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ローゼンベルク家の食卓

【4-20-9】★★★ままがんばる

2010/09/12 17:11 四話十海
 
 その夜。

「力……抜いてろ。今夜は俺が全部、してやるから」
「ああ」

 一糸まとわぬ姿でディフはレオンに口付けし、ゆっくりとベッドに横たえた。

 レオンの中にある凶暴な衝動の存在。
 己の中にある、逃れようのない被虐性は時に彼の中の獣を誘い、暴走を誘発してしまう。だからと言って、自分が本気で抵抗したら、ベッドルームでバトルが繰り広げられるのは目に見えている。
 自分もレオンも体を鍛えているし、身を守る術も、相手を倒す技も心得ている。争えば争うほど、頭に血が上ってどんどんエスカレートしそうだ。
 それでは意味がない。
 逆効果だ。

 だから発想を転換した。レオンが落ち着くまで、『ポジション』を入れ替えることにしたのだ。

「きれいだな……とても」

 ベッドに手をつき、腕の下に横たわるしなやかな裸身を眺める。いつまでも見ていたくなる。
 ……いや、やっぱり見てるだけじゃ我慢できない。
 のしかかり、唇をついばむ。頬から顎、耳、うなじに小刻みにキスを降らせる。下に滑らせて行くにつれ、レオンのうめく声が増えて行き、しきりと体をよじりはじめる。

「くすぐったいのか?」
「あ、いや、そうじゃないよ」

(困ったな) 

 そう、レオンは困惑していた。自分が受け身に回れば、破壊的な衝動を恐れることなく愛を交わせると思っていた。
 ところが、今。うなじや背中を無防備にさらけだし、夢中になって触れてくるディフを目の前に、手を出さずにいるのは……
 けっこうな忍耐力が必要だった。

(だが、君を遠ざけるのに比べたら、ずっといい)

 俺の中に入る時、君はどんな顔を見せてくれるのだろう。ふるふると快楽に身を震わせ、一心不乱に俺にしがみついて、がっついてくれるのだろうな。隠そうともせず、取り繕おうともせず、まるで十代の少年みたいに夢中になって。
 想像しただけで、胸が高鳴るよ。

「どうした、レオン?」
「抱いてくれ。もっと強く。君に包まれたいんだ」
「……わかった」

 温かな胸に。がっしりた腕の中にすっぽりと包み込まれる。目をとじて、すがりついた。

「俺にとっても、ここが一番安心できるよ……ディフ」
「可愛いな、レオン」

 頬にキスされた。ベッドの中で裸で抱き合っているのに、まるで小鳥が木陰で交わすような軽やかなキスをしてくるなんて。

「可愛いのは、君の方だ」
「……言ったな?」

 むっとしたような顔になると、彼はがばっと覆いかぶさり、むしゃぶりついてきた。

「あ……あ……ディフ……ディフっ」

 道義的に、法律的に正しい方向に持って行くのが目的じゃない。スタイリッシュに、きれいにまとめる必要もない。
 ずっと寄り添っていたいから、ずっと向き合う。彼も自分も生きている。怒り、悩み、時に挫折もする生身の人間だ。魔法のステッキを振って何もかも上手くいくような、そんな劇的な解決なんてあり得ない。だからゆるやかに変えてゆこう。
 セクシーなランジェリーも、プライベートジムでのデートも。今回のポジションチェンジも、それぞれ一つの段階でしかない。

 俺たちはどうしようもなくお互いに惚れ込んでいる。大切にしたいと思っているし、同時に男として欲情もする。
 手をとってほほ笑みあう日常のささやかな触れ合い、食卓ですごす一時、隣に座って軽くじゃれあったり、毎日のいってらっしゃい、ただいまのキス、狂おしく求めあう夜の営みまで全部欠かさずにいたい。

 セックスしたいし、触りたいし、キスしたい。体の欲求を無視するなんてあり得ない。

 だから、続けて行ける道を摸索するのだ。手探りで、あちこちぶつかりながら。

「ん……レオン……レオン……お前ん中すげえ気持ちい…ずっと入っていたくなる…」
「ずっとは……こまる、な……」
「……うん……だからこの一秒一秒を味わいたい」

 そう言ってディフは、とろけそうな表情でほほ笑んだ。

「……愛してる」
「……愛してるよ……」
 
(倦怠期?/了)

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