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» ニューヨーク1997/エスケープ・フロム・L.A.
» date : 2004/10/30  

★1981・96年 米/監督:ジョン・カーペンター/主演:カート・ラッセル

「プリスケンと呼べ。」冷めた声で告げると男は世界を変えた
陳腐な言い回しだが文字どおり「変えちゃった」んだからしょうがない。指先一つ動かして、この男はひとつの文明を終わらせたのだ。「なぜ?」と聞かれれば彼は例のごとく熱のないかすれ声で答えるだろう。「オレをハメやがった」

いみじくもB級映画愛好家を自称するならこの二作品をまたいで通る訳には行くまい。ジョン・"ハロウィン"・カーペンターによるB級中のB級映画。特に「ニューヨーク…」は劇場公開こそぽしゃったものの根強い人気を保ち続け、ついに96年に続編の「エスケープ…」の撮影に至ったと言ういわくつきの作品だ。まあ、やっぱり劇場じゃ当たらなかったけどね。レンタル屋での人気はすごかったし、別冊宝島の「この映画がすごい!」97年版では96年劇場公開映画ベストテンでガメラ2を押さえて7位にランクインしている。(ちなみにID4は12位。)要するにファン層がビデオなら見るつ〜タイプなんだな。B級映画として誠に正しいスタンスである。

情緒のへったくれもない荒んだ世界を舞台に繰り広げられる、ピザの中にうめられた黒胡椒のツブのようにブラックユーモアの効いたアクション映画。善人は一人も出ない。何せメインの舞台はいずれも「監獄にされた」ニューヨークであり、また「大地震で本土と断絶され」「流刑地となった」ロサンゼルス。要するに都市ひとつ丸ごと刑務所になってるのだ。ここに重要人物の乗った飛行機が不時着、救助に赴いた特殊部隊もあっさり全滅。で、ワルをもってワルを制せとばかりに、延命と減刑を報酬に一人のアウトローが送り込まれる。は、ストーリーはこれだけです。なに、一本分しかないだろう、手を抜くなって?お怒りはごもっとも。でもほんとに二本とも同じ筋書きなのだよ。ただし時代が進みなおかつ予算が増えている分、「L.A.」のが話は派手で、情け容赦のなさもブラック度も格段にレベルアップ。見るんだったらこっちをお勧めします。画質もいいしね。微妙な違いを楽しみたい場合は2本まとめて見てみよう。決して損はいたしません。このページを読むあなたなら、必ずスカっとした爽快感を覚えること請け合いです。

「バンコク式でやろう。落ちたら撃て。」 (空き缶を放り投げる。)
見上げる雑魚敵、落ちる前に撃つ主役。
「…どうした?撃てよ。」
(本編より。どっちが悪役かわかりゃしねぇ(笑) )

★「Call me SNAKE」
青空も太陽もない夜の町をすがすがしいくらいにぶっ飛んだアウトローどもが画面狭しと跋扈する。女だろうと子どもだろうとカーペンターは容赦しない。金も地位も名誉も意味をなさず、欲望の強い者、意志の強い者、あるいはうまく立ち回るものが生き残る。
ハかつては誇張でしかなかった描写が、今はいとも容易に現実にスライドしてくる。 平和も、善意も、友情も、礼儀正しさも、環境保護も彼の世界では色を失う。あるいは影のない、うすっぺらな幻影に成り下がる。その中で唯一、しっかりした実体を備え、強烈な色のついた奴がいる。黒いレザーの服にどてかい銃、片目に当てたアイパッチ。長くぞんざいにのばした髪に無精髭がトレードマークのアウトロー、スネーク・プリスケンだ。

彼は決してマッチョでもなければ不死身でもない。スネーク・プリスケンは強い男ではない。「しぶとい」男なのだ。頭も切れる。(って〜かハッキリ言って卑怯者)そして、彼の自由を妨げる者には美麗な言葉より雄弁かつ迅速に、熱い銃弾のシャワーで思い知らせるのだ。
「オレをハメやがったな?」
ハ相手が国家権力だろうと、そこらのチンピラだろうと、はたまた暗黒街の実力者、カリスマ的人気を誇る武装集団のドンだろうとお構い無し。終始一貫、初志貫徹、徹頭徹尾、怒鳴りもしないが怯みもしない。ある種、潔い。で、中途でどれだけズダボロにされようと最後には必ず「勝って」しまう。矛盾するようだが、銃弾ですぱっとケリをつけるのではない。最後のツメで相手が勝ち誇ったまさにその瞬間に作動するよう、あらかじめ罠を仕掛けておくのが彼の遣り口なのである。(やっぱ卑怯者だ。)

