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ローゼンベルク家の食卓

【side8-4】★★★二段目の引き出し

2008/12/19 22:37 番外十海
「レオン………」
「焦らないで」
「レオン?」
「まだ準備ができていないだろう?」
「レオン!」
「何だい?」

 手を伸ばし、ベッドサイドの引き出しの上から二段目を開ける。
 勢い良くガタっと。
 引き出しの中で、半透明の液を満たしたプラスチックのボトルが転がった。おや? と言う顔をしてレオンが首をかしげる。
 こいつ、どこまですっとぼけるつもりだ!
 じとっとにらんで言い放つ。まとわりつく後ろめたさと恥ずかしさを振り払おうと、語尾に力をこめて……。

「………さっさとやれ!」
「わかったよ」

 くそ、拗ねたような声出しちまった!

 レオンはほくそ笑み、手のひらにボトルの中味を注いだ。わざと俺の目の前で、見せつけるように糸を引かせて。粘り気のある液体が灯りを反射してきらきらと光る。丁寧にボトルのフタを閉めてから、片方の手のひらでもう片方にぴったりフタをした。

「何……してる」
「あっためてるんだよ。いきなり塗ったら冷たいだろ?」
「いいから!」

 ひそやかな笑いを漏らすと、彼は手を伸ばしてきた。とろみのあるローションをたっぷり絡めた指が乳首を掠める。

「あっ」
「まだ冷たいようだね」
「ち……が……」
 
 ぬるぬるした指で、さらに延々とくすぐるだけの愛撫が続けられた。念入りに、丁寧に、じっくりと。

「レオン……」
「どうかしたかい?」

 ちょこんと首をかしげてのぞきこんでくる。入れたばかりの紅茶みたいな瞳が語りかけてくる。
 言いたいことがあるなら遠慮なく言ってごらん……と。
 どうする。ここで曖昧な言い方に逃げれば逃げられ、また焦らされてしまうだろう。

「あ………う……」

 言いよどんでいると、ふうっと息を吹きかけられた。ローションで濡らされた胸の突起を。
 たったそれだけのことなのに、言葉にならない悲鳴が溢れ、背筋が反り返る。もう限界だ、我慢できない!

「…………………入れろ!」
「OK」

 やっと入ってきた。

「んっ、う、んんっ……ん?」
 
 とろみのある半透明の液体をたっぷりからめた指が………1本だけ。
 すっかり充血し、ぽってりと膨らんだアヌスがその1本にすがりつき、飲み込み、必死になってしゃぶっている。もっと奥に来て欲しい、それなのにお前、なんでそんな浅い所ばかり弄るんだ?

「レオ……もっ……いいから……」
「まだだよ。やっと1本入ったばかりじゃないか」

 埋められた指が捻られる。それだけで体の奥底に覚え込まされた快楽を思い出し、肉の道が締まる。

「く………あぅっ」
「ああ、思った通りだ。まだきついね……もっと解さないと」
「は……あう……あ……はぁ……」

 まさぐりながら指が浅く抜き差しされ、くいっと中で曲げられた。その瞬間、頭の内側で真っ白な火花が弾けた。

「レオンっ」

 夢中だった。
 バネ仕掛けの人形みたいに跳ねて起きあがり、彼の手首をつかんで無理矢理引き抜く。

「うぅっ」
「ディフ?」

 強烈な刺激に、焦らされた心と体が悲鳴を挙げる……だがもう止まらない。歯を食いしばってかみ殺し、レオンの肩に手をかけて逆に押し倒した。

「欲しいんだ……」

 欲情に濡れそぼった声が唇から滴り落ちる。しなやかな体の上にまたがり、自らの指でぬちりとアヌスを広げると、そそり立つ彼のペニスに押し当てた。

「んっ」

 かすかに眉を寄せて呻いてる。お前もそうなんだろ? レオン。
 一気に腰を落す。

「う………あ………あぁっ」

 灼熱の塊が。ついさっきまで狂おしいほど求めていたモノが、深々と貫いてゆく。まだほぐれ切っていない肉の道を押し開き、衝撃と快楽が背筋を駆け抜ける。脳天まで突き抜ける。

「あぁ………やっと……」
「そんなに………欲しかった?」
「っ」
「いつまでじっとしてるのかな。動かなくていいのかい……? ほら」

 じっくり味わう暇さえ与えてくれなかった。
 意地悪な手が太ももを這いずり、上って行く。一度昇り詰めたばかりなのにもう堅くなってる俺のペニスに向かって、じりじりと。

「やっ、よせっ、今、触ったらっ」
「触ったら……どうなるのかな……」

 腰骨にまとわりつき、なでさする。じわじわとむずがゆさがこみ上げてきた。

「このまま、身動きできないように押さえ込んだら、君はどうするのかな?」 
「なっ」
「自分で弄るかい?」
「バカ言うなっ」
「ああ、それも悪くないね……」

 こいつ、本気か? つやつやと濡れたかっ色の瞳が見上げてくる。なでさすっていた手に次第に力が込められて行く。

「動く……動く……からっ……」

 震える手をレオンの腰に当てる。汗ばんだ肌の下で引き締まった筋肉がぴくりと動いた。

「邪魔……するなよ」
「わかったよ」

 深く息を吸い、整えて……腰を揺すった。
 俺の中の彼が動く。
 内壁のこすれる感覚だけで痺れるほどの快感がわき起こり、広がって行く。揺するたびに強くなって行く。
 まだ足りない。
 まだだ。

