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» プラネテス(再録) » date : 2004/09/25  
※このコラムは週刊モーニング2000年No18、19に掲載 された当時に書かれたものです。アニメ化はおろか、コミックスにさえなっていなかった頃のお話。

第一話「屑星の空」を読んだ瞬間、ずがんと脳味噌を直撃された気分だった。
もし、あなたが「カウボーイ・ビバップ」や「マスター・キートン」、あるいは「2001夜物語」に痺れた感性の持ち主なら…迷わず読め。この作品は、きっとあなたの『飢え』を満たしてくれる。
まだ3回しか雑誌に掲載されていない、しかもコミックスも出てなきゃ作者もマイナー(失礼!)だが、それだけの価値はある。
今どき希有な、根っからのSF者がついついやっちまうあら探しに耐え、しかも「そ、そこまでやりますか。やってくれちゃいますか」とジタバタさせてくれる(ウンチクはなし。さらっと自然体)マンガなのである。

地味だけどな。

時は未来、所は宇宙。この輝かしい舞台設定で3人の主要人物のやってるお仕事といやあ、何とも地味なことにデブリ(宇宙塵)の回収なのである。そう、早い話が宇宙賭けるゴミ処理業者だ!
元はといえばそのゴミも、宇宙船や人工衛星の破片。宇宙開発の裏側で人間の出したものなのだ。輝かしい宇宙への進出の裏側をのぞいてるような、何となく後ろめたいイメージがある。
だからこそ、足のしっかりついた、上っついた冒険旅行の場ではなく、『生活する』場としての宇宙を感じる事ができる。
主要な登場人物は3人。かつて事故で妻を失ったユーリ、日系のお調子者青年ハチマキ、そしてキレると過激な女船長のフィー。人種、性別、年齢も見事にバラけている。どこか肩の力の抜けた、それでもヤルことはきっちりヤル連中である。と、同時に八十年後、ほんとにそこらを歩いていそうな、普通の人なのである。
それなりに不満もある。悩みもある。生きてりゃ傷のひとつふたつは抱えている。
ストーリーは毎回、そんな主役たちの日常的な悩みと、SF的な背景、事件、そしてホラ話を巧みに縫い合わせ、絶妙の色合いで綴られる。まるで余った布のきれっぱしを縫い合わせ、一流の芸術品にも匹敵する美しさと、日常での使用に耐える機能をあわせもつパッチワークが生み出されるように。

現在、発売中の週刊モーニングに掲載されている「ささやかなる一服を星あかりのもとで」のメインテーマは「煙草」だ。「仕事のあとに一服したい!」と言うフィーの執念。しかし、閉鎖空間で空気を浄化するにはもんのすげえ手間と金がかかる。その環境で一服しようってんだから…実は「ささやかな一服」どころではすまないのだ。
一月におよぶ禁煙期間の後、やっと吸おうってのにあとからあとから邪魔が入る。それも御丁寧にもテロリスト集団「宇宙防衛軍」の爆弾テロ、なぞというとんでもないアクシデントのせいで。
「喫煙」と「爆弾テロ」、この一見関係のない二つの事柄は、実は同じ根っこでがっしりつながっていた。(このへんの繋がりがとてもとてもエスエフ的。)それ故、フィーはただ一途に『一服したい!』と言うものすごく個人的な理由でしまいにゃ地球を救ってしまうことになる。ただし、とっても無謀な方法で。
これだ。
私がSFを愛好するのは、ひとえにこれが見たいからなんである。読みたいからなのである。
ストーリーのテンポも早く、かわされる会話もどこかしらユーモラス。肩の力を抜いてさらっと読める口あたりの良さもなかなか気分いいです。中心となる人物の「悩み」の解決、もしくは昇華と、事件のクライマックスも見事に同調。読み終わるとすかっとします。
» category : 本のこと ...regist » 2004/09/25(Sat) 02:26

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