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ローゼンベルク家の食卓

【3-9-1】夕食は四人分

2008/04/18 21:28 三話十海
 まだかな。

 シエンはさっきから、ドアの外が気になってしょうがない。
 そろそろ食事の仕度が終わるのに、一向に来る気配がないのだ。

「今日は皿、四人分でいいぞ」

(えっ?)

 ディフの言葉に思わず目を見開いた。

「ヒウェル……は?」
「あいつは今、出入り禁止くらってる。刑期は三日だ」
「オティアのせい?」
「オティアも関係ある。だが、今回はヒウェルの自業自得だ」


 ディフは微妙に嘘をつく。
 まったくの嘘じゃないけれど。それが、自分やオティアを守ろうとする思いから来るものだってことも、わかるようになったのだけど。
 今みたいな言い方をするってことは、やっぱりオティアが原因なんだ。

 うなだれていると、ディフが遠慮がちに声をかけてきた。

「シエン……………その………あー……」
「ヒウェルごはんどうするのかな」
「プロテインバーかチョコバーか、コーヒー。あとは……ヤニかな」


 何だかどれもあまり美味しそうじゃない。三日間、そんな食事ばっかりじゃ栄養もかたよりそうだ。体によくないよ。
 ちらりと今作っている夕飯を見る。

「………………これ、持っていっても……いい……?」

 ディフはじっとシエンの顔を見て、それからほんの少しだけ目元を和ませた。

「そうだな。多分、余る。これ使え」

 タッパーを渡してくれた。受けとって、料理をつめる。
 メインのポークとキャベツのポッドローストも。カボチャのサラダも、きっちり一人分。スープは……さすがに難しいかな。
 首をひねっていると、オティアが横を通り抜けながら一言、ぼそりと言った。

「甘やかすな」
「………」

 しょんぼりとうなだれ、力無く手を降ろす。


 一人分取り分けた夕食は、結局、持って行くことができなかった。


 ※  ※  ※  ※


 ずっと、一緒だった。
 二人で一人。お互いがこの世界で唯一の大切な存在。
 同じものを見て。
 同じことを思って。
 同じステップで歩いてきた。

 それは瞬き一つに満たないほどのかすかなゆらぎ。それでも確かにその瞬間、二人は別々の『一人』だった。


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