▼ 召しませ、魔法のスープ!1
2013/05/10 4:23 【お姫様の話】
アインヘイルダールの下町、北区と呼ばれる一角にその店はあった。
半ば木造、半ば石造りの古い建物。壁は白塗り、茅葺き屋根には所々草が芽吹いて根を下ろし、緑と灰褐色の斑模様を描いている。
通りに面した入り口の、軒先に下がる木彫りの看板は杖の突き出た大釜(Cauldron)の形をしていて、流れるような書体でこう記されていた。
『薬草・香草・薬のご用承ります』
季節は夏の入り口、双子月の始め。裏庭の薬草畑から吹く風が、甘く、つーんとした香りを含み優しく頬を撫でるのどかな昼下り。
カロロン……カロローン。
ブロンズのドアベルを高らかに響かせて、勢い良くドアが開け放たれる。
「しーしょーおっ!」
水色のスカートを翻し、金髪に青い瞳の少女が飛び込んできた。伯爵家の四の姫にして魔法学院の初等訓練生、ニコラ・ド・モレッティだ。
「……んぁ?」
薬草店の主、フロウはびくっと肩を震わせ、目を開ける。カウンター奥の座り心地の良いイスに腰掛け、午後の昼寝と決め込んでいたらしい。
膝の上では、黒と褐色の斑の猫が一匹。チョコレートドーナッツみたいくるりと丸まって、ぴくりと瞼を震わせたものの起きる気配は一向に無い。
警戒する必要が無いとわかっているからだ。
そうこうする間にニコラはちょこんっとカウンター前のスツールに腰を下ろす。
「もしかして、お昼寝中だった?」
「いや、寝てない、寝てないよ?」
ぬけぬけと答えながらくぁーむ、とあくびを一つ。悪びれる様子も無いし、ニコラも全く気にしない。
七ヶ月前に初めてこの店を訪れて以来、彼女はこの中年薬草師を師匠と仰ぎ、日々魔法の修業に明け暮れている。この程度のやり取りはもはや日常茶飯事、慣れっこなのだった。
「じゃあ学校の課題、ここでやっていい?」
「課題ねぇ。別に良いけどよ」
察するに道具や素材の必要な課題なのだろうとフロウは見当をつける。この店では薬草以外にも様々な術具や素材を扱っている。術式に必要な『力線』も強い。
実習にはうってつけの場所なのだ。
「で、一体どんなのが出たんだ?」
「今回のお題はね……」
そう言いながら、ニコラはぱらららっと持参したノートをめくる。
「どぉれ」
フロウは頬杖をつきながらもぞり、とニコラの手元をのぞき込む。
今はまだ、紙を閉じただけの帳面にすぎない。
革表紙でびしっと装丁された魔法使い特有の分厚い『ジャーナル』を使うには、まだ若すぎるのだ。とは言え、上質の紙は羊皮紙や屑紙に比べればまだまだ高価。日常の勉学に使うには、かなりの贅沢品だ。
本人もその事は薄々わかっているのだろう。
細かい文字ですき間なく、びっしりと書き込んでいる。
「『魔法のスープのレシピを考案しなさい、効果と材料は自由』……だって!」
「ぴゃああ!」
黒と褐色斑の猫がカウンターに飛び乗り、つぴーんっと尻尾を立てて細かく震わせる。スープと言う言葉に反応したらしい。
「すーぷ、すーぷ、すーぷ!」
「なるほどね、魔法のスープか」
魔法のスープ。
文字通り、普通のスープに術の触媒となる素材を加えてぐつぐつつ煮込み、呪文を封じ込めた圧縮魔法(packed magi)の一種だ。
使い方は至って単純、食べると効果が現われる。手間がかかる割に日持ちはしないものの、ポーションよりも難易度は低く、素材と手順さえ間違えなければ魔法訓練生でも作る事ができる。
「良いぜ、あんまり高いもんじゃなければ好きに使えば良いさね」
