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とりねこの小枝

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2011年11月の日記

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7.こまったわんこ

2011/11/23 2:17 騎士と魔法使いの話十海
 
 ずっぷりと入れたまま、三度イってもまだダインは止まらなかった。
 何度目かの意識消失から戻ってくると、ちゅっくちゅっく乳首吸ってやがった。
 いつの間に脱がせたか。こいつ、妙なことばっかり覚えが早い。

「そんなに美味いか……俺の乳。吸っても何も出ないぞ……こら」
「ん……」

 べとべとになった口で人の口を舐め回して、キスしてきやがった。
 貪られる。
 貪られてる。
 上も下も繋がったまんま、抱き合って。ゆるゆると何度目かの頂上目指して登り始めた。
 
     ※
 
 翌朝。フロウはベッドから起き上がれなかった。肌の色つやこそ良いものの、毛布を首までずりあげて、ぐったりしたまま。ぎろり、とダインをにらみ付けた。
 一方、ダインは広い肩をすくめ、大きな背中を丸めて縮こまっていた。

「ごめんなさい」
「少しは加減しろっ」
「反省してます」
「見ろ。こんなとこまで痣になってやがる!」

 布団の上に出された手首には、つかんだ指の痕がくっきりと浮かんでいた。それを見てますますダインが縮む。

「……ごめんなさい」

 ぷいっと顔を背けて言い捨てた。。

「もう一週間、お前とはやらない」
「ええーっ」

 途端に、きゅーっと太い眉が寄り、目尻が下がる。背中を丸めたまま、普段の堂々たる気っ風はどこへやら。青年騎士は、雨の中に放り出された子犬みたいな顔になってしまった。あまつさえ、ふるふると小刻みに震えている。

「お前……そんなに俺とやりたいのか」

 こくっとうなずくと、ダインは表情を引き締めて。大きな両手で、フロウの手を包み込んだ。花か小鳥でも抱くように、そっと。

「今日は、一日、俺が世話するからっ」
「……腹減った」

 指先に唇で触れる。やっと温かさが伝わるほどの、つつましいキス。

「わかった、何か作ってくるっ」

 いそいそと台所に飛んで行くわんこを見送ると、フロウはごしごしと頬をこすった。かっかと火照るのを紛らわせるように。
 空気が揺れ、しなやかな生き物が舞い降りてきた。と思う間もなく手首にふわふわした羽毛と毛皮の感触が触れる。黒と褐色の猫がすり寄ってきた。

「ぴゃあ」
「しょうがねえとーちゃんだな、ちび」
「ぴぃ」
「よしよし。あったかいなーお前はー」
 
 ちびを抱えて、ベッドの中で丸くなった途端。ひたむきに貪るダインの顔が瞼の裏に。素直に快楽を伝える声が、耳の奥に。鮮やかに蘇り、うろたえた。

『可愛いな、フロウ』
『お前の中、すっげえあったかくて、気持ちいい』
『俺、お前となら一晩中だってやれるよ?』

 そして実行しやがった。
 何とも照れくさい。じわじわと胸の真ん中からくすぐったい波がこみあげる。

「やれやれ。ほんと、こまった馬鹿犬だよ」

(Good boy,Bad dog/了)

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6.待たせるな!

2011/11/23 2:09 騎士と魔法使いの話十海
  
 開かれた足の間に熱い体がもぐりこむ。がっちりした丈夫な骨組みの上に、ばいーんっと張り詰めた筋肉の乗っかった体が。はあっ、はあっと息を吐き、足の間のペニスはいじらしいくらいに張り詰めて。てらてら光る先っちょからは、もう先走りがにじみ出ている。

