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ローゼンベルク家の食卓

【side8-3】★★★焦らして、噛んで

2008/12/19 22:36 番外十海
 
 食事の間、ずっとさらけ出されたうなじから目が離せなかったが、理性を振り絞り手を伸ばすのは我慢した。
 時間は22時を回っている。子どもたちはもうベッドに入る頃だ。リビングに来る気づかいはないが、念には念を入れておこう。
 現に以前もシエンが夜遅くディフを呼びに来たことがある。『オティアが書庫に閉じこもったきり出て来ない』と言って……ディフはすぐさま立ち上がり、双子の部屋へと行ってしまった。戻って来るまでの時間がひどく長く感じられた。
 
 寝室のドアを開けてさりげなく彼を先に通し、後ろ手にドアを閉めるなり背後から抱きすくめた。

「レオンっ?」

 答えず首筋に吸い付き、やんわりと吸い上げる。洗面所でのいたずらを思い出したのか、すぐに息が乱れてきた。

「こっちを向いて……」

 素直にくるりと向き直り、正面から抱きついて来る。頭を撫でながらコームを探り出し、素早く抜き取った。

「あっ」

 こぼれおちる自分の毛先が当たる感触さえ刺激となるのか。くすぐったそうに身じろぎしている。
 抜き取ったコームをこっそりとベッド脇のサイドボードに乗せる。

 これは危険すぎるね。
 封印しておこう……。
 

 ※ ※ ※
 
 
 抱き合ったままもつれ合うようにしてベッドに倒れ込み、互いの服を引きはがして求め合う。
 焦り過ぎて脱ぎかけた服が手足にまとわりつき、もどかしさのあまり喉の奥で呻いていると、喉をなであげられた。

「焦らないで……。俺はどこにも逃げないから」
「ったり前だ、逃がしてたまるかよ」

 笑ってる。
 余裕たっぷりって感じだよな、レオン……がっついてるのは俺だけか? 悶えてるのは俺だけか?

「さっさと触れ」

 手をとって、ぐいと胸元に押し付ける。

「君が望むなら」

 柔らかな羽毛の先端でくすぐるような手つきで撫でられた。指先と唇、舌、彼自身の胸、足、それ以外の何か。熱く濡れてすっかり堅くなっている。俺と同じだ……嬉しさで震えた。

 それなのに、レオンの奴はいつまでたっても優しくくすぐるばかりで、肝心の場所をいじってはくれない。

 肌の内側と足の間でどんどん熱さがつのり、むずがゆさを通り越して痛みに近くなっても、まだ……。堅く尖って充血した胸の突起にさえ触れてはくれない。すぐそばまできても、そこだけ避けて通りすぎる。
 何度も。
 何度も。
 期待と喪失感が交互に押し寄せ、その度に体内でのぼせあがった獣が身をよじらせる。出口を求めてうねり、吼え、たぎる。
 
「レオ……ン……っ」

 決死の覚悟でねだろうとすると、深いキスで口を塞がれた。舌をからめとられて言葉を封じられたまま、また焦らされる。
 
「く……う……んぅう」

 解放されても空気をもとめて喘ぐのが精一杯。とてもじゃないが言葉をしゃべる余裕が……ない……。

「は……あぁ……んん」

 視界がぼんやりと霞んでる。涙がにじんでるんだ。
 頼む、レオン。それ以上優しくしなくていいから! もうおかしくなりそうだ……。

「たのむ……はやく……っ」

 かろうじてそれだけ口にすることができた。しかし、彼は首を横に振った。

「まだだよ。もう少し、我慢して」

 両の手首をしっかりと握られ、シーツに縫いとめられる。押しのけることも、抱き寄せることもできない。もどかしさに自分の唇を噛みながら、それでもうなずいた。

「……いい子だ」

 唇が滑って行く。
 ああ、また首筋を吸うのか。これで何度目だろう。やんわりと火傷の跡の上を吸うだけ。決して強くはしない。
 洗面所でした時と同じ……
 
「う」

 いかん。思い出してしまった。鏡の中で首筋に吸い付いていたレオンの姿を。うっすら頬を紅潮させ、快楽に喘いでいた自分を。
 その瞬間。

「ひっ」

 噛まれた。
 口の中に吸い込んだ肌に歯を立てて、きり、きりっと。もがけばもがくほど強く、深く食い込んで行く。
 皮膚が薄くなり、わずかな刺激にも敏感な場所。初めて愛を交わした夜に優しくキスされた場所。

「あ……や……め……」

 一段と強く噛まれる。

「あぁっっ」

 行き場を封じられていた熱が一気にほとばしる。
 重ねられた二人の体の間でぴしゃりと弾け、飛び散った。

「可愛いよ、ディフ」
「う……ん、あ……」

 気だるい解放感。
 いっちまった。
 たった、これだけの事で。

 ぴちゃり、と頬を舐められた。そんな所まで飛沫が飛んだのか。恥ずかしさで身が縮む。その一方で、えも言われぬ甘い痺れがじわじわと広がり、満たして行く。
 頭の中を。
 体の中を。

 膝の後ろに手が当てられる。足を押し広げられながら、ようやく……まだ明かりも消していなかった事に気づいた。それでも俺の後ろは彼を待ち望み、期待に震えている。
 やっと自由になった手を伸ばし、のしかかるレオンの頬に触れた。

「これ以上、待たせるな………」
「だめだよ、ちゃんと解さないと」

 ほほ笑むと、レオンはしなやかな指先で後ろの入り口を撫でてきた。
 噛まれたばかりの場所がずくりと疼く。

 夜はまだ長い。
 俺は……どこまで焦らされるのだろう……。
 
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