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とりねこの小枝

彼氏だなんて嘘でしょ!?

2013/05/24 12:59 お姫様の話いーぐる
 こんな調子でアインヘイルダールに滞在している二週間の間、四の姫は一日も欠かさず騎士団の砦に通い続けた。
 ひたすら『私の騎士』に会う為に。何か妙だなとは思ったものの、モレッティ伯爵も深くは追求しなかった。

 娘と過ごす時間が増えるのは、彼にとっても嬉しかったからだ。たとえ、他の目的があるとしても。
 入り浸ると言っても騎士団の砦の中だ。周りにいるのは全て自分の部下。さしたる危険もなかろうと……。

 次の出向にも、ニコラは進んで父親に同行した。
 ひと月ぶりにアインヘイルダールにやって来て、さっそく屯所に行ってみたら、ダインがいなかった。

(また黒の世話してるのね?)

 厩舎をのぞいてみたら、何としたことか。黒馬の姿まで消えている!
 大慌てで屯所に引き返し、息せききって尋ねた。

「ディーンドルフはどこ?」

「確か外出中ですけど……どうだっけ、あいつ非番だし……。」

 居合わせた騎士たちは顔を見合わせて話し合う中、一人の青年が声を返した。

「あのー」

 進み出たのは、銀髪の新米騎士……見惚れるような整った顔立ちに笑顔を作るが、唇から飛び出たのは爆弾だった。

「ダイン先輩なら、彼氏の家に泊まり込んでますよ」
「何ですってぇえええ!」
「はい。ここんとこ非番の週は、いつも」

 ぐわわわわぁんっと、ニコラの頭の中で鐘が鳴った。

(か、彼氏ってどう言うこと! 恋人? 恋人なの?)

 私の騎士に、恋人がいた。それだけでもショックなのに、よりによって男が相手だなんてぇ!

「……どこなの」

 うつむき、ぶるぶる震えながら問いかけた。地の底から轟くような、低ぅい声で。

「はい?」
「ダインが泊まり込んでる家。どこ?」
「薬草店です。北区の裏通りにある」
「そう、ありがとう」

 それだけ聞けば、充分だった。
 くらくらする頭を抱えて、どうにかその場を立ち去った。途中、壁やら柱やらにごつん、こつんっとぶつかりつつ。

 四の姫が去ってから、屯所には一斉に突っ込みの嵐が吹き荒れた。主に銀髪の新米騎士に向かって。

「シャルダン! こら、お前、言うに事欠いて何てことをーっ」
「空気読め!」
「え、違うんですか?てっきりそうかと……。」
「いや、それは俺は知らねぇけど、言い方ってもんがあるだろ!?」

 悪びれもせず、シャルダンと呼ばれた騎士は答えた。淡々とした口調で、何でそんなに怒られるのかわからない、とでも言いたげな表情で。

「それに、団長のお嬢さんは聡明な方なんでしょ? 下手にごまかすよりは、正直に打ち明けた方がいいんじゃないかなって……」
「ああ、確かにお嬢さんは聡明で賢いけどな……それは三の姫だ!」

 銀髪の騎士は、ぱちぱちとまばたきして、顎に手を当てて首をかしげた。

「……おや?」
「今お前が話してたのは、四の姫!」
「やあ、これはうっかりしていました。道理で年の割に幼く見える方だなあと」
「おーまーえーはーっ!」
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