「フロウ……」

 押し殺した声で名前を呼ぶ。それがこいつなりの合図だ。
 これから入れる、と。

「さっさと……や、れ! これ以上、待たせんな」

 うなずいて、入ってきた。ずぶずぶと、堅く尖った亀頭の先端がアヌスに潜り込み、肉ひだを一枚一枚かきわけながら、進む。目一杯広げられた入り口が、破れそうだ。ぐっとダインが腰を進めた。その瞬間、ずるりと肉の輪を突き抜け、体内へ。
 よし、一番ぶっとい部分は通った。だからって少しは余裕ができたかと言えばそんなはずもない。
 広がった入り口がきゅっとつぼまり、竿を締めつける。

「は……はぁ……は……あ……」

 一向に終わる気配のない圧迫感を紛らわそうと、口を開けて喘いでいると。

「……この辺りだったかな」

 つぶやいたと思ったら、くいっと短く腰を振った。
 
「あひっ!」

 イイ所を狙い撃ちされ、目の縁にちょろりと涙がにじむ。予想外のタイミングで鳴かされた。にらみつけようとしたが。

「はっ、あ、あっ」
「う、あ」

 いきなり弾みをつけて奥まで来やがった。手加減無しだ。ずしんっと振動が走る。せり上がる腑に圧迫されて咽奥まで押し上げられそうな勢いだ。

「あ、ぐ、あっ」
「すまん、ずっとガマンしてたからっ……あぁ……」

 涙でにじんだ視界にダインの顔が広がる。額に汗浮かべて、気持ち良さそうな顔しやがって。
 どんだけ無防備なのか、お前は。

「そんなに、俺と、やりたかったのか?」
「うん。すごく」
「は、はは、しょうがねえ騎士さまだっ」
「う……」

 何か、妙なスイッチが入ったらしい。力いっぱいゆすりあげられ、どすん、と落ちる。体重がかかってダインのペニスが奥にぶち当たり、衝撃が腰骨まで響く。
 いっぺんに体内の息が全部、押し出されちまった。

「か、はっ」

 そらせた咽に奴の唇がすいつき、舐められ、噛まれ、また悶える。

「あっ、あっ、ダインっ、やっ、あっ」

 浴室に声が響く。涙がこぼれる。
 やばい、今、みっともない顔になってる。まだこんなに明るいのに!
 たまらず、腕で顔を隠した。

「隠すなよ……フロウ」

 あっと思った時には、両手首を掴まれて持ち上げられていた。だが、左手は相変わらず腰に巻き付いてがっちり抱え込んでいる。

「お前のあえいでる顔、見たい」
「趣味……悪ぃ」
「見る価値はある」

 目が細められ、口の端がくっと上がった。
 笑ってやがる。
 皮肉でもなければ、嘲りでもない。増して蔑みでもない。眉の描く曲線が何とも優しげで……。
 自分の体が、こんな表情を作り出してるってことが信じられない。

「すっげえいやらしくて、可愛い。最高にそそるよ……」
「言ってろ、ばかがっ」

 恥ずかしいやら。こそばゆいやらで、つい、妙な具合に体に力がはいる。

「うあ。締めつけるなって、も、抑えきかなくなっちまうっ」
「今更手加減するよーなタマかよ、おら、さっさとやれっ」

 やぶれかぶれになって叫ぶ。
 素直に従ったのか、それとも余計に刺激してしまったのか。一声唸るなり、ダインはものすごい勢いでがっつんがっつん突き上げてきた。

「おごっ、ふぐっ、うぐ、あ、い、ぎっ、おぁっ」

 がちがちに固くなって天井向けて反り返った自分の逸物が、びったんびったん腹を叩いてる。
 やばい。

「ダイン、ダインっ」

 派手にゆさぶられて、眼鏡がずりおちてきた。がっちり手首を掴まれてるから、自分じゃどうにもできない。

「ん」
「め……めっ」

 こっち見てる。手をのばしてきた。眼鏡をつまむ。よし、気付いたな。そのまま外せ!

