▼ 【side7-3】★★★蜜月の夜3
ディフは軽くパニックを起こしそうになった。しかしレオンの腕が太ももと腰にしっかりと回され、逃げられない。
「そんなっ、こんな格好でっ」
もし、今だれかが自分たちの姿を見たら……まるで自分がレオンの口を犯しているように見えるだろう。
想像しただけで身がすくむ。
しかし身体はどうしようもなく正直だ。
レオンに強く吸い上げられているうちに我慢できなくなってきた。腰が勝手に動き始める。
「あ、あ、レオン、そんなに……強く……ああ、だめだっ」
レオンは答えない。
口一杯にディフのモノを頬張ったまま、後ろに回した手をズボンの中に潜り込ませ……尻の頬肉をかきわけて、後ろの口を弄り始める。
「ひっっ……も、だ……め……出る………」
眉をぎゅっとよせてぶるぶる震えている。口の中の彼ははち切れそうに膨れあがり、どくどくと脈打っている。
(我慢しなくていいんだよ、ディフ……)
胸の内でつぶやきながら、何かを欲しがるように浅く息づく後ろに指先を押し込んだ。
「あーっっっ!」
充血した入り口は指先を美味そうにくわえ込み、一段と強く吸われたペニスの先端からレオンの中にたっぷりと、熱い精液がほとばしる。
「や……だめだ……レオン……こんな……あ……ああ」
喉が上下してる。飲み込んでるんだ。
あまさず飲み込み、最後まで吸い上げて……先端まで丹念にすすり上げている。
「ひ……んっ、う……くぅ……」
レオンの姿に我を忘れて見蕩れた。
彼の口を汚した。いけない事をしてしまったとわかっていても、目をそらす事ができなかった。勢いを失った自分の分身が彼の口中からずるりとこぼれ落ちる、その有り様にさえ胸が高鳴る。
(どうなっちまったんだ、俺はっ!)
「……きれい……だ……」
「舐めてるところが?」
「………」
こくっとうなずく。目の縁に涙さえにじませて。
感じたことに嘘はつけない。
「この格好だと抱きしめにくいな」
「……あ……ちょっと待ってろ」
そろりとレオンの上から降りて脇にどいて……初めて自覚する。自分がどんな恥ずかしい姿をしているか。
パジャマの上着のボタンは半分まで外れ、胸が露に。片袖はかろうじて肩に引っかかっているが引っぱればすぐに外れそうだ。
ズボンなんか途中までずり落ちて膝のあたりにひっかかったままだ。
あわてて引き上げようとしていると。
「うっ?」
肩をつかまれ、仰向けに押し倒される。あっと思う間もなく唇がふさがれていた。
(……レオンっ)
互いの唇をむさぼっているとぐいっと腰を引き寄せられる。
ほんの少しの間もがいてから改めて自分の身体をすりよせ、レオンを刺激する。
「……っ、ぅ……」
レオンの喉の奥から小さく声が漏れた。
(そうだよな。お前はまだイってないものな)
しっとりと汗ばんだ体をなで回し、鎖骨のあたりにキスをする。自分よりいくぶん華奢ではあるが鞭のようにしなやかで、鹿狩りの猟犬を彷彿させる身体が手の下で震えている。
しばらくその感触に没頭していると、レオンが髪に手をのばしてきて、指先で弄びはじめた。
「や、あぁっ……だ、だから、髪いじるのは、反則だぞっ」
「何故? 髪の毛に触覚なんか存在しない」
低い声で囁きながら今度は耳たぶをつまんできた。
「ここには……あるけどね」
「く……うぅっ」
だめだ。
もう、我慢できない。
身をよじりながらズボンを脱ぎ捨て、パジャマの残りのボタンを全部外す。
一回自分は果てたからもう余裕だと思っていたが、甘かった。一度昇り詰めた感覚は……余計に刺激に対して鋭敏に。どん欲になっているものなのだ。
「も……やだ……」
