▼ 留守番おひめさま
2010/02/17 0:51 【短編】
- 拍手用短編の再録。【4-15】犬の日で双子とままが出かけている間、オーレはお留守番してました。
- 本文中の猫のアイコンは化け猫アイコンメーカーで作成しました。
あたしは猫。
名前はオーレ。
ママゆずりの真っ白な毛皮に青い瞳、左のお腹のカフェオーレ色のぶちがチャームポイント。
本屋さんで生まれて、今は王子様とお城に住んでいる。
今日はおやすみの日。王子様とずーっと一緒に過ごせる日。うれしいな。うれしいな。
……って思ってたんだけど。
「……うん、いい男だ。カリフォルニアで一番、いや、世界一いい男だ」
あれれ? レオンがきちんとスーツ着てる。お仕事に行く日とおんなじだわ。
ちょっと恥ずかしそうにほほえんで、所長さんと抱きあってキスしてる。これもお仕事の日と同じ。
「行ってくるよ」
「行ってこい。レイによろしくな」
見送ったあとの所長さんはちょっぴりさみしそう。あたしがいるわ、元気出して。
「……ありがとな、オーレ」
大きな手でなでてくれた。でも、ちょっとだけ。
朝ご飯のお片づけもみんなテキパキ、何となく急いでる。
「そろそろ出かけるか。支度してこい」
「うん」
「冷えるからしっかり着込めよ」
「わかった」
わかった、今日はみんなお仕事の日なのね! あたしもお支度しなきゃ。
ぺろぺろ、ぺろぺろ、毛づくろい。
尻尾の先までつやつや、完ぺき。さあ、王子様。いつでも出勤OKよ。後はキャリーバッグに入るだけ。
「………」
あれ? 朝ご飯はさっき食べたばっかりなのに、何でもうカリカリ出してるの? あれ? お水も、猫用ミルクまで。
「いい子にしてろよ。行ってくる」
ええーっ!
バタン、とドアが閉まる。 お家の中はしーんと静かになってしまった。
所長さんも、シエンも行っちゃった。あたし一人お留守番ってこと?
……………………………………………ずるい。
耳を伏せて、ぺしたん、ぺしたん。尻尾で床を、ぺしたん、ぺしたん。
「んみゃ」
鳴いても一人、ひっくり返っても一人。エビを前足で放り上げて、ジャンプしてキャッチ。
でも、一人。
しかたがないから、お留守番。
王子様の建てたあたしのお城でお留守番。
一人は退屈。まあるくなってうとうと眠ってると……ドアがきぃって開いたの。
(おうじさまっ?)
「よっ、お姫さま。ごきげんいか………ぐぇっ」
大外れ。
狙いすましてお城の上から急降下、キック一発、すとんと床に。
「……元気だな……うん」
ひゅっと尻尾を振ってにらみつける。
あたしが待ってるのはオティアよ。あんたじゃないの!
ヒウェルはあっさり降参。こそこそとトイレを掃除して、小エビの缶詰めを置いて逃げてった。戦利品ね、いただきます。
ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ。
小エビのスープはおいしいけれど、一人で食べるとちょっぴりさみしい。
食べ終わって念入りに毛づくろい。前足をぺろぺろなめて、おくちからヒゲの先まで丁寧にくしくし、くしくし。
お腹いっぱいになったら、何だか眠くなって来ちゃった……。
※ ※ ※ ※
ドアの開く音で目がさめたの。のっし、のっしと重たい足音が一つ。ぱたぱたと軽い足音が二つ。
つぴーん、とヒゲが前ならい。耳をぴんと立てる。
「……ただいま」
おうじさまーっ!
一直線に境目のドアを駆け抜けて、玄関までお出迎え。
待ってたの、待ってたの、ずーっと待ってたのよ!
足下にかけより、顔をすりすり………しようとして途中でフリーズ。何、このにおい!
くんくんくん。
くんくんくん。
王子様にも、シエンにも、所長さんにも、嗅いだことのないにおいがみっしりしみついてる。しかも、大きくて騒がしい生き物のにおいが。
ぴりぴしと背中の毛がさかだって、尻尾がぶわっとブラシ状態。
「なーっ、なーっ、なーっ」
変なにおいする! 変なにおいする!
「何か……猛烈に抗議されてる気がする」
「みゃーっ!」
「手、洗ってくるか」
「み」
そんなんじゃ足りないんです!
あーもう、まったくこの人たちわかってないんだから。
耳をふせて、しっぽでぴしぱし。三人の足を順番にぴしぱし。
「……シャワー浴びた方が良さそうだな」
「ん」
王子様がお風呂に入ってる間、あたしはずっと待ってたの。ドアの外できちっと座って。
水の音が止んで、王子様が出てくるまで。
「………」
やがてガラスのドアが開く。
王子様!
くんくん、くんくん。
ああ良かった、変なにおいがやっと消えた。安心して今度こそ思いっきり顔をすりよせる、王子様は手をのばしてあたしを抱っこして、何度も何度もなでてくれた。
ごろ、ごろ、ごろ。
のどからあふれる、しあわせの音。
(おうじさま、すき、すき、だいすき)
(留守番おひめさま/了)
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