家には白黒の猫がいる。たれぬいの中に混じると何処にいるかわからない。
名前はミルク。9年前に宿舎の前に落ちていた。 やせて、腹ばかりがぽこんとふくらんで、全身ノミだらけでへろへろしていた。
「いかん、この猫、今見捨てたら次に通る時はまちがいなく死んでいる」
直感した。 手が動いていた。 医者に行った。注射もした。虫がいっぱい出た。 三か月だけ手もとで育てたら、もらい手を探すから……夫を説得した。
そして今。 すくすくすくすくすくすく育って順調に七キロになった猫がここに居る。 (三か月経ったら夫もしっかり猫なしでは生きられないカラダになっていたらしい)
でっかい手術を二回もして、腸を切った結果、自力で排便ができなくなった。週一で浣腸をしている。 でもそれ以外はむくむく、ふかふかですごぶる元気。 夫の海外勤務が決まった時は今生の別れかと涙に暮れた。しかし何と言う幸運。デンマークの大家さんが猫を飼うのを許可してくださったのだ!
そこからはもぉ大車輪。 農林水産省の検疫事務所にメールを打ち、デンマーク駐日大使館に電話をかけ、スカンジナビア航空に電話をかけ、デンマークの獣医師協会に英語でメールを打ち、獣医さんで予防注射、成田で検疫手続き。
コペンハーゲン空港の手荷物受け取り場で、ゲージごとベルトコンベアでがたんごとん運ばれてきたミルクを受け取るまでは生きた心地もしなかった。新しい家にもすぐなじんでくれた。
んでもって…… あっちゅう間にふかふかに膨らんだ、ような気がする。 まぁいいや、元気でかわいいから……。 ちなみに大家さんはミルクを[lille kat](小猫ちゃん)と呼んでいる。 最初は冗談かと思ったがどうやら本気らしい。
ご当地の猫を見て合点が行った。 この国の猫は、それはそれはでかいのだ……。
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