▼ 【5-5-10】だから姫にはかなわない
月曜日の放課後。聖アーシェラ高校の近くのソーダ・ファウンテンにて。
モニーク・シャーウッドは友人たちとテーブルを囲んでいた。
つついているのは、アイスクリームを3種類ほど盛りつけて、チョコチップとマシュマロをたっぷり散らして仕上げにチェリーソースとチョコレートシロップとホイップクリームをどっさりかけた特製サンデー。
友人たちからのおごりである。
「最初っから勝ち目なんて、無かったのよ」
スプーンでごそっとホイップクリームをすくいとり、いちごアイスとともにあぐっとほお張って飲み込む。
「マックスにとっての最優先事項はレオンなのよね。私じゃなくて」
ため息を着きながら、モニークはふわっとなびかせた黒髪の毛先に手を触れる。
ヘアーワックスとドライヤーと格闘しながら、天使の羽のように『自然な』ウェーブを整えたのだが……
当のマックスときたら一向に気付かず、機嫌良さげに話すのは日曜日の出来事。
バイト先の農場で、馬に乗った事なのだった。
レオンと。
他ならぬレオンハルト・ローゼンベルクと。
『すげえかっこよかったよ。気品があって、びしっと背筋伸ばしてさ。何って言うか、王子さまみたいだった!』
クラスの友人たちは、その一部始終を見聞きしながら、サイレントにため息を着いたのだった。
そして放課後、誰とも無しに連れ立ってソーダ・ファウンテンに繰り出したのである。
「私はマックスの気を引くのに、メイクにも気を使って、朝30分かけて髪の毛をセットして、石けんの香りのコロンをちょこっとつけて、服も靴も合わせた。でもレオンは……ちょっと不機嫌な顔するだけでいいんだもの。勝負になんないわ!」
少女たちは顔を見合わせる。
眼鏡をかけた黒髪の少女が、どんっとコカコーラの特大サイズをモニークの目の前に置いた。
「まあ、飲め」
「さんきゅ、ヨーコ」
続いてブルネットの少女が、薄紙に包んだドーナッツを差し出す。
「食べなさい」
「うん、もらう」
上半分にピンクのイチゴクリームをかけ、色とりどりのカラースプレーをまぶしたドーナッツにあぐっとかぶりつく。もぐもぐ噛んで、ごきゅごきゅとコーラで流し込む
一通り飲み食いしてから、モニークは深い深いため息をついた。
「何って言うか、レオンには……勝てる気が、しない」
「うん」
「うん」
「大丈夫、それうちの学校の大半の女子が思ってることだから」
※
モニークは次のデートを断った。
「そっか」
「友達と約束があるの。だから、ごめんね」
にっこり笑って、最後に一言付け加えたのはちょっとした乙女の意地。
「レオンと一緒に行けば?」
ディフはしおしおとうな垂れて寮の部屋に戻り、レオンにことの次第を報告した。
「……って言われちゃったんだ。やっぱ、これって俺、振られたってことなのかな」
レオンはぽんっとディフの肩を叩いた。
「お茶を入れよう」
「うん」
ちょこんとテーブルに座って待つディフに背を向けて、レオンはお湯を沸かし始める。
安堵で頬がゆるんでしまうのを、どうしても押さえる事ができなかった。
「ミルクは入れるかい?」
「うん」
「砂糖は?」
「……3つ」
「そうだね。こう言う時は、甘い物が一番いい」
※
この後、ディフォレスト・マクラウドの男女交際については、何度となく同じパターンが繰り返される事になるのだが……これはその、最初の一度。
(俺のクマどこ?/了)
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