「ありがとう! じゃあ作業場と材料使わせてね。費用はちゃんとまとめて払うからー!」
師匠と弟子と言えどもその辺はきっちりしている。こちらが言い出すより早く申し出るあたり、しっかり躾けられているのだろう。さすが騎士の家柄と言うべきか。
真綿の宮殿で砂糖菓子だけ召し上がって生きてるようなお姫様とは、根本的にレベルが違う。
「さーてっと、何作ろうかなあ」
ニコラはうきうきしながら準備に取り掛かる。
さらりとした金髪をきりっとポニーテールに結い上げて、実習用のエプロンを着け、作業台へと駆けて行く。
カウンターの前に置かれた作業台は薬を調合するための場所だ。客の求めに応じてその場で作る事もある。
「なーべ、なーべ、おなべ。まずはお鍋!」
小鳥のようにさえずりながら、ニコラは卓上に置かれたコンロの上に片手鍋を乗せた。看板の『大鍋』に比べればかなり小振りだが、試作にはこれぐらいが丁度良い。
「魔法のスープの材料って、普通は食べられないものでもOKなんでしょ?」
「ん、ああ、程々にな?」
初っぱなから、何やら不吉な言葉を聞いたような気がする。魔術の触媒とスープの材料、どちらが主体か忘れてはいないと信じたい。
信じたいが。
さすがにしゃっきりと目を開けて、フロウは弟子の姿を見守った。
片やニコラは師匠の胸の内など知るよしも無く。金色の尻尾を揺らし、弾むような足取りで薬の材料と呪文の触媒の並んだ棚の間を行ったり来たりしている。まるで花から花へと飛び回る蝶々のように……いや、どっちかって言うとミツバチか。
「あ、トルマリンの粉末あった」
よりによってとんでもないのを選びなすった!
「ストップ、ストーップ!」
「え?」
雷系の呪文の触媒に使う物騒な粉末の瓶を抱えて、ちょこんと首を傾げている。既に使う気満々だ。
「とりあえず、こっち来い」
指先でコンコンとカウンターを叩くと、ニコラは素直に寄ってきた。が、にゅっと眉間にしわを寄せ、口を尖らせた。
「素材、自由に使っていいってゆったのに」
「……この馬鹿お嬢」
フロウは身を乗り出し、うらめしげに睨みつける少女の額を指でピンッと弾く。
ニコラはよろっとよろけておでこを押さえた。
「いったぁい!」
「ただ薬草を調合するだけならまだしも……まがりなりにも『魔法の品』を作る時に適当目分量で作ろうとするんじゃねぇ」
「う」
師匠の言葉は正しい。未だに不満げな色を残しながらも、ニコラは素直に頷いた。
その目の前に、ことりと、小さな黒板と白墨、続いてまっさらな羊皮紙とインク、そして羽ペンが置かれる。
「とりあえず、『どんなスープを作りたいか』『それにはどんな材料が必要だと思うか』を先に書き出せ」
こつ、とフロウの指先が黒板を叩く。
「まずはこっちにな。試食して上手く行ったら羊皮紙に清書しろ」
「うーうーうー……浮かれてました、ごめんなさい」
しおしおとうな垂れると、ニコラは素直に黒板を受け取り、白墨を手にカリカリとメモを取り始める。
「えっと、エナジーボールと同じ効果のスープを作るにはぁ……」
「あ~、その、……ニコラ?」
不穏な発言に、またじわりと冷汗がにじむ。
(だからトルマリンなんかに目ぇつけたのか)
「なんで、食い物で攻撃魔術を再現しようとしてるんだ?」
「え、だって」
ニコラはついっと右手をかかげ、指にはめたアクアマリンの指輪を見せた。水を象徴する魔導語の刻印された指輪は、始めて店を訪れた日にフロウが渡したものだ。
「最初に覚えた呪文だから」
なるほど、一理ある。
卵からかえったひな鳥が、最初に見た動く物を親だと認識するアレに近いものがある。
