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» ストレンジャーザンヴァンパイア » date : 2004/09/25  
ストレンジャー・ザン・バンパイア
★1989年アメリカ/監督:ダニエル・タプリッツ/出演:バン・クロス/マリアム・ダポ

「君は怪物なんかじゃない。病気なんだ。必ず治してみせる、僕の命を投げ打ってでも!」

 思わず「まだ言うか」と突っ込み入れたくなるセリフだが本気でこゆこと言ったのだよ、この主人公ときたら。いや、正確には本作の主人公は清楚な魅力の女吸血鬼アンジェリクだ
ろう。(この名前で金髪なんだから思わず笑っちまったぜ、ふ。)

 彼女は、かつて吸血貴族ブラッドによって闇の命を与えられたものの、人の生命をすすって生き延びることに耐えきれず、メキシコに逃れ、自ら墓に入り生き埋めとなる。(ちなみにこの時の経験が元で虫嫌いになる)そして100年後、(つーても今から10年前、ひと昔ってやつね)
 現代に蘇ったアンジェリクは相変わらず人間を襲う事ができずに空腹のため倒れてしまい、救急病院に運び込まれる。担当の若き医師デイビッドは彼女を『重度の貧血性疾患』と診断。大量の輸血でアンジェリクを救う。まあ、妥当な判断だわな。
 さらに「こんなにひどい症状は始めてだ。これから定期的に輸血に来るよーに」とか何とかのたまって、アンジェリクの方も「これで人の生命を奪わずにすむわっ」と喜ぶのだった。

 んでもってこの二人の間には当然のごとく恋が芽生えてゆくのだが、どっこいそうは問屋がおろさない。アンジェリクの昔の男、ブラッドもまた彼女を追い求めてメキシコにやってきたのだ。

「殺人は我らの本能だ。恐怖こそ我らの糧。いずれお前は誰彼かまわず人を襲うようになる。私の元に戻る時がくるのだ。」

 その言葉通り、アンジェリクは次第に衰弱し、飢えてゆく。バンパイアの本性を抑え切れず、ついには忠実なメイドのローサに牙を剥く。
「お願い、行って!私がまだ正気を保っていられる間に。」

 一人残され絶望に打ち震える彼女の前に、悠然とブラッドが現れた…
一方、吸血貴族の魔の手はデイビッドにも伸び、手下の吸血鬼(ホモの疑い濃厚。小指も立ってたしな。)に噛み付かれてしまう。しかし、逆にこの事がきっかけで彼は吸血鬼の求める「恐怖の味」の正体に気付いた。
「アドレナリンだよ。吸血鬼に襲われた時、人間は大量のアドレナリンを分泌する。これが『恐怖の味』の正体だったんだ!」

 かくしてデイビッドは嫌がる同僚医師を巻き込み、連れ去られたアンジェリクを救出しに向かうのだった…紫外線灯とアドレナリンの注射を片手に。しかし君、不思議に思わないのか?自分が夜道をサングラスかけたまま平然と歩いている事に。

「まさか、君もバンパイアに?」
「いや。一回噛まれた程度でうつる病気じゃないらしい。」
「ところで、何で指しゃぶってるんだ。」
「ちょっと切ったらしい。」
「絆創膏いるか?」
「いや、いらない…」
(本編より)
 ……うつってる、うつってるってば…

★マトモじゃない人々…いや、人じゃないのもいるけど
 この映画で注目したいのは、登場するキャラクターが一人残らず「どっかマトモじゃねえ」おかしさを備えていることだろう。主役のアンジェリクからして、よくよく考えてみりゃ「道徳心あふれるバンパイア」と言う点で変わっている。更に極端な虫嫌いで、見ただけで気絶しちまうし。当人のコメントから察するに百年『眠っていた』のではなく、正確には虫が身体の上をはいずる気色悪さに気絶していたらしいのだ。

