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» スタートレック ディープ・スペース・ナイン「トリブルでトラブル」(再録) » date : 2004/09/25  
■スタートレック ディープ・スペース・ナイン「トリブルでトラブル」
   D.ケアリー:著 丹羽正之:訳 岸川靖:監修
  角川書店スニーカー文庫 ISBN4-04-423702-6 514円

スニーカー文庫より刊行されたスタートレックDS9の第二弾。TVシリーズ第五シーズン「伝説の時空へ」の完全ノベライズ化である。
……ってあんた、いきなり第一シーズン1、2話の次がコレかいっ。
ええ、このラインナップ見た瞬間、納得しましたよ。
これ、スニーカーの読者はハナっから視野に入ってませんぜ。多少なりとも「スタートレック」と言う言葉を知ってる人間だけをターゲットにしてますな?
さもなきゃ、こんなマニアックすぎるチョイスがまかり通るワケがない。
そもそも、このエピソードからして、「宇宙大作戦」の「新種クアドロトリティケール」(トリブル騒動)が元なんだから、スタートレックそのものが『未知の領域』なビギナーさんたちはアウトof眼中であることは疑いようもない。心底面白がるためには、まず、「宇宙大作戦」以来の30年にわたって積み上げられてきた艦隊の歴史や設定を把握してなくっちゃいけないのだ。(SF好きなら素のままでもかなり面白いだろうが…)無理に読め、とも言えない。
それだけの無茶をやっても、おそらく、ある程度、売れるだろう。
採算とれちゃうだろう。

なぜなら、スタートレックを知る人にとってはむちゃくちゃツボを突いた話なのだ。たまらんのだ。
30年に渡り、積み上げられた架空の歴史、架空の科学。その設定をあますところなく使い込み、作り手自身がぞんぶんに楽しんだ作品なのだから。

宇宙歴4523.3。宇宙ステーション「ディープ・スペース・K-7」でおきた『とある事件』により、人生をはく奪された男がいた。彼は地球人に変装し、任務のために新種の小麦クアドロ・トリティケールに毒物を混入させる。このことにより、彼の母国は惑星連邦との植民地争いに勝利するはずだった。
しかし、半ばまで成功したかに見えた彼のもくろみは、一人の艦隊士官と、一見無害な毛球状生物によって見破られてしまう!
以後、彼は母国を追放され、地球人として生きることを余儀なくされる。

100年以上の間、彼はふつふつと憎しみをたぎらせて生きてきた。
許すまじ、トリブル。
許すまじ、ジェイムズ・T・カーク!

そう、本書は宇宙大作戦の人気エピソード「トリブル騒動」の後日談なのである。

と、言うか同日談と言うべきか。

「トリブル騒動」で、地球人に化けてたはいいが、トリブルに見破られてクリンゴン人だとバレた不幸なやつがいたのを覚えておいででしょうか?(って無理だってば)そのバリー・ワデルとゆう男が今回のキーパーソンなんです。
この男がたまたま、ディファイアント号に救助されちゃって、その時、ディファイアント号はカーデシア政府から返還された『ベイジョーの発光体』を輸送中で、しかもその発光体が『時間』を司るオーブだったのがそもそもの始まり。
バリーはオーブの力を使って過去に戻り、カークを暗殺しようと脱走しちゃったんですね
すわ、一大事!と、シスコ中佐、オドー、ウォーフ、ドクター・ベシア、チーフ・オブライエン、ジャジア・ダックスたちが、「宇宙大作戦」時代のユニフォームに身を包み、変装して過去のエンタープライズに乗り込みます。

巻末に掲載された「制作秘話」を読むと、デジタル処理した宇宙大作戦のフィルムに、DS9のクルーを合成して、カークたちとのツーショットを撮影したんだとか何とか。
セットやミニチュアにいたっては全部、再現したんだそうです。(宇宙大作戦の撮影スタッフに再召集かけて!)