パジャマの上着をむしりとろうとすると、また手首を押さえられた。
「ディフ……もう少し待って」
「……………わ……わかった………」
レオンの身体が一旦離れて行く。ベッドサイドの引き出しが開く音がして、足の間にとろりと粘つく液体が滴り落ちてきた。
「あっ、冷た……っ」
「君が……熱いんだ」
正体はもうわかってる。ローションだ。上から二段目の引き出しの小さなボトルの中味。
「う………あ…………………きもち……いい……」
うっすらと唇を開け、肩で息をした。体内に荒れ狂う熱を少しでも逃がそうとして。
くるりとうつ伏せにされ、今度は背後からローションをかけられた。
身体の窪みをつたい、流れて……さっきかけられた分と合わさり、混じり合って行く。
「く……ん……んんっ……レオン……っ」
シーツを掴み、足を開いた。不覚にも少し震えた………与えられる刺激以外のもので。
(しっかりしろ。ここには手錠も、針もない。香っているのは花だ。消毒薬のにおいなんかじゃない)
「……怖い?」
「…………平気……だ………お前だから。信じてる」
たっぷりローションをからめた指がアヌスの表面を撫で、つるりと奥まで入って来る。
「く……ぅう……レオン……」
かき回された。
いつもより動きが早い……ほんの少しだけ。
(我慢できないのは俺も同じだよ、ディフ)
「はっ、あ、う、あ、あ、あぁっ! い、いいっ、気持ち……い……あぅっ」
腰をくねらせ、艶っぽい声で鳴いている。
青みをおびたグレイの布の下では背中に刻まれたライオンと翼が……さぞいい色に色づいていることだろう。
「お前の……ゆび……すごく………いい……んっ、もっと……っ」
「……もっと……ね」
ずぶりと2本目の指を沈め、彼の中で広げた。
「う……ぁっ」
目を見開いてぶるぶる震えながら、それでも後ろの口はひくひくと震え、蠢き、2本の指をしゃぶっている。
後ろをいじっているうちに、また前が堅くなってきたのだろうか。真新しいシーツにこすりつけ始めた。
その動物じみた仕草に、かろうじて欲情を押さえていた鎖が引き絞られ、限界に達し……弾ける。
一本、また一本と。
(奴も、こんな風に君を抱いたのか?)
「あ……あ……レオン……欲しい……お前の……」
ぽってりと充血した後ろが脈動し、指を締めつける。もっと確かな存在が欲しいのだとすがりつく。
この身体が他の男に抱かれたのかと思うと……。
彼の意志をねじ伏せ、抗えぬよう身体の自由を奪って為されたことだとわかっていても。
止められない。
魂の奥底からわき上がるどす黒い嫉妬が。
(男に抱かれた君がどんな反応をするか、知り尽くしているから)
ぐい、と指を奥までねじ込み、捻りあげる。
くっと背中が反り返り、甲高い悲鳴がほとばしった。
「レオン……レオン……レオンっ」
※ ※ ※ ※
指を引き抜き、ゴムをつけている間、ディフは指が白くなるほどシーツを握りしめて震えていた。唇を噛みしめて、堅く目を閉じて。
くい、と上衣の襟に手をかけて引き下ろし……彼の翼にキスをした。
「ぁ」
うっすら目を開けてほほ笑んでいる。
「挿れるよ」
「ぁっ…………来てくれ……レオン。欲しいのは、お前だけだ」
片手をのばして、シーツを掴む手に重ねると、そろっと手を返して握り返してきた。
「……愛してる、レオン……」
さっきから何度呼ばれたろう。すがるように、くり返し。
自分に言い聞かせているのだ……確かにここにいるのは俺なのだと。
「……力を抜いて」
「わかった………」
目を細めて顔を伏せるとディフは息を吐き、身体の力を抜いた。
後ろから中に入る。
ゆっくりと。
ゆっくりと。