★無敵のメイドさん
 彼女の正体に薄々気付きながらもメキシカンらしい情熱と一途さで尽くすのがメイドのローサ・メルセデス。そう、メイドさんである。美しい女吸血鬼に仕えるメイド…何やらそそるシチュエーションではあるが、しかし、ここで安易に鼻の下を伸ばしてはいけない。
 名は体をあらわすとはよく言った、彼女は正にメルセデス・ベンツなみの頑強な肉体とタフな精神を備えた無敵のハードボイルド・ウーマンなのである!
 黒のメイド服に身を包み、銀色のマグナム構えて吸血鬼相手に「お嬢様から離れなさい!」と言ってのける気っ風のよさ。「タフな男が好きよ」と言いつつ、蹴りの一発で下っ端吸血鬼にトドメを刺す格好よさ。
 男どもがひよわなインテリタイプなだけに(まあ医者だしなあ)彼女の強さ、逞しさがひときわ目立つ。

★あくまでノーブル
 んでもって吸血鬼ブラッド。メキシコのくそ暑い中、いつでも黒づくめ。流石にマントは着ていないが…。あくまで貴族的、あくまでスタイリッシュ。話す言葉の一つ一つは冷酷かつ上品で詩的。
「100年の間、幾人もの女を求めた。声や仕種、髪や目の色、みなどこかしらお前に似ていた。しかし似てはいたがお前ではない…だから、殺した。」

 飢えに苦しみ理性を失う直前のアンジェリクの前に「軽いスナックをあげよう」と微笑みつつ、捕らえたローサを突き出すあたり、正真正銘のサディストですよ、こん人は。(いや人じゃないけどさ)んでもって仕上げのメインディッシュは邪魔物ディビットと言う段取り。

 親しい人を牙にかけさせることで、殺人が逃れない宿命であると思い知らせ、自分のもとに彼女を呼び戻そう、そして逃れられないように縛り付けようって魂胆ですから…。いやはや。ベラ・ルゴシ以来の吸血貴族の伝統を心憎いばかりに押えてらっしゃる。100年諦めずに探し続けたってんだからその執念たるや並み大抵のもんじゃない。あんまり思いつめるな、禿げるぞ!と言おうとしたら既に彼の生え際はいちじるしく後退していた。

★「咽をザックリ、血をジュルルっ」
 しかし、そんな彼も部下を見る目はなかった。いや、まあ初代レンフィールドに始まり、たいてい吸血鬼映画に出てくる下僕ってのは間抜けと相場が決まっているのだが…。にしても、この作品に出てくる二人ときたら。一人は前述したようにホモっぽいし、もう一人はハゲの小男。人を外見で判断しちゃいけないとわかっちゃいるが、こいつらに関してはまぁ概ね外見どおりと言えよう。

 例えばハゲの方だが、デイビッドを拉致しに病院にのこのこやってきて滅菌室に誘き寄せられ、紫外線灯を入り口に照射されて閉じ込められてしまう。(わざわざ「明日の夜に行くからな!」とか言うからだっつの。)
「天井の紫外線灯をつけられたくなかったら彼女の居場所を教えろ!」
一人取り残されたところに、清掃のおっちゃん登場。これ幸いと「そこのスイッチを切ってくれ」と頼むのだが…

 いやあ、監督、観客が何を期待すっかちゃあんと心得ていらっしゃる。

★おやくそくは大事だ
 吸血鬼にさらわれた可憐な美女を、恋人が命がけで取り戻すと言う吸血鬼映画のおやくそくをきっちりなぞりながらも、要所要所で粋なアレンジを効かせた逸品と言えよう。しかも全体にちりばめられたブラックな笑いが、ともすれば甘ったるくなりがちなこの種の映画をぴりりと引き締める。
 観る者が惹き付けられるのもこの乾いた笑いがあってこそ。伏線の張り方も巧みで、吸血鬼の弱点、治療法(!)をどうやって思い付いたのか見てて即わかるし。

近頃、難解、もしくは文学大作ねらい過ぎ
そうでなきゃ反則ばかりで安心できないバンパイア映画が多いとお嘆きのあなたに
ぜひお勧めしたい一本です。
» category : Bの大箱(再録) ...regist » 2004/09/25(Sat) 12:51

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