▼ 【3-14-8】★ずっと一緒に
シャワーは別々に浴びた。
どうしてもレオンにこの体を見せたくなかった……見せられなかった。
寝室に戻り、ためらいながら彼の肩に手をかける。顔を近づけ、耳もとに口を寄せる。形の良い耳たぶにそっと口付けた。
「……くすぐったいよ」
柔らかな微笑みに勇気づけられる。
やっと、正真正銘、二人っきりになれた。もう、面会時間の終わりを気にする必要はない。
誰はばかることなく、ずっと言いたかった言葉を囁くことができる。
「レオン……」
「ん……」
絹のような明るい褐色の髪をかきあげる。
「あ……」
声が、止まった。
今さら何、照れてるんだ?
伝えたいのは、ただ一言「愛してる」。さすがに病室で囁く度胸はなかったが、今まで何十回となく言ってきた言葉じゃないか。
「どうしたんだい?」
「な、なんでもない」
深く息を吸い、ゆっくり吐き出す。
……よし、行くぞ、仕切り直しだ。
おずおずと口を開く。
「…………」
声が出ない。出せない。舌に鍵がかかったみたいに動かない。息すらろくにできず、喉が詰まる。
「う……」
最愛の人に、その事実を伝えることができない。やっとお前のそばに帰って来ることができたのに!
言いたいのに、言えない。苦しい。悲しい、やり切れない。
それなのに涙さえ出やしない。
謝罪の言葉さえも。
「う……ぁ…あ……」
喉を。胸をかきむしり、髪を振り乱して身をよじる。見えない枷を引きちぎろうと、必死でかきむしる。
「欲しくてたまらないんだろ? お望み通りにしてやるぜ。足開けよ、ほら」
「あれほどヤりまくったのにまだ足りないのか……つくづく淫乱な奴だ」
「ああ……いいぞ。遠慮する……な、もっと腰を振れ、ほら」
「ほんとに……いやらしい体だよ」
できるはずがない。
皮膚を侵食し、肉にまとわりつき、体の奥底にまで染みついているのだから。
(お前以外の男に抱かれたくなんかなかった。触れられたくなかった。それなのに……)
「さすがにキツそうだなぁ。口で上手にできたら、これ以上後ろは弄らないでおいてやるよ」
「いい眺めだ、たまんないね……ほら、もっと舌を使いな」
「……そう簡単に悪党を信じちゃダメだよ、お巡りサン? 失礼、元、だったよな」
「そらそら、上がお留守になってるぜ? こっちも忘れてもらっちゃ困るなぁ」
何度、果てただろう。
嬲られ、嘲られながらも嬌声をあげ、身をくねらせて…………。
背中の刻印が囁く。
『もうお前は……奴一人の可愛い恋人じゃないんだよ、ディフ』
「あぁっ」
薄い寝間着を引き裂いて、肌が自らの爪で傷だらけになり血がにじむ。それでも止まらない。
「……ディフ」
そっと手首を押さえられた。
レオンは何も言わない。ただ優しく受けとめられ、抱きしめられた。
すがりつき、すすり泣くような声で何度も名前を呼んだ。
「恐いんだ……ここに居るのはただの夢で……目がさめたら、まだあの部屋の冷たいベッドに括りつけられているんじゃないかって」
「もう君を誰も苦しめたりしない。俺が、させない。……愛してるよ」
「あ……して……る……レ……オ……」
「うん。わかってる」
初めて涙がこぼれた。
※ ※ ※ ※
ディフは俺の腕の中でひっそりと泣いた。
救出されてから一度も、他の人間の前では涙を見せなかった……おそらくは、ずっと、これからも。
(君の涙も、苦しみも、辛さも……全部俺の。俺だけのものだ)
ただのルームメイトから親友、そして恋人に。
彼との距離が近くなるにつれて、どんどん我慢ができなくなっていった。もう……限界だ。隣の部屋にも帰したくない。
いつか、きっとディフにつらい思いをさせてしまう。
そうとわかっていても、目の前の人を、どうしても、欲しかった。
「このまま……ずっとここに居てくれないか」
「………いいのか…?」
「君でなければ駄目なんだ。俺には…君が必要だよ、ディフ」
「俺は……俺は………………もう二度と…お前と……離れたくない……レオン」
「離さないよ。約束する」
「あいつらにされたことより、お前ともう会えないだろうって………そのことの方が、辛かった……それさえも、お前への裏切りなんじゃないかって」
抱きしめる腕に力が入る。
離すものか。絶対に。誰にも、渡さない。
※ ※ ※ ※
嬉しかった。
レオンに求められて。
彼だけのものになることができるのだと。
意地もプライドも全て脱ぎ捨てて……ただ、彼の腕の中にいたいと思った。
「何があっても離れたくない。お前だけだ、レオン。ずっと……一緒に居させてくれ……」
やわらかな囁きが耳をくすぐる。
「愛してる……」
「俺も………………………愛してる」
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どうしてもレオンにこの体を見せたくなかった……見せられなかった。
寝室に戻り、ためらいながら彼の肩に手をかける。顔を近づけ、耳もとに口を寄せる。形の良い耳たぶにそっと口付けた。
「……くすぐったいよ」
柔らかな微笑みに勇気づけられる。
やっと、正真正銘、二人っきりになれた。もう、面会時間の終わりを気にする必要はない。
誰はばかることなく、ずっと言いたかった言葉を囁くことができる。
「レオン……」
「ん……」
絹のような明るい褐色の髪をかきあげる。
「あ……」
声が、止まった。
今さら何、照れてるんだ?