「………」
「何でかけなおすーっ」
「眼鏡かけてるお前って、三割増し……エロい」

 このーっ!
 怒鳴りつける暇もあらばこそ。心残りは消えた、とばかりにまた動き始めた。しかもさっきより激しい。暴れ馬に乗ってるみたいだ。

「おう、おごっあ、くっ」

 押し出されて勝手に声が出る。自分でも何言ってんだか、わからなくなってきた。

「う、く、んっ、や、あっ、奥、よせっ、ふ、くっ、あふっ」
「フロウ……フロウ。なんか、すげえ締めてる、きついよ」
「の、割に良く動くじゃねえかっ」
「だって、気持ちいい、から、も、止まんねっ」
「ダイン。ダイン、ダインっ!」

 悲鳴に近い声に動きが止まった。

「わ、かった、から、手、離せっ」
「う、うん」

 改めて腕を彼の背中に回し、しがみつく。自分の体を支えるために。

「よ……よし……い、いいぞ」

 返事もしないで動き出しやがった。

「あぉっ、お、あう、ひ、ぐ、おごっ」

 天井が揺れる。地震かこれはっ!  もう尻穴どころじゃない。咽まで突き抜けそうだ。体中の骨がめきめききしむ。ずしん、ずしんと響く振動が奥から逆流し、入り口をさらに熱くさせる。余計に感覚が鋭くなる。

(なるほど、確かにさっきまでのは、手加減してたんだ……)

「お、おく、らめ、おぅ、ふ、あうっ」

 あ、ろれつ回んねえ。
 酔っぱらってる。のぼせてる。
 体のど真ん中を突き抜ける、若い雄に。

「あ、あ、フロウ、なんか、先っぽ当たってる、く、んんっ」
「うぁっ」

 ごりごりと奥をこすりあげた肉棒が、震えながら膨らんで行く。入り口がぎちぎちと容赦無く押し広げられた。
 忘れていた。ほんのしばらく離れていた間に、こいつの激しさを。一途さ、ひたむきさ。
 そして。

「あ」
「う……んんっ」

 世界が上下に揺さぶられる。体の中味が飛び出しそうで、歯を食いしばった。
 一気に放たれた精が、容赦なく肉壁を叩く。押し出されるように、放っていた。
 体内を満たす熱さが、さらに次の射精を促す。余韻に浸る間もなくまた突き上げられ、甲高い悲鳴が漏れた。

「ひぁあっ、あ、あっ、ダインーっっ!」

 こたえるのは激しい息遣い。
 若いってのは、これだから――――――。
 
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5.アメ玉なんかでごまかすな

2011/11/23 2:05 騎士と魔法使いの話十海
「ほらよ」

 かぱっと開いた口の中に、カロンと丸いものが放り込まれた。

「ごほうび」
「むぐっ」

 うめいた拍子に、もご、と舌の上で『ごほうび』が動く。
 甘い。
 蜂蜜や砂糖とは違った、材料を念入りに煮詰めて混ぜたまろやかな甘さ。
 かすかに混じる果物の酸味がさらに甘さを引き立てる。極上の果実酒にも似た味わいに、思わず声が漏れた。
 
「あ。美味い」
「そーだろ」

 にやにやしてる。ったく、アメ玉なんかでごまかされないからな!(美味いけど)
「フロウ、フロウ」
「何だ?」

 口をもごもごさせたまま手招きすると、素直に顔を寄せてきた。妙なとこで可愛いよ、お前って。
 何をしようとしているのか。気取られるより先に肩に手を置き、引き寄せて、背中に腕を回して逃げ場を塞ぐ。
 青黒いドロドロ万歳、体は滑らかに動いてくれた。欠片ほどの痛みも強張りもない。全く元通りだ。
 右手を首の後ろに当て、髪の毛をなで回しながら顔を寄せた。

「てめえっ」
「ごほうび、もらう」
「は?」

 きょとんとなった顔を間近で凝視しつつ、唇を重ねた。

「うぐっ」

 ころん、とアメ玉を入れてやると、呻いてとっさに押し戻そうとしてきた。すかさず舌を吸い上げる。

「う、う、ううっ」

 うろたえてる。可愛いなあ……
 がっぷり重ねた口の中、アメ玉を転がし合った。
 甘い。
 甘い。
 さっきよりずっと甘い。
 むさぼるほどに舌が絡み、唾液が混じる。夢中になって舐めた。溶けたアメ玉も混じってべとべとだ。
 背中を押さえていた手が自然と滑り降り、むっちりと肉付きのいい尻をつかんでいた。

