▼ 【4-14-10】お皿+1
夜ふけにふと、目が覚めた。
じっとりと体中に汗をかいていた。身体中の細胞がからっと干からびて、やけに口の中が塩辛い。手足は鉛を詰めたように重く、だるかった。
体が本能的に水を欲しがってる。ゆっくりと半身を起こすと、ちかちかと瞬く青い光の粒が目に入った。
「あ」
携帯の着信ランプだ。ぼんやりしたまま手を伸ばし、まぶしさに目を細めつつ画面をのぞき込む。
不在着信が一件、それからメールが一通。どちらもレオンからだ。文面はいたってシンプル。
『元気かい? おやすみを言おうと思ったけれど、話せなかったからメールしてみた』
時間から見て、まず電話して。俺が出なかったもんだからメールしてきたんだろうな……
(心配かけちまったな。ごめん、レオン。)
即座に返信を打つ。
『ごめん、風邪っぽいんで薬飲んで爆睡してた。もう治った』
はしょりすぎか? いや、いや、あいつのことだ。メールを受けたら、すぐさま折り返し電話してくるだろう。
「うーむ……」
試みに声を出してみる。いかんな、まだ力が入らない。これじゃあすぐにわかってしまう。俺が今、実際にどんな状態にあるのか。
第一、寝てるとこを邪魔しちまう。
(5月のあの日以来、レオンはどんな時でも俺からのメールや電話は即座に受ける。たとえ眠っていても、飛び起きる)
うん、今夜は我慢しよう。
ぱちりと携帯を閉じる。
明日の朝、おはようを言えばいい。はやる心を抑え、左の薬指の指輪に口づけるに留める。
「おやすみ、レオン………愛してるぞ」
語尾がかすれて、のどが詰まる。思いの他、乾いているようだ。
ボトルの水はもう飲みきっていた。
スリッパに足を通し、おぼつかない手つきでガウンを羽織り、廊下に出る。
リビングを通り抜け、半分夢の中を歩くような気分のまま、ごく自然にシエンの部屋に向かっていた。
ドアの手前で立ち止まる。扉の隙間からうっすらと、常夜灯の明かりが漏れていた。
ほっと、安堵の息をつく。
あの子はここにいる。もう、幻の遊園地を探してさまよう必要はないんだ………。
※ ※ ※ ※
キッチンに行き、冷蔵庫から新しいボトルを出して、むさぼるように飲む。いくらでも体の中に入って行く。染み込んでゆく。
ひといきついて、ふとシンクに目を向けた。食器カゴの中に皿が重なっている。深みのあるサラダボウルとか、スープカップは食器洗浄器に入りにくいのだ。
見た瞬間、おや、と思った。
多くないか、これ。
スープカップが全部で6つ。1つは俺の分として、双子と、ヒウェルと……あと一人。
何故だ? と言うか、誰が?
誰かが皿からひとくちずつ食べて盃から飲んで……いや、これは白雪姫だ。
スープが三皿、クマが三匹、迷い込んできた女の子が一番ちっちゃな皿のスープを……いや、これも何か違うぞ。
あ…だめだ、くらくらしてきた。
まだ本調子じゃないな。頭がうまく回らない。
水だけ飲んで、おとなしくベッドに戻った。
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