▼ 四の姫、立ち聞きする
2014/04/11 2:57 【お姫様の話】
「キアラ、今日は何教えて貰おうかしら。」
『かしら…?』
スラム町に近しい北区の路地を楽しげに歩く金髪の少女…周りの風景から少し浮いた小奇麗な彼女は、
傍らに浮かんでいる可憐な少女に翼が生えたような姿の妖精に話しかける。
鈴のような声で、妖精や精霊独自の言葉で首を傾げる彼女だが、それでも主である金髪の少女は満足したのか目当てである薬草屋…
彼女が師匠と慕う薬草師の家の扉に手をかけた所で。
「…はい?」
中から聞こえた素っ頓狂な声に手を止める。…師匠の声であるのは彼女にも理解できたが、どうやら誰かと話をしているようで…。
「……一体何の話かしら。」
好奇心を擽られた少女はそっと…はしたないとは思ったが扉に耳を当てた。
***
「薬草学の講師ィ…?」
「そうだ、うちの若い奴に食える草と食えない草の違い程度でも良い、叩き込んでやってくれ。」
店の中で話していたのは、四の姫にとってどちらも聞き覚えのある声……この街の騎士隊の隊長となったロベルトと、この店の主であるフロウであった。
「お前さんが俺に頼み事なんて、どういう風の吹き回しだい?野草の事とかなら、シャルダンやエミルも詳しいだろうに。」
「貴様のことは当然気に食わん…が、腕や知識は確かだからな。専門家の貴様の授業ならシャルダンとて学ぶこともあるだろう。」
不本意だ、と言わずとも語っている大柄で褐色の三つ編みを垂らした騎士隊長のギロリと睨むような視線を、
ゆるりとした仕草で肩を竦めて受け止める小柄な薬草師にロベルトは更に目を鋭くさせて言葉を続ける。
「それで、受けるのか?受けないのか?ハッキリしろ!」
「まあ、受けるのは別に構いやしねぇが…。」
「そうか。……そういえば、貴様は冒険者だと聞いたが…?」
「あ?あぁ…まあ一応な、いわゆる日曜冒険者だがね。」
殆ど引退してるようなもんだが、と言いながらもフロウが頷けば、ロベルトは更に言葉を加えていく。
「ならちょうど良い、適当に仲間を集めて若い奴らと模擬戦をしろ。薬草学の講義も合わせて報酬は出す。」
「…は?いや、えっと…急に言われてもな。なんでまた急に?」
「今思いついた。うちの若い奴らの性根を鍛えるには、『外の強さ』を知る必要があるとな。」
思いついたら即実行…兎のロベルトは万事に対して直球な男であった。
「…まあ、パーティ組んでた奴はちょうど全員街に戻ってくるだろうから、都合を合わせる時間さえくれれば…?」
「問題ない、では頼んだぞ。」
「はいよ……あぁそうだそうだ、依頼はいいけどよ……鍋と槌亭に寄って依頼書を出すの忘れねぇでくれな。一応宿に仲介してもらうのが筋なんでよ。」
「む、そうだったな。……了解した、どうせ帰りに前を通るので寄って行くとしよう。」
***
ガチャリと木の扉を開けて出て来たロベルトが立ち去った後、ひょっこりと路地から顔を出したニコラは小さな溜息を吐いた。
別に隠れる必要は無かったはずなのだが、立ち聞きが後ろめたかったのか向かってくるロベルトに思わず路地に隠れてしまったらしい。
「ふぅ、危うく見つかる所だった。……でも。」
好奇心と冒険心に満ち溢れた騎士の令嬢は、獲物を見つけた狩人のようにニンマリと笑みを浮かべて、薬草屋のドアを潜った。
「しーしょーぉー♪」
ドアベルを鳴らしながら入ってきた少女のそれこそ上機嫌な声に、店主である男は嫌な予感を感じた。
「騎士団と模擬戦するんでしょ?私も混ぜて!」
あぁ、やっぱり…と男は額に手を当てた。この辺り一帯の騎士隊が所属する西道守護騎士団…その団長の娘が、あろうことか騎士と戦うと言い出している。
「…盗み聞きは関心しねぇぞ?お嬢様…?」
「聞こえちゃったのは仕方ないじゃない!とりあえず、私も出たい!」
『出た~い。』
使い魔である水妖精の少女と一緒になっておねだりする姿はとても可愛らしいのだが、内容は物騒極まりない。
「いやでもお前…武具は」
「お姉さまに買ってもらったのがあるから大丈夫!」
「う…いやでもあるからってなぁ…。」
「騎士の娘だから扱い方は習ってるし、魔法学院でも護身術の授業があるもの、実技にちょうど良いじゃない。」
「は?あの学校そんなことまで始めたのか!?」
「うん、発動体のロッドを使った簡単な棒術とか、小型の武器の扱い方とか…ほら、この辺の上流階級って大体騎士の家だし。」
「あぁ~…なるほど。」
彼女の通っている魔法学院は、一般教養の授業もあるため、魔術師の門弟だけでなく上流階級の勉学の場としても扱われている。
王都や領主の居る西都ならともかく、この辺りになってくると大体は貴族というより、騎士の家柄の人間が増えてくるのは確かだろう。
生徒の傾向がそうなると、教師の傾向も似通ってくる…そう考えると、フロウは護身術の授業があるのも納得できる気がした。
そういえば、魔法学院と名はついているが、貴族の子弟用の一般教養メインの組もあると、エミルが言っていたのを今更ながらに思い出す。
しかし、それだと体良く断ることも出来なくなってくる……結局フロウは、持ち前の不精さで悩むのを放棄した。
「……ま、良いか。」
「やったぁっ!」
『やったー』
