ローゼンベルク家の食卓

【2-12】clear!

2008/03/13 1:32 二話十海
 レオンが警官隊とFBIとともに駆けつけた時。
『撮影所』は跡形も無く瓦礫の山と化していた。
 
 ひと目見た途端、レオンの脳裏にあの日の記憶が蘇る。
 ディフが爆発に巻き込まれて病院に駆けつけた時のことが。

 顔から血の気が引いた。

「ディフ……」

 掠れた声で呟く。サイレンの音に紛れてほとんど他人の耳には聞こえないかすかなつぶやきに応えるように、がしゃん、と。
 ひと際大きなスレートの破片が持ち上がり、人懐っこい笑顔が現れた。

「よお、レオン」
「ディフ…っ」

 駆け寄ろうとして警官に止められる。
 瓦礫の下から這い出すと、ディフはさらにがしゃがしゃと破片を取りのけてヒウェルと双子を引っ張り出した。

「要救助者3名、うち2名は未成年だ。爆発物は……たぶんクリアだな」

 その後も警官隊の手で容疑者一味が次々と『発掘』されて行く。
 何が原因かは、薄々察しがついた。
 
 爆発物はないと言い切った。ディフは原因を知っている。おそらくはヒウェルも……双子も。

 救急車のサイレンが近づいて来る。
 双子は疲労困憊といった様子でぐったりしてたものの、ほとんどかすり傷だった。
 ヒウェルは……殴られた怪我が深刻らしい。救護班の応急処置を受けながら、じっとオティアの顔を見上げている。

「寿命が縮んだよ……」
「大丈夫だよ、レオン。バイク乗り用のジャケット着てきたから。けっこう防御力高いんだぜ、これ…それに、倉庫も安普請で……助かった……」

 ぐらり、と腕の中にディフの体がよりかかる。甘えてすり寄って来るのとはまるで違う。
 
「ディフ?」

 べっとりと手のひらに血がついた。
 ジャケットの背に一筋、細い……長い裂け目があった。

「救護班!」

「ディフ……」

 ぐったりしていたシエンが目を開け、よろよろと起きあがろうとする。
 ディフのまぶたが動き、うっすらと目を開けた。

「心配……ない……ちょっとばかり……くらっと来ただけだ」

 穏やかな笑みが広がる。子犬を見守る母犬そっくりのやわらかな眼差し。子猫をなめる親猫のような優しい声。

「大丈夫だよ……シエン。大丈夫だから……」

 その瞬間、レオンは悟った。

 彼(シエン)はひな鳥だ。
 恋人ではない。

 ……困ったな。
 こんな状況なのに……ほほ笑んでしまいそうだ。

 ディフが体を預けて来る。
 傷にさわらぬよう、腕を回して支えた。
 
 本当に、困ったね。

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