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» デッド・ゾーン » date : 2004/09/29  
 誰も知らない未来のために男は命をかけた。

★デッド・ゾーン
 1983年・米/主演:クリストファー・ウォーケン/監督:デヴィット・クローネンバーグ
 原作:スティーブン・キング

##2005/6/16追記:スカイパーフェクTVのAXNで連続ドラマが放映されると言う。予告編を見た限りでは、けっこうイケそうだ。楽しみである。

 もしもあなたが手を触れた人の未来が見えてしまったらどうしますか?それも決して幸福とは言えない、むしろ破滅の予兆が見えたとしたら。

 D.クローネンバーグが「ザ・フライ」や「裸のランチ」でメジャーになる前に手掛けた作品。低予算ながら、望まぬまま超現実の目をもってしまった男の、哀しいまでにストイックな愛をせつせつと描ききった名作だ。

 何故かレンタルビデオ屋だとホラーのコーナーに置かれてるのだ。
 原作者がスティーブン・キングだからかしらん。けれど私的に言い切ってしまおう。これは立派なSFだ。ハードボイルドだ。
 その割にゃあ特撮をほっとんど使ってないけれど、モーフィングやCGばりばりで骨子のない腑抜けたモドギよりよほど面白い。

 平凡な教師ジョニー・スミス。(ま〜名前からして山田太郎並に平凡だわな。実際にゃこの組み合わせの人って滅多におらんけど)彼は恋人サラとのデートの帰り、交通事故に遭い昏睡状態に陥る。

 5年後に奇跡的に回復したものの、教師の職は失い体に障害が残ってしまう。目が覚めたらいきなり年くってたってのもかなりショックだよね。今の自分が夜寝て、朝起きたら+5歳!って図を想像してごらんなさい。更に追い討ち、将来を誓いあったはずのサラは別の男と結婚し、かわいい息子まで生まれていた。引きつりながらもどうにかこうにか「おめでとう」と彼女に伝え、ジョニーは健気に社会復帰を目指す。学校で教えられないのならと家庭教師の仕事を始め、リハビリに励む。彼は平凡な人生の幸せを取り戻そうと必死だった。しかし、彼はどうあがこうと、二度と普通の生活には戻れない体になっていたのだ。

 と、言っても別に吸血癖がついたとか蠅の遺伝子が紛れ込んだとか言うストレートな変化じゃございません。手に触れた相手の未来を読み取る、超能力が備わっていたのです。それも幸福なものではなく、破滅や死の未来が。

 平凡な男が、悩み、苦しみながらも必死でハードボイルドする姿が泣かせます。
 タフな超能力ヒーローがぱぱっと事件解決する話もいいけれどこう言う話もイイですね。何てったって感情移入の度合いが桁違い。

★おめでとう、今日からサイコメトラーだ
 だけどヒーローを気取ってる場合じゃない。たまったもんじゃありませんぜ。何せ握手をするたびに他人の不幸な未来が目に飛び込んでくるのだから!しかもアメリカじゃ握手の頻度は日本における「黙って会釈」に匹敵する。
 この辺の描写を、一切特撮を使わず、ギャン!ギャン!ズキュウウウン!と荒木飛呂彦ばりの効果音と、痙攣しながら跳ね上がるウォーケンの演技、短いカットバックで目まぐるしく挿入される「破滅の映像」だけで見せてしまったクローネンバークのらつ腕ぶりには舌をまく。またウォーケンが痛そうな顔するんだ。これだけで十分に彼に取ってこの能力が「苦痛」であり「災難」でしかない事が明確に伝わってくる。

★悪魔と呼ばれて
 望まぬままにある日突然異端者となってしまった自分。せめて未来を見る能力を人の世に役立ててる事はできないのか。どうにかして社会に受け入れられる事はできないのか?
 考えた末にジョニーは警察に協力し、連続暴行魔を逮捕する。しかし犯人の母親は叫ぶのだ。「お前は悪魔だ!」ま〜どんな凶悪な犯罪者も母親にとっちゃ愛しい息子ですってことか。と、第三者は気楽に思う。しかし疎外されていることを自覚している人間にとっちゃこの言葉はかなり致命的だ。悪魔=異端者と呼ばれたくないがためにした行いが、さらに異能な自分を際立たせてゆく。何と言う皮肉。何と言う悪循環。

★つかの間の安らぎ、そして転機
 この一件で打ちのめされたジョニーの元にひとりの紳士が訪れ、息子の家庭教師を頼みたいと依頼する。「私は君の教師としての能力を評価しているのだ。決して千里眼目当ての興味本意な気持ちで来たのではない。」これこそ彼が望んだことに他ならない。こうしてジョニーは生きる希望を取り戻したかに見えたが…ある日、少年とさようならの握手を交わしたとき、彼は又見てしまう。池の氷りが割れ、もがきながら沈む少年の姿を。しかも当人、にこにこしながら目の前で「これから池でホッケーをやるんだ」と楽し気に言う。
 「行っちゃいけない!行けば死んでしまう。」
 しかし父親は冷たくジョニーに解雇を言い渡す。
 けれど少年は先生の言葉を信じた。
 スケートに行かなかった。

