後味を残さない。人工的に合成されたルームフレグランスには到底真似のできない微妙に控えめな香しさを漂わせている。
すでに花の香りは部屋の空気にまんべんなく溶け込んでいた。
誰が用意したのかはすぐにわかった。
アレックスだな。
クローゼットに上着を掛け、靴下と靴を脱ぐ。身につけたキルトを外し、シャツのボタンを外していると……視界の端にちらりとベッドが写る。
以前はセミダブルのものだったが自分がこの部屋に正式に引っ越してから改めてキングサイズのものを入れた。
もっともベッドの大きさが変わったからと言ってぴったり寄り添って眠る事に何ら変わりはないのだが。
しかし、ここも、何か、違っている。
ベッドに腰をかけて手を触れた瞬間、理解した。
新品だ。
ベッドカバーも、シーツも、枕カバーも何もかも、ついぞ自分が洗濯した覚えのないまっさらな新品、しかも肌触りのよい上質のものばかり。
アレックス……気ぃ使いすぎだ!
何もかも新婚の初夜のために整えられたものなのだと理解した瞬間。ぽつっと体の中央に一粒、堅い物が落ちて。池に広がる波紋のようにひしひしと体中に広がり始めた。
そやつの名を『緊張』と言う。
糊付けに失敗したシャツみたいに全身つっぱらせて固まっていると、ぽん、と肩を叩かれた。
「どうしたんだい?」
「あ……その……ちょっと考え事を」
「そんな格好で?」
言われて、改めて見下ろす。自分が今、どんな姿をしているか……。
袖口のボタンも襟も開けたまま、白いドレスシャツ一枚でベッドの上に座っている。しかも片足であぐらをかいて。
目元から頬骨のあたりまでかっかと熱くなるのを感じながら、ディフはそれでも精一杯平静を装って答えた。
「リラックスするんだよ。楽だし」
「別に構わないけどね。目の保養になる」
「なっ」
慌ててがばっと上掛けのコットンケットの下に潜り込む。
しなやかな布の向こうでくすくすと笑う気配がした。
(何やってんだ、俺は………………)
そろりと顔をのぞかせる。
「そのままベッドから出てこないつもりかい? それとも、先にシャワーを浴びようか」
「……あ、うん、シャワー、浴びる。けっこう汗かいたからな」
ケットの下から抜け出し、床に降りた。
「君があんなにダンスが上手いとは知らなかった」
「そう言や初めてだったな……お前と踊るの」
言ってからしまったと思った。暗に宣言したようなもんじゃないか。他の子たちとは何度も踊ったって。
「あ……その、今のは、えっと」
ほほ笑んでいる。口にこそ出さないが気にすることはないよ、と言っている。
「………………………これからは、何曲、何百曲だって踊ってやるから……覚悟しとけ」
「うれしいね。君のリードなら安心だ」
「……言ってろ」
くしゃりと明るいかっ色の髪の毛をかきあげて肩を抱き、バスルームに向かった。ダンスでも踊るみたいな体勢のまま。
※ ※ ※ ※
シャワーを浴びながら軽くじゃれ合って、上がった所でふとディフは気づいた。
(やべえ、着替え持ってくんの、忘れた?)
しかし脱衣所のバスケットの中にはきちんとパジャマと下着が用意されている。
(気ぃ使いすぎだ、アレックス……だが、助かった)
ほっとしながら手にとる。ほんのりとブルーがかったグレイの光沢のある生地だ。つややかで肌にしっとり馴染む。おそらくこれも新品だろう。
(これ、まさか……シルクか?)
まず、自分では買わない。だから余計に珍しくて髪の水気を拭き取るのもそこそこに、しげしげと手にしたパジャマを眺めていると……。
ひそりと耳元でささやかれる。
「ディフ」
「ん?」
「今夜は、下着は着けないで……ね」
そう言う当人は既にさっさとパジャマを身につけていた。同じ色のシルク、わずかに光沢のある青みがかったグレイの布地がしなやかな肢体を覆っている。
あいつもあの下、ヌードなのか?
想像しただけで体が細かく震える。早くも火照りの前兆が体に表れてしまいそうで、あわててディフは絹の寝間着を身につけた。
かすかに笑う気配がして、先にレオンが浴室を出て行く。
ほっとして、頭をごしごしとバスタオルでぬぐった。
※ ※ ※ ※
浴室を出ようと歩き出した瞬間、ディフはとまどった。
あるべきものがないと、やはり足元が妙にたよりない。キルトを着けてる時に比べればズボンを履いてるのだから数段マシなはずなのだが。
どうにも、歩くたびにこのすべすべした布が肌にこすれて……落ちつかない。
何でレオンの奴はこんなもの着たままですたすた歩けたんだろう。やっぱりあいつ、自分は下着着けてるのか?
