ようこそゲストさん

ローゼンベルク家の食卓

ベッドメイキング

2009/02/03 21:13 番外十海
 隣に在った温もりが、ふっと薄らぐ。ロイはぱちりと目を開いた。
 手足が妙に重たい。頭が砂がつまったようにぼんやりして、うまく思考が回らない。とりあえず、ここは自分の部屋じゃない……それだけは理解できる。

 えーっと、今は……そうだ、旅行中だった。
 アメリカ。
 サンフランシスコに。
 そして……確か……。

「あ」

 昨日はコウイチと一緒に眠った。このベッドで。

「あ、あれ、コウイチ?」

 がばっと起き上がる。当然ながら風見の姿はない。隣にも、部屋のどこにも、バスルームにすら気配がしない。

(ボクは……何てもったいないことを………)

 はぁ、と盛大なため息が漏れる。できるものなら一晩中でも起きたまま、コウイチの寝顔を見守っていたかった。
 もはや唇にキスなんて高望みはしない。

 そろっと風見の眠っていた場所に手を触れる。ああ、まだほのかに温かい。
 確かにコウイチはここにいたんだ。偶然とは言え、ボクの腕の中に…………。

 預けられた確かな重さと温もり、んでもってストライプのパジャマの合間からのぞく、鎖骨。

「う」

 いきなり血圧が急上昇し、思考がクリアになった、ついでにわき起こる鎖骨の記憶もすさまじいまでの羞恥心も強烈にクリアになったまさにその瞬間。

 風見光一が戻ってきた。

(う、わ、わ、わ、コ、コ、コ)

 あわててベッドからとびおり、ばさばさと毛布をふるった。

「………何してんだ、ロイ」
「ベッドメイキング」
「そうかー。きっちりしてるな、ロイは。ごめんな、寝っぱなしでぐしゃぐしゃのまま起きてっちゃって」
「う、ううん、いいんだ、慣れてるカラっ」

 とことこと歩いて来ると風見はロイと並んでベッドに手をかけ、枕をふるった。
 いけない、つい、襟元に目が行ってしまう! そ、そうだ、とりあえず、話題をそらそう!

「サリーさんとヨーコ先生は……まだ眠ってるのかなぁ」

 ぎっくん。
 風見の肩が不自然にはねあがり、動きが止まった。

「コウイチ?」

 ぎくしゃくと首を回してロイの方を見ると、風見はカクカクと首を上下に揺すった。まるでブリキのロボットのように、カクカクと。

「う、うん、よく寝てたよ」
「ソウカ」
「3人とも」
「え?」

次へ→モーニングアフター
拍手する