「ん、ふぅーっ」

 今更じたばたしたって遅いよ、フロウ。この距離じゃあ逃げられまい。どうする?
 むぎゅ、と指に力を入れ、手のひらいっぱいに肉の感触を味わう。
 弾力のある尻肉が、指を押し返してくる。
 つくづくいい体してやがる。たまんねぇや。
 目を細める。
 あ、目、閉じた。見られるのが恥ずかしいのか。とにかくこれ幸いと、さっさとベルトを外してやった。こっちはとっくに全裸だ、脱ぐ必要もない

「う?」

 眉、ひそめてる。気付いたかな。さっさと脱がせてしまおう。ベルトは外れたが、さすがにズボンずり下ろすのに片手じゃきつい。
 頭を抑えていた手を離したら、キスから逃げられた。

「んべ」
「ぷっはあ、ダイン、ダイン、ダインっ!」

 胸板に手のひらが当てられ、押し返される。おかしいな。お前の両手、ずっと自由だったはずなのに。何だって今さら慌てるんだ。

「ダインっ!」
「何だ?」
「すっげえ、鼻息当たる!」

 そこかよ。じとっと目を半開きにしてにらみつけてやった。

「……口がふさがってるんだから、当たり前だろ?」
「そこまでたぎるか!」
「たぎるね。お前が相手ならいくらでも」
「即答かよ! あ、何脱がしてるかっ」

 遅いよ、フロウ。
 自由になった両手でさっさと足首までずりおろしてやった。ズボンも下着もまとめて。つるりっとむきだしになった太もも、尻、足の間にちょこんとうずくまってるナニまでじっくり見放題だ。
 この辺りは、肌に艶があってむっちり張り詰めている。密着させた俺の体からしたたる水滴が、フロウの肌の上で玉になって、ころころ転がった。
 いい尻だ。
 せっかくだから、直にもーいっぺん揉んでおくか。うん、ここで揉まないとか言う選択ないよな。

「ええい離せ!」

 伸ばされた手を、フロウはぴしゃりと叩いた。

「ったく、所構わず盛りやがって、この阿呆犬は! 油断も隙もありゃしない」
「……って言った」

 ダインはうつむいて、ぼそっとつぶやいた。低い声で。

「何?」
「まずは治療、お楽しみはその後って言ったろ?」
「……ああ」
「治療は終わったんだから、次はお楽しみの番だろ。ちがうか?」
「えー……そりゃ、まあ……確かに、店ん中じゃねぇし……」

 正直、むらむらしてないと言えば嘘になる。こいつの裸をじっくり見て。さんざんキスされて、なで回されて……

(だからって、一方的にあんあん鳴かされるのは性に合わないんだよ!)

 どうせなら、もっとじっくり苛めてやりたい。鞭でぶたれた事なんか、痕も形も残らないくらいにきれいさっぱり、消えちまうくらいに。
 誰が飼い主なのか、たっぷり教え込んでやりたい。その若くて逞しい体にも。真っ直ぐな心にも。
 ってな事を考えてる隙に……

「うぇっ?」

 ぺろっと舐められた。どこをって、半分やる気になってた股間のナニをだ!

「い、いつのまに……ってか何舐めてやがる!」
「ナニ?」

 ちょこんと首かしげて、あどけない笑顔で何抜かしやがるかこいつはーっ! ってか、人の見てる前でくわえるな、吸うな、しゃぶるなっ!

