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とりねこの小枝

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2012年4月の日記

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教えて?フロウ先生!4—属性と神々

2012/04/23 15:51 その他の話十海
 
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<教えて?フロウ先生!>4・属性と神々

金髪の少女と砂色の髪の男が、目の前の紅茶とアップルパイに舌鼓を打ちながら話をしている。

「ん〜♪ これ美味しい、師匠が作ったの?」

「いやいや、さすがにこれは買った奴さね…こんな手の込んだの作るの面倒だしな。」

「師匠って意外と面倒くさがりよね…って、それより!ダインの属性の話!」

「あ?あぁ、そうだったな…えっと、属性はな…基本的に生まれ持ったもののみだが、付け足したり変えたりすることはできなくもない。
 一番わかりやすいのが…『神の洗礼』だな。」

「それって確か…信徒さんが入信する時に司祭様にしてもらう儀式の事よね?」

「そ、後は騎士がその忠義をどの神にささげるか決めた時とかに受けることもあるが…仕える神を決めるということは、その属性に自分を染めるってことだ。
 ダインはリヒテンダイトを信仰してるからな…洗礼で魔の属性を聖に塗り替えてるはずさね。」

「え、でも…そんなことして大丈夫なの?生まれ持った属性が変わるって大変な事だと思うんだけど…。」

「そりゃまあ、そうだろうな…体に属性が馴染むまでは、具合悪くなったりするんじゃねぇか?逆の属性だと特にな。」

「そういえばお父様が、騎士の宣誓を終えたものにはその日から一週間休みが与えられるって言ってたけど、その為かしら。」

「多分な…ちなみに付け足す方法はそら、お前さんにやったトネリコの腕輪…それでお前さんは一時的に木属性を持ってる事になる。」

「え?…あ、そうなの?」

「そ、まあ一時的に…だからそれで上位術は使えねぇがな、こういう簡易の後付属性を後天属性…生まれ持った属性を先天属性って言うんだ。」

「ふぅん…そう考えると、やっぱ神様の加護ってすごいのね…確か、13柱の神様が居るのよね?」

「そだな、始祖神リヒトマギアと、その子に当たる聖光神リヒテンダイトと闇魔神マギアダルケン…さらにその子である5属性の聖神と魔神合わせて10柱。
 この世界を作り、俺たちに加護を与えている神々はこの13柱だ。まあ、精霊や竜を信仰しているものも居るから、信仰対象はもっと沢山居るがな。」

「私の御祖母様は聖水神リヒキュリアの巫女だったって聞いたわ。…でも、精霊や竜にもこう…神様みたいな存在って居るのかしら。」

「ん?あぁ、居るっちゃ居るな…各属性の精霊王や竜神って存在が…そういうのは、シャーマンや竜司祭の奴に聞いた方が早いと思うぜ?」

「ふぅん…っと、ごちそうさま。」

「あい、お粗末様。」

(教えて?フロウ先生!4/了)

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【15-3】俺騎士じゃないのに!

2012/04/23 15:48 騎士と魔法使いの話十海
「エミリオ! 来てたのか」

 いきなり背後からぶっとい腕が巻き付き、あっと思った時は上半身裸のロブ隊長にしがみつかれていた。

「こ、こんばんは、ロブ隊長」
「ちょうどいい、貴様、脱いでみろ」
「ええっ俺がですか!」

 一瞬、エミリオは頭の中が真っ白になった。
 しょっちゅう詰め所に顔を出してはいるものの、自分はあくまで中級魔術師であって、騎士ではない。まさかこの脱ぎ祭りに巻き込まれるなんて!
 冗談かと思ったが、ロブ隊長はあくまで真剣だ。と言うか目が据わっている。

「いいから脱げ。シャルダンの名代だ」
「わ、わかりました……」

 そうまで言われては、脱がない訳には行かない。

「では、失礼しまして」

 ごそごそと深緑のローブを脱いで、その下に着ているシャツのボタンを外していると……

「ええい、まどろっこしい! 手伝ってやる!」

 上二つ外した所で、問答無用。べろーんっとシャツの裾をひっつかまれてまくり上げられて。
 すっぽんと引っこ抜かれていた。

「な、な、な、何するんですかあっ」
「ちまちまやっとるからだ! 何ごとも即断即決。迅速に行動するのが騎士の基本だぞ!」
「俺、魔術師なんですけど!」
「む……そうなんだよなあ……」

 ロブ隊長はため息をつくと、引き締まったエミリオの体をなで回した。胸から肩、背中から脇腹へ。筋肉の流れに沿って丹念に手のひらを滑らせる。

「惜しいな……実にいい体をしてるのに……」
「ひゃひゃ、くすぐったいです隊長!」
「実に……惜しい」

(シャル……止めてくれえっ)

 ちらっと視線を幼なじみに向けるが、シャルダンはとろーんとした目で、ロブ隊長の背中を見つめている。

(シャルーっ!)

