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» クレイジーピエロ(再録) » date : 2004/09/25  
■クレイジーピエロ/高橋葉介/ISBN4-257-72034-5/朝日ソノラマ/476円

「夢幻紳士」や「学校怪談」の高橋葉介の初期の連作。「クレイジーピエロ」「殺人サーカス」「クレイジーピエロの伝説」の3本が描かれている。
第二次世界大戦当事のナチスドイツを思わせる、重苦しくも残酷な軍隊の占領下、どこからともなくあらわれる謎の怪人クレイジーピエロ。怒りに任せて目の前の敵を、ただ殺して殺して、殺しまくる彼を、民衆は「救世主」だの「神の使い」だとありがたがるが、やってる当人は知ったこっちゃない。
ピエロの行くところ、恐怖と混乱が吹き荒れ、敵味方関係なく血みどろの肉塊に成り果てる。彼が誰かを守ろうとする時、もたらされるのは、それを更に上回る破壊と殺りく。例え一時期、占領軍の指揮官を殺したところでじき、後任がやってくる。そして、更に厳しい統制と地獄の日々がもたらされるのだ。
しかしピエロはそんな事気にも止めやしない。なぜなら、彼はクレイジーなのだから。人の容姿をした災厄なのだから。
最後に戦争が終わり、平和をとりもどした町に再びピエロが向かう所で物語りは終わる。日常と平穏を取り戻した町に、彼は一体何をもたらすのだろう…


今回、朝日ソノラマから文庫で再販されて3度目の遭遇。しかも自分で買ったからいつになくじっくり読み込んだ結果、今迄気付かなかった(あるいは気づけなかった)いろんな要素に気付いた。
まず感想。恐かった、キモチワルカッタなんてのはみじんもなく、ただただひたすら「うっわ〜気持ちええ」膿のたまった傷口を一気に引き裂いて、何もかもそとに暴きたてる爽快感。それを強く強く感じた。
別に趣味がかわったとか、悪いもん食ったから、ではない。いや、世の中の規制がだいぶ緩くなって、多少の内蔵や血しぶきじゃあおいそれとビビらなくなったってのもあるんだろう。細かいストレスが色々たまってたからってのもあるが。
よくよく読むと、これ時代劇、それもとくに「桃太郎侍」の強烈なアンチテーゼだったんだな。飛び散る肉片と血飛沫、ヨーロッパの重苦しい空気を除去して、試しに筋書きだけ抜き出してみると、よくわかる。権力者に占領され、苦しめられている村がある。そこに、何処からともなく正体不明の他所ものがふらりと現れる。彼は一見大人し気。彼は村の少女と知り合う。権力者の手で少女がさらわれる。昔、世話になった人が殺される。他所ものは怒りを爆発させ…そして敵の本拠地に乗り込み、刀をふるってばっさばっさと目の前の敵を切り刻むのだ。
更に言ってしまえば、さらわれる少女は好色な司令官のエジキにされそうになったり、或いは『クレイジーピエロ』に成り済ましたために、身替わりに処刑されそうになったりと、これまた時代劇でよく使われるシチュエーションがちりばめられている。(少女が謎の蒼頭巾になって世直し、と言うのはマイナーではあるが時代劇の定番ネタのひとつである。)
クレイジーピエロの覚醒(普段、優しく伏せられた目がくわっと見開くシーン)を、高橋英樹の 「ゆるっさんっ」 に置き換えれば一目瞭然。如何に両者のやってることが似ているか、お分かりいただけるかと思う。ついでに言うと、ピエロも桃太郎侍もきちんと派手な衣装に着替えてるし。まあ、さすがに高橋英樹さんは素手で人体引きちぎったり、砲弾投げたりはしないけど。
ここらへんは、「超人ハルク」から来てるのかも知れない。何しろ、彼は「自分の怒りを、どうしようもない怒りをとんでもない力と一緒に爆発させるのだ」そうだから。
けれども、どれだけ大暴れしたところで所詮彼は狂気の客人。所詮ひとりでは占領体制をひっくり返すことなどできはしない。この辺は桃太郎侍も同じなのである。しかし、彼はそれにもめげずに毎回、毎回、浮き世の鬼を退治して回る。いくら世直ししても世の中はちっとも変わらない。
ピエロは違う。時に味方から恨まれ、蔑まれようとも気にもとめない。

「おれはクレイジーだからな。そんな道理はわかりゃしないのさ。おれはただ目の前の敵を殺すだけだ。殺して殺して殺しまくるのさ。かたっぱしから地獄にたたっこんでやるのさ」
(本文より)

見よ、この清清しい迄の確信犯的な開き直り。自分のしていることが如何に気狂いじみているか、ちゃんと彼は知ってるのだ。知ってるけれど、押さえようとしないのだ。
主役がコレだから、対抗する敵役もキレてます。ことにニ作目の「殺人サーカス」の女統制官がイイです。この人は筋金入りのサディストです。しかも頭いいし。でも、私が一番、ぞくっとしたのは「クレイジーピエロの伝説」に登場する脱走兵でした。ピエロの相手としちゃあ小物なんだけどね。言うことが、いかにもありそうなんです。

「物がありゃあとりあえずぶっ壊してみる。家がありゃあとりあえず火をつけてみる。人が居れば、とりあえずブン殴ってから味方か敵か確かめる。ずっとそういうくらしをして来たんだ。戦争が終わったからって急にやめられん」
「仲間うちにはまだ生きて呻いてる人間からナイフで切り取る奴もいた。敵の生首を抱えて写真をとったり…慣れてしまえば、まあそんなことはどうと言うことでもない。酒の上での笑い話だ。十年たったらなつかしく思うかもしれん…」
(本文より)

自分も、戦争にかり出されたら、こんな風になっちゃうのかな、と思う。その瞬間。紙の上に墨ベタで描き出された狂気の世界は、生々しくも肌で感じられる身近な領域となる。
» category : 本のこと ...regist » 2004/09/25(Sat) 02:20

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