「あ、あふ、やめっ、ちょ、ダイン、ダインっ」
「やめない」

 ぺちょ……っと粘つく水音が響く。一番敏感な部分を握られたんじゃ、逃げることもできやしない。
 じっくり舐めろと教えたのは俺だ。こいつときたら、疑問も持たずに素直に覚えて。自分のされたことをそっくりやり返してくる。
 広げた舌で根元から竿を舐めあげて、袋をもみしだく。かと思えば、とがらせた舌先で尿道口をこじあけて……。

「う、うう、く、ふっ、あ、ひゃ、あん、あぁっ」

(嘘だ)

「ふぇ、あ、あん、はぁんっ」

(こんな声、俺じゃない。俺の訳がない)

 口に手を当てたが、とてもじゃないが抑え切れない。
 ダインが顔をあげた。口の周りをよだれでべたべたにしたまま、拭おうともせずに、にっと笑った。
 
「可愛いな……」

 ぬるぬるになった指が尻肉をかきわけ、ぬちょっと……後ろの穴に触った。
 ぱく、ぱくと魚みたいに凝縮と弛緩を繰り返す、物欲しげな肉厚の口に。

「いじってから舐めるか、舐めてからいじるか。どっちがいい?」
「好きにしろっ!」
「…………わかった」

 言ってから後悔した。緑色の瞳の奥で、めらっと情欲の炎が燃える。あっと思ったらうつぶせにされていた。とっさに風呂場の壁に手をついて、体を支えた。
 がっちりした手が腰に巻き付き、引き寄せられる。ずる……と壁に着いた手が空しく滑り、ダインに向かって尻をつきだす格好にされていた。尻の頬肉に指が食い込み、むちっと左右に広げられる。
 指か。舌か。どっちだ?

「んー」

 ……舌がきた。

「また……鼻息当たってるし……」

 返事もしねぇ。はっふはっふと余計に息を荒くしながら、ひだの一枚一枚を丁寧にめくりあげるようにして舐める。
 舐める。
 舐める。
 ちゅぷちゅぷと音を立てて、一心不乱に舐めている。

「く……は……っ。中年オヤジの尻の穴……必死になって、舐めやがってっ、ははっっ、何が楽しいん、だか、んっくぅっ」

 返事はない。
 代わりに唇がアヌスに吸い付き、ずぞぞぞぞぉおっと吸い上げられる。

「ひぃ、うっ!」

 きゅっと締まった穴に、ちゃっかり尖った舌先が潜り込んできた。

「て……めえ……しつこい……ぞっ、はぅっ」
「入れる前に、がっつり舐めてほぐせって、教えたのはお前じゃないか」

 どこまでくそ真面目なのか、この騎士さまは!
 確かに言った、だが限度がある! 入り口ばかり弄られて、奥が痛いほどきゅうきゅう締まってる。これ以上焦らされたら……。
 気が狂いそうだ。

「も、やめっ」

 さんざん舐められ、濡れて充血した尻穴が疼いてる。息がかかっただけで、背筋がのけぞりそうなほど。
 欲しいのは今、今なんだ。

「これ以上、待たすなっ」

 ごくっと、咽を鳴らす音がした。気配なんてもんじゃない。はっきりと音として聞こえた。

「わかった」

 ぐい、とまた体をひっくり返される。
 
「は、は、てっきり、後ろからずぶっと来るかと思ったぜ?」
「それじゃ、顔が見えない」

 壁にもたれかかって体を支えた。
 あー、ちくしょう、シャツもベストもぐしゃぐしゃだ。お湯だの、汗だの、それ以外にで濡れてる。これからもっと濡れるだろう。
 それなのにダインと来たら嬉しそうな顔しやがって、どうしてくれよう、この馬鹿犬は!