 エミルの声なき声を聞きつけたのか。はっと表情を引き締めた。

「隊長!」
「ん、何だシャルダン」
「ずいぶんすごい傷ですねー」

 ロブ隊長の背中には、斜めに走る刀傷があった。脇腹から背中、さらに腰まで続いている。

「これどこまで続いてるんですかー」
「おう、これはだな」

 聞く方も聞かれた方もどちらも酔っ払い。周りに居るのも酔っ払い。制止する者はこの場には誰一人存在しなかった。

「ここまで続いてるぞ」

 ロブ隊長は即断即決の男だった。ズボンのベルトを緩めて、あまつさえ、その下のパンツに手をかけて、あっと言う間に腰骨の辺りまでずり下げる。
 脚の付け根の斜めのラインまでそりゃもうくっきりと。背後は尻の割れ目がちらりとのぞき、限りなく半ケツ状態になっていた。

「隊長! さすがにそれは!」

 なおもずり下げようと力を入れる手を、横合いから、気を取り直したハインツが飛びつき、押しとどめる。

「ここ、兵舎じゃないんですから!」
「む……そうだったな」

 くるりとロベルトはシャルダンに向き直った。

「続きは風呂で見せてやろう」
「はい、楽しみにしています!」

 心底楽しげなシャルダンの返事を聞きながら、そっと若い騎士たちのうち何人かが鼻を押さえ、前かがみになっていた。

「ちぃっ、惜しい」
「惜しかったねー」

 階下でフロウが露骨に舌打ちする。

「それにしても、まさかこんな所で騎士さま達のストリップを見られるなんて思わなかったよ……あ」

 何やら思いついたらしく、ナデューがぽんと手を打った。

「お祭りの余興で、騎士団の子たちが一日ストリッパー、とかどうかな!」
「おお、いいね、いいねー」
「受けると思うんだー。集まったお捻りは寄付に回して」

 その甘い口当たりに反して蜂蜜酒は意外に強い。ぱっと見しらふに見えるものの、ナデューも実はいい感じに酔っぱらっていたのだった。

     ※

(さすがにあれは、見せらんねぇよなあ)

 昨夜の暑苦しい光景を思い出しつつ、ジャムタルトを口に運ぶ。

「お茶のおかわりいるか?」
「うんください」

 その時、かたんっと天井近くの猫口が開いて、ちびが戻ってきた。ジャムタルトを見てぱあっと目を輝かせ、すとんっと飛び降りてくる。

「ぴゃ、ぴゃ」
「ちびちゃんも食べる?」
「ぴゃああ」

 はぐはぐとタルトの欠片を食べ、ぺろりっと口の周りをなめ回す。ちびをなでながらニコラが話しかけた。

「ねー、昨日はちびちゃんも一緒だったんでしょ?」
「ぴゃあ」
「楽しかった?」

 ちびはちょこんと首をかしげて、かぱっと赤い口を開いた。

「とーちゃん。ろぶたいちょー、えみる、しゃる」
「うんうん……あ、隊長さんも居たんだ」
「すとりっ」

 慌ててフロウはちびの鼻先にジャムタルトをつきつけた。

「んびゃっ!」

 すかさず飛びつきかぶりつき、危険な単語はタルトとともに飲み込まれた。

「え、何?」

 ちびは口いっぱいにタルトをほお張りつつ一言。

「ぱ」

(あっぶねぇえええ!)

「スリッパ?」
「はは、スリッパがどうしたんだろーなっ」

 冷汗をかきながら、フロウは懸命に話題をそらすのだった。
 なお、脱ぎまくった騎士さまたちは……

「こぉら、ディーンドルフ! 何度言ったら判る。剣を持つ時は背筋を伸ばせ!」
「はいっ! ロブ先輩!」
「ばかもの、隊長だ!」
「はい、隊長!」

 二日酔いにもならず風邪も引かず、今日も元気です。

(鍋と鎚と野郎の裸/了)

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【15-2】熱いぞ!

