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ローゼンベルク家の食卓

【4-14-10】お皿+1

2009/11/22 2:46 四話十海
  
 夜ふけにふと、目が覚めた。
 じっとりと体中に汗をかいていた。身体中の細胞がからっと干からびて、やけに口の中が塩辛い。手足は鉛を詰めたように重く、だるかった。

 体が本能的に水を欲しがってる。ゆっくりと半身を起こすと、ちかちかと瞬く青い光の粒が目に入った。

「あ」

 携帯の着信ランプだ。ぼんやりしたまま手を伸ばし、まぶしさに目を細めつつ画面をのぞき込む。
 不在着信が一件、それからメールが一通。どちらもレオンからだ。文面はいたってシンプル。

『元気かい? おやすみを言おうと思ったけれど、話せなかったからメールしてみた』

 時間から見て、まず電話して。俺が出なかったもんだからメールしてきたんだろうな……

(心配かけちまったな。ごめん、レオン。)

 即座に返信を打つ。

『ごめん、風邪っぽいんで薬飲んで爆睡してた。もう治った』

 はしょりすぎか? いや、いや、あいつのことだ。メールを受けたら、すぐさま折り返し電話してくるだろう。

「うーむ……」

 試みに声を出してみる。いかんな、まだ力が入らない。これじゃあすぐにわかってしまう。俺が今、実際にどんな状態にあるのか。
 第一、寝てるとこを邪魔しちまう。

(5月のあの日以来、レオンはどんな時でも俺からのメールや電話は即座に受ける。たとえ眠っていても、飛び起きる)

 うん、今夜は我慢しよう。

 ぱちりと携帯を閉じる。

 明日の朝、おはようを言えばいい。はやる心を抑え、左の薬指の指輪に口づけるに留める。
 
「おやすみ、レオン………愛してるぞ」

 語尾がかすれて、のどが詰まる。思いの他、乾いているようだ。
 ボトルの水はもう飲みきっていた。

 スリッパに足を通し、おぼつかない手つきでガウンを羽織り、廊下に出る。
 リビングを通り抜け、半分夢の中を歩くような気分のまま、ごく自然にシエンの部屋に向かっていた。

 ドアの手前で立ち止まる。扉の隙間からうっすらと、常夜灯の明かりが漏れていた。
 ほっと、安堵の息をつく。

 あの子はここにいる。もう、幻の遊園地を探してさまよう必要はないんだ………。
 
 
 ※ ※ ※ ※
 
 
 キッチンに行き、冷蔵庫から新しいボトルを出して、むさぼるように飲む。いくらでも体の中に入って行く。染み込んでゆく。
 ひといきついて、ふとシンクに目を向けた。食器カゴの中に皿が重なっている。深みのあるサラダボウルとか、スープカップは食器洗浄器に入りにくいのだ。
 見た瞬間、おや、と思った。

 多くないか、これ。

 スープカップが全部で6つ。1つは俺の分として、双子と、ヒウェルと……あと一人。
 
 何故だ? と言うか、誰が?

 誰かが皿からひとくちずつ食べて盃から飲んで……いや、これは白雪姫だ。
 スープが三皿、クマが三匹、迷い込んできた女の子が一番ちっちゃな皿のスープを……いや、これも何か違うぞ。

 あ…だめだ、くらくらしてきた。
 まだ本調子じゃないな。頭がうまく回らない。

 水だけ飲んで、おとなしくベッドに戻った。
 
 
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