「顔が、見たい」

 壁に背中がぐいぐい押し付けられる。太ももがなでられ、持ち上げられ………足を広げられた。

「このっ、立ったまま入れる気かっ」

 思わず声が裏返った。

「心配するな。支えるから」

 さらっと言いやがった。実際、できるから困るんだ。

「馬鹿力……めっ」
 
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4.浴室にて

2011/11/23 2:03 騎士と魔法使いの話十海
 若いってのはいいもんだ。
 だが、ある意味、とてつもなく厄介だ。
 ひたすら一途に、ひたむきに。時に獣のようにどん欲に、飢えて、滾って、がっついて……。
 息も絶え絶えにやめろと言ったところで、てんで止まりゃしない。かえって余計に激しくなるから、始末に負えない。

「ダ、イ、ン、も……っ、せめて、ベッドにっ」

 べとつく唇が覆いかぶさり、制止の声を遮った。

     ※

「もう、いいか?」
「まーだ」
「もう、いいだろ?」
「ま、だ、だ」

 そんなやり取りを繰り返しつつ、青黒いどろんどろんの薬草風呂に首まで浸かる。
 ダインはずーっと眉根を寄せていた。時折もぞりと動くのを、やんわりと頭に手を置いて押しとどめる。

「まだだよ、ダイン」
「うー……」

 口をぐんにゃり曲げつつ、大人しく座ってる。可愛いやら楽しいやらで、口元がゆるんだ。その顔を見て、いやがるどころか、ぽやっと頬染めてやがる。

(まったく、素直なわんこだよ)

 浴槽の傍らに椅子を置いて腰かけ、のんびりと本を開いた。
 ちびは近づきもしない。猫(?)なだけにもともと濡れるのが苦手だし、つーんとした植物性のにおいはもっと苦手なのだ。

「もう、いいだろ?」

 読書用の眼鏡を軽く下げて、ためつすがめつダインの全身をねめ回した。椅子に座り、足を組んだままじっくりと。

(落ち着かねぇっ)

 たまらずダインは身じろぎした。これが普通のお湯ならば、ずぶっと頭まで潜りたい所だ。
 ただ見られるより、何倍も『視線』を感じる。なまじすぐそばに『眼鏡』と言うフィルターがあるせいだろうか。上目遣いに見つめてくる蜂蜜色の目が、ことさらに『なまなましい』。
 見られているだけなのに。そもそも自分の体は濁った青黒い薬草湯に沈んでるのだ。見えるはずなんかない。そのくせ、あいつの指が……やたらと器用に動く指先が、肌の上をまさぐり、くすぐったり突いたりしてるような気がしてならない。

 不意にフロウは本を置き、立ち上がった。

「……どぉれ」

 浴槽の縁に手をかけて、上体をかがめてのぞきこんで来た。顎に手がかかり、つい、と誘導される。導かれるまま素直に上を向いた。

「んー、いい具合に染みてるな」

 湯に濡れた指が、顎の下をなで上げる。ぴくっと肩が震え、湯が跳ねた。
 くっ、とフロウの咽が上下する。
 年相応のゆるみと、子供のようなみずみずしさを合わせ持つ不可思議な肌。
 襟つきのシャツと袖無しの上着に隠された、もっと下を思い浮かべずにはいられない。

(笑った)
(笑われた)

 いっそ引きずり込んでやろうかと身構えたその時だ。
 ぽってりした唇が動き、さざ波にも似た言葉が零れ出す。とっさに動きを止めた。動いちゃいけないって思った。
 音は聞こえる。所々覚えのある単語も混じっているが、全てを理解することはできない。
 術を使うための言葉――祈念語(リヒトワード)だ。
 少しは『才能』を活かせと尻をたたかれ頭をぺしられ、さんざ勉強させられてはいるのだが……どうにも頭に入らない。
 湯に浸したり、溶かしたりしたもろもろの触媒に呼びかけ、信奉する草木の神に祈ってるんだろう……多分。

『………願い奉る。かの者の傷を癒したまえ……』

 やっぱりそうだった。

(よし、今のはわかったぞ!)