「普通、防御系とか、回復系とか、まずはそっちだろう?」
「あ、そっか、シールドとか、バイタリティとか、そっちだよね! 気がつかなかった!」
どうやら、方向修正に成功したようだ。思わず知らず眉が寄り、口元がゆるむ。
「食べたら体がしびれるスープってどんな毒物だよ」
それ以前に、そんな物騒な代物が果たしてスープとして認められるのかどうか。いっそ試験管にでもつめて、爆薬代わりに使った方が早い気がする。
「ま、レシピを提出するだけだからそれも有りなんだろうが……需要ないだろ、あまり」
「普通に一服盛った方が早いものね」
またぞろ、さらりと物騒な事を言ってる。
単純に事実を口にしてるだけなのだが、なまじ含むものがないだけに、好奇心の赴くまま実行しそうな危うさが漂う。
「やっぱりシールドはあれかな。亀の甲羅の粉末? それとも貝殻、あ、クルミの殻も行けそう!」
「まあ、その辺は自分で考えな。助言して欲しければしてやるけど、課題なんだろう?」
ぽやぽやとした無精髭に覆われた顎に軽く手を当てて、にやりと笑いかける。
「そうそう、あんまり調子こいて食えない物入れ過ぎると、味が保証できなくなるから。さっきも言ったが、程々にな?」
「ああん、食べられないものでスープを作るって言うのが浪漫なのに!」
「確かにまあ、術の触媒は全て魔力に変換されるから一応スープにはなるわな。だが……」
「だったら大丈夫ね!」
「最後まで聞けっての!」
「はい?」
「魔力の影響で、味が変質しやすくなるんだよ」
「えーと、それはつまり……術の触媒を入れれば入れるほど、へんてこりんな味になっちゃうって事?」
「ん、まあそう言う事さね」
さすが飲み込みが早い。
「まあ、後でハーブとか普通の調味料で整えりゃ、味はごまかせない事もないがな」
「じゃ、濃いめに味つければ大丈夫ね」
「ぴゃあ」
「ダイン、基本的に出された物は残さず食べる子だし?」
興味しんしんに、黒板をのぞきこむちびの頭をなでる。
誰が試食するのかは、既に確定しているようだ。
半ば木造、半ば石造りの古い建物。壁は白塗り、茅葺き屋根には所々草が芽吹いて根を下ろし、緑と灰褐色の斑模様を描いている。
通りに面した入り口の、軒先に下がる木彫りの看板は杖の突き出た大釜(Cauldron)の形をしていて、流れるような書体でこう記されていた。
『薬草・香草・薬のご用承ります』
季節は夏の入り口、双子月の始め。裏庭の薬草畑から吹く風が、甘く、つーんとした香りを含み優しく頬を撫でるのどかな昼下り。
カロロン……カロローン。
ブロンズのドアベルを高らかに響かせて、勢い良くドアが開け放たれる。
「しーしょーおっ!」
水色のスカートを翻し、金髪に青い瞳の少女が飛び込んできた。伯爵家の四の姫にして魔法学院の初等訓練生、ニコラ・ド・モレッティだ。
「……んぁ?」
薬草店の主、フロウはびくっと肩を震わせ、目を開ける。カウンター奥の座り心地の良いイスに腰掛け、午後の昼寝と決め込んでいたらしい。
膝の上では、黒と褐色の斑の猫が一匹。チョコレートドーナッツみたいくるりと丸まって、ぴくりと瞼を震わせたものの起きる気配は一向に無い。
警戒する必要が無いとわかっているからだ。
そうこうする間にニコラはちょこんっとカウンター前のスツールに腰を下ろす。
「もしかして、お昼寝中だった?」
「いや、寝てない、寝てないよ?」
ぬけぬけと答えながらくぁーむ、とあくびを一つ。悪びれる様子も無いし、ニコラも全く気にしない。
