▼ 6.しょうがないなあ
2012/02/11 22:34 【騎士と魔法使いの話】
その夜。窓辺に陣取り、馬屋の方角を睨むダインにフロウが声をかける。
「ダイン。左目、光ってるぞ」
「おっと」
慌ててまぶたを『閉じる』姿を苦笑しながら見守った。
「いーから寝ろ! いつまでも見てるな!」
「う……うん」
「向こうだってやりづらいだろう」
「でも」
「そんだけガン見されてちゃ、いやでも気付く」
「わかった」
わかった、と言いつつなおも渋ってる。とことこと歩み寄ると、フロウはよいしょっとばかりに伸び上がり、広い背中に腕を巻き付けて……
唇を重ねた。
ちゅくっと、小鳥のさえずりにも似た音を響かせて。
「っ!」
追いすがる手からするりと逃れると、そのまま悠々と寝室に歩いて行く。すぐ後ろを、どかどかと重たい、歩幅の大きな足音が着いてくる。
小さくほくそえむと、フロウは肩越しに振り返り、ダインと一瞬だけ視線を合わせ……寝室のドアを開け、中に滑り込んだ。
来いよ、なんて言う必要もなかった。
※
わんこと飼い主、そして翼のある猫。二人と一匹がベッドに入ってから、数刻が過ぎた。
厩の穴の周囲の空気がゆらっと揺れ、わやわやと巣穴から小さな生き物が現われる。
ちっちゃいさんたちは、甘いお菓子に狂喜乱舞。てんでにキャンディを抱え、輪になってケーキを囲んで踊り出した。
「きゅぷっ、きゅきゅきゅっ」
「きゅ、きゅいいい」
「きゅー、うっきゅう」
ひとしきり踊ると、一斉に歓声を上げてお菓子に飛びかかる。
あるものはキャンディを両手で抱えてがしがしと丸かじり、あるものは直にケーキにかぶりつく。
おおぶりの一切れがみるみる小さくなって行き、瞬く間に砂糖衣ひとかけら、ドライフルーツ一粒にいたるまできれいさっぱり無くなった。
ちっちゃいさんは全員、ぽっこんと丸くなったお腹をさすってご満悦。
そのうち、顔を突き合わせて何やらきゃわきゃわと相談を始めた。
「きゃわ、きゃわわ」
「きゅーきゅきゅきゅきゅきゅ?」
「うっきゅ」
「くきゅう」
どうやら、結論に達したらしい。もっちもっちと転がるようにして巣穴に戻り、ほどなく銀色に輝く楕円形のものを引っ張り出した。
「きゅっ」
「きゅっきゅー!」
一列になって運ぶその有り様を、黒い馬と、窓から差しこむ月だけが見ていた。
※
翌朝。
「ああったああああああああああああああああ!」
ダインの絶叫でフロウはたたき起こされた。
(まだ夜も明け切っていないじゃないか。珍しいこともあったもんだ、あいつがこんな時間に目ぇさますなんて)
(ってか、いつ起きた?)
よほど気になっていたのだろう。
ちびを抱えて階下に降りて行くと。
「あった。あった。あははははっ!」
居間のテーブルの脇で、涙目で絶叫してる馬鹿が約一名。
その手にはしっかりと、銀色のペンダントロケットが握りしめられていた。
「ありがとう、ちいさいさん。ありがとう、ありがとうっ」
「馬鹿、そこで何で俺っ、あ、こら離せーっ」
文句を言ったところで、聞きやしない。
よっぽど嬉しかったのだろう。ダインはフロウを抱え上げ、ダンスでも踊るようにくるくる回り始める。
その仕草は、キャンディを抱えて、とっときのフルーツケーキを囲んでを踊る『ちっちゃいさん』に、ちょっぴり似ていた。
※
見ようとして、見えない。
見えないけど、いる。
ちっちゃいさんは、あなたのすぐそばに。
(見えないさん、ちっちゃいさん/了)
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