2012/04/23 15:47 騎士と魔法使いの話十海
「熱い」

 ぼそりと一言呟くや否や、ロベルト・イェルプはばさっと上着を脱ぎ捨てた。黒の前立て、袖と身頃は生成りの砂色。実用本位の騎士団の制服は、みっちり詰襟長袖で、防具も兼ねているためとにかく厚い。
 着たまま室内で飲み食いしていれば、自ずと体温は上がって熱くなる。脱ぎたくなるのは、非常に理にかなっている。至極、当然の反応なのだが。

「………熱いぞ!」

 さらにその下に着ていた木綿のシャツのボタンをも外し、豪快に袖を引き抜いた。
 ばいーんっと鍛え抜かれた分厚い胸板が。がっしりした肩が、惜しげも無くほりだされる。
 陽に焼けた肌には、いくつもの古傷が刻まれていた。切り傷、刺し傷、火傷に獣の歯や爪の痕。それは、これまでロベルトがくぐり抜けてきた数多の戦いの記録だった。

「熱くてかなわん!」

 それを合図に、何かが吹っ切れたのか、はたまたスイッチが入ったのか。居合わせた騎士団員たちは、次々と我も我もと脱ぎ始めた。

 団員相互の親睦を深めようと、手の空いた者を引きつれて隊長自らが音頭をとって町に繰り出したのが全ての始まりだった。
 
「どこか良い店はないか?」と問いかけると、進み出たのはディーンドルフことダイン。
「だったら馴染みの店があります。そこそこ広いし、酒も飯も美味いです」

 こいつなら自分の好みも心得てるし、多少ぽややんとした所はあるが、少なくとも味覚は確かだ。大人数で騒ぐのに相応しい場所かそうでないか、判断も的確なはずだ。
 ロベルトは鷹揚にうなずいた。

「よし、まかせた」
「はい!」

 ダインは顔いっぱいに笑みを浮かべ、嬉しそうに歩き出した。大股でざっかざっかと進んでは振り返り、ロベルトの顔を見て、また進んでは振り返り。それを繰り返して先導して行く。

「……ここです」

 案内された店の名は、「鍋と鎚亭」と言った。頭をてかてかに剃り上げたドワーフ族の店主は、確かにダインと顔見知りらしい。二言、三言言葉を交わすと、店の中二階にしつらえられた大テーブルに案内してくれた。
 ここなら多少、騒いだところで他の客の迷惑にはならないだろう。

「まずは酒を。料理も人数分頼む。予算はこれぐらいで、献立はお任せする」
「心得た」

 注文を受けると、店主はのっしのっしと降りていった。ほどなく、陶器のジョッキに満たされたビールが運ばれてくる。
 全員に杯が行き渡ったところで率先してジョッキを掲げた。
 部下に寛がせるには、まず自分が先立って飲んで騒ぐのが一番なのだ。

「今日は一日、ご苦労だった。好きなだけ飲め! ただし、常に西道守護騎士の一員たることを忘れるな。では、乾杯!」
「乾杯!」

 多少の個体差はあるものの、基本、鍛え抜かれたガタイのいい男どもの集まりだ。
 豪快にがふがふとビールを飲み干し、大皿の料理に手を伸ばす。調理する方も心得たもので、がっつり肉の入った大盛りの料理が続々と運ばれて来た。
 給仕するのは、つやつやしたうりざね顔にまっすぐな黒髪、琥珀の瞳の小柄な少年。くるくると実にこまめに立ち働き、追加のオーダーをとって行く。まるでこちらの考えがわかってるのではないかと言うくらいの、どんぴしゃりのタイミングで。

「実に……気の利く給仕だな。それによく働く」

 とろんとした目でロベルトは黒髪の給仕を眺めた。

「まるで、二人に分身してるみたいじゃないか」
「あー、隊長、二人居るんですよ」
「何?」
「双子なんです」

 言われてみれば、確かに時々髪形が変わっている!