 拳を握る暇もあらばこそ。ざわ……っと薬湯が波打ち、さざめいて、細かな振動に全身が包み込まれる。

「う……わっ」

 だれきっていたところに干渉され、左目の力が無防備に反応した。
 自分の体に今、何が起きているのか。つぶさに見えてしまう。感じてしまう。
 幾千、幾百もの細かな糸が傷口に入り込み、縫い閉じる。決して痛くはないが、とにかくこそばゆい! 内側から新たな肉芽が盛り上がり、抉られた傷口が塞がる。その感触がまた、むず痒いの何のって。

「うひっ、は、は、やめっ、ひゃっ」

 じたばたする『わんこ』を押さえ込みながら、フロウはようやくおしまいまで呪文を唱え終わり、とんっと指先で額を突いた。

「おわっ」
「出ていいぞ」

 ざばあっとダインが勢い良く立ち上がる。

「ぷはっ」
「だあっ、よせ、しぶきが飛ぶ!」

 慌てて後ずさる。服を濡らされちゃかなわない。それ以前にべっとりにごった滴が眼鏡に飛んだら困る。

「そら、来い」
「へいへい」
「ここに座れ」

 素直に木のベンチに座ったダインの頭から、ざばあっと湯を浴びせた。

「うぶっ」

 手おけで大鍋から汲み上げる。薬湯を作る時、とりわけておいたものだ。わかしたての熱湯がいい具合にぬるくなっている。
 面食らってるところにさらに二杯、三杯と浴びせるうちに、役目を終えた薬湯はみるみる洗い流されてゆく。
 もういいか? とも思ったが、鍋に湯が余っていたので、仕上げにさらにもう一杯。

「ぷっはあっ」
「ほい、これでおしまい。おつかれさん」
「……」

 全身からぼとぼとと滴をたらしながら、ダインはしばらくぼう然としていた。金髪混じりの褐色の髪が、濡れて、ちぢれて、広がって。海草みたいに顔に、首筋に張り付いている。
 濡れた犬にそっくりだ。
 こみあげる笑いをかみ殺しながら、何食わぬ顔で湯船の栓をひっこぬく。

 じょぼ、じょぼ、ごぼ、ごぼぉっ。

 不気味な音と共に、薬湯が排水溝に落ちて行く。
 浸した薬草が詰まらないよう、手をつっこんで拾い上げ、篭に放りこんだ。
 茎についたままの50センチほどの枝。とぐろを巻いたつる草。ホウキと見まごうような葉っぱの束。すりつぶして粉にしたのは、湯と一緒に流す。
 次々に水揚げされる『混浴の友』を、ダインは恨めしげに眉をひそめ、じとーっと睨んだ。
 よくぞまあ、あんなのと一緒に湯に浸かってたもんだ。ぞぞーっと全身が怖気立つ。

「なあ、フロウ」

 ぎこちない仕草で顔をぬぐい、はっとした。
 体の動きが楽になっていた。皮膚の引きつれるような痛みが、根こそぎ消えている! 腕も、肩も、胸も。鞭打たれた傷は一つ残らずきれいに消えていた。
 感心すると同時に、喉元にわだかまる疑問がさらに強くなる。

「もしかしたらこれ、呪文だけで済んでたんじゃねーの?」
「さあて、どうかな? どーにも最近、物忘れがひどくってねぇ」

 楽しそうだ。ものすごく。
 眼鏡の上端をかすめてこっちを見てる。鼻歌なんぞ歌いながら……。
 わかっててやったな、このオヤジ。
 あ、あ、あ。笑ったよ。

「絶対、わかっててやったろ貴様っ!」


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3.薬草風呂どろどろ

2011/11/23 1:57 騎士と魔法使いの話十海
 
「ダーイーン。準備できたぞー」

 呼ばれて、浴室へと降りて行く。この家の浴室は半地下になっていて、密閉性は高いが、それなりに明るい。裏庭に面した地上部分に窓があるお陰だ。
 真ん中にでーんっと据えられたほうろう引きの浴槽の隣に、フロウが腕まくりして立っていた。

「そら、浸かれ」
「……これ、何だ」
「薬草湯」
「湯って段階じゃねえだろこれっ!」

 浴槽の中味は、青黒いどろっとした粘液がとぐろを巻いていた。
 でっかい木べらでかき混ぜると、ぼっこんと泡が弾ける。
 つーんと鼻を刺す刺激臭は、店で売ってる薬草とはケタ違いに『濃厚』だ。

