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» ソルジャー » date : 2004/03/01  
データ:98年米/監督:ポール・ヴァーノン/主演:カート・ラッセル
ジャンル:SF、アクション
備考:スカイパーフェクTVでわりとマメにやってくれる。おかげでDVD未購入。買うときゃよかったよ…。

***感想****
マイナー作品ながらその後、いくつかのアニメやゲームで細かくパクられている所を見ると愛好者は多いらしい。

『ソルジャーに情けは無用』
『情けは弱さ、情けは死』
『軍隊だけが家族』

 1999年。某国(ってもろに米やん)では、人工受精によって身体的・精神的に強靱な資質を備えた男子を産み出し、徹底的な洗脳教育によって戦うだけの戦闘機械「ソルジャー」に育て上げる。(わざわざ人工受精しないでもそこらの学校から適当に希望者つのればいくらでも素材は暢達できそうな気がするんですが)
 もぉ、最初は顔をしかめたり、泣いたりしていた子供らが次第に、感情を麻痺させ、無表情になってく様に背筋が寒くなりました。ついにはランニングの訓練中、最後尾の子供が打ち殺されても、立ち止まりもしなけりゃ、表情も変えずに走り去るし。(あ、別に今は珍しいことじゃないか)
 射撃訓練中、『人質を抱えた兵士』の的を人質もろとも打ち抜くシーンに続き、実戦においても同様に生身の女性を兵士もろとも打ち抜く場面が連なる。
 この間、ナレーションによる説明、一切なし。
 たまに時間と場所を現わすテロップが入るだけ。
 で、ロシア、中国、東京ときていきなり次の戦場が月面なんです。次第に世の中が荒廃して、戦場が広がり、しまいにゃ宇宙でもドンパチやってると言うのが見ててストレートに伝わってきた。
 殺伐としたシーンの切り替えに、瞳がアップになる。
 奥行きのある緑にわずかに青を落とした、透き通った瞳。
 カメラが引く。
 成長している。傷が増えてゆく。腕に戦歴(どこの戦場で何人殺したか)を刻印したタトゥが増えてゆく。
 彼が何者で、どんな風に育ってきたかが冒頭の10分足らずのシーンに凝縮されていた。

 そして40年後。
 数々の戦場で輝かしい戦果を挙げた『ソルジャー』たちは、遺伝子レベルから合成された新型にとってかわられる。旧ソルジャーのリーダー、トッド軍曹は、新型ソルジャーとの一騎討ちに破れて重傷を負い、ゴミ捨て場に捨てられる。(このゴミ捨て場ってのが、惑星一つをまるごと使ってるんだからスケールでかいです。)
 強風吹きすさび黄色く砂塵にかすむ空。
 日常品から宇宙船に到るまで、ありとあらゆるゴミが地表を覆う。さながら、象の墓場のように。
 うずたかく積み上がったゴミの山、そのてっぺんで息を吹き返したトッド。
 彼はそこで、ゴミを漁って生きる開拓者たちと出会う。彼らは新天地ムーン星を求めて旅立った移民団だった。しかし宇宙船の事故でこの星に漂着し、以来、救助を待ちながら生延びてきたのだ。この開拓者たち、割と前向きで、みじめったらしくは描かれていない。結構いろんなものが捨てられるそうなので、暮らしは便利らしいのだ。
(CDを繋げてモビールにしてました(笑) 使い道ないもんね)
 ここの暮らしの中で、トッドは熱病で言葉を失った少年と、美しい母親に出会う。
 この、少年との『心の触れあい』の描写が実に秀逸。決してお涙頂戴の方向に流れない。少年はこの惑星土着の(それともゴミにくっついてどっかから流れてきたか?)毒蛇に噛まれ、高熱を出し、言葉を失った。集会所でトレーニング中のトッドを見物していると、またこの毒蛇がへろへろと出てくる。恐怖ですくんで動けない少年。
 トッドはどうしたか?
 蛇を殺すのではない。ブーツを放り投げただけ。で、身ぶりで伝えるのだ。『そいつを叩き潰せ、自分の手で』と。
 そら、やれっつったってすぐにできるもんじゃない。一瞬、噛まれそうになる少年。しかし、毒蛇の牙が達する寸前でばっとトッドの手が蛇の鎌首をひっつかむ。
 ぽい、と床に落としてトッドは無言で蛇を指差す。(Try again!ってとこですか)
 ここで父親乱入、蛇をざくっと突き刺してひとこと
「息子を殺す気かっ」
 認識のずれ、価値観の相違につまづきながらもどうにか開拓者たちに溶け込もうとするトッド。
 しかし、体中に染み付いた恐怖はどうしても拭えない。
 ソルジャーは勇気によって戦うのではない。恐怖に追われて戦ってきたのだ。
 自分が殺される恐怖を追い払うには。相手を殺すしかなかったのだ。
 パニックを起こしたトッドは、背後から近付いてきた住人の一人に飛びかかってしまう。
「マフラー……プレゼントだよ」
(首絞められる、と勘違いしたんでしょうね……このマフラー、パッチワークみたいに色も毛糸もふぞろいで、いかにも『リサイクルで作りました』と言う哀惜が溢れててよろしいです)
「あなたが憎いのではない」
「けれど、我々はあなたの戦闘能力が恐ろしい。一緒には暮らしてゆけない」
 開拓者たちは実に正直で、公正である。おそらく、ギリギリの生活環境の中で秩序を保ちつつ生き抜いた誇り(例えそれがやせ我慢にすぎないとしても)と自制心の成果だろうか。恐れつつも、トッドの衝動は『どうしようもない』ものなのだと理解し、彼自身のせいではないと判断するだけの頭も持ち合わせている。貴重品であるはずの水筒やブーツ、マフラーを与えていることからもその辺がうかがえる。(でも全くの善人って訳じゃないのね。このへん、ストレートで共感覚えました。)
 一人、ゴミの山に座るトッドの頬を、涙が伝い落ちる。
 指で触れ、『ぎょっ』とした顔をする。
 彼は今迄、泣いたことなんかなかったのだ。膝をかかえ、まばたきする。涙がこぼれ落ちる。彼は今や知っている。自分が何故、涙を流しているのか、その理由を。
 一方。
 少年は、両親の寝室に潜り込んだ毒蛇を、寸での所で叩き潰す。
 トッドに教えられた通り、ブーツでがつんがつんと。(さりげに毛布で包んでから叩くところに制作者の良識を感じる(おい))恐怖を乗り越え、自分の手で両親を護ったのだ。
 護ってやるばかりが優しさじゃない。愛じゃない。
 強さを教えること、伝える事。それだって、大事なんだ。
 考えてみりゃ、いつまでも、いつでも、子供を護る事なんてできないし、いつかは一人立ちするものなんだから……。
 と、まあこの辺は後からひっつけた理屈ですのでひとまずすっ飛ばしてお先にどうぞ。
「私が間違っていた!」
 父親は外に飛び出す。
 一方、訓練を兼ねて新型ソルジャーの一隊の乗った宇宙船が近付きつつあった。
「トッド! 戻ってくれ。私が間違っていた」
 潔いつうか何つうか。
 このお父さん、我が身大事のえらく等身大の人間として描かれてるのですが、きっちり一本筋は通す。思わず知らずぐっときた瞬間……。
「人がいます」
「でも、民間人ですよ?」
「殺せ。いい訓練になる」
 新型ソルジャーの攻撃で父親は重傷を負う。
「なぜだ? なぜ、攻撃を?」
「彼らはソルジャーだからです」
 父親は苦しい息の下で言い残す。
「息子を、頼む」
 