だとしたら……余計に恥ずかしい。自分だけがこんな格好をしてるのかと思うと。
浴室を出て寝室に戻るとレオンはベッドに腰かけていた。サイドに置いた小さなテーブルの上にはいつの間に持ってきたのだろう。ハーフサイズのワインのボトルが一本、氷を詰めた銀色のペールの中に埋まっている。そして、クリスタルのワインググラスが二つ。
何となくほっとして近づき、自分も隣に腰を降ろす。
「まだ飲むのか?」
「パーティの間はあまり飲まないようにしてたんだ。それに……特別な日だからね。最後は二人きりで」
「……ああ。そうだな……」
グラスに赤い透き通る液体が注がれる。
赤は室温でとよく言われるが、きりっと冷やした赤ワインの方がディフは好きだった。比較的辛口で渋みのあるパンチの効いたものだとなおいい。
軽くグラスを触れあわせて喉の奥に流し込む。
「ふぅ……効くなぁ……」
「君も祝杯以外ではほとんど飲んでいなかったようだね?」
「んー……まあ、な……緊張してたし……」
子どもたちが一緒だと思うとどうしても酔えなかったのだ。何かあったらと心配で、ここで酔っぱらう訳には行かないのだと。
だが、今は二人っきりだ。
そう思うと知らず知らずのうちに杯が進む。ワインの酔いが回るうちに次第にふわふわとした気分になってきた。
「あれ? もう空か?」
「そうみたいだね……」
「お前、ほとんど飲んでないんじゃないか?」
「そうでもないよ」
穏やかな笑みを浮かべながら、レオンは目の前の愛しい人の姿をじっと観察していた。頭のてっぺんからつまさきまでじっくりと、ただし、さりげなく。
少し湿り気を帯びた赤い髪が首筋にまとわりついている。左の首筋にほんのりと、薔薇の花びらほどの大きさの火傷の跡が浮び上がっている。
ガチガチに緊張していたのがいい具合にほぐれてくれたようだ。
「……なんだか眠ってしまうのが惜しいな」
「ん…………」
子どもみたいにあどけない顔でにこにこしながら、こくっとうなずいて。何かに気づいたらしく、はっとした。
ああ、やっと気づいたのかな。この後に何が控えているのか。けれど、さっきほど堅くはなっていないようだ。ワインに感謝しよう。
そーっと顔を寄せてのぞきこんで来る。ミルクティをそのまま透き通らせたようなヘーゼルブラウンの瞳の中央に、ゆらめく緑の炎をにじませて。
何も言わずにほほ笑み返すと、頬に手を当ててきた。その手に自分の手を重ねると、にこっとまたほほ笑んだ。
少しだけ顔をずらしてディフの手にキスをする。
「んっ」
目を閉じてびくっと震えた。
(ああ……相変わらず君は、手へのキスに弱いね……)
初めてベッドを共にした時の記憶が蘇る。あの時もこんな風に手にキスをした。この部屋のベッドの上で。
(君は小さく震えて俺を見上げて……初めて言ってくれたね。『愛してる』と)
「………………ディフ」
「何だ?」
「こんなことを言うと笑われるかもしれないけど」
「……笑わないよ。お前の言うことなら」
「眠ったらみんな夢になってしまうような気がして」
「それは……困る」
彼は少しの間、口元に軽く握った手を当てて考え込んでいたが、そのうちくいっと手を引っぱって俺を引き寄せ、抱きしめてくれた。
すっぽりと胸の中に抱え込むようにして
「どうだ? 夢か? ん?」
温かな胸に顔をうずめ、首を横に振る。かすかに身じろぎする気配がして、ディフの口から小さなため息が漏れた。
薄い、つやつやした布がこすれて刺激されたらしい。
彼のことだ。おそらく自分の言葉に素直に従い、下着は着けていないだろう。
「何度でも証明してやるよ。夢じゃないって」
「俺はずっと結婚する気もなかったし、考えたこともなかった……こんな日がくるなんて」
しっかりした指が。大きくて温かい手のひらが、髪を、背中をなでる。その左の薬指には青いライオンを刻印した銀色の指輪が光っている。
自分の左手にはまるのと同じ、対になった輪が。
その事実に。髪をかきわける指の間に触れる、確かな堅さに安堵する。
「全部、きみのおかげだよ……ありがとう」
「ありがとうって言うのは……俺の方……だ……」
囁きの合間に耳にキスされた。ああ。くすぐったいな。
「愛してるよ」
「ああ。先に言われちまったな……俺も、愛してる」
(今だけは俺のために、ただ一人の男でいてくれ。子どもたちの『まま』なんかじゃなくて、俺一人のものに)
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▼ 【side7-2】★★★蜜月の夜2
「世界で一番、愛してる」
「……君は俺のすべてだよ……この先、何があっても、ずっと……」
「信じてる。お前がそう言うのだから……」
そしてディフはレオンの頬に手を沿えて、顔を寄せて……
「あ」
小さく呻いて体を強ばらせた。
「どうしたんだい?」
「お………男って………悲しいイキモノだな…………」
硬直したまま、彼は耳まで赤くしてうつむき、ぼそぼそと呟いてきた。
首筋にくっきりと赤く『薔薇の花びら』を浮び上がらせて。
「い……今ので…………………………………………………………………………………………………勃った」
最後はほとんどとか消え入りそうな声になっている。
ああ、まったく何て素直な子なんだろう。
小さく笑うと、レオンは今度は自分からディフの体を抱き寄せた。喉の奥でまた、小さく呻いている。
薄い布地の下でその鋭敏な体がどうなっているかは……手に取るようにわかるのに。
「いいじゃないか、二人きりなんだから」
ちらっと拗ねるような顔で横を向く、その頬に手を当てて正面から見つめる。
「どうした?」
「……夢じゃないことを証明してくれるんだろ?」
「ああ。教えてやるよ……夢じゃない」
いきなりキスしてきた。さっきまでのくすぐるような甘いキスとは明らかに違う。獣じみた息づかいで唇をむさぼられ、水音を響かせながら口の中と言わず外と言わず執拗に舐め回される。
(最初っからそんなに飛ばして大丈夫なんだろうか? とりあえず、したいようにさせてみようか……)
肩をつかまれ、ベッドに押し倒される。
「っ、ディフ?」
答えはない。
ボタンを外し、慌ただしくむしり取る様にシルクの寝間着を脱がせて行く。いつもは優しげなヘーゼルブラウンの瞳が緑に燃えている。
欲情してる証拠だ。
(ああ……可愛いな)
口元に笑みが浮かぶのを余裕と思ったのか、それとも承諾と受けとめたのか。
キスが頬から顎、喉と滑り降りて行く。やわらかく吸うだけで跡を着けないように細心の注意を払って。
しかし、スーツの中に隠れる場所まで降りてくると急に強くなった。
「く……ディフ………」
「ここなら、跡つけてもいいだろ?」
楽しそうだな。目をきらきらさせて。
「しょうがない……ね」
にこっと笑って舌を這わせてきた。乱れた髪の先が肌に当たる。くすぐったい。
「ん……は……はぁ……っ……レオ……ン………」
思った通りだ。俺の体をむさぼってる間に自分の方がどうしようもなく熱くなってきている。シルクがこすれて余計に刺激になっているのだろう。
顔をすりよせるようにして乳首を口に含み、ちゅくちゅくと熱心にしゃぶりはじめた。
大胆だな。まだ部屋の明かりも消していないのに……。
「ここ……堅くなってる」
「髪があたるからだよ………」
艶めいたため息まじりのレオンの囁きに、ぞわっと体の奥の方で何かが蠢いた。自分のしている事で彼が熱く蕩けて行く、その事実に蕩けそうになる。
「……こんな風に……か?」
今度は意識して髪の先が胸の先端にこすれるように顔をすりよせた。
「っ……く、今日は……積極的だね?」
「新婚初夜だからな」
うるんだ瞳で見上げ、太ももなで上げる。
「あ……俺には手出しさせないつもりかい?」
「……出してみろよ」
にやっと口の端を上げると目をすがめ、上衣のボタンを外す。上、一つだけ。くい、と襟元を緩めてちらりと胸元を見せつけた。
「君が色々してくれるならもったいないような気がしてね……」
「………………………………」
どう言う意味だ?