伝えたいのは、ただ一言「愛してる」。さすがに病室で囁く度胸はなかったが、今まで何十回となく言ってきた言葉じゃないか。
「どうしたんだい?」
「な、なんでもない」
深く息を吸い、ゆっくり吐き出す。
……よし、行くぞ、仕切り直しだ。
おずおずと口を開く。
「…………」
声が出ない。出せない。舌に鍵がかかったみたいに動かない。息すらろくにできず、喉が詰まる。
「う……」
最愛の人に、その事実を伝えることができない。やっとお前のそばに帰って来ることができたのに!
言いたいのに、言えない。苦しい。悲しい、やり切れない。
それなのに涙さえ出やしない。
謝罪の言葉さえも。
「う……ぁ…あ……」
喉を。胸をかきむしり、髪を振り乱して身をよじる。見えない枷を引きちぎろうと、必死でかきむしる。
「欲しくてたまらないんだろ? お望み通りにしてやるぜ。足開けよ、ほら」
「あれほどヤりまくったのにまだ足りないのか……つくづく淫乱な奴だ」
「ああ……いいぞ。遠慮する……な、もっと腰を振れ、ほら」
「ほんとに……いやらしい体だよ」
できるはずがない。
皮膚を侵食し、肉にまとわりつき、体の奥底にまで染みついているのだから。
(お前以外の男に抱かれたくなんかなかった。触れられたくなかった。それなのに……)
「さすがにキツそうだなぁ。口で上手にできたら、これ以上後ろは弄らないでおいてやるよ」
「いい眺めだ、たまんないね……ほら、もっと舌を使いな」
「……そう簡単に悪党を信じちゃダメだよ、お巡りサン? 失礼、元、だったよな」
「そらそら、上がお留守になってるぜ? こっちも忘れてもらっちゃ困るなぁ」
何度、果てただろう。
嬲られ、嘲られながらも嬌声をあげ、身をくねらせて…………。
背中の刻印が囁く。
『もうお前は……奴一人の可愛い恋人じゃないんだよ、ディフ』
「あぁっ」
薄い寝間着を引き裂いて、肌が自らの爪で傷だらけになり血がにじむ。それでも止まらない。
「……ディフ」
そっと手首を押さえられた。
レオンは何も言わない。ただ優しく受けとめられ、抱きしめられた。
すがりつき、すすり泣くような声で何度も名前を呼んだ。
「恐いんだ……ここに居るのはただの夢で……目がさめたら、まだあの部屋の冷たいベッドに括りつけられているんじゃないかって」
「もう君を誰も苦しめたりしない。俺が、させない。……愛してるよ」
「あ……して……る……レ……オ……」
「うん。わかってる」
初めて涙がこぼれた。
※ ※ ※ ※
ディフは俺の腕の中でひっそりと泣いた。
救出されてから一度も、他の人間の前では涙を見せなかった……おそらくは、ずっと、これからも。
(君の涙も、苦しみも、辛さも……全部俺の。俺だけのものだ)
ただのルームメイトから親友、そして恋人に。
彼との距離が近くなるにつれて、どんどん我慢ができなくなっていった。もう……限界だ。隣の部屋にも帰したくない。
いつか、きっとディフにつらい思いをさせてしまう。
そうとわかっていても、目の前の人を、どうしても、欲しかった。
「このまま……ずっとここに居てくれないか」
「………いいのか…?」
「君でなければ駄目なんだ。俺には…君が必要だよ、ディフ」
「俺は……俺は………………もう二度と…お前と……離れたくない……レオン」
「離さないよ。約束する」
「あいつらにされたことより、お前ともう会えないだろうって………そのことの方が、辛かった……それさえも、お前への裏切りなんじゃないかって」
抱きしめる腕に力が入る。
離すものか。絶対に。誰にも、渡さない。
※ ※ ※ ※
嬉しかった。
レオンに求められて。
彼だけのものになることができるのだと。
意地もプライドも全て脱ぎ捨てて……ただ、彼の腕の中にいたいと思った。
「何があっても離れたくない。お前だけだ、レオン。ずっと……一緒に居させてくれ……」
やわらかな囁きが耳をくすぐる。
「愛してる……」
「俺も………………………愛してる」
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