折れた師匠に、少女は使い魔と共に飛び跳ねて喜んだとか。
『かしら…?』
スラム町に近しい北区の路地を楽しげに歩く金髪の少女…周りの風景から少し浮いた小奇麗な彼女は、
傍らに浮かんでいる可憐な少女に翼が生えたような姿の妖精に話しかける。
鈴のような声で、妖精や精霊独自の言葉で首を傾げる彼女だが、それでも主である金髪の少女は満足したのか目当てである薬草屋…
彼女が師匠と慕う薬草師の家の扉に手をかけた所で。
「…はい?」
中から聞こえた素っ頓狂な声に手を止める。…師匠の声であるのは彼女にも理解できたが、どうやら誰かと話をしているようで…。
「……一体何の話かしら。」
好奇心を擽られた少女はそっと…はしたないとは思ったが扉に耳を当てた。
***
「薬草学の講師ィ…?」
「そうだ、うちの若い奴に食える草と食えない草の違い程度でも良い、叩き込んでやってくれ。」
店の中で話していたのは、四の姫にとってどちらも聞き覚えのある声……この街の騎士隊の隊長となったロベルトと、この店の主であるフロウであった。
「お前さんが俺に頼み事なんて、どういう風の吹き回しだい?野草の事とかなら、シャルダンやエミルも詳しいだろうに。」
「貴様のことは当然気に食わん…が、腕や知識は確かだからな。専門家の貴様の授業ならシャルダンとて学ぶこともあるだろう。」
不本意だ、と言わずとも語っている大柄で褐色の三つ編みを垂らした騎士隊長のギロリと睨むような視線を、
ゆるりとした仕草で肩を竦めて受け止める小柄な薬草師にロベルトは更に目を鋭くさせて言葉を続ける。
「それで、受けるのか?受けないのか?ハッキリしろ!」
「まあ、受けるのは別に構いやしねぇが…。」
「そうか。……そういえば、貴様は冒険者だと聞いたが…?」
「あ?あぁ…まあ一応な、いわゆる日曜冒険者だがね。」
殆ど引退してるようなもんだが、と言いながらもフロウが頷けば、ロベルトは更に言葉を加えていく。
「ならちょうど良い、適当に仲間を集めて若い奴らと模擬戦をしろ。薬草学の講義も合わせて報酬は出す。」
「…は?いや、えっと…急に言われてもな。なんでまた急に?」
「今思いついた。うちの若い奴らの性根を鍛えるには、『外の強さ』を知る必要があるとな。」
思いついたら即実行…兎のロベルトは万事に対して直球な男であった。
「…まあ、パーティ組んでた奴はちょうど全員街に戻ってくるだろうから、都合を合わせる時間さえくれれば…?」
「問題ない、では頼んだぞ。」
「はいよ……あぁそうだそうだ、依頼はいいけどよ……鍋と槌亭に寄って依頼書を出すの忘れねぇでくれな。一応宿に仲介してもらうのが筋なんでよ。」
「む、そうだったな。……了解した、どうせ帰りに前を通るので寄って行くとしよう。」
***
ガチャリと木の扉を開けて出て来たロベルトが立ち去った後、ひょっこりと路地から顔を出したニコラは小さな溜息を吐いた。
別に隠れる必要は無かったはずなのだが、立ち聞きが後ろめたかったのか向かってくるロベルトに思わず路地に隠れてしまったらしい。
「ふぅ、危うく見つかる所だった。……でも。」
好奇心と冒険心に満ち溢れた騎士の令嬢は、獲物を見つけた狩人のようにニンマリと笑みを浮かべて、薬草屋のドアを潜った。
「しーしょーぉー♪」
ドアベルを鳴らしながら入ってきた少女のそれこそ上機嫌な声に、店主である男は嫌な予感を感じた。
「騎士団と模擬戦するんでしょ?私も混ぜて!」
あぁ、やっぱり…と男は額に手を当てた。この辺り一帯の騎士隊が所属する西道守護騎士団…その団長の娘が、あろうことか騎士と戦うと言い出している。
「…盗み聞きは関心しねぇぞ?お嬢様…?」
「聞こえちゃったのは仕方ないじゃない!とりあえず、私も出たい!」
『出た~い。』
使い魔である水妖精の少女と一緒になっておねだりする姿はとても可愛らしいのだが、内容は物騒極まりない。
「いやでもお前…武具は」
「お姉さまに買ってもらったのがあるから大丈夫!」
「う…いやでもあるからってなぁ…。」
「騎士の娘だから扱い方は習ってるし、魔法学院でも護身術の授業があるもの、実技にちょうど良いじゃない。」
「は?あの学校そんなことまで始めたのか!?」
「うん、発動体のロッドを使った簡単な棒術とか、小型の武器の扱い方とか…ほら、この辺の上流階級って大体騎士の家だし。」
「あぁ~…なるほど。」
彼女の通っている魔法学院は、一般教養の授業もあるため、魔術師の門弟だけでなく上流階級の勉学の場としても扱われている。
王都や領主の居る西都ならともかく、この辺りになってくると大体は貴族というより、騎士の家柄の人間が増えてくるのは確かだろう。
生徒の傾向がそうなると、教師の傾向も似通ってくる…そう考えると、フロウは護身術の授業があるのも納得できる気がした。
そういえば、魔法学院と名はついているが、貴族の子弟用の一般教養メインの組もあると、エミルが言っていたのを今更ながらに思い出す。
しかし、それだと体良く断ることも出来なくなってくる……結局フロウは、持ち前の不精さで悩むのを放棄した。
「……ま、良いか。」
「やったぁっ!」
『やったー』
折れた師匠に、少女は使い魔と共に飛び跳ねて喜んだとか。