「………………………」
俺が色々してるって……。
「……う」
したな。色々。
ってかついさっき俺、何やった? 自分から挑発するようなマネして!
「うぅ………」
気まずい。
レオンの奴は相変わらずにこにこしてる。さっき、色っぽい声出したことなんかもう忘れてしまったみたいに。
ちょっぴり悔しい。
一方的に俺だけ、お前に夢中になってるみたいで。熱くなってるみたいで。
「笑ってないで……手、出せよ」
ぼそりと言うと、ディフはレオンの手をとり、強引に自分の胸元に入れてしまった。
「俺だって……お前に欲情してるんだ。どうしようもないくらいに」
(本当に今夜は積極的だな……)
レオンの口元に小さな笑みが浮かぶ。
あからさまな言葉をそんな風に目を伏せて恥じらいながら言うなんて。
頬にキスすると、それだけで息を飲むのが伝わってきた。耳元に低い声で囁く。一言一言、彼の耳に吹き込むようにして。
「もっとキスしてくれ。俺に」
「ああ……」
言われた通り、素直に唇に濃厚なのを一つ。それから音を立てて体中に。
レオンも腕を伸ばして抱き返し、首筋や頬にやわらかなキスを返し、広い背中をなで回す。
二人の体でシルクがこすれているのだろう。どんどんディフの息が荒くなって行く。ちらりと見下ろす緑の瞳はうるんで今にもこぼれ落ちそうだ。
少しだけさまよってから、ためらいがちに視線を落してくる。
レオンの足の間に。
既にしっかりと硬さをそなえ、形が変わっていた。
こくっとディフの喉が鳴る。
そろりと顔を寄せ、きつ立したペニスを両手で包み込み、先端に丁寧にキスしてきた。ほんの少し、震えながら。
「……あ」
「……レオン。感じてるのか?」
うなずくと、嬉しそうに目を細めてぴちゃぴちゃと音を立てて舐め始めた。根本から先端まで丁寧に。
先端まで舐め上げてまんべんなく舌を這わせる。まるでアイスクリームでも舐めるみたいに。
「あ……ぅ……ん………っ……」
「可愛いな……レオン」
だ液で濡れそぼった舌をのばしてペニスの先端を突くとそのまま軽く含み、舌で押し出したり、軽く吸ったり。時折自分の口の周りを舐め回してから、改めてまた含む。
そんな仕草をくり返しながらうっとりと見上げてくる。
「……きみも……最高にいやらしい顔してる……よ」
「……なっ!」
一瞬、体を強ばらせて口を離してしまった。ぷいと横を向いて拗ねたような顔を見せたがそれもほんの数秒。
「……………………いいよ。お前になら……いくら見られても………」
ずぶっと根本近くまで飲み込んだかと思うと激しく頭を上下させて本格的にしゃぶり始めた。
溢れた透明な液が唇とペニスのすき間から滴り落ちるのも構わずに。
(本当に大胆だな。いつもなら、言われただけで真っ赤になってすくみ上がって動けなくなるのに)
柔らかな髪の毛の先端が乱れてこぼれ落ち……当たる。
(これは……たまらないね)
手を伸ばして髪をすくいとり、そのまま頬から耳までなで上げる。彼自身の赤い髪の毛で、いい具合に桜色になった肌をくすぐってやった。
「う……あっ、あっ」
ぽろりとくわえていたモノを離して喘ぎ始めた。
レオンの足の付け根に顔をすりつけてもじもじと腰をよじり、息を弾ませる。自分のだ液で濡れて光るペニスに顔を寄せたまま。
「く……ん……あっ………ぅ……髪の毛……いじるのは……は、反則……だ……あっ」
「反則? 何故?」
そのままゆるくウェーブのかかった赤毛で耳を包み込み、もみしだく。一段と声が高くなった。
「くぅ……う……知ってて……やってる……だろうが……俺が……そこ、弱いってっ」
「じゃあ、やめようか」
ぴくっとディフの体が凍りつく。さっきまで睨んでいたくせに、今はもうおいてきぼりをくらった子犬みたいな表情だ。
ふるふる首を横に振って、抱きついてきた。
背中に腕を回して引き寄せて、改めて唇を重ねる。舌を軽く差し入れると、堅く目を閉じて吸い付いてきた。
求められるまま奥まで舌を差し入れ、根本から先端まで何度も舐め上げる。互いの口の中にぴちゃり、ぴちゃりと淫らな水音を響かせて。
キスに夢中になっている間にくるりと横に転がり、自分が上になる。キングサイズのベッドは大人二人が十分に転げ回れる広さがあった。
「ん……レオン……もっと……触ってくれ………感じたいんだ……お前を」
自分からパジャマのボタンをはずそうとしている。
(ああ、まだ早いよ、ディフ。もう少し我慢してくれないと、ね)
手を押さえる必要もなかった。首筋や耳にキスしただけですくみあがり、手の動きが止まった。
髪の毛をかきあげ、左の首筋に口付ける。
「あ…あぁっ……レオン……もっと……」
「……ここ?」
同じ所を少し強く吸うとディフは湿った吐息を漏らし、自分から首筋に浮かぶ『薔薇の花びら』をさらけだしてきた。
中々に刺激的な眺めだ。時間の底に沈んだ忌わしい歯形がちらりと脳裏を過る。歯を立てたい誘惑を意志の力で退けた。
(今、そんな事をしたら……それだけで達してしまうだろうな、君は)
「そこ……気持ち……いい……」
「こっちは?」
ゆっくりと位置をずらして行く。しっとりと汗ばんだ肌の上に唇を這わせる。
「あ……もっと…………」
「ここ?」
「ぅ………………」