七ヶ月前に初めてこの店を訪れて以来、彼女はこの中年薬草師を師匠と仰ぎ、日々魔法の修業に明け暮れている。この程度のやり取りはもはや日常茶飯事、慣れっこなのだった。
「じゃあ学校の課題、ここでやっていい?」
「課題ねぇ。別に良いけどよ」
察するに道具や素材の必要な課題なのだろうとフロウは見当をつける。この店では薬草以外にも様々な術具や素材を扱っている。術式に必要な『力線』も強い。
実習にはうってつけの場所なのだ。
「で、一体どんなのが出たんだ?」
「今回のお題はね……」
そう言いながら、ニコラはぱらららっと持参したノートをめくる。
「どぉれ」
フロウは頬杖をつきながらもぞり、とニコラの手元をのぞき込む。
今はまだ、紙を閉じただけの帳面にすぎない。
革表紙でびしっと装丁された魔法使い特有の分厚い『ジャーナル』を使うには、まだ若すぎるのだ。とは言え、上質の紙は羊皮紙や屑紙に比べればまだまだ高価。日常の勉学に使うには、かなりの贅沢品だ。
本人もその事は薄々わかっているのだろう。
細かい文字ですき間なく、びっしりと書き込んでいる。
「『魔法のスープのレシピを考案しなさい、効果と材料は自由』……だって!」
「ぴゃああ!」
黒と褐色斑の猫がカウンターに飛び乗り、つぴーんっと尻尾を立てて細かく震わせる。スープと言う言葉に反応したらしい。
「すーぷ、すーぷ、すーぷ!」
「なるほどね、魔法のスープか」
魔法のスープ。
文字通り、普通のスープに術の触媒となる素材を加えてぐつぐつつ煮込み、呪文を封じ込めた圧縮魔法(packed magi)の一種だ。
使い方は至って単純、食べると効果が現われる。手間がかかる割に日持ちはしないものの、ポーションよりも難易度は低く、素材と手順さえ間違えなければ魔法訓練生でも作る事ができる。
「良いぜ、あんまり高いもんじゃなければ好きに使えば良いさね」
「ありがとう! じゃあ作業場と材料使わせてね。費用はちゃんとまとめて払うからー!」
師匠と弟子と言えどもその辺はきっちりしている。こちらが言い出すより早く申し出るあたり、しっかり躾けられているのだろう。さすが騎士の家柄と言うべきか。
真綿の宮殿で砂糖菓子だけ召し上がって生きてるようなお姫様とは、根本的にレベルが違う。
「さーてっと、何作ろうかなあ」
ニコラはうきうきしながら準備に取り掛かる。
さらりとした金髪をきりっとポニーテールに結い上げて、実習用のエプロンを着け、作業台へと駆けて行く。
カウンターの前に置かれた作業台は薬を調合するための場所だ。客の求めに応じてその場で作る事もある。
「なーべ、なーべ、おなべ。まずはお鍋!」
小鳥のようにさえずりながら、ニコラは卓上に置かれたコンロの上に片手鍋を乗せた。看板の『大鍋』に比べればかなり小振りだが、試作にはこれぐらいが丁度良い。
「魔法のスープの材料って、普通は食べられないものでもOKなんでしょ?」
「ん、ああ、程々にな?」
初っぱなから、何やら不吉な言葉を聞いたような気がする。魔術の触媒とスープの材料、どちらが主体か忘れてはいないと信じたい。
信じたいが。
さすがにしゃっきりと目を開けて、フロウは弟子の姿を見守った。
片やニコラは師匠の胸の内など知るよしも無く。金色の尻尾を揺らし、弾むような足取りで薬の材料と呪文の触媒の並んだ棚の間を行ったり来たりしている。まるで花から花へと飛び回る蝶々のように……いや、どっちかって言うとミツバチか。
「あ、トルマリンの粉末あった」
よりによってとんでもないのを選びなすった!
