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ローゼンベルク家の食卓

【3-13-5】虜囚

2008/06/13 3:40 三話十海
 後頭部に銃口を押し付けられたらお手上げだ。大人しくする以外に方法はない。
 まだ頭を吹っ飛ばされたくはない。

 銃を奪われ、財布も携帯も上着もろとも剥がされて。なす術もなく後ろ手に手錠をかけられた。

「どう言うことだ、フレディ……説明してもらおうか」
「こう言うことさ」

 フレディは無造作に上着を脱いだ。下に着ていたシャツは袖がなく、二の腕が露になる。思わず目を見開いた。
 自分の見ているものが信じられなかった。
 そこにはくっきりと、見覚えのあるタトゥーが。蠍の尾を持つ蛇が刻まれていた。

「警察をクビになって、刑務所にまでぶち込まれた俺が、今までどうしていたと思う?」

 フレディは歯をむき出してにやりと笑い、左腕のタトゥーを見せつけた。

「幹部待遇で迎えてくれたよ。前々から何かと便宜をはかってやってたからな。これぐらいの見返りは当然だろう。そうは思わないか、え、マックス?」

 ぐいっと顎をとられ、顔をのぞき込まれる。

「お前のぶっつぶしてくれた工場と撮影所、なあ……俺の傘下の組織が仕切ってたんだよ。いい稼ぎ場だったのに、余計なマネしやがって」
「貴様ぁっ」

 お前がオティアをあんな目に合わせたのか。お前が、シエンを攫ったのか!
 あの二人だけじゃない。何人もの年端もゆかない子どもたちに、何てマネしやがった!

「フレディ!」

 腹の底から低い唸り声が溢れ出す。牙を剥き、拘束された体で飛びかかろうとしたが、手下どもに遮られる。
 最初の2、3人はどうにか体を左右に振って振りほどいたが、四人目に顔面を殴り倒されて。もんどりうって床に倒れた所を数人がかりで押さえ込まれてしまった。

「くっそぉっ、離せっ」
「おお、怖い怖い……そうだよな、お前って奴ぁ子どもの事になるとすぐにムキになる……手錠ぐらいじゃ、足りないな」

 フレディは懐から黒い平べったいケースを取り出し、パチリと開いた。中から注射器を取り出すと、ガラス瓶に満たされた薬を吸い上げる。慣れた手つきだ。

「暴れるなよ。針が折れる」
「くっ……」

 シャツの袖が破かれ、二の腕に針が刺さる。じりじりと薬液が血管の中に送り込まれて行った。

「あ……何だ……これ……う……」
「熱いだろ……? もっと熱くなるぜ……」

 動悸が激しくなる。皮膚の奥がざわざわと波立ち、汗がにじんで来る。
 力が入らない……。

 フレディ、俺に何をした?

「そろそろかな……おい、ベッドに連れてってやれ」

 否応無く引きずって行かれると、客室、いや元客室には頑丈なベッドが残されていた。
 支柱に両手首を手錠で括り着けられる。

 足はフリーだ。
 だが、力がまるで入らない。高熱を出した時みたいにガタガタ震えて……弱々しくシーツの上を引っ掻くのが精一杯だ。

 かすかな金属音が聞こえた。
 フレディの手に飛び出しナイフが光っている。

 ぎしっとスプリングが軋む。のしかかって顔をのぞきこむと、フレディはナイフを逆手に持って胸元に近づけてきた。

 死を覚悟した。
 けれど奴の目的は……違っていた。

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