ほんの少しためらってから、彼は言った。今にも消え入りそうな声で。
自分の言う言葉で余計に追い詰められているようだ。いったい、どれほど感覚が研ぎ澄まされているのだろう。
「もっと……下………っ」
さらに胸へと。寝間着は脱がさない。つややかな薄い布地の上から唇を当てるだけ、それでも十分すぎるくらいに刺激になっているらしい。
堅く尖った乳首に舌を這わせる。
「く……あぁっ」
悲鳴が上がり、背中を反らせる。とりもなおさずその動作は、堅くなった足の間の逸物をレオンにこすりつけるような動きになってしまった。
「う……レオン……も……う………」
耐え切れないのか、またパジャマを脱ごうとするその手を押さえる。
「だめだよ」
「く……うぅ」
小さく首を横にふりながらも手は止めた。
(あまり長く君の身体を。背中の翼を見てしまったら……抑えが効かなくなりそうだ)
「この布……気持ちがいいだろ?」
布がこすれるようにシルクの上から胸のまわりを撫でた。
「あ、あ、あぁっ、よせっ」
よせ、と言いながらうっとりと蕩けそうな表情をしている。片手で胸のあたりを撫でながら、もう片方を背中に回してなで上げた。
「く……ふ…あっ、あっっ………ひっ」
今度は逆に背中から腰、太もも、と撫で下ろし、膝の後ろに手を入れて持ち上げる。ズボンの布が食い込み、ディフはびくん、と背中をそらし……それからきょとん、とした顔で見上げてきた。
どうやら胸の刺激を処理するのに頭が一杯で、自分に何が起きたか理解できなかったらしい。
「何して……あ、よせっ」
シルクの布地にくっきりと浮かぶ欲情の塊を目を細めてじっくり愛でる。
「……ん、ああ‥‥布が薄いから‥‥よくわかる」
「何……見て……」
足の裏にキスをする。布の食い込む感触に追い立てられていたところにキスを受けたのが効いたのだろう。
「う……あぁっ!」
つり上げた魚みたいにビクン、ビクン、と震え、体を跳ねさせた。
「今日はいつもより可愛い」
「ん……な訳ねえだろっ」
可愛いと言われるたびに睨んだり、ぶっきらぼうに言葉を返してくるのは一種の照れ隠しだ……ほとんど隠れてはいないけれど。
むしろ言われるたびに恥じらい、さらに自らの熱さをつのらせる。
「うん、いつでも可愛いけどね」
「ぁ………っっっ」
しがみつき、今度ははっきりと腰を揺すって堅くなったペニスをすり付けてきた。先端が布にこすれてさらに刺激されたのか、顔をしかめている。
だが……苦しんではいない。
「積極的だね……我慢できない?」
「く………」
ぶるぶる震えながらうなずいた。
「ああ……我慢…できな……い…………助けてくれ……レオン」
くるりと転がり、体勢を入れ替える。また、ディフが上になるように。
「あ……何?」
「助けてあげるよ……」
仰向けになったまま手のひらを上にして人さし指を立て、ちょい、ちょい、と手招きする。
「腰をこっちに寄せて」
彼はためらった。
ほんの少しだけ。それでも素直ににじりよってくる。
「もうちょっと上」
「こでれいいか?」
「もう少し」
ディフは膝立ちになり、レオンの胸を挟むようにしてまたがっている。
よし……いい位置だ。
手をのばすとレオンはディフのパジャマのズボンを軽く途中まで引き下ろし、ぷるんとこぼれ落ちた濡れた塊を口に含んだ。
「え……あ……レオンっ!? やっ、う、あ?」
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▼ 【side7-3】★★★蜜月の夜3
ディフは軽くパニックを起こしそうになった。しかしレオンの腕が太ももと腰にしっかりと回され、逃げられない。
「そんなっ、こんな格好でっ」
もし、今だれかが自分たちの姿を見たら……まるで自分がレオンの口を犯しているように見えるだろう。
想像しただけで身がすくむ。
しかし身体はどうしようもなく正直だ。
レオンに強く吸い上げられているうちに我慢できなくなってきた。腰が勝手に動き始める。
「あ、あ、レオン、そんなに……強く……ああ、だめだっ」
レオンは答えない。
口一杯にディフのモノを頬張ったまま、後ろに回した手をズボンの中に潜り込ませ……尻の頬肉をかきわけて、後ろの口を弄り始める。
「ひっっ……も、だ……め……出る………」
眉をぎゅっとよせてぶるぶる震えている。口の中の彼ははち切れそうに膨れあがり、どくどくと脈打っている。
(我慢しなくていいんだよ、ディフ……)
胸の内でつぶやきながら、何かを欲しがるように浅く息づく後ろに指先を押し込んだ。
「あーっっっ!」
充血した入り口は指先を美味そうにくわえ込み、一段と強く吸われたペニスの先端からレオンの中にたっぷりと、熱い精液がほとばしる。
「や……だめだ……レオン……こんな……あ……ああ」
喉が上下してる。飲み込んでるんだ。
あまさず飲み込み、最後まで吸い上げて……先端まで丹念にすすり上げている。
「ひ……んっ、う……くぅ……」
レオンの姿に我を忘れて見蕩れた。
彼の口を汚した。いけない事をしてしまったとわかっていても、目をそらす事ができなかった。勢いを失った自分の分身が彼の口中からずるりとこぼれ落ちる、その有り様にさえ胸が高鳴る。
(どうなっちまったんだ、俺はっ!)