「そうか……二人居たのか」
「はい、二人居たんです」

 酒も料理も実に美味かった。中二階の宴席はほとんど貸し切り状態で、気兼ねなく飲むうちに、どんどん座が盛り上がって行く。そして……

「熱い」
「熱いっすね!」
「うむ、実に熱い」
「おお、熱いぞ、こんちくしょうめ!」

 ああっと言う間に、居合わせた騎士のほとんどが半裸になっていた。
 もはや服を着ているのは、若さに任せてやんちゃをする時期の過ぎた古株と、そして銀髪の従騎士シャルダン・エルダレントぐらいなもの。

「いいなぁ……ロブ隊長、いいなあ……みんなムキムキでいいなあ。かっこいいなあ」

 大理石のようにすべすべした白い肌を、ほんのりと赤くして。とろっと夢見るような眼差しでシャルダンは、同僚たち(の筋肉)に見とれていた。
 既に上着は脱いで、下のシャツ一枚だけ、袖もまくった状態で。

「ようし、私も負けずに!」

 がばっとシャツの襟にかけた手を、横合いからがしっと掴んだ者がいる。

「お前はやめとけ」
「ええっ、どうしてですか、ダイン先輩!」
「弓手が肩を冷やすなんて、言語道断だろうが!」
「う……それは、確かに」
「ワイン飲んでろ。な、俺のおごりだ」
「はい……」

 がっちりと頑丈な骨組み、広い肩。腹筋は割れ、肩も二の腕もほどよく盛り上がり、動くたびに皮膚の下で筋肉が波打つのが見てとれる。
 鍛え抜かれた、農耕馬にも似た体をじとーっと横目で睨みつつ、シャルダンはてちてちとゴブレットに満たされたワインを舐めた。

「あ、これ、ヴァンドヴィーレのワインだ」
「やっぱ判るか。さすがだな」
「生まれ故郷ですから!」

 まだほんの少し拗ねてはいるものの、おとなしくワインを飲み出す後輩を見て、ダインは秘かに胸をなで下ろした。

 くつろげた襟元からのぞく滑らかな肌。くっきり浮かんだ形のよい鎖骨。さっきから若い騎士どもが、ちらっちらっと遠慮がちに視線を向けている。
 既に上着を脱いだ状態でも十分、危険なのだ。この上、肌を露出されでもしたら……。

(流血の大惨事だ!)

 鼻血で。
 主に鼻血で。

「ずるいや、自分ばっかり……」

 膨れっ面で、なおもシャルダンはワインをあおる。そう、既に舐めるのではなく、ぐーいぐーいと煽っていた。瓶ごと確保して、行儀良くゴブレットに注いで。
 上気した咽がこくこくと上下し、含んだワインを飲み下す。否が応でも吸い寄せられる若い騎士たちの視線が、いきなりずいっと遮られた。

「シャル」
「エミル!」

 ひょっこりとシャルダンの隣に現われた、背の高い黒髪の青年の背中で。

「えみる、えみる、えみるー」

 途端にシャルは満面笑み崩し、青年にぴょんっと飛びついた。そのまま抱きついて、猫のように頬をすり寄せる。

「あのねーえみるー、ダインせんぱいってば酷いんだよー。自分ばっかり脱いで、私には脱ぐなって言うんだー」

 エミリオはちらっとダインを見やった。この女神のごとき美貌と大らかな性質を合わせ持った幼なじみは、男所帯の騎士団において幾度となく爆弾をぶちかまして来た。
 あくまで本人は自覚していないから、始末が悪い。

(お世話かけます)
(気にすんな、いつものことだ)

 目線のみで意思疎通を成し遂げると、エミリオはシャルダンの瞳をじっと見つめて、一言一言、噛んで含めるように語りかけた。

「……俺は先輩の意見を尊重するぞ、うん」
「そっかー、エミルが言うんじゃしかたないねー」

 はふっとため息をつくと、シャルダンはおとなしく椅子に座る。
 その膝の上にぱさっと舞い降りた柔らかな生き物が一匹。

「ぴゃ」
「ちびさん!」
「しゃーる!」
「わあ、今日もふかふかだねー。かわいいなあ、かわいいなあ」

 黒と褐色の斑の猫を抱えて、シャルダンはご機嫌。その隙にこそっとダインはエミリオに声をかける。

「いいタイミングだエミリオ。どうしてここに?」
「や、ナデュー先生とフロウさんと飲みに来てまして」
「む」

 手すりから身を乗り出して下を覗くと、一階のテーブルの一つに見慣れた顔が並んでいた。
 枯れ草色の髪の毛の小柄なヒゲ中年と、焦げ茶に赤の混じった長い髪を高々と結い上げた、艶っぽい青年。
 それぞれゴブレットを片手にこっちを見上げている。甘党の二人のことだ、中身はおそらく蜂蜜酒の類いだろう。何の不思議もない。元はと言えば「鍋と鎚」亭はフロウとナデューの昔の冒険者仲間がやってる店なのだ。