 開拓民たちの居住区に容赦ない攻撃を加える新ソルジャー。手榴弾を投げ、にげまどう一般市民を火炎放射機で問答無用に焼き殺す有り様は、ベトナム戦争さながらの地獄絵図。女、子供も容赦なく殺すが、べつに彼らはとりたてて残酷でもなければ、血に飢えている訳ではない。それが任務なのだ。
 追い詰められる少年たちと母親。
 そこに、天井ぶちやぶって颯爽と乱入してきたのは言わずと知れたトッド。(しかし何故天井。何故ぶち破る。そこにドアがあるのに!)
「夫は死んだのね?」
「あとソルジャーは17人残っています」
「どうするの?」
「全て、殺します。私は、ソルジャーですから」
 
 律儀である。漢である。
 何故、殺すのか。何のために戦うのか、その理由は一切言わない。
 以後、トッド対新ソルジャーの壮絶な戦闘シーンが繰り広げられる。何しろ一人しかいない。ロクな武器もない。絶対的に不利な状況。勝ち目は極めて薄い。よって知恵を振り絞ったトリッキーな戦術が駆使される。いやあ、こう言うの大好きなんです、もうゾクゾク〜っとしちゃいます。
 例えば一定時間、惑星上を吹きすさぶ強烈な風を利用したり。(ただの風ではない。ワイヤーで体を固定しないと簡単に大人一人が飛んでしまうのだ)
 例の毒蛇の巣穴に誘い込んだり……狭い穴ん中にウネウネウネ、みっちりってな感じで、ええ、……固まりました、私。最後は、冒頭での一騎討ちの相手と因縁の対決。
 けれどアクションシーンが薄くない。
 戦ってる間に、トッドの顔が目に見えて変わってゆく。蝶の羽化を見るように。しまいにゃ、相手にトドメを刺す直前に、くしゃっと顔をゆがめるのだ。泣き出しそうな、情けない顔をするのだ。
 彼は急に人間になったりはしなかった。最後までソルジャーだった。その上で、変わったのだ。傷つけること、傷つけられることの痛み。想い、想われる事の暖かみ。
 自分の殻の中、恐怖に縮こまっていたトッドは、他の存在と共感することを知った。
 それだけだった。
 悪い魔法使いにかけられていた呪いが解けたかのように、安易に『人間』になってほほ笑んだりしなかった。ついでに少年も最後までしゃべれないまま終る。
 ヒューマニズムとか正義感とか良識をまぶした薄っぺらい予定調和はカケラもない。
 故に、厚みがある。説得力があり、小粋な映像センスと相まって、見ていて素直に面白かった。

PS 見終ってふと気付きました。「あ、これ西部劇なんだ」と。
いくつかの雑誌や解説番組で『反戦映画』と書かれてたんで引いた人も多いと思いますが、その評価はきっぱり忘れてください。
» category : 映画とTVドラマのこと ...regist » 2004/03/01(Mon) 16:16

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