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ローゼンベルク家の食卓

【5-5-10】だから姫にはかなわない

2012/07/17 1:58 五話十海
 
 月曜日の放課後。聖アーシェラ高校の近くのソーダ・ファウンテンにて。
 モニーク・シャーウッドは友人たちとテーブルを囲んでいた。
 つついているのは、アイスクリームを3種類ほど盛りつけて、チョコチップとマシュマロをたっぷり散らして仕上げにチェリーソースとチョコレートシロップとホイップクリームをどっさりかけた特製サンデー。
 友人たちからのおごりである。

「最初っから勝ち目なんて、無かったのよ」

 スプーンでごそっとホイップクリームをすくいとり、いちごアイスとともにあぐっとほお張って飲み込む。

「マックスにとっての最優先事項はレオンなのよね。私じゃなくて」

 ため息を着きながら、モニークはふわっとなびかせた黒髪の毛先に手を触れる。
 ヘアーワックスとドライヤーと格闘しながら、天使の羽のように『自然な』ウェーブを整えたのだが……
 当のマックスときたら一向に気付かず、機嫌良さげに話すのは日曜日の出来事。
 バイト先の農場で、馬に乗った事なのだった。
 レオンと。
 他ならぬレオンハルト・ローゼンベルクと。

『すげえかっこよかったよ。気品があって、びしっと背筋伸ばしてさ。何って言うか、王子さまみたいだった!』

 クラスの友人たちは、その一部始終を見聞きしながら、サイレントにため息を着いたのだった。
 そして放課後、誰とも無しに連れ立ってソーダ・ファウンテンに繰り出したのである。

「私はマックスの気を引くのに、メイクにも気を使って、朝30分かけて髪の毛をセットして、石けんの香りのコロンをちょこっとつけて、服も靴も合わせた。でもレオンは……ちょっと不機嫌な顔するだけでいいんだもの。勝負になんないわ!」

 少女たちは顔を見合わせる。
 眼鏡をかけた黒髪の少女が、どんっとコカコーラの特大サイズをモニークの目の前に置いた。

「まあ、飲め」
「さんきゅ、ヨーコ」

 続いてブルネットの少女が、薄紙に包んだドーナッツを差し出す。

「食べなさい」
「うん、もらう」
 
 上半分にピンクのイチゴクリームをかけ、色とりどりのカラースプレーをまぶしたドーナッツにあぐっとかぶりつく。もぐもぐ噛んで、ごきゅごきゅとコーラで流し込む
 一通り飲み食いしてから、モニークは深い深いため息をついた。

「何って言うか、レオンには……勝てる気が、しない」
「うん」
「うん」
「大丈夫、それうちの学校の大半の女子が思ってることだから」

     ※

 モニークは次のデートを断った。

「そっか」
「友達と約束があるの。だから、ごめんね」

 にっこり笑って、最後に一言付け加えたのはちょっとした乙女の意地。

「レオンと一緒に行けば?」

 ディフはしおしおとうな垂れて寮の部屋に戻り、レオンにことの次第を報告した。

「……って言われちゃったんだ。やっぱ、これって俺、振られたってことなのかな」

 レオンはぽんっとディフの肩を叩いた。

「お茶を入れよう」
「うん」

 ちょこんとテーブルに座って待つディフに背を向けて、レオンはお湯を沸かし始める。
 安堵で頬がゆるんでしまうのを、どうしても押さえる事ができなかった。

「ミルクは入れるかい?」
「うん」
「砂糖は?」
「……3つ」
「そうだね。こう言う時は、甘い物が一番いい」

    ※

 この後、ディフォレスト・マクラウドの男女交際については、何度となく同じパターンが繰り返される事になるのだが……これはその、最初の一度。

(俺のクマどこ?/了)

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