「……きれい……だ……」
「舐めてるところが?」
「………」
こくっとうなずく。目の縁に涙さえにじませて。
感じたことに嘘はつけない。
「この格好だと抱きしめにくいな」
「……あ……ちょっと待ってろ」
そろりとレオンの上から降りて脇にどいて……初めて自覚する。自分がどんな恥ずかしい姿をしているか。
パジャマの上着のボタンは半分まで外れ、胸が露に。片袖はかろうじて肩に引っかかっているが引っぱればすぐに外れそうだ。
ズボンなんか途中までずり落ちて膝のあたりにひっかかったままだ。
あわてて引き上げようとしていると。
「うっ?」
肩をつかまれ、仰向けに押し倒される。あっと思う間もなく唇がふさがれていた。
(……レオンっ)
互いの唇をむさぼっているとぐいっと腰を引き寄せられる。
ほんの少しの間もがいてから改めて自分の身体をすりよせ、レオンを刺激する。
「……っ、ぅ……」
レオンの喉の奥から小さく声が漏れた。
(そうだよな。お前はまだイってないものな)
しっとりと汗ばんだ体をなで回し、鎖骨のあたりにキスをする。自分よりいくぶん華奢ではあるが鞭のようにしなやかで、鹿狩りの猟犬を彷彿させる身体が手の下で震えている。
しばらくその感触に没頭していると、レオンが髪に手をのばしてきて、指先で弄びはじめた。
「や、あぁっ……だ、だから、髪いじるのは、反則だぞっ」
「何故? 髪の毛に触覚なんか存在しない」
低い声で囁きながら今度は耳たぶをつまんできた。
「ここには……あるけどね」
「く……うぅっ」
だめだ。
もう、我慢できない。
身をよじりながらズボンを脱ぎ捨て、パジャマの残りのボタンを全部外す。
一回自分は果てたからもう余裕だと思っていたが、甘かった。一度昇り詰めた感覚は……余計に刺激に対して鋭敏に。どん欲になっているものなのだ。
「も……やだ……」
パジャマの上着をむしりとろうとすると、また手首を押さえられた。
「ディフ……もう少し待って」
「……………わ……わかった………」
レオンの身体が一旦離れて行く。ベッドサイドの引き出しが開く音がして、足の間にとろりと粘つく液体が滴り落ちてきた。
「あっ、冷た……っ」
「君が……熱いんだ」
正体はもうわかってる。ローションだ。上から二段目の引き出しの小さなボトルの中味。
「う………あ…………………きもち……いい……」
うっすらと唇を開け、肩で息をした。体内に荒れ狂う熱を少しでも逃がそうとして。
くるりとうつ伏せにされ、今度は背後からローションをかけられた。
身体の窪みをつたい、流れて……さっきかけられた分と合わさり、混じり合って行く。
「く……ん……んんっ……レオン……っ」
シーツを掴み、足を開いた。不覚にも少し震えた………与えられる刺激以外のもので。
(しっかりしろ。ここには手錠も、針もない。香っているのは花だ。消毒薬のにおいなんかじゃない)
「……怖い?」
「…………平気……だ………お前だから。信じてる」
たっぷりローションをからめた指がアヌスの表面を撫で、つるりと奥まで入って来る。
「く……ぅう……レオン……」
かき回された。
いつもより動きが早い……ほんの少しだけ。
(我慢できないのは俺も同じだよ、ディフ)
「はっ、あ、う、あ、あ、あぁっ! い、いいっ、気持ち……い……あぅっ」
腰をくねらせ、艶っぽい声で鳴いている。
青みをおびたグレイの布の下では背中に刻まれたライオンと翼が……さぞいい色に色づいていることだろう。
「お前の……ゆび……すごく………いい……んっ、もっと……っ」
「……もっと……ね」
ずぶりと2本目の指を沈め、彼の中で広げた。
「う……ぁっ」
目を見開いてぶるぶる震えながら、それでも後ろの口はひくひくと震え、蠢き、2本の指をしゃぶっている。
後ろをいじっているうちに、また前が堅くなってきたのだろうか。真新しいシーツにこすりつけ始めた。
その動物じみた仕草に、かろうじて欲情を押さえていた鎖が引き絞られ、限界に達し……弾ける。
一本、また一本と。
(奴も、こんな風に君を抱いたのか?)
「あ……あ……レオン……欲しい……お前の……」
ぽってりと充血した後ろが脈動し、指を締めつける。もっと確かな存在が欲しいのだとすがりつく。
この身体が他の男に抱かれたのかと思うと……。
彼の意志をねじ伏せ、抗えぬよう身体の自由を奪って為されたことだとわかっていても。
止められない。
魂の奥底からわき上がるどす黒い嫉妬が。
(男に抱かれた君がどんな反応をするか、知り尽くしているから)
ぐい、と指を奥までねじ込み、捻りあげる。
くっと背中が反り返り、甲高い悲鳴がほとばしった。
「レオン……レオン……レオンっ」
※ ※ ※ ※
指を引き抜き、ゴムをつけている間、ディフは指が白くなるほどシーツを握りしめて震えていた。唇を噛みしめて、堅く目を閉じて。
くい、と上衣の襟に手をかけて引き下ろし……彼の翼にキスをした。
「ぁ」
うっすら目を開けてほほ笑んでいる。
「挿れるよ」
「ぁっ…………来てくれ……レオン。欲しいのは、お前だけだ」
片手をのばして、シーツを掴む手に重ねると、そろっと手を返して握り返してきた。
「……愛してる、レオン……」
さっきから何度呼ばれたろう。すがるように、くり返し。
自分に言い聞かせているのだ……確かにここにいるのは俺なのだと。
「……力を抜いて」
「わかった………」
目を細めて顔を伏せるとディフは息を吐き、身体の力を抜いた。
後ろから中に入る。
ゆっくりと。
ゆっくりと。
「あ………く……う……」
震えながら受け入れてくれた。ともすれば体が堅くなりそうになるのを、必至でこらえている気配が伝わってきた。
「レオン…………」
「……大丈夫、俺のすべては君のものだ……君が望む限り」
「レオン……レオン……俺も……お前の……お前……だけの………っ」
肩越しに振り返る彼の目からすーっと一粒涙がこぼれ落ちる。
「もう、誰にも触れさせない。二度と」
「愛してる……君だけだ……俺がほしいのは」
ディフはうなずくとにっこりとほほ笑んで、ぐいっと握り合わせた手を引っぱった。
「今度は……俺に教えてくれ。これが夢じゃないって」
「ディフ」
「レオ……ン……」
後ろからのしかかると背中にキスをして、奥まで突き上げる。ゆるやかな動きで、くり返し。
「あっ……あ……う……あっ」
どうしたのだろう? 歯を食いしばり、何か懸命にこらえているようだが……恐怖や苦痛とは少しばかり質が違うようだ。