「あ………く……う……」
震えながら受け入れてくれた。ともすれば体が堅くなりそうになるのを、必至でこらえている気配が伝わってきた。
「レオン…………」
「……大丈夫、俺のすべては君のものだ……君が望む限り」
「レオン……レオン……俺も……お前の……お前……だけの………っ」
肩越しに振り返る彼の目からすーっと一粒涙がこぼれ落ちる。
「もう、誰にも触れさせない。二度と」
「愛してる……君だけだ……俺がほしいのは」
ディフはうなずくとにっこりとほほ笑んで、ぐいっと握り合わせた手を引っぱった。
「今度は……俺に教えてくれ。これが夢じゃないって」
「ディフ」
「レオ……ン……」
後ろからのしかかると背中にキスをして、奥まで突き上げる。ゆるやかな動きで、くり返し。
「あっ……あ……う……あっ」
どうしたのだろう? 歯を食いしばり、何か懸命にこらえているようだが……恐怖や苦痛とは少しばかり質が違うようだ。
「だめだよ、我慢しちゃ」
「う……この……布……こすれて‥‥あ‥‥‥‥‥」
弱々しく首を横に振っている。髪の毛が乱れて汗ばんだ首筋に張り付いた。
「だめだ………このままじゃ、俺……いやらしいこと、口走る…………も……」
「……聞かせて。夢じゃないんだろう?」
耳たぶを甘噛みし、すうっと喉笛を指先でなで上げる。
「このっ、調子に……乗るなよ……レオンっ」
ほとんど悲鳴に近い声だった。
「……しかたないね」
動きを止める。
高められた熱と欲情が唐突に彼の中で行き場を無くし、荒れ狂う。
「……………っっ」
くしゃっと顔を歪ませた。眉根を寄せ、うっすら開いた口の端を細かく震わせている。これ以上ないと言うくらいに切なげな表情だ。
「動いてくれ……たのむ………」
すすり泣きのような声だった。
「もっと強く……激しくしてくれ。抉ってくれ、突いてくれっ。俺の中を、お前でいっぱいにしてくれ……レオンっ」
掠れた声を喉から振り絞り、かろうじて最後まで言い終えると、ディフは自分の耳を塞いでベッドに突っ伏してしまった。閉じた目蓋の間から涙があふれ、シーツを濡らす。食いしばった歯の間からかすかな嗚咽が漏れた。
(ああ、俺は……何てことを)
彼を辱めてしまった。他ならぬ彼自身の言葉で。
「……ごめん」
そっと背中にキスをする。左右の翼の付け根に、一度ずつ。
「あ……」
「手……ついて。しっかり身体、支えて」
「わかっ……た」
一旦入り口近くまで引いてから、おもむろに奥までえぐった。ディフに求められるまま、強く、激しく。
「あ……う……、く、あっ、う、あうっ、んんっ」
今や絹の寝間着はすっかり肩から滑り落ち、背中が露になっていた。
喉の奥から無防備な悲鳴が上がり、しなやかな背中がうねる。やわらかな黄褐色に彩られた翼が羽ばたく。
(やっぱり君は俺の天使だよ……)
「んっ、んっ、あ、ひ、うぅっ、んぅ、レオン……いい……気持ち……いい…レオン……レ……オ……あっ、もっと……っ」
息も絶え絶えになりながら何度もレオンの名前を呼び、自分から腰を動かし始める。
今までここまで素直に彼が声を挙げ、自分から快楽に溺れる姿を晒したことがあっただろうか。
「愛してる……ディフ……」
「俺……も…………………愛してる、レオン」
蠢き、絡み付く後ろの感触と、乱れるディフの姿と声に追い詰められ、次第にレオンの動きが激しくなって行った。
引き締まった腰を抱え込むと、ぐっと奥まで突き上げる。
「ひっあ、ああっ、レ……オ…………………レオンっ」
ぐいぐいと締めつけながらディフは背を弓なりにそらせて痙攣し、熱い『ミルク』をたっぷりと吐き出した。
かすかにほほ笑みさえ浮かべて……。