「う……く……んんっ、んっ」

 欲しい。
 もっと強く、もっと激しく。
 前のめりに屈み込み、自分のペニスをレオンの体に擦り付ける。

「ああ……熱いね……」
「くっ、お前……だっ……てっ……」

 前と後ろ、両方から押し寄せる快楽の波が高まる。上下の動きだけでは物足りず、前後にくねらせた。

 くちゅ、ちゅぷ、ぬちゅり……。

 繋がった部分から水音が溢れてくる。
 ほんの今しがた、指を入れられた時に塗り込められたローションが、抜きさす動きに合わせて中でかき混ぜられ、つたい落ちる。

 ぐちゃり。ぬちょ、ちゅぷ、ちゅぷ……。

 耳から入り込む生々しい水音が容赦無く教えてくれる。今、自分が何をしているのか、ともすれば溶けて霞みそうな意識に。
 上になってるのは俺だ。自分の気持ちいい場所に当たるように腰を動かすことができる、そのはずなのに。
 いい場所にレオンの先端が当たった途端、強過ぎる刺激に体がびくん、とすくみあがって逃げちまう。

「は……あ……あぁ……」

 もどかしい。何だって自分で自分を焦らさなきゃいけないんだ?

「いいね……最高に……いやらしい顔……してる……」
「お前だって……んんっ」

 いつも冷静で、エレガントで、おだやかな男が……ベッドの中ではこんなにも無邪気に潤んで、溶けて、ひたすら俺を求めてくれる。
 きちんと整えられていた明るいかっ色の髪が、揺さぶられて乱れるのもかまわずに……。
 あ、にこっと笑ったよ。
 可愛いな。

「うあっ」

 いきなり、突き上げられた!

「やっ、あ、あ」

 よりによって、さっきから当てたくてたまらなかった場所を狙い撃ち。立て続けに二度、三度と。

「ひあっ、う、あっ、あぁうっ」

 突き上げられるたびに喉の底から無防備な悲鳴がほとばしる。
 自分の五感を翻弄し、侵してゆく衝撃が快楽なのか。それともの痛みなのか。
 区別が……つかな………い……。

「く……あぁ……」

 頬を汗以外の雫が流れてゆく。自分がどんな表情(かお)をしているのか。どんな声を挙げているのか。もう判断できなかった。ただ奥歯を噛みしめて耐えるしかなかった。
 体内に深々と打ち込まれた肉の楔のもたらす炎が燃え移り、今にも爆発しそうなペニスをなだめるのに必死になった。
 こらえきれなかった分が先端ににじみ、滴り落ちるのさえ感じ取れる……。

「我慢しなくていいよ、ディフ」
 
 ずるいぞ、お前、反則だ! このタイミングでそんなに優しい声、出すか? にらみつけてやろうと思った。けれど。

「や……だ………俺ばかり、二回も……そんな……」

(切ないよ……レオン)

 言葉にならず、ふるふると首を横に振るのが精一杯。

(すごく、切ない)

「……おいで」

 引き寄せられ、抱き合ったままころりと転がる。
 ああ。
 やっと。

「くぅっ」

 のしかかり、動いてくれた。突いてくれた。

「あ、あぁっ、ん、く、ふ、あっ」

 深々と彼のペニスが打ち込まれる。えぐられるたびにアヌスが絡み付き、さらに奥へと誘い込む。

「気持ち……いい?」
「気持ちい……い……あ、そこ、もっとっ」

 あられもなく腰をくねらせ、堅く張りつめたペニスをすり付ける。
 背中に回した腕だけでは足りず、足を絡めて引き寄せた。すがりついた。全身で鞭の様にしなるレオンの体を包み込んだ。

「あ、あ、ひっ、うん、んん、ん、あ、く、うぅ、んっ」

 ひっきりなしに押し寄せる快楽を、どちらの動きが生み出しているのかもう分らない。

「いい子だね……可愛いくてたまらな……い……ああ」
「レオン………」

 ずっと、こうしたかった……レオン……。

「あ、あ、あ、も、だ、め、だ、ぁ、あ、あっ」
「我慢しないで……」

 一段と強く、奥深くまで突き入れられた。反動で仰け反りそうになるのを押さえ込まれる。密着した肌と肌の間で限界まで張りつめたペニスが圧迫され、容赦無く擦り上げられる。

「あ、あ、レオン、レオンっ」

 理性も自制心も全て手放し、愛しい人を呼びながら全てを解き放つ。
 ペニスの先端からほとばしる波と。自分の意志と関係なしに収縮する後ろを満たす、彼の波に溺れた。

「レ………オ……ン……」

 真っ白に塗りつぶされた世界の中、掠れた声で愛してると囁いた。
 優しい声で愛してると返された。
 
 
 ※ ※ ※ ※
 
 
 こらえていた欲情を解き放ち、余波に震えていると……
 がっしりした腕に抱き寄せられ、包み込まれる。

「……ディフ」

 胸に顔をうずめた。骨組みのしっかりした手のひらが髪にをかきわけ、頭を撫でる。くり返し、何度も。

 ちらりと見上げる。左の首筋、赤々と浮かぶ『薔薇の花びら』に己の歯形がくっきりと刻まれていた。
 指先でなぞると、彼はかすかに眉をよせ、ぴくりと震えた。

 ああ、少しやりすぎたかな。でもこれで当分、髪の毛を結い上げようなんて気は起こさないでくれるだろう?
 視界の隅でチカっと何かが光る。青いラインストーン、ベッドの脇のサイドボードに乗せたままのコーム。

 これは後でしまっておくとしよう。
 そうだな。上から二段目の引き出しにでも。

「何……笑ってる?」
「ん? 何でもないよ」

 顔をすり寄せるとディフはかすかに笑った。

「こら、くすぐったいぞ」
「君ほどじゃないよ」
「言ってろ」

 こぼれ落ちる長い髪を一房すくいとり、キスをした。


(くるくる、きゅっ!/了)

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