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とりねこの小枝

師匠の準備と古馴染み

2014/04/11 2:59 お姫様の話いーぐる
「ブルックとルーナは流石に無理か、だとするとアイツらだよなぁ。そろそろ戻ってくるはずなんだが…。」

「師匠~、言われたとおりに持ってきたんだけど…家族の愛が重い、物理的に。」

ニコラが訓練に混ざるのをフロウに取り付けた数日後、フロウがカリカリと書き物をしている所に荷物を抱えたニコラがやってきた。
若干重そうに荷物をカウンターの前に置くと、書いてある書類を覗き込む。

「よっこいしょ、っと…師匠なに書いてるの?」

「ん~?模擬戦のパーティ構成。」

「へぇ…あれ?ブルックとルーナって…もしかして鍋と槌亭の?」

「そ、一応パーティメンバーなんだけどよ、冒険者の酒場は流石にそんなホイホイ休めねぇからなぁ。」

ブルックは聖金神リヒテンガルドに帰依するドワーフの神官戦士…ルーナは精霊魔法を操るエルフなのだが、
仲が良くないと評判の二人はあれよあれよとくっついて結婚し、二人で冒険者の宿『鍋と槌亭』を経営している。
もともと二人はその宿のコックとウェイトレスだったが、5年前に先代の店主から経営を引き継いだのと、
自分が祖母から薬草店を引き継いだのもあり、一緒に冒険に出るのは極々稀になっていた。
まあ、もともと仕事が休みの日に適当に集まって依頼を受ける暢気な日曜冒険者ではあったのだが…。

「へぇ…じゃあこっちのジャックとガルドって人は?」

「あぁ、その列に書いてる奴は専業の冒険者みたいなもんで、長期の依頼からそろそろ帰ってくるはずだから多分大丈夫さね。
 後はナデューなんだが……。」

「あ、ナデュー先生から伝言。『休み取れたから大丈夫だよ。』だって。」

「了解。っと…それじゃあ、持ってきた物見せてくれるか?」

「は~い。えっと…コレなんだけど…。」

そう言ってニコラが荷物の袋から取り出したのは…派手ではないがどこか煌びやかな武具一式であった。

持ち手を白い組紐で滑り止めもかねて飾り、鍔の辺りが円形に造られ、その中央にサファイアが埋め込まれた刃渡り30cm程のショートソード。
持ち手をしっかりと保護し、先端を実用的な範疇で可愛らしく丸みを帯びたデザインにした、明らかにオーダーメイドと分かるライトメイス。
質の良い白い革を縫い合わせて銀糸で飾ったソフトレザーに、モレッティ家の家紋が入ったスモールシールド…。

そのどれもが、ニコラのためだけに、金に糸目を付けずに誂えた品々だというのが見ただけで分かるものばかりだった。

「こりゃまた…豪勢な。ソードとメイスに至っては発動体に出来るように加工してあるし…これだけで普通の武器の倍の価格が飛ぶぞ。」

「え、そうなの!?」

「っていうか、何で武器が二つあるんだ?」

「えっとね、最初はレイラ姉様が『騎士の娘たるもの、自分の武具くらいは持たないとな!』って言って、
 剣と革鎧を送ってくれたの。そうしたらお父様が『予備の武器と盾くらい持っておけ!』ってメイスと盾が…。」

「……いやはや、噂には聞いていたが、溺愛っぷりもここに極まれり…って奴かねぇ。」

そういえば二の姫レイラが馬上の槍試合でダインが身に付けていたハンカチが四の姫のものと知って、次は剣で勝負を挑んだらしいが本当なんだろうか…。
ふと過ぎった疑問だが、なんとなくニコラから聞き出す気にはなれなかった。しかし……

「でも、お父様がくれたメイス。魔法の杖みたいで可愛いのは良いんだけど……メイスとして使えるのかしら、これ。」

「いや、見た感じ普通に鈍器として使えるような形には収まってるが……普通可愛い事を喜ぶもんじゃねぇのか?女の子って。」

「可愛いのは可愛いけど、使えなかったら意味ないじゃない。」

「……なるほど。」

どうやら、父親より姉の方が好みをきちんと把握しているようで、思わずクスリと笑ってしまった時、カランカラン……とドアベルが音を鳴らした。

「ほい、いらっしゃ……って、何だ…お前さん達か。」

「何だとは何だよ、ご挨拶じゃねぇか。」

「そうだぞ、幼馴染に酷いんだぞ!あとガルドは先に宿に戻ったんだぞ!」

「……戻ったので、報告に来た。」

客を出迎えるためにドアに向けた笑みを、溜息と共に気だるげな顔に戻しながら告げるフロウに、口々に入ってきた三人が答える。
最初に文句をつけたのは、蒼い髪を短く纏めた男だ。腰から下げれる程に短い槍が二本、両腰に提げているのが特徴的だった。
フロウを幼馴染を言い張ったのは、そうとはまるで思えない少年風貌。ちょっと尖った耳が人ではなく、長寿な妖精族であるのを示している。
最後に静かに言葉を紡いだのは、ダインがここに居たとしても一番長身となる男。どこか感情に乏しい感のある男が、全員を見下ろすように見つめていた。

「はいはい、悪かったよ……ジャック、タルト、レイヴン。首尾はどうだった?」

「上々ではあるが、遠出だから経費考えると…まあ黒字ってところか。アリスタイアまで行ったんだからそれなりには、な。」

「マジックアイテムと、ガーディアンからマテリアル抽出したから、売ればお金になると思うぞ~。……売れば。」

「……遺跡探索の悩ましいところだな、売るか戦力にするかで迷うのは。」

「なるほど、確かにそりゃ悩ましいねぇ……っと。」

少し考え込むような仕草をしたフロウの服をグイ、と引っ張ったのは先客である四の姫。
彼女はもう、好奇心で目をキラキラさせてグイグイと師匠と呼ぶ男の裾を引っ張り、説明を要求した。

「ねぇねぇ師匠、この人達誰!?」

「ん?あぁ、俺の冒険者仲間だよ。鍋と槌亭に所属してるんだが、遠くの遺跡の探索依頼でお前さん達とは会ったことなかったな。
 まず、左の蒼い髪の軽そうな男が傭兵上がりのジャック。」

「軽そうは余計だっつの。っと、改めて……俺はジャック、よろしくな嬢ちゃん?」

「んで、その隣のちっこいのはフェアリトルのタルト、専門は錬金術だな。」

「やほー、タルトはタルトでタルトだぞっと!」

「最後にそのでっかいのが、レイヴン。上級魔導師さね。」

「…………レイヴン、だ。」

「頭下げるのは良いがちょっとは挨拶しろっての。ったく……で、こっちはニコラ。少し前からうちに来てる魔法学院の生徒さね。」

「よ、よろしくお願いしますっ!……え、3人とも冒険者?本物の!?」

「お、おぅ……あともう一人、ガルドって奴が居るがそいつは先に宿に戻ったらしい。」

目をさっきよりも輝かせて師匠と慕う店主に詰め寄る少女に、当の詰め寄られた男は気圧されるように体をのけぞらせながらも頷く。

「すごーいすごーい!冒険の話聞きたいっ!あ、師匠!この人たちとパーティ組むの?」

「あぁ、まあな……っとそうだそうだ。お前さん達、ちょうど次の依頼が入ったぞ。」

四の姫の言葉を流したかったのか、単にそれで思い出したのか、ピラリと……今まで書き込んでいた紙を翻らせて薬草師は笑みを浮かべた。
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