「ストップ、ストーップ!」
「え?」
雷系の呪文の触媒に使う物騒な粉末の瓶を抱えて、ちょこんと首を傾げている。既に使う気満々だ。
「とりあえず、こっち来い」
指先でコンコンとカウンターを叩くと、ニコラは素直に寄ってきた。が、にゅっと眉間にしわを寄せ、口を尖らせた。
「素材、自由に使っていいってゆったのに」
「……この馬鹿お嬢」
フロウは身を乗り出し、うらめしげに睨みつける少女の額を指でピンッと弾く。
ニコラはよろっとよろけておでこを押さえた。
「いったぁい!」
「ただ薬草を調合するだけならまだしも……まがりなりにも『魔法の品』を作る時に適当目分量で作ろうとするんじゃねぇ」
「う」
師匠の言葉は正しい。未だに不満げな色を残しながらも、ニコラは素直に頷いた。
その目の前に、ことりと、小さな黒板と白墨、続いてまっさらな羊皮紙とインク、そして羽ペンが置かれる。
「とりあえず、『どんなスープを作りたいか』『それにはどんな材料が必要だと思うか』を先に書き出せ」
こつ、とフロウの指先が黒板を叩く。
「まずはこっちにな。試食して上手く行ったら羊皮紙に清書しろ」
「うーうーうー……浮かれてました、ごめんなさい」
しおしおとうな垂れると、ニコラは素直に黒板を受け取り、白墨を手にカリカリとメモを取り始める。
「えっと、エナジーボールと同じ効果のスープを作るにはぁ……」
「あ~、その、……ニコラ?」
不穏な発言に、またじわりと冷汗がにじむ。
(だからトルマリンなんかに目ぇつけたのか)
「なんで、食い物で攻撃魔術を再現しようとしてるんだ?」
「え、だって」
ニコラはついっと右手をかかげ、指にはめたアクアマリンの指輪を見せた。水を象徴する魔導語の刻印された指輪は、始めて店を訪れた日にフロウが渡したものだ。
「最初に覚えた呪文だから」
なるほど、一理ある。
卵からかえったひな鳥が、最初に見た動く物を親だと認識するアレに近いものがある。
「普通、防御系とか、回復系とか、まずはそっちだろう?」
「あ、そっか、シールドとか、バイタリティとか、そっちだよね! 気がつかなかった!」
どうやら、方向修正に成功したようだ。思わず知らず眉が寄り、口元がゆるむ。
「食べたら体がしびれるスープってどんな毒物だよ」
それ以前に、そんな物騒な代物が果たしてスープとして認められるのかどうか。いっそ試験管にでもつめて、爆薬代わりに使った方が早い気がする。
「ま、レシピを提出するだけだからそれも有りなんだろうが……需要ないだろ、あまり」
「普通に一服盛った方が早いものね」
またぞろ、さらりと物騒な事を言ってる。
単純に事実を口にしてるだけなのだが、なまじ含むものがないだけに、好奇心の赴くまま実行しそうな危うさが漂う。
「やっぱりシールドはあれかな。亀の甲羅の粉末? それとも貝殻、あ、クルミの殻も行けそう!」
「まあ、その辺は自分で考えな。助言して欲しければしてやるけど、課題なんだろう?」
ぽやぽやとした無精髭に覆われた顎に軽く手を当てて、にやりと笑いかける。
「そうそう、あんまり調子こいて食えない物入れ過ぎると、味が保証できなくなるから。さっきも言ったが、程々にな?」
「ああん、食べられないものでスープを作るって言うのが浪漫なのに!」
「確かにまあ、術の触媒は全て魔力に変換されるから一応スープにはなるわな。だが……」
「だったら大丈夫ね!」
「最後まで聞けっての!」
「はい?」
「魔力の影響で、味が変質しやすくなるんだよ」
「えーと、それはつまり……術の触媒を入れれば入れるほど、へんてこりんな味になっちゃうって事?」
「ん、まあそう言う事さね」
さすが飲み込みが早い。
「まあ、後でハーブとか普通の調味料で整えりゃ、味はごまかせない事もないがな」
「じゃ、濃いめに味つければ大丈夫ね」
「ぴゃあ」
「ダイン、基本的に出された物は残さず食べる子だし?」
興味しんしんに、黒板をのぞきこむちびの頭をなでる。
誰が試食するのかは、既に確定しているようだ。