▼ 【3-13-8】ままのいない食卓
ディフが帰ってこない。
夕食の時間になっても戻らない。こんなこと、初めてだ。
どこに行っちゃったんだろう。
メールしても返事が来ない。いつもなら「サンクス」とか「今日は遅くなる」とか。ほんの一言、だけど必ず返事をくれるのに。
ものすごく迷ってから、電話してみた。
電源が、切られていた。
仕事で忙しいのかもしれない。
だけど、嫌な胸騒ぎがする。
震える手で携帯を閉じると、オティアが自分の携帯をかちゃりと開いてレオンに電話した。
「ディフが帰ってきてない」
その日の夕食はアレックスが作ってくれた。食卓ではほとんど誰も口をきかなかった。
夕食が終わった直後に荷物が届いた。バイク便で、封筒が一通。レオンが受け取り、さっと表面に目を走らせた。
「オティア。シエン。二人とも、部屋に行きなさい」
「でも、お皿、洗わないと……」
「アレックスに頼むから。いいね」
「……はい」
穏やかな声だった。でも、全然感情がこもっていない。冷たくて、固い、氷柱を呑んだような声だった。
オティアと二人、大人しく部屋に戻る。
四年前……セーブル家のパパとママがいなくなった日を思い出す。
あの時も最初は、ちょっと帰りが遅いなって思っただけだったんだ。まさか、永遠に帰ってこなくなるなんて。
やがて玄関のドアが開く気配がして、慌ただしく誰かが入ってきた。微かに聞こえる知らない声。知らない足音。
一体、何が起こっているのだろう?
胸が苦しい。
怖くて、心細くて、目に見えない壁に押しつぶされそうだ。
ベッドに潜り、丸くなって膝をかかえても震えが止まらない。
こんな時、『大丈夫だよ』って言ってくれるはずの人が今、そばに居ない。
どこに行っちゃったの、ディフ。
早く帰ってきて……お願いだから!
「……シエン」
そっと毛布の上からオティアが触れてきた。
おそるおそる顔を出す。
「オティア……」
「見てくる」
黙ってうなずき、見送った。
部屋を出て行く、オティアの背中を。
次へ→【3-13-9】天使のいない夜
夕食の時間になっても戻らない。こんなこと、初めてだ。
どこに行っちゃったんだろう。
メールしても返事が来ない。いつもなら「サンクス」とか「今日は遅くなる」とか。ほんの一言、だけど必ず返事をくれるのに。
ものすごく迷ってから、電話してみた。
電源が、切られていた。
仕事で忙しいのかもしれない。
だけど、嫌な胸騒ぎがする。
震える手で携帯を閉じると、オティアが自分の携帯をかちゃりと開いてレオンに電話した。
「ディフが帰ってきてない」
その日の夕食はアレックスが作ってくれた。食卓ではほとんど誰も口をきかなかった。
夕食が終わった直後に荷物が届いた。バイク便で、封筒が一通。レオンが受け取り、さっと表面に目を走らせた。
「オティア。シエン。二人とも、部屋に行きなさい」
「でも、お皿、洗わないと……」
「アレックスに頼むから。いいね」
「……はい」
穏やかな声だった。でも、全然感情がこもっていない。冷たくて、固い、氷柱を呑んだような声だった。
オティアと二人、大人しく部屋に戻る。
四年前……セーブル家のパパとママがいなくなった日を思い出す。
あの時も最初は、ちょっと帰りが遅いなって思っただけだったんだ。まさか、永遠に帰ってこなくなるなんて。
やがて玄関のドアが開く気配がして、慌ただしく誰かが入ってきた。微かに聞こえる知らない声。知らない足音。
一体、何が起こっているのだろう?
胸が苦しい。
怖くて、心細くて、目に見えない壁に押しつぶされそうだ。
ベッドに潜り、丸くなって膝をかかえても震えが止まらない。
こんな時、『大丈夫だよ』って言ってくれるはずの人が今、そばに居ない。
どこに行っちゃったの、ディフ。
早く帰ってきて……お願いだから!
「……シエン」
そっと毛布の上からオティアが触れてきた。
おそるおそる顔を出す。
「オティア……」
「見てくる」
黙ってうなずき、見送った。
部屋を出て行く、オティアの背中を。
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