「く……ぅう………」
天使の笑顔に見蕩れながら、レオンは体内に貯えていた全ての熱情を解き放ち、注ぎ込んだ。薄い膜を通して熱さを感じたのかディフの後ろがひくっとまた締まる。
ふと見下ろすと、背中のライオンと翼がいい色に浮び上がっていた。
「ああ……きれいだ」
顔を掏り寄せ、キスをする。
小さな声で、ディフは甘えるようにレオンの名前を呼んでいた。くり返し、何度も、何度も。唇が触れるとびくっと震えた。
※ ※ ※ ※
名残を惜しみつつディフの体内から抜け出すと、改めて向かい合って抱きしめた。
安心しきった表情でしがみつき、顔を掏り寄せてくる。
「夢じゃ……ないよ……レオン………心細くなったら……教えてやる。何度でも」
波打つ赤い髪に指をからめた。
「……君が居るなら、夢でもなんでも構わないんだ、本当は」
「一緒に居るよ。離さない………ずっと。何があっても」
掠れた声で囁いて、ディフはレオンの頭を撫でた。ゆっくりと何度も、愛おしげに。合間に額や頬にキスをしながら。
「君がいないと……だめなんだ」
「前にも言ったろ。俺がいなくてだめになるんなら、ずーっとお前にひっついてやる、嫌だって言っても離さないって」
「ああ」
「……俺もお前がいないと、だめだ。お前でなくちゃ、だめだ」
手をとり、左の薬指に光る指輪に口付けるレオンを、ディフはうっとりと目を細めて見守った。
「お前は……俺の唯一の伴侶だよ。大事な夫だ」
「ああ……愛してる」
返事の代わりに、濃厚なキスが唇に。
抱き寄せて応えながら、ディフの背に手を回す。
(そう言えば、後ろから愛し合うのは…………久しぶりだったな)
目蓋を閉じると、翼のうねり、羽ばたく有り様が蘇る。去年の11月、倉庫の下敷きになったときの傷も今は翼の下に隠れてしまった。
タトゥーを撫でると、喉の奥から小さな呻きが漏れた。
小さくほくそえむと、レオンは抱きしめる腕に力を込めた。
(もう二度と誰にも触れさせない。俺だけの、愛しい天使)
(蜜月の夜/了)
トップヘ
「そんなっ、こんな格好でっ」
もし、今だれかが自分たちの姿を見たら……まるで自分がレオンの口を犯しているように見えるだろう。
想像しただけで身がすくむ。
しかし身体はどうしようもなく正直だ。
レオンに強く吸い上げられているうちに我慢できなくなってきた。腰が勝手に動き始める。
「あ、あ、レオン、そんなに……強く……ああ、だめだっ」
レオンは答えない。
口一杯にディフのモノを頬張ったまま、後ろに回した手をズボンの中に潜り込ませ……尻の頬肉をかきわけて、後ろの口を弄り始める。
「ひっっ……も、だ……め……出る………」
眉をぎゅっとよせてぶるぶる震えている。口の中の彼ははち切れそうに膨れあがり、どくどくと脈打っている。
(我慢しなくていいんだよ、ディフ……)
胸の内でつぶやきながら、何かを欲しがるように浅く息づく後ろに指先を押し込んだ。
「あーっっっ!」
充血した入り口は指先を美味そうにくわえ込み、一段と強く吸われたペニスの先端からレオンの中にたっぷりと、熱い精液がほとばしる。
「や……だめだ……レオン……こんな……あ……ああ」
喉が上下してる。飲み込んでるんだ。
あまさず飲み込み、最後まで吸い上げて……先端まで丹念にすすり上げている。
「ひ……んっ、う……くぅ……」
レオンの姿に我を忘れて見蕩れた。
彼の口を汚した。いけない事をしてしまったとわかっていても、目をそらす事ができなかった。勢いを失った自分の分身が彼の口中からずるりとこぼれ落ちる、その有り様にさえ胸が高鳴る。
(どうなっちまったんだ、俺はっ!)