★もはや過去の話なニューヨーク
NYでの探し物は、行方不明になったアメリカ大統領。しかも世界的な講和条約を結ぶ会議の時間までに連れ戻せと言う制限つき。が、しかし相手もワルだと政府の方でも心得たもんで、しっかりスネークの体に毒薬のカプセルを注入してしまう。カプセルが溶けるまでの時間イコール会議までの時間と言う次第。(ジョジョの第二部の毒薬のリングの発想は多分ここではないかと思われます)予算も低けりゃスケジュールも短い、でほとんど突貫工事で作ったそうな。夜のニューヨークを音もなく彷徨う浮浪者の群れが無気味。ひとことも言葉を発せず、がんがんっと通りかかる車をバットだの鉄パイプで殴る。それだけのシーンなんだが、生半可なホラー映画より恐かった。この話でのスネーク、殴られ蹴られヒロインにゃあ目の前で死なれ、最後は大統領に助けてもらうわ、でいいとこなし。始終ふて腐れたツラで笑いもしなけりゃ泣きもしない。 あんたほんとに主人公かっと言いたいとこだが。いやもう。彼の存在感の強いことといったら…生半可なファンタジーアニメの主役なんざ足元にも及ばない。強烈な脇役の中にあっても埋没することなく、十分映画の「顔」たり得る主人公が何人いるだろう?スネークと言う名前のキャラクターが「映画に」出ているのではない。彼の個性なくしては「映画が」成り立たないのだ。「ニューヨーク1997」のタイトル知らずともスネーク・プリスケンの名なら知ってる人、ないしスネークがモデルになったキャラなら知ってるって人は多かろう。一時期、片目のダークヒーローの根っこをたどると全て彼に行き着くとまで言われていた。例えば細野不二彦の「ギャラリー・フェイク」に登場する片目のトレジャーハンター、ラモス。「盗賊都市」で見かけたとか、サソリ沼にいたとか言う噂もあるが、この辺りになっちゃうと何ぶん古い話なもんだから…。

★実はパム・グリアーも出てますロサンゼルス
前作から15年近い月日を経て作られた続編。いや、何がすごいって、主演のカート・ラッセルがほとんど変わってないのだ。老けない体質なのか、それとも元が老けていたのか?素のままの顔は実に優し気なこの俳優さんにアイパッチと無精髭をつけくわえるとあら不思議。あっと言う間にふてぶてしい面構えに。(ま、たいていこの二種類をくっつけりゃ人相悪くなるか。)

今回は、世界中のあらゆる電子機器を無効化してしまう衛星兵器の起動ディスクを持ったまま、ロサンゼルスのテロリストのもとに出奔しちゃった大統領令嬢を追って潜入する。ラテン系の男にころっと騙されたこのおめでたい令嬢の名前がユートピアときたもんだ。前回では毒薬のカプセルを注入されてしまったスネーク。同じ手は食わないぞ、と用心していたら今回は致死性のウィルスを感染させられてしまう。(テクノロジーも官憲の悪だくみもちゃんと進歩してるのだ。)発症するまでにディスクを持ち帰れ、と言うわけだ。ステルスコートだのホログラム投影装置だのとハイテク装備を渡されたスネーク、並べられた装備を横目でジロリと睨みんでひとこと吐き出す。
「オレの銃はどこだ?」
ちまちました仕掛けはいらない。銃さえあればいい。
なんか、こう、敵地に赴く時ゃ少しでも有益なアイテムを持ち込もうと考える自分が、情けなく見えた瞬間であった。

★崩壊する美者たちの棲み処
この作品で無気味だと思いつつ笑っちまったシーンがある。(いやまあ、そゆ場面多いけどね)
罠にかかり、生け捕りにされてしまうスネーク。連れて行かれた先は病院。ここの患者は、度重なる美容整形の副作用で生きながら体が崩れ落ちてしまうのだ。で、新鮮な人間の体を移植してかろうじて生き長らえていると言うわけ。「患者治すより先に自分の顔をど〜にかせい」と言いたくなるような腐れ医者(心身共に)が出てきてひとことのたまう。「あらキレイなブルーアイね。一つしかないのが残念だけど…」 ここで「臓器移植」とゆかず「美容整形」が出てくるあたり、さすがだカーペンター、凄いぞ、カーペンター。相変わらず冷めてる(COOL)。しかしこゆギャグが成り立つほど、ロスじゃ美容整形してる奴が多いのか?

★不言実行主人公
どこもかしこも文句なくB級のこの映画。唯一らしくない点があるとすれば、序盤で張られた伏線が、何もかもきっちり収まってる点だろう。切れる前に一歩立ち止まり、しばし虚構の未来でぶっ飛んでみたい時にお勧めの一本。今思うとブレードランナー路線の「荒んだ小汚い未来」の流れを汲む話だったんだな。SFの原典を「筋の通った荒唐無稽」と定義するなら、ニューヨーク1997といい、エスケープフロムL.A.といい、実によくできたSF映画だ。主人公が余計な主義主張を喋らないから、すっきりしていて嫌味がない。喋る必要もあるまい。居るだけで十分。

レンタルビデオが出た時は「画質がいいから」と言う理由でエスケープフロムL.Aの方が好きだった。しかし今はDVDがある。クリアーな画質で「ニューヨーク1997」が楽しめる!やあ、いい時代になったもんです(しみじみ)

ちなみにデンマークでも売ってましたよ、両作品のDVD。
299クローネでした(×20で日本円?
» category : Bの大箱(再録) ...regist » 2004/10/30(Sat) 11:13

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