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ローゼンベルク家の食卓

【3-13-15】★★刻印1

2008/06/13 3:53 三話十海
「新入りが入団する時は俺が入れてやるんだ。慣れたもんだぜ……」

 手術用のゴム手袋をはめながら、なめらかな背中を見おろす。ごくりと喉を鳴らして生唾をのみこみ、舌なめずりした。

 消毒薬を染み込ませた脱脂綿で背中を拭った。背骨を中心に肩甲骨に沿って。それだけでびくっとすくみあがり、細かく震えている。

「あれほどヤりまくったのにまだ足りないのか……つくづく淫乱な奴だ。テキサスの親父さんが知ったら何て言うだろうなあ」
「っ!」

 息を飲み、体を強ばらせた。嬉しいね、また一つお前の弱点を見つけたぞ。

「そうか……奴とデキてることは親父さんには秘密にしてるのか。悪い子だ。お仕置きが必要だな」

 つ、と背中に人さし指を這わせる。これから彫る絵柄のアウトラインをなぞって。
 また震えてやがる。ここに針を刺したらどうなるんだろうな?

「麻酔は無し、痛み止めも、無し、だ。痛かったら遠慮なく声を出せ、と言いたいとこだが、舌でも噛まれちゃコトだからな」
「うっ」

 猿ぐつわを噛ませ、前に回した手に手錠をかけ直す。逃げる力なんざとっくに残っていないのはわかっていたが、とにかく奴の体をこの場に繋ぎ止めておきたかったのだ。

 押さえ込んで手彫りで針を刺した。機械で彫るなんてそんなもったいないこと誰がするものか。

「んっ……ぅうっ」
「動くなよ? 余計に痛い思いをすることになるぜ」

 白い肌に深々と針を食い込ませる。
 そのたびにくぐもったうめき声が漏れる。お前みたいな感じやすい体の人間にはさぞ効くだろうよ。
 それとも、まだクスリが残ってるのか?
 
 ひと針、ひと針刻んでやろう。
 お前の肌に、俺の署名を。
 少しずつ時間をかけて。


 ※ ※ ※ ※


 夢中になってタトゥーを刻んだ。
 丹念に、ひと針ずつ。
 ぶっ通しで6時間、恋い焦がれた男の背中に。
 普通ならこれぐらいの大きな絵柄を彫るのは3〜4回に分けて行うもんだ。
 さもなきゃ皮膚が炎症を起こして、真っ赤に腫れ上がって、熱が出て、体がもたない。
 
 ………ちょうどこんな具合にな。

「できたぜ……お前に似合いのを入れてやったよ」

 背骨を中心に肩甲骨に沿うようにして彫られた『広げた翼』。その中央に蛇が一匹絡み付いている。蛇の尾の先端は蠍の毒針に変わり、深々と翼に突き立てられていた。
 蠍の尾を持つ蛇の背に刻印された己の署名を見下ろす。
 "Freddie"
 いつもお前が呼んだ名だ。

「う……」

 ぐったりしていた奴がわずかに反応する。とうとう最後まで持ちこたえちまったな。
 いっそ気を失っていた方が楽だったろうに。

「お前はこれから一生、俺の名前を背負って生きて行くんだ……一生な」
「っ………」

 何度針を刺されても流れなかった涙が、つーっと一筋こぼれ落ちる。顔をよせ、舐めとった。


通常ルート→【3-13-17】★★刻印3
鬼畜ルート→【3-13-16】★★★★刻印2
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