「うん、まあエキスの他に、葉っぱそのまんまとか。すりつぶしたの、直にぶちこんでるからなあ。あと温泉からとってきた泥も若干」

 どうりで、腐った卵みたいな臭いがしてると思ったんだ、うん……。

「ここに入れと」
「だってしょーがねぇだろ。お前さん、全身くまなく傷だらけなんだぞ? いちいち塗ったくってたら追いつかないっつの!」

 フロウはぴたぴたと浴槽の縁を叩いた。

「これが、一番効率いいんだよ」
「………わーったよ」

 くるまっていた毛布をほどいて壁にかける。
 浴槽に歩み寄り、足を着けた。

 どろりとして、ざらりとして、何か、葉っぱや茎やらが浮いていて……
 泥沼みたいだ。
 だが、不思議と嫌な感じはしない。思い切ってずぶっと腰まで沈んでみる。
 湯加減も丁度いいし、何より体が一番欲しがってるものが、染みてくる。

「そうそう、その調子だ。肩までゆっくり浸かれ……」

 言われるまま、どっぷりと肩まで沈めた。顔のそばに来ると、においはさらに強烈だった。

「どうだ?」
「うん、効いてる。効いてるのはわかるんだが、このにおいどうにかなんねえのか? 何か、すごく目に染みるし、舌がいがいがする」

 うぇえっと口から舌を出したところに、べちょっと顔に薬湯(薬泥?)を塗り付けられる。

「おぶっ、が、げーっ」
「安心しろって、毒になるもんは入ってねぇから」
「にがっ、苦いっ」
「おう、良薬口に苦しっつーだろ」
「こ、このっ」

 思わず身を起こしてぎろりとにらみ付ける。フロウは目を細めて、手を伸ばし、くしゃっと俺の髪を、撫でた。

「いい子にしてたら、ご褒美やるよ」
「………わーったよ」
 
        ※    ※
 
 むすっとしながら、大人しく座るダインを見守りつつ、フロウは秘かにほくそ笑んでいた。
 本当は、ここまでする必要はないのだ。
 媒体となる薬草を飲ませて、術を使えば同様の効果を得ることができる。そのために調合した丸薬も、ちゃんと常備してある。

 あえて、青黒いどろどろの薬草風呂なんぞを用意したのは、純然たる趣味に他ならない。困り果てながらも結局は自分に従うダインを、見たかっただけなのだ。

 とは言え。

(まーた無茶しやがって、この馬鹿犬が!)

 若干、お仕置きの要素がない訳でもない。
 筋骨たくましいダインの体には、くっきりと縄で縛られ、引きずられた痕跡が残っていた。自分の見ていない所で、この誇り高い騎士さまがふん縛られて、鞭打たれたのかと思うと……。

(気に食わねぇ)
(いまいましい!)
(腹立たしい)

 それが純然たる怒りなのか。単に楽しげな場面を見そびれた憤りなのかは定かではないが、胸の奥が妙にざわつく。

「なあ、ダイン」
「んん?」
「お前に鞭食らわせた男さあ。今、どうしてる?」
「ああ、砦の牢屋にぶち込まれてる」
「そっか……牢屋、牢屋、ね」

(後でちょいと見舞いに行ってやろうかね。うちのワンコを可愛がってくれた『お礼』も兼ねて……)

「なあ、フロウ」
「んー、どーした」
「あとどれぐらい、ここに浸かってりゃいいんだ?」

 よほど臭いに辟易してるのだろう。眉が完全に寄っている。目尻も下がり、困った犬そっくりの顔になっていた。

「決まってんだろ?」

 にやりと笑って、顎をとり、上を向かせて囁いた。

「俺が、いいって言うまでだ」

 むうっと口をとがらせながらも、ダインは素直にこくっとうなずいた。

「わーったよ」

 そうだ、それでいい。

「いい子(good-boy)だ、ダイン。いい子(good-dog)だ」
 
次へ→4.浴室にて
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