むろん、古い時代の宇宙大作戦と、DS9の間にはどうしても埋められない溝があるわけで。その筆頭たるや旧作のクリンゴン人の「ささやかな」メーキャップなのですが…

オブライエン「どこにクリンゴン人がいるって?あれは、ただの顎髭が生えた地球人じゃないか!」
ウォーフ「いや…確かに彼らはクリンゴン人だ」
ベシア「ぜんぜん違うじゃないか!ウィルス性の突然変異でもあったのか?」
ウォーフ「話せば長くなる」

これ、自爆ギャグって言いませんか、ひょっとして。実際、このシーン見た本国のファンも同じようにして突っ込み入れたと思うけどね。
あと、たまたま酒場に居合わせたオドーが、トリブルを膝にのせていて、何も知らずに隣に座ったウォーフががたんっっと立ち上がって後じさりしたりして、随所で笑かしていただきました。

オドー「たいていのヒューマノイドは、もこもこした生き物が好きなはずなんですが」
(差し出す)
ウォーフ「そいつを近付けるなあああっ」
オドー「かわいいのに…」

ウォーフのコメントによりますと、クリンゴン帝国は全力をあげて、トリブルの母星を滅ぼし、さらに選りすぐりの戦士100人を全宇宙に派遣してトリブル撲滅に勤めたそうです。(グリーン・ピースから抗議がきたりしてな)よっぽどトリブル嫌いなんだね、クリンゴンっ。あのデコの皺は、トリブルに悩まされたせいで、眉間に皺よせてたからできたんだ、と言う説は本当かもしれないっ!(なお、この説はモンゴメリ・スコット役のジェイムズ・ドゥーハン氏のコメントによるものらしい。「ミスター・スコットが言ってました」って言うと、妙に信ぴょう性があると言うか、或いはうさんくさいと言うか。)

また、酒場でクリンゴン人がカーク船長を侮辱して、チェコフやスコッティを挑発するシーンがあります。尊敬する艦長を侮辱され、思わず殴り掛かるチェコフ。なだめるスコッティ。しかし、エンタープライズ号がゴミ箱呼ばわりされた瞬間、ぷちっと切れたスコッティ。
「何だって?もう一度言ってみろ…」
そしてこの後酒場は大乱闘になる訳ですが。

このシーンにオドー、チーフ・オブライエン、そしてウォーフが居合わせてまして。
旧エンタープライズを馬鹿にされているうちに、チーフ、ふつふつと怒りがこみ上げてくる。「俺のエンタープライズを侮辱しやがってええっ」って。セリフこそ出ていませんでしたが、ウォーフもかなり怒っていたらしく、このあと二人は旧エンタープライズのクルーといっしょになって、クリンゴン人をぶん殴ってしまいます。二人とも、DS9に転勤する前はエンタープライズDに勤務してたからね…。いやあ。タイムパラドックスは気になるけど、やっぱりこーでなくっちゃね。

DS9クルーの中には長生きしてる種族もいるわけで、こんなシーンも出てきます。
クリンゴン船の艦長、コロスがステーションに乗り込む、と聞いたジャジア・ダックスが、見に行きたい、と言うのをシスコが必死で「それはまずいってば」と止めるシーンがございます。実はジャジア・ダックスは、前に「クルゾン・ダックス」だった頃、クリンゴンとの調停を結ぶために帝国に滞在し、その時、コロス艦長と親友になっていまして。
その後のエピソード「血の誓い」で、ジャジア・ダックスとしてコロスと再会。けれど、このエピソードの終幕で、ジャジアはつぶやくのです。「何が死ぬにはいい日よ。親友を亡くして…」

「男盛りだったころのコロスを見たいの」
彼女の言葉の裏に込められた意味に気付いた瞬間、思わず『ほろり』としてしまう一幕でした。

タイムパラドックスぎりぎりの際どい調査の結果、やっとシスコたちはバリー・ワデルを発見、逮捕する。しかし、不敵にほほ笑むバリー。

「もう遅い。私の計画は既に発動しているのだ!カークをトリブルで吹っ飛ばしてやる」

なんと、彼はトリブルの一匹に爆弾を仕掛けたと言うのだ!

すでに、増殖したトリブルは、宇宙ステーションの中に、エンタープライズに、いたるところにモコモコしている。

「で、どれが爆弾入り?」

ここでカークが死ねば歴史が大々的に変わってしまう。時間は刻一刻と過ぎてゆく。がんばれシスコ、まけるなウォーフ!

「帰ったらケイコに自慢しよう。カーク船長に会ったって」

深刻な話なんだけど、やっぱり笑っちゃうのは、ネタがトリブルだからでしょうか...........
後日、スカパーのスーパーチャンネルで実物のドラマを見た訳ですが。
やっぱ笑ったです。
同時に感激。
若かりし日のカークとシスコ提督がちゃんと同じ画面で共演してるんだもんな。
» category : 本のこと ...regist » 2004/09/25(Sat) 02:29

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