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» マスク・オブ・ゾロ » date : 2004/10/30  
いやあ、かっこいいんですよ…ゾロの師匠。

★1998年・米/主演:アントニオ・バンデラス/アンソニー・ホプキンズ
監督:マーティン・キャンベル/製作総指揮:スティーブン・スピルバーグ
DVD発売中。

スペイン統治下のカリフォルニア。総督モンテロの圧政に民衆は苦しみ、虐げられてきた。その時黒いマスクに素顔を隠し、さっそうとあらわれた黒衣の剣士。彼こそがゾロ!鮮やかに銀光一閃、彼の現れるところ常に正義が行われる…
これは最初のゾロが消えてから二代目のゾロが誕生するまでの物語りである。そう、実は肝心の映画の本筋は、厳密な意味ではゾロ不在のまま進行するのである。予告編でさっそうとした勇姿を披露したゾロ。黒マントを翻し、民衆の喝采を浴びながらスペイン兵を軽々とあしらうゾロ。私たちの抱くイメージそのもののゾロは実はバンデラスではなく、初代ゾロことアンソニー・ホプキンズだ。 (ちなみにオープニングでマント翻すゾロもホプキンズ。)
そして彼は映画の前半10分と立たないうちに総督モンテロに正体を暴かれ、妻を殺され、幼い娘を奪われ、あっさり監獄に繋がれてしまう。おいおい、どーすんだ、主役が消えちまっただよ。 観客のとまどいをよそにさくっと20年が過ぎる。
再びカリフォルニアに戻ってきたモンテロに復讐するべく、かつてゾロだった男…ディエゴは脱獄する。そこで彼が見たのは美しく成長し、宿敵の実の娘として育てられた愛娘エレナの姿だった。一度は絶望するディエゴ。しかし酒場で出会ったある若者に一条の光を見い出す。兄を総督の副官に惨殺され、ヤケ酒を煽る若者、アレハンドロ。彼こそ20年前のあの日、ゾロを羨望のまなざしで見上げた少年の成長した姿だった。粗野な馬泥棒に過ぎないアレハンドロに、ディエゴは徹底して剣術と優雅な立ち居振るまいを教え込む。しかし一朝一夕で人間変わるものでなし。兄の仇を目の前にした時、彼は思わず暴走しかける。
「ゾロの剣は民衆の剣だ、私怨で剣を振るってはならん」
「できない、兄を殺されたんだ!」
「ならばこれで隠すのだ…憎しみと哀しみを。」
ディエゴの手には黒い絹のマスクが握られていた。

「トルネード!おい。こっちに来い!」 草を食んでいた黒馬が首をあげる。
屋根の上から口笛を吹くアレハンドロ。 とことこと屋根の下に歩いてくる黒馬。ひらりと飛び移るアレハンドロ。
その瞬間、二歩前に出る馬。地面に落ちたアレハンドロ。ちらりと振り返る馬。
(本編より。やあ、いい性格してます、ゾロの馬。)


★活劇の条件
個人的見解で恐縮だがイイ活劇の条件として以下の5つを挙げたい。
(1)かっこいい師匠。
(2)魅惑的なヒロイン。
(3)イっちゃってる悪役。
(4)飽きる暇のない展開。
(5)少し抜けた主人公。
この要素、おそろしいことに全て、「マスク・オブ・ゾロ」に含まれている。
初見は劇場だったが終わってから「金かえせー!」と暴れる気にならなかったもんな。

★かっこいい師匠
映画冒頭。かき鳴らされるギターと狂おしいフラメンコのタップに乗ってさっそうと登場する初代ゾロ。あざやかな剣さばき、小気味よいセリフ。胸のすくようなかっこうよさである。が、何か物足りない。あまりに優等生すぎるのだ。
果たせるかな、アンソニー・ホプキンスが光り輝いてくるのはむしろ監獄につながれ、更にそこから脱獄してからなのである。(や〜趣味はいってますけどね)典型的イギリス紳士を演じさせれば右に出る者はいないであろう端正な顔だち。ぴしっと伸びた背筋。麗しい銀髪。黒い服に身を包み、バンデラス演じるアレハンドロをびしばしと容赦なくしごく様には、硬質の色気すら感じてしまう。(あ、趣味も入ってっけどね、趣味も。)動きも台詞も最小限、しかしそれが急所を刺し貫く。前半の『ゾロ』を演じる時とは打ってかわった静の演技。そんな彼も、唯一娘に関しては冷徹な仮面の下の素顔をさらけ出す。父と名乗れぬまま娘と対話する時。背中を向けた娘に注ぐせつない目…感情を押し殺した控えめな声と何と対照的であったことか。この人を見るためにこの映画見に劇場まで行ったようなもんである、私わ。