「……きれい……だ……」
「舐めてるところが?」
「………」
こくっとうなずく。目の縁に涙さえにじませて。
感じたことに嘘はつけない。
「この格好だと抱きしめにくいな」
「……あ……ちょっと待ってろ」
そろりとレオンの上から降りて脇にどいて……初めて自覚する。自分がどんな恥ずかしい姿をしているか。
パジャマの上着のボタンは半分まで外れ、胸が露に。片袖はかろうじて肩に引っかかっているが引っぱればすぐに外れそうだ。
ズボンなんか途中までずり落ちて膝のあたりにひっかかったままだ。
あわてて引き上げようとしていると。
「うっ?」
肩をつかまれ、仰向けに押し倒される。あっと思う間もなく唇がふさがれていた。
(……レオンっ)
互いの唇をむさぼっているとぐいっと腰を引き寄せられる。
ほんの少しの間もがいてから改めて自分の身体をすりよせ、レオンを刺激する。
「……っ、ぅ……」
レオンの喉の奥から小さく声が漏れた。
(そうだよな。お前はまだイってないものな)
しっとりと汗ばんだ体をなで回し、鎖骨のあたりにキスをする。自分よりいくぶん華奢ではあるが鞭のようにしなやかで、鹿狩りの猟犬を彷彿させる身体が手の下で震えている。
しばらくその感触に没頭していると、レオンが髪に手をのばしてきて、指先で弄びはじめた。
「や、あぁっ……だ、だから、髪いじるのは、反則だぞっ」
「何故? 髪の毛に触覚なんか存在しない」
低い声で囁きながら今度は耳たぶをつまんできた。
「ここには……あるけどね」
「く……うぅっ」
だめだ。
もう、我慢できない。
身をよじりながらズボンを脱ぎ捨て、パジャマの残りのボタンを全部外す。
一回自分は果てたからもう余裕だと思っていたが、甘かった。一度昇り詰めた感覚は……余計に刺激に対して鋭敏に。どん欲になっているものなのだ。
「も……やだ……」
パジャマの上着をむしりとろうとすると、また手首を押さえられた。
「ディフ……もう少し待って」
「……………わ……わかった………」
レオンの身体が一旦離れて行く。ベッドサイドの引き出しが開く音がして、足の間にとろりと粘つく液体が滴り落ちてきた。
「あっ、冷た……っ」
「君が……熱いんだ」
正体はもうわかってる。ローションだ。上から二段目の引き出しの小さなボトルの中味。
「う………あ…………………きもち……いい……」
うっすらと唇を開け、肩で息をした。体内に荒れ狂う熱を少しでも逃がそうとして。
くるりとうつ伏せにされ、今度は背後からローションをかけられた。
身体の窪みをつたい、流れて……さっきかけられた分と合わさり、混じり合って行く。
「く……ん……んんっ……レオン……っ」
シーツを掴み、足を開いた。不覚にも少し震えた………与えられる刺激以外のもので。
(しっかりしろ。ここには手錠も、針もない。香っているのは花だ。消毒薬のにおいなんかじゃない)
「……怖い?」
「…………平気……だ………お前だから。信じてる」
たっぷりローションをからめた指がアヌスの表面を撫で、つるりと奥まで入って来る。
「く……ぅう……レオン……」
かき回された。
いつもより動きが早い……ほんの少しだけ。
(我慢できないのは俺も同じだよ、ディフ)
「はっ、あ、う、あ、あ、あぁっ! い、いいっ、気持ち……い……あぅっ」
腰をくねらせ、艶っぽい声で鳴いている。
青みをおびたグレイの布の下では背中に刻まれたライオンと翼が……さぞいい色に色づいていることだろう。
「お前の……ゆび……すごく………いい……んっ、もっと……っ」
「……もっと……ね」
ずぶりと2本目の指を沈め、彼の中で広げた。
「う……ぁっ」
目を見開いてぶるぶる震えながら、それでも後ろの口はひくひくと震え、蠢き、2本の指をしゃぶっている。
後ろをいじっているうちに、また前が堅くなってきたのだろうか。真新しいシーツにこすりつけ始めた。
その動物じみた仕草に、かろうじて欲情を押さえていた鎖が引き絞られ、限界に達し……弾ける。
一本、また一本と。
(奴も、こんな風に君を抱いたのか?)
