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ローゼンベルク家の食卓

【ex4-5】猫と話す本屋

2008/07/22 17:04 番外十海
 
「ただ今、リズ、ティナにアンジェラ、オードリー、バーナードJr.、ウィリアム……それとモニーク」
 
 みゃう、みゃう。
 にう、にう。
 甲高い歓声とともに、ぴんっと垂直に立てられた7本の尻尾に出迎えられる。
 二次会への参加は辞退した。「猫を留守番させているのでね……」と断って。

 マックスの顧客にペットを飼っている人間が多いからなのか、パーティ後に出口に用意された『ちょっとしたプレゼント』の選択肢に缶詰のキャットフードが入っていた。しかも、小エビ入りだ。
 迷わずケーキでもなく、犬用のクッキーでもなく、キャットフードを選んだ。

 リズは目を輝かせてぴちゃぴちゃと小エビ入りのキャットフードを平らげ、満足げに毛づくろいを始めた。
 子猫の中では末っ子のモニークだけがエビに挑戦し、ちょしちょしとスープを美味そうになめていた。

「いい式だったよ、リズ。しあわせになってほしいね、彼らには……そうだ、サリー先生と会ったよ」
「にゃ」

 リズはきちんと後足をたたんで座り、ブルーの瞳をまんまるにして見上げてきた。

「タキシードがよく似合ってた……。どうやら、サリーと言うのは通称らしいね」

『サクヤちゃん』

 Missヨーコは従弟をそう呼んでいた。おそらく、あれが母国での彼の正式な名前なのだろう。
 
「本名はサクヤと言うそうだ……美しい響きの言葉だね。まるで、源氏物語かおとぎ話に出てきそうな名前じゃないか」

 ほうっとため息。しばらく物思いにふける。
 閉じたまぶたの内側に、青いリボンが翻る。
 式の最後に行われたガータートス。花婿が後ろ向きに放り投げた靴下留めを受けとった者が次に結婚する。

 宙に舞った青い靴下留めを、空中ではっしと取ったのは爆弾探知犬デューイだった。しかし彼はその後とことこと歩いて行き、サリーに……いや、サクヤに渡したのだ。

「えーっと………………ありがとう、デューイ」
「あら、サクヤちゃん、いいものもらったね」
「………うん」

 サクヤは少し困ったような顔をしてお礼を言い、デューイの頭を撫でていた。
 ぱちりと目を開ける。

「リズ。今度、あの人に花を贈ろうと思うんだ。どうだろう?」

 リズは口の周りを舐めて目を細めて、一声

「……みゃ」と鳴いた。

 床にかがみこむと、エドワーズはしなやかな毛並みを撫でた。

「ちょうど夏薔薇が盛りだから……ね」
 
 果たして彼女がYesと答えたのか。あるいはNoと答えたのかは…………また次の機会に。
 
 
(猫と話す本屋/了)

その頃、サリー先生は…

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