★魅惑的なヒロイン
初代ゾロことドン・ディエゴの娘。赤ん坊の頃に宿敵モンテロ総督に連れ去られ、彼の娘として育てられたエレナが本編のヒロインである。きりっとした楕円形の目、波打つ黒髪、クリームのように滑らかな肌。必要とあらば華やかなドレスを惜しげもなく脱ぎ捨て、武器を手に土ぼこりの中に身を投じる。そう、きょうびのヒロインたるもの、主役の傍らできゃーきゃー言ってるだけでは満足しないのである。しなやかな、強さとでも申し上げましょうか。このエレナ、何と馬を盗みにきたアレハンドロと対面、「彼が危険そうな男だったから」思わずときめいてしまったと神父に懺悔する。(しかし懺悔所に隠れていたのは実は当のアレハンドロ御本人とゆ〜のはお約束)
その一方で自らの出生の秘密を垣間見た時には、驚くほど繊細でもろい側面を見せる。実の父と信じるモンテロ。知るはずのない花の香りの向こうに見え隠れする本当の父ディエゴと亡き母の面影。私は一体だれ?「あの花の名前はロムネヤと言うんだ…君の話していた花は。」この決着は最後の最後まで持ち越され、徐々に真実に気付き、受け入れてゆく過程がちょっとした仕種や言葉に乗せてていねいに描写される。自分の弱さ、強さに戸惑いつつも、いつもまっすぐに前を見つめる。エレナはそんな女性(ひと)である。

★イっちゃってる悪役
小悪党は一山いくらで売るほど出てくるが、代表的な悪役は二人。まずスペイン総督ラファエロ・モンテロ。彼は誘拐した人々を、老若男女、子供に至るまで隠し金山で酷使し、いざバレそうになると全て殺して証拠を隠滅しようとする冷酷な男である。頭も切れる。かつてディエゴの妻、エレナの母エスペランザに横恋慕していた彼は、歪んだ形でその想いを成就しようとする。母親に生き写しのエレナを、己の実の娘として育てる事で。それは父性愛と言うよりむしろ所有欲、執着、独占欲に近い。素直に妾にするより娘にしてしまう。血の絆と言う切っても切れない絆でがんじがらめにする所が…こりゃ既に妄執ですね、はい。
そしてちょっぴり次元大介に似ている、ハリソン・ラブ大尉。彼はモンテロの副官で、気障で冷酷な伊達男。アレハンドロの兄ホセと友人ジャックを惨殺した張本人である。しかもこの男、切り落としたホセの首とジャックの手首を、ガラスの酒瓶に漬け込んでいるのだ…更にそれを当のアレハンドロに勧めたりするし。
一見蛮勇とは無縁に見える洗練された男がこ〜ゆ〜ことをやると、見てて背筋がぞわぞわします。
アレハンドロは顔色一つ変えずに兄の首の漬け込まれた酒を飲み干し、その後で師匠と前述の会話を交わすのである。こう考えるとあれですね。若者の殻を破ってヒーローが誕生するには、それに見合うだけのブっとんだ悪役の存在が欠かせないのですな。