「だめだよ、我慢しちゃ」
「う……この……布……こすれて‥‥あ‥‥‥‥‥」
弱々しく首を横に振っている。髪の毛が乱れて汗ばんだ首筋に張り付いた。
「だめだ………このままじゃ、俺……いやらしいこと、口走る…………も……」
「……聞かせて。夢じゃないんだろう?」
耳たぶを甘噛みし、すうっと喉笛を指先でなで上げる。
「このっ、調子に……乗るなよ……レオンっ」
ほとんど悲鳴に近い声だった。
「……しかたないね」
動きを止める。
高められた熱と欲情が唐突に彼の中で行き場を無くし、荒れ狂う。
「……………っっ」
くしゃっと顔を歪ませた。眉根を寄せ、うっすら開いた口の端を細かく震わせている。これ以上ないと言うくらいに切なげな表情だ。
「動いてくれ……たのむ………」
すすり泣きのような声だった。
「もっと強く……激しくしてくれ。抉ってくれ、突いてくれっ。俺の中を、お前でいっぱいにしてくれ……レオンっ」
掠れた声を喉から振り絞り、かろうじて最後まで言い終えると、ディフは自分の耳を塞いでベッドに突っ伏してしまった。閉じた目蓋の間から涙があふれ、シーツを濡らす。食いしばった歯の間からかすかな嗚咽が漏れた。
(ああ、俺は……何てことを)
彼を辱めてしまった。他ならぬ彼自身の言葉で。
「……ごめん」

そっと背中にキスをする。左右の翼の付け根に、一度ずつ。
「あ……」
「手……ついて。しっかり身体、支えて」
「わかっ……た」
一旦入り口近くまで引いてから、おもむろに奥までえぐった。ディフに求められるまま、強く、激しく。
「あ……う……、く、あっ、う、あうっ、んんっ」
今や絹の寝間着はすっかり肩から滑り落ち、背中が露になっていた。
喉の奥から無防備な悲鳴が上がり、しなやかな背中がうねる。やわらかな黄褐色に彩られた翼が羽ばたく。
(やっぱり君は俺の天使だよ……)
「んっ、んっ、あ、ひ、うぅっ、んぅ、レオン……いい……気持ち……いい…レオン……レ……オ……あっ、もっと……っ」
息も絶え絶えになりながら何度もレオンの名前を呼び、自分から腰を動かし始める。
今までここまで素直に彼が声を挙げ、自分から快楽に溺れる姿を晒したことがあっただろうか。
「愛してる……ディフ……」
「俺……も…………………愛してる、レオン」
蠢き、絡み付く後ろの感触と、乱れるディフの姿と声に追い詰められ、次第にレオンの動きが激しくなって行った。
引き締まった腰を抱え込むと、ぐっと奥まで突き上げる。
「ひっあ、ああっ、レ……オ…………………レオンっ」
ぐいぐいと締めつけながらディフは背を弓なりにそらせて痙攣し、熱い『ミルク』をたっぷりと吐き出した。
かすかにほほ笑みさえ浮かべて……。
「く……ぅう………」
天使の笑顔に見蕩れながら、レオンは体内に貯えていた全ての熱情を解き放ち、注ぎ込んだ。薄い膜を通して熱さを感じたのかディフの後ろがひくっとまた締まる。
ふと見下ろすと、背中のライオンと翼がいい色に浮び上がっていた。
「ああ……きれいだ」
顔を掏り寄せ、キスをする。
小さな声で、ディフは甘えるようにレオンの名前を呼んでいた。くり返し、何度も、何度も。唇が触れるとびくっと震えた。
※ ※ ※ ※
名残を惜しみつつディフの体内から抜け出すと、改めて向かい合って抱きしめた。
安心しきった表情でしがみつき、顔を掏り寄せてくる。
「夢じゃ……ないよ……レオン………心細くなったら……教えてやる。何度でも」
波打つ赤い髪に指をからめた。
「……君が居るなら、夢でもなんでも構わないんだ、本当は」
「一緒に居るよ。離さない………ずっと。何があっても」
掠れた声で囁いて、ディフはレオンの頭を撫でた。ゆっくりと何度も、愛おしげに。合間に額や頬にキスをしながら。
「君がいないと……だめなんだ」
「前にも言ったろ。俺がいなくてだめになるんなら、ずーっとお前にひっついてやる、嫌だって言っても離さないって」
「ああ」
「……俺もお前がいないと、だめだ。お前でなくちゃ、だめだ」
手をとり、左の薬指に光る指輪に口付けるレオンを、ディフはうっとりと目を細めて見守った。
「お前は……俺の唯一の伴侶だよ。大事な夫だ」
「ああ……愛してる」
返事の代わりに、濃厚なキスが唇に。
抱き寄せて応えながら、ディフの背に手を回す。
(そう言えば、後ろから愛し合うのは…………久しぶりだったな)
目蓋を閉じると、翼のうねり、羽ばたく有り様が蘇る。去年の11月、倉庫の下敷きになったときの傷も今は翼の下に隠れてしまった。
タトゥーを撫でると、喉の奥から小さな呻きが漏れた。
小さくほくそえむと、レオンは抱きしめる腕に力を込めた。
(もう二度と誰にも触れさせない。俺だけの、愛しい天使)
(蜜月の夜/了)
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「そんなっ、こんな格好でっ」
もし、今だれかが自分たちの姿を見たら……まるで自分がレオンの口を犯しているように見えるだろう。
想像しただけで身がすくむ。
しかし身体はどうしようもなく正直だ。
レオンに強く吸い上げられているうちに我慢できなくなってきた。腰が勝手に動き始める。
「あ、あ、レオン、そんなに……強く……ああ、だめだっ」
レオンは答えない。
口一杯にディフのモノを頬張ったまま、後ろに回した手をズボンの中に潜り込ませ……尻の頬肉をかきわけて、後ろの口を弄り始める。
「ひっっ……も、だ……め……出る………」
眉をぎゅっとよせてぶるぶる震えている。口の中の彼ははち切れそうに膨れあがり、どくどくと脈打っている。
(我慢しなくていいんだよ、ディフ……)
胸の内でつぶやきながら、何かを欲しがるように浅く息づく後ろに指先を押し込んだ。
「あーっっっ!」
充血した入り口は指先を美味そうにくわえ込み、一段と強く吸われたペニスの先端からレオンの中にたっぷりと、熱い精液がほとばしる。
「や……だめだ……レオン……こんな……あ……ああ」
喉が上下してる。飲み込んでるんだ。
あまさず飲み込み、最後まで吸い上げて……先端まで丹念にすすり上げている。
「ひ……んっ、う……くぅ……」
レオンの姿に我を忘れて見蕩れた。
彼の口を汚した。いけない事をしてしまったとわかっていても、目をそらす事ができなかった。勢いを失った自分の分身が彼の口中からずるりとこぼれ落ちる、その有り様にさえ胸が高鳴る。
(どうなっちまったんだ、俺はっ!)