「お、ほんとだ」

 二人ともにこにこ笑っていた。
 ことにフロウは目尻に皴を寄せ、ぽってりした唇の端っこを釣り上げて、とてもとても機嫌が良さそうだ。
 にこにこ、と言うより、もはやにやにやした笑い方だったが。

「かーわいいなぁ……」
 
 いい具合に酔っぱらって、でれんでれんにゆるんだ顔で笑み返すダインの頭の中からは、肝心の事実が抜け落ちていた。
 フロウ好みの、筋肉質の男どもが脱ぎまくっているのだ。もはや誰得俺得状態。上機嫌にならない訳がない!

「へへっ、い〜い目の保養じゃぁねえか」

 つぶやいた言葉は、喧騒に紛れてダインの耳には届かない。
 一方でエミリオは……

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【15-1】四の姫はお冠

2012/04/23 15:46 騎士と魔法使いの話十海
 
「師匠、ずるーい!」
『ずるーい!』

 四の姫ことニコラ・ド・モレッティはお冠だった。
 ぷうっと頬をふくらませ、じとーっと青い目でカウンターの向こうに座る男をにらみつける。
 肩の上には、ふわふわ巻き毛に金魚のひれのような翼をはためかせた小さな女の子……つい先日、召喚したばかりの使い魔、水の妖精(ニクシー)のキアラだ。
 ちょこんと座って腕組みし、まったく同じ表情で睨んでいる。

「は? 何のこった?」

 薬草店の店主、フロウことフロウライト・ジェムルは蜂蜜色の目をぱちくり。ちょぼちょぼと無精ヒゲの生えた顎をくしくしと、人さし指でかいて首をかしげる。
 四十路に突入した中年のおっさんだと言うのに、妙に愛らしいと言うか、可愛げのある仕草なのだが、当人まったく自覚がない。

「昨日、『鍋と鎚亭』に行ったんでしょ? ダインと、エミルと、シャルも一緒だったって言うじゃない!」
「あ」

 どうやら思い当たる節があったらしい。

「私だけ仲間はずれとかずるいっ! 連れてってくれるって言ってたのに!」
「いや、あれは、夜のことだったしな?」

 じんわりと冷汗をにじませながら言い繕う。

「それによ、別に一緒に行ったって訳じゃないんだ。たまたまナデューとエミルと飲みに行ったら、そこで騎士団の連中も宴会しててさ。偶然! そう、偶然会ったんだよ」

「むー……だったらしょうがないか」
「そーそー。ほら、ジャムタルト食うか?」

 黒っぽい紫のジャムを乗せた、手のひらに乗るほどの小さなタルトを皿に盛りつけカウンターに乗せる。

「……いただきます」

 さくっと一口かじった所に、すかさずアップルティーを勧めた。

「あ、おいしーい。このタルトも師匠が作ったの?」
「あー? うん、台はビスケットと同じだし、もらいもんのジャム乗っけただけだけどな」
「おいしー。ジャムが染みて、生地がとろっとしてるとこがおいしー」
『おいしー』

 どうやら、甘いお菓子とお茶でご機嫌が直ってきたらしい。

(ふぃー、危ない、危ない)

 秘かにフロウは胸をなで下ろした。
 昨夜の『鍋と鎚亭』の飲み会は、とてもじゃないが若い女の子に見せられるような代物じゃなかったのだ。

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【15】鍋と鎚と野郎の裸

2012/04/23 15:46 騎士と魔法使いの話十海
  • 騎士団員と親睦を深めるべく、町に飲みに繰り出したロブ隊長。やってきたのはダインの馴染みの店「鍋と鎚亭」だった。
  • 盛り上がってくるうちに、やおら上着の襟元に手をかけてがばっと脱ぎ捨てる。「熱いぞ!」
  • 「おお、熱いな!」「熱いぜ!」隊長に続けとばかりに、どんどん脱ぎ出す騎士たち。
  • 「ようし、負けずに私も!」
  • とりねこ春の脱ぎ祭り。
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