「あ……あ……レオン……欲しい……お前の……」
ぽってりと充血した後ろが脈動し、指を締めつける。もっと確かな存在が欲しいのだとすがりつく。
この身体が他の男に抱かれたのかと思うと……。
彼の意志をねじ伏せ、抗えぬよう身体の自由を奪って為されたことだとわかっていても。
止められない。
魂の奥底からわき上がるどす黒い嫉妬が。
(男に抱かれた君がどんな反応をするか、知り尽くしているから)
ぐい、と指を奥までねじ込み、捻りあげる。
くっと背中が反り返り、甲高い悲鳴がほとばしった。
「レオン……レオン……レオンっ」
※ ※ ※ ※
指を引き抜き、ゴムをつけている間、ディフは指が白くなるほどシーツを握りしめて震えていた。唇を噛みしめて、堅く目を閉じて。
くい、と上衣の襟に手をかけて引き下ろし……彼の翼にキスをした。
「ぁ」
うっすら目を開けてほほ笑んでいる。
「挿れるよ」
「ぁっ…………来てくれ……レオン。欲しいのは、お前だけだ」
片手をのばして、シーツを掴む手に重ねると、そろっと手を返して握り返してきた。
「……愛してる、レオン……」
さっきから何度呼ばれたろう。すがるように、くり返し。
自分に言い聞かせているのだ……確かにここにいるのは俺なのだと。
「……力を抜いて」
「わかった………」
目を細めて顔を伏せるとディフは息を吐き、身体の力を抜いた。
後ろから中に入る。
ゆっくりと。
ゆっくりと。
「あ………く……う……」
震えながら受け入れてくれた。ともすれば体が堅くなりそうになるのを、必至でこらえている気配が伝わってきた。
「レオン…………」
「……大丈夫、俺のすべては君のものだ……君が望む限り」
「レオン……レオン……俺も……お前の……お前……だけの………っ」
肩越しに振り返る彼の目からすーっと一粒涙がこぼれ落ちる。
「もう、誰にも触れさせない。二度と」
「愛してる……君だけだ……俺がほしいのは」
ディフはうなずくとにっこりとほほ笑んで、ぐいっと握り合わせた手を引っぱった。
「今度は……俺に教えてくれ。これが夢じゃないって」
「ディフ」
「レオ……ン……」
後ろからのしかかると背中にキスをして、奥まで突き上げる。ゆるやかな動きで、くり返し。
「あっ……あ……う……あっ」
どうしたのだろう? 歯を食いしばり、何か懸命にこらえているようだが……恐怖や苦痛とは少しばかり質が違うようだ。
「だめだよ、我慢しちゃ」
「う……この……布……こすれて‥‥あ‥‥‥‥‥」
弱々しく首を横に振っている。髪の毛が乱れて汗ばんだ首筋に張り付いた。
「だめだ………このままじゃ、俺……いやらしいこと、口走る…………も……」
「……聞かせて。夢じゃないんだろう?」
耳たぶを甘噛みし、すうっと喉笛を指先でなで上げる。
「このっ、調子に……乗るなよ……レオンっ」
ほとんど悲鳴に近い声だった。
「……しかたないね」
動きを止める。
高められた熱と欲情が唐突に彼の中で行き場を無くし、荒れ狂う。
「……………っっ」
くしゃっと顔を歪ませた。眉根を寄せ、うっすら開いた口の端を細かく震わせている。これ以上ないと言うくらいに切なげな表情だ。
「動いてくれ……たのむ………」
すすり泣きのような声だった。
「もっと強く……激しくしてくれ。抉ってくれ、突いてくれっ。俺の中を、お前でいっぱいにしてくれ……レオンっ」
掠れた声を喉から振り絞り、かろうじて最後まで言い終えると、ディフは自分の耳を塞いでベッドに突っ伏してしまった。閉じた目蓋の間から涙があふれ、シーツを濡らす。食いしばった歯の間からかすかな嗚咽が漏れた。
(ああ、俺は……何てことを)