「……きれい……だ……」
「舐めてるところが?」
「………」
こくっとうなずく。目の縁に涙さえにじませて。
感じたことに嘘はつけない。
「この格好だと抱きしめにくいな」
「……あ……ちょっと待ってろ」
そろりとレオンの上から降りて脇にどいて……初めて自覚する。自分がどんな恥ずかしい姿をしているか。
パジャマの上着のボタンは半分まで外れ、胸が露に。片袖はかろうじて肩に引っかかっているが引っぱればすぐに外れそうだ。
ズボンなんか途中までずり落ちて膝のあたりにひっかかったままだ。
あわてて引き上げようとしていると。
「うっ?」
肩をつかまれ、仰向けに押し倒される。あっと思う間もなく唇がふさがれていた。
(……レオンっ)
互いの唇をむさぼっているとぐいっと腰を引き寄せられる。
ほんの少しの間もがいてから改めて自分の身体をすりよせ、レオンを刺激する。
「……っ、ぅ……」
レオンの喉の奥から小さく声が漏れた。
(そうだよな。お前はまだイってないものな)
しっとりと汗ばんだ体をなで回し、鎖骨のあたりにキスをする。自分よりいくぶん華奢ではあるが鞭のようにしなやかで、鹿狩りの猟犬を彷彿させる身体が手の下で震えている。
しばらくその感触に没頭していると、レオンが髪に手をのばしてきて、指先で弄びはじめた。
「や、あぁっ……だ、だから、髪いじるのは、反則だぞっ」
「何故? 髪の毛に触覚なんか存在しない」
低い声で囁きながら今度は耳たぶをつまんできた。
「ここには……あるけどね」
「く……うぅっ」
だめだ。
もう、我慢できない。
身をよじりながらズボンを脱ぎ捨て、パジャマの残りのボタンを全部外す。
一回自分は果てたからもう余裕だと思っていたが、甘かった。一度昇り詰めた感覚は……余計に刺激に対して鋭敏に。どん欲になっているものなのだ。
「も……やだ……」
パジャマの上着をむしりとろうとすると、また手首を押さえられた。
「ディフ……もう少し待って」
「……………わ……わかった………」
レオンの身体が一旦離れて行く。ベッドサイドの引き出しが開く音がして、足の間にとろりと粘つく液体が滴り落ちてきた。
「あっ、冷た……っ」
「君が……熱いんだ」
正体はもうわかってる。ローションだ。上から二段目の引き出しの小さなボトルの中味。
「う………あ…………………きもち……いい……」
うっすらと唇を開け、肩で息をした。体内に荒れ狂う熱を少しでも逃がそうとして。
くるりとうつ伏せにされ、今度は背後からローションをかけられた。
身体の窪みをつたい、流れて……さっきかけられた分と合わさり、混じり合って行く。
「く……ん……んんっ……レオン……っ」
シーツを掴み、足を開いた。不覚にも少し震えた………与えられる刺激以外のもので。
(しっかりしろ。ここには手錠も、針もない。香っているのは花だ。消毒薬のにおいなんかじゃない)
「……怖い?」
「…………平気……だ………お前だから。信じてる」
たっぷりローションをからめた指がアヌスの表面を撫で、つるりと奥まで入って来る。
「く……ぅう……レオン……」
かき回された。
いつもより動きが早い……ほんの少しだけ。
(我慢できないのは俺も同じだよ、ディフ)
「はっ、あ、う、あ、あ、あぁっ! い、いいっ、気持ち……い……あぅっ」
腰をくねらせ、艶っぽい声で鳴いている。
青みをおびたグレイの布の下では背中に刻まれたライオンと翼が……さぞいい色に色づいていることだろう。
「お前の……ゆび……すごく………いい……んっ、もっと……っ」
「……もっと……ね」
ずぶりと2本目の指を沈め、彼の中で広げた。
「う……ぁっ」
目を見開いてぶるぶる震えながら、それでも後ろの口はひくひくと震え、蠢き、2本の指をしゃぶっている。
後ろをいじっているうちに、また前が堅くなってきたのだろうか。真新しいシーツにこすりつけ始めた。
その動物じみた仕草に、かろうじて欲情を押さえていた鎖が引き絞られ、限界に達し……弾ける。
一本、また一本と。
(奴も、こんな風に君を抱いたのか?)
