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» 『女吸血鬼カーミラ』(児童書版) » date : 2004/03/01  
データ:レ・ファニュ:作/中尾明:翻訳/岩崎書店フォア文庫/ISBN4-265-01085-7
ジャンル:怪奇(ホラーではない)、耽美(それ以外の何だっ)

*****感想******
「わたしはね、あなたのあたたかい命の中で生きていくのよ。そして、あなたは死ぬの。わたしのうでの中で、気持ちよく死なせてあげる。
 それから、こんどは、いまのわたしのように、あなたがほかの人にちかづくの。そして愛するよろこびを知るのよ」(本文より抜粋)
これだけ言われて何ゆえ気付かぬ、主人公っ!
(と、思わず突っ込んだ人手〜挙げて)


 オーストリアの若き貴族令嬢ローラは、馬車の事故がきっかけで美少女カーミラを居城に迎える事になる。その夜から彼女は夢とも現つともつかぬ時間の中、何者かの来訪を受ける。日に日に衰弱しつつもカーミラの妖しい魅力の虜になってゆくローラ。
 実はカーミラの正体は……。

 イギリスの怪奇作家、レ・ファニュの手による、正統派お耽美吸血鬼小説。ブラム・ストーカーのドラキュラに先んじること10年。アン・ライスや萩尾もとの描く美形吸血鬼の源流は、「ドラキュラ」ではなくむしろこちらではなかろうか。
 データを見てもおわかりの通り、創元推理文庫から出ている大人用ではなく、児童書、要するに子供向けの本なのだがあなどるなかれ。原書の秘めやかに忍び寄る恐怖と官能性はいささかも衰えていない。

 ってーか、わかりやすい言葉に書き改めてる分、かえってえっちです。やらしいです。
(汚れた大人の目線で見てるからなのかも知れませんが)
 文中で主人公ローラ(女)が夢の中で吸血鬼に襲われる様子をそれと知らずに回想するシーンがあるのですが…

 以下、本文より抜粋。
「そこでわたしはぎゅっとだきしめられるのです。すると、心臓がどきどきして、息づかいがはあはあとせわしくなり、すすりなきをはじめます」
 しまいにゃ、ローラは激しい痙攣に襲われ、「雲の上にほうりなげられるような、あるいは地の底へひきずりこまれるような気がして」何が何だかわからなくなってしまう。

 …うわあ。(頭を抱える)いいのか、これ。

「そーか、児童書つってもここまでOKなんだな」と思ったのはナイショです。
やーね、大人って>自分

 霧の中に隠され、ぼんやり霞んでいたカーミラの異常性、吸血鬼『らしさ』もくっきり際立ち、むしろ創元推理文庫版より『ぐっと』きました。菊地秀行氏による「吸血鬼ドラキュラ」の邦訳に勝るとも劣りません。創元推理文庫版のあの分厚さにびびった方、こっちを読んでみよう。(もっとも、あっちは他の短編と一緒になってるせいで分厚いんですけどね)
 吸血鬼カーミラと言えば「ガラスの仮面」の劇中劇で姫川亜弓が演じていた役ですが、あれ読んで「どんな話だろなー」って思った方にもこっちをお勧めします。
 やあ、わかりやすさって大事よ、うん。
 後半部分には原典になかった「吸血鬼」の説明が実に正確に、わかりやすく書かれていて(しかも民俗学的に見ても、怪奇マニア的に見ても正しく、的を得ている)入門書としても最適と言えましょう。古今東西の吸血鬼の事件として挙げられている例のいくつかは、直接、タイトルこそ出ていませんが、吸血鬼通の方は思わずニヤリとしたくなること請け合いです。

PS 随所に「こ、これは正しく仮面舞踏会の掟ではっ」とか「この手口ってもろにヴェントルーだよな」とか呟く場面多し。VtMのテキストとしても太鼓判押します。
» category : 本のこと ...regist » 2004/03/01(Mon) 16:30

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