彼を辱めてしまった。他ならぬ彼自身の言葉で。
「……ごめん」
そっと背中にキスをする。左右の翼の付け根に、一度ずつ。
「あ……」
「手……ついて。しっかり身体、支えて」
「わかっ……た」
一旦入り口近くまで引いてから、おもむろに奥までえぐった。ディフに求められるまま、強く、激しく。
「あ……う……、く、あっ、う、あうっ、んんっ」
今や絹の寝間着はすっかり肩から滑り落ち、背中が露になっていた。
喉の奥から無防備な悲鳴が上がり、しなやかな背中がうねる。やわらかな黄褐色に彩られた翼が羽ばたく。
(やっぱり君は俺の天使だよ……)
「んっ、んっ、あ、ひ、うぅっ、んぅ、レオン……いい……気持ち……いい…レオン……レ……オ……あっ、もっと……っ」
息も絶え絶えになりながら何度もレオンの名前を呼び、自分から腰を動かし始める。
今までここまで素直に彼が声を挙げ、自分から快楽に溺れる姿を晒したことがあっただろうか。
「愛してる……ディフ……」
「俺……も…………………愛してる、レオン」
蠢き、絡み付く後ろの感触と、乱れるディフの姿と声に追い詰められ、次第にレオンの動きが激しくなって行った。
引き締まった腰を抱え込むと、ぐっと奥まで突き上げる。
「ひっあ、ああっ、レ……オ…………………レオンっ」
ぐいぐいと締めつけながらディフは背を弓なりにそらせて痙攣し、熱い『ミルク』をたっぷりと吐き出した。
かすかにほほ笑みさえ浮かべて……。
「く……ぅう………」
天使の笑顔に見蕩れながら、レオンは体内に貯えていた全ての熱情を解き放ち、注ぎ込んだ。薄い膜を通して熱さを感じたのかディフの後ろがひくっとまた締まる。
ふと見下ろすと、背中のライオンと翼がいい色に浮び上がっていた。
「ああ……きれいだ」
顔を掏り寄せ、キスをする。
小さな声で、ディフは甘えるようにレオンの名前を呼んでいた。くり返し、何度も、何度も。唇が触れるとびくっと震えた。
※ ※ ※ ※
名残を惜しみつつディフの体内から抜け出すと、改めて向かい合って抱きしめた。
安心しきった表情でしがみつき、顔を掏り寄せてくる。
「夢じゃ……ないよ……レオン………心細くなったら……教えてやる。何度でも」
波打つ赤い髪に指をからめた。
「……君が居るなら、夢でもなんでも構わないんだ、本当は」
「一緒に居るよ。離さない………ずっと。何があっても」
掠れた声で囁いて、ディフはレオンの頭を撫でた。ゆっくりと何度も、愛おしげに。合間に額や頬にキスをしながら。
「君がいないと……だめなんだ」
「前にも言ったろ。俺がいなくてだめになるんなら、ずーっとお前にひっついてやる、嫌だって言っても離さないって」
「ああ」
「……俺もお前がいないと、だめだ。お前でなくちゃ、だめだ」
手をとり、左の薬指に光る指輪に口付けるレオンを、ディフはうっとりと目を細めて見守った。
「お前は……俺の唯一の伴侶だよ。大事な夫だ」
「ああ……愛してる」
返事の代わりに、濃厚なキスが唇に。
抱き寄せて応えながら、ディフの背に手を回す。
(そう言えば、後ろから愛し合うのは…………久しぶりだったな)
目蓋を閉じると、翼のうねり、羽ばたく有り様が蘇る。去年の11月、倉庫の下敷きになったときの傷も今は翼の下に隠れてしまった。
タトゥーを撫でると、喉の奥から小さな呻きが漏れた。
小さくほくそえむと、レオンは抱きしめる腕に力を込めた。
(もう二度と誰にも触れさせない。俺だけの、愛しい天使)
(蜜月の夜/了)
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