「あ……あ……レオン……欲しい……お前の……」
ぽってりと充血した後ろが脈動し、指を締めつける。もっと確かな存在が欲しいのだとすがりつく。
この身体が他の男に抱かれたのかと思うと……。
彼の意志をねじ伏せ、抗えぬよう身体の自由を奪って為されたことだとわかっていても。
止められない。
魂の奥底からわき上がるどす黒い嫉妬が。
(男に抱かれた君がどんな反応をするか、知り尽くしているから)
ぐい、と指を奥までねじ込み、捻りあげる。
くっと背中が反り返り、甲高い悲鳴がほとばしった。
「レオン……レオン……レオンっ」
※ ※ ※ ※
指を引き抜き、ゴムをつけている間、ディフは指が白くなるほどシーツを握りしめて震えていた。唇を噛みしめて、堅く目を閉じて。
くい、と上衣の襟に手をかけて引き下ろし……彼の翼にキスをした。
「ぁ」
うっすら目を開けてほほ笑んでいる。
「挿れるよ」
「ぁっ…………来てくれ……レオン。欲しいのは、お前だけだ」
片手をのばして、シーツを掴む手に重ねると、そろっと手を返して握り返してきた。
「……愛してる、レオン……」
さっきから何度呼ばれたろう。すがるように、くり返し。
自分に言い聞かせているのだ……確かにここにいるのは俺なのだと。
「……力を抜いて」
「わかった………」
目を細めて顔を伏せるとディフは息を吐き、身体の力を抜いた。
後ろから中に入る。
ゆっくりと。
ゆっくりと。
「あ………く……う……」
震えながら受け入れてくれた。ともすれば体が堅くなりそうになるのを、必至でこらえている気配が伝わってきた。
「レオン…………」
「……大丈夫、俺のすべては君のものだ……君が望む限り」
「レオン……レオン……俺も……お前の……お前……だけの………っ」
肩越しに振り返る彼の目からすーっと一粒涙がこぼれ落ちる。
「もう、誰にも触れさせない。二度と」
「愛してる……君だけだ……俺がほしいのは」
ディフはうなずくとにっこりとほほ笑んで、ぐいっと握り合わせた手を引っぱった。
「今度は……俺に教えてくれ。これが夢じゃないって」
「ディフ」
「レオ……ン……」
後ろからのしかかると背中にキスをして、奥まで突き上げる。ゆるやかな動きで、くり返し。
「あっ……あ……う……あっ」
どうしたのだろう? 歯を食いしばり、何か懸命にこらえているようだが……恐怖や苦痛とは少しばかり質が違うようだ。
「だめだよ、我慢しちゃ」
「う……この……布……こすれて‥‥あ‥‥‥‥‥」
弱々しく首を横に振っている。髪の毛が乱れて汗ばんだ首筋に張り付いた。
「だめだ………このままじゃ、俺……いやらしいこと、口走る…………も……」
「……聞かせて。夢じゃないんだろう?」
耳たぶを甘噛みし、すうっと喉笛を指先でなで上げる。
「このっ、調子に……乗るなよ……レオンっ」
ほとんど悲鳴に近い声だった。
「……しかたないね」
動きを止める。
高められた熱と欲情が唐突に彼の中で行き場を無くし、荒れ狂う。
「……………っっ」
くしゃっと顔を歪ませた。眉根を寄せ、うっすら開いた口の端を細かく震わせている。これ以上ないと言うくらいに切なげな表情だ。
「動いてくれ……たのむ………」
すすり泣きのような声だった。
「もっと強く……激しくしてくれ。抉ってくれ、突いてくれっ。俺の中を、お前でいっぱいにしてくれ……レオンっ」
掠れた声を喉から振り絞り、かろうじて最後まで言い終えると、ディフは自分の耳を塞いでベッドに突っ伏してしまった。閉じた目蓋の間から涙があふれ、シーツを濡らす。食いしばった歯の間からかすかな嗚咽が漏れた。
(ああ、俺は……何てことを)
彼を辱めてしまった。他ならぬ彼自身の言葉で。
「……ごめん」

そっと背中にキスをする。左右の翼の付け根に、一度ずつ。
「あ……」
「手……ついて。しっかり身体、支えて」
「わかっ……た」
一旦入り口近くまで引いてから、おもむろに奥までえぐった。ディフに求められるまま、強く、激しく。
「あ……う……、く、あっ、う、あうっ、んんっ」
今や絹の寝間着はすっかり肩から滑り落ち、背中が露になっていた。
喉の奥から無防備な悲鳴が上がり、しなやかな背中がうねる。やわらかな黄褐色に彩られた翼が羽ばたく。
(やっぱり君は俺の天使だよ……)
「んっ、んっ、あ、ひ、うぅっ、んぅ、レオン……いい……気持ち……いい…レオン……レ……オ……あっ、もっと……っ」
息も絶え絶えになりながら何度もレオンの名前を呼び、自分から腰を動かし始める。
今までここまで素直に彼が声を挙げ、自分から快楽に溺れる姿を晒したことがあっただろうか。
「愛してる……ディフ……」
「俺……も…………………愛してる、レオン」
蠢き、絡み付く後ろの感触と、乱れるディフの姿と声に追い詰められ、次第にレオンの動きが激しくなって行った。
引き締まった腰を抱え込むと、ぐっと奥まで突き上げる。
「ひっあ、ああっ、レ……オ…………………レオンっ」
ぐいぐいと締めつけながらディフは背を弓なりにそらせて痙攣し、熱い『ミルク』をたっぷりと吐き出した。
かすかにほほ笑みさえ浮かべて……。
「く……ぅう………」
天使の笑顔に見蕩れながら、レオンは体内に貯えていた全ての熱情を解き放ち、注ぎ込んだ。薄い膜を通して熱さを感じたのかディフの後ろがひくっとまた締まる。
ふと見下ろすと、背中のライオンと翼がいい色に浮び上がっていた。
「ああ……きれいだ」
顔を掏り寄せ、キスをする。
小さな声で、ディフは甘えるようにレオンの名前を呼んでいた。くり返し、何度も、何度も。唇が触れるとびくっと震えた。
※ ※ ※ ※
名残を惜しみつつディフの体内から抜け出すと、改めて向かい合って抱きしめた。
安心しきった表情でしがみつき、顔を掏り寄せてくる。
「夢じゃ……ないよ……レオン………心細くなったら……教えてやる。何度でも」
波打つ赤い髪に指をからめた。
「……君が居るなら、夢でもなんでも構わないんだ、本当は」
「一緒に居るよ。離さない………ずっと。何があっても」
掠れた声で囁いて、ディフはレオンの頭を撫でた。ゆっくりと何度も、愛おしげに。合間に額や頬にキスをしながら。
「君がいないと……だめなんだ」
「前にも言ったろ。俺がいなくてだめになるんなら、ずーっとお前にひっついてやる、嫌だって言っても離さないって」
「ああ」
「……俺もお前がいないと、だめだ。お前でなくちゃ、だめだ」
手をとり、左の薬指に光る指輪に口付けるレオンを、ディフはうっとりと目を細めて見守った。
「お前は……俺の唯一の伴侶だよ。大事な夫だ」
「ああ……愛してる」
返事の代わりに、濃厚なキスが唇に。
抱き寄せて応えながら、ディフの背に手を回す。
(そう言えば、後ろから愛し合うのは…………久しぶりだったな)
目蓋を閉じると、翼のうねり、羽ばたく有り様が蘇る。去年の11月、倉庫の下敷きになったときの傷も今は翼の下に隠れてしまった。
タトゥーを撫でると、喉の奥から小さな呻きが漏れた。
小さくほくそえむと、レオンは抱きしめる腕に力を込めた。
(もう二度と誰にも触れさせない。俺だけの、愛しい天使)
(蜜月の夜/了)
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