 予言の日、不安に怯えながら電話をかけるジョニー。受話器をとったのは少年自身。「はい、もしもし?」安堵のため息を吐き、彼は無言で電話を切った。
 自分は破滅の未来を予知してしまう。しかしそれを避けることもできるのだ。

★個人ですまない破滅もあった
 気持ちもあらたに前向きに生きる決心をしたジョニー。かつての恋人(と言うより5年間の空白は彼にとっちゃ存在しないんだから未だに愛してる訳だが)サラを訪問し、夫と子供にも明るく挨拶しちゃったりする。ついでに彼女らが応援する議員候補、スティールソンとも握手…その時、再び破滅のヴィジョンが襲ってくる。

 それは近い将来、アメリカ大統領にまで登り詰めたスティールソンが、独断で核ミサイルの発射ボタンを押すと言う、救い難い未来だった…

 このへん設定が無理なく組まれています。一介の地方選出議員が大統領になっちゃうのもアメリカでは決してあり得ない事じゃござんせん。そして核戦争の引き金が最終的にはアメリカ大統領の指先ひとつにかかっていることも。個人レベルから一気に世界規模に、逃げ場のない恐怖に切り替える手際はさすがスティーブン・キング。隣人がある日突然シリアルキラーと化してサラをざくざく切り刻む、なんてありがちなオチにもってかないあたり、実に鮮やかです。

 知りたく無いのに知ってしまった世界の破滅。
 しかも相手は将来はともかく現在は非の打ちどころのない重要人物だ。一体どうすれば避けられる?奴が核戦争を引き起こすと、今言って誰が信じてくれる?

★もし…
 この主人公、事故の昏睡から覚めても医者に通っていた。精神科医だったか外科医だったかは失念したが、この老医師とたびたびカウンセリングめいた会話を交わす。決して人情味あふれる優しい医者ではないのだが、ジョニーの話を静かに真面目に聞いてくれるのは彼だけだ。
 悩んだ末にジョニーは老医師に相談をもちかける。
「もし、先生が、ドイツの首相になる前のヒトラーを殺せるとしたら、どうしますか?」
「間違いなく殺すよ。あの、悪魔を。」
 作品中でははっきりとは語られなかったが今思うにこの先生、ユダヤ系ではなかったか。
 ともあれ、この言葉を支えにジョニーはある決断を下す。


★暗殺、そして失敗
 ライフル銃を抱いてジョニーはスティールソンの演説会場に潜入する。
 チャンスは一度だけだ。
 確実に破滅の未来を消すためには、ヤツを殺すしかない。
 演説が始まる。
 やおら立ち上がり、ライフルを撃つジョニー。しかし障害のある体ではなかなか当たらない!逃げまどうスティールソン。シークレットサービスの銃弾が容赦なくジョニーの体に撃ち込まれる。力尽きて床に倒れるジョニー。所詮、未来は変えられぬ運命なのか?
 え〜…私この映画のラストシーンが非常に好きなので是非とも御紹介したいのですが、それやるとネタバレになっちまいます。皆様の目にする機会がほっとんどないに等しいマイナーな作品なら、あえて敢行してしまうのですが、レンタル屋さんで探すことも、キングの原作を読むことも可能な作品ですからそうも参りません。と言うわけでここから先はネタバレ覚悟だ、どうしても見たい、という方だけお読みください。(そうでない人は実際に読むか見るかしてから読んでね。)

【以下、ネタバレゾーン】
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★誰も知らない未来のために
 逃げまどうスティールソン議員候補は命惜しさに、あろうことかサラの息子を掲げて自分の盾にする。死の間際に最後の力をふりしぼってスティールソンにつかみかかるジョニーの目には、その不様な姿を新聞のトップにでかでかと掲載されて議員生命を失い、己の頭に銃弾を打込む彼の姿が見えた。
 ほんのかすかな笑顔を浮かべ、ジョニーは死ぬ。かくて世界は救われた。しかし、そのことを知っているのは彼だけだ。
「なぜ、彼はこんな事を?」
「わからないわ…」
 血を流し冷たい床に横たわるジョニーの顔は、はじめて苦痛から解き放たれ、崇高なまでの透明感に満ちていた。
 誰も知らない未来のために、男は命をかけた。世界を救うと言うよりはむしろ、唯一人愛する女のために。
» category : Bの大箱(再録) ...regist » 2004/09/29(Wed) 13:58

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