★飽きる暇のない展開
妻と娘を奪われた男の復讐と、粗野な馬泥棒からヒーローへと変わり行く男のテーマをうまくクロスオーバーさせ、お互いに干渉、刺激させつつ最後の大舞台…隠し鉱山の爆破と奴隷にされた人々の救出のクライマックスへいっきになだれ込む。中だるみが、ないのです。ディエゴのパートを進めつつ、エレナを接点にアレハンドロのパートも同時進行、ぼやんっとしてるといい場面を見逃しちまうぞ、と言った具合。あまりにシビレたので2度ほど、この鉱山のシーンをTRPGのシナリオに組み込んでしまった。
で、個人的に気に入ってるのは、晴れて正式にゾロのマスクを授与されたアレハンドロくんが、総督の屋敷に忍び込み、目的を果たしてさっそうと馬屋から脱出…しようとしたら、そこにエレナがレイピア片手に待ち構えていた、と言うシーン。「フェンシングのレッスンをつけてあげたいのだが時間がないのですセニョリータ」「あなたに教えていただく必要はありませんわ、セニョール」そしてタンゴのリズムに会わせて(ダ塔Sではない、念のため)二人は剣を交える。エレナの剣がアレハンドロのシャツを切り裂く。ひょいと一歩下がって今度はアレハンドロの剣がエレナの寝巻きを切り裂く。
巧みな剣さばきと足取りで違いの護りをかいくぐり、ちょっとずつお互いの服を切り裂くこのシーンが、フェンシングに託して男女の恋の駆け引きを暗喩しているように思えてならないのです。交わす刃を小意気な会話、ひらめく一撃を相手のハートに狙いすました口説き文句や軽いキスに例えれば、マコトにどきどきするラヴシーンに他ならないわけで…(想像力たくましすぎ?)最後にすぱっとエレナのネグリジェがまっぷたつにされた瞬間、同時に彼女のハートもゲットってなもんですねっ。事実、このシーンの直後から二人の距離はぐっと縮まってゆくのです。

★少し抜けた主人公
え〜…やっとここに来てバンデラスです。同じ衣装を着ていてもアンソニー・ホプキンスのゾロとの違いはあまりに明確。カラダが自己主張してるんです、カラダが。シャツの襟をちょっとだらしなくはだけて胸毛と胸板がちらっと拝めるんですな、この人の場合。愛馬とのコミュニケーションもちょいズレ気味で、そこがまたコミカルでよろしい。だって最初っから完璧なヒーローが出てきても、あまり親身になって見てられないものな。ちょびっと抜けててあぶなっかしいから魅力がある。お師匠にびしばししごかれて、たまにふて腐れたり。調子こいて茶目っ気出すよな男だからこそ、「おいおいもっとしっかりしろよ」と画面に突っ込み入れてやりたくなるよな親しみが湧くとゆ〜ものです。
この、にやけた男が、宿敵ラブ大尉との最後の対決を通して古い皮を脱ぎ捨てるように変わる。いや、まあチャンバラ自体は、決め台詞もポーズもないうちにどさまぎのうちに終わってしまうのですが。(しまいにゃ上から荷車まで落ちてくるし)やや欲求不満ぎみで画面を見ていると、カメラは捕われた人々を救おうと奔走するエレナに切り替わる。火薬の導火線が燃え尽きるまでに鍵を破壊し、檻を開けないと!しかしピストルの弾が切れる。絶望がエレナの目に浮かぶ、その刹那、がつっと金槌が叩き付けられ、錠が開く。思わず納得しました。そうか、これだ。これが、ゾロの「決め」なんだと。
幼い子供を腕に抱き、エレナを伴い救出した人々を導くゾロ。剣をかざして勝利を誇示するのでもない、有名なZマークを刻むでもない。血と、泥と、土ぼこりにまみれ、それでも誇らし気に歩くゾロ。
「あ、監督、この絵を撮りたかったんだな」と思わせられる名シーンだ。
こうして、二人目のゾロが誕生したところで映画は終わる。

だからエンドタイトルでマントを翻すゾロはアントニオ・バンデラスなのです。
監督は「ゴールドフィンガー」など007シリーズを手掛けた人なだけに小粋な恋の駆け引きやアクションシーンを描くのはお手のもの。
ちなみに音楽は「タイタニック」を手掛けたジェームズ・ホーナー。
» category : Bの大箱(再録) ...regist » 2004/10/30(Sat) 11:12

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