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とりねこの小枝

【28-3】22のキスその後★★★

2013/03/09 22:19 騎士と魔法使いの話十海
 
 フロウの背中はきれいだ。
 肌の肌理が細かくて、すべすべしてて、いいにおいがする。
 肩甲骨の突起の間にすうっとまっすぐ通った背骨のくぼみがなだらかな曲線を描き、腰の所でくっと窪んでから尻に向って丸く盛り上がる。
 見ていて飽きない。
 見てるだけじゃ足りない。

「ここは、執着、だったよな」

 首筋に唇を当てて、吸った。すると奴は手を回して俺の髪を撫でて来た。
 振動が伝わってくる。
 咽の奥で笑ってる。この辺りはまだ、余裕ってことらしい。
 だったらと念入りにちゅくちゅく吸ってたら、ぴしっと人さし指でデコを弾かれた。

「いつまで吸ってる」
「……ケチ」

 仕方がないから、手の届かない所に移動した。
 肩甲骨に向って、吸ったり、ゆるめたりを繰り返しながら滑らせる。チュ、チ、チュウっとコマドリがさえずるみたいな音が出た。

「こら、ダイン! あんまし強く吸うな、痕が残っちまうだろ」
「つけてるんだよ」
「てめぇっ」

 身を起こしかけるのを肩を掴んでシーツに押し付ける。

「あ」
「構う事ぁないだろ? どうせ服で隠れる場所じゃねぇか」
「うぐっ、この、覚えてろっ」

 文句言ってるその割に、肌が汗ばんでるのは何故だ? 顔が赤い。うなじも。背中も。ほんのりと斑な赤が広がってる。
 まるで水面に浮かんだ花びらだ。
 腰のくぼみに顔を埋めて、長く長くキスをした。しっとり汗ばむ肌を音を立てて吸い上げて、そっと歯を当てる。

「っくぅっ」

 びくんっとフロウの全身がこわばり、手足が跳ねた。

「ここは、束縛。そうだったよな、フロウ」
「う……ぐ」
「何、シーツなんか噛んでるんだ? 素直に声出した方が楽だって、教えてくれたのはお前じゃないか」

 尻の双丘を手で包む。むっちりと張りつめて、指に力を入れるとぐにっとくぼんで包み込む。
 だがちょっとでも力を抜くと押し返してくる。
 指の形に赤い痕を浮かばせて。

「ここへのキスは教えてくれなかったよなあ」
「んくぅっ」

 ちゅう……。
 唇くっつけたままわざと唾液を肌に滴らせ、改めて吸い上げる。

「ひぃ、んっ」

 また、フロウの体が跳ね上がった。きつく目を閉じて、唇を噛みしめてる。飲み込んだ悲鳴が体の中を通って直に伝わってくる。
 ああ、歯がむずむずする。もう我慢ができない。
 押さえ込んで歯を当て、含んだ肌めがけてぐっと力を入れた。ぴちぴちした体を。肉を。噛みしめると、腹の底から得も言われぬ甘美な昂ぶりがこみ上げる。
 気持ちいい。
 もっと欲しい。
 じわっとさらに力を入れた。フロウの声が一段と高くなる。

「あ、あ、よせっ、ダイ、ンっ!」
「……痛かったか」
「ったりめえだ、馬鹿っ」

 白い肌の上にくっきり刻まれた、赤い噛み痕。点々と歯の形が押された上向きの弧と下向きの弧は、次第に歯と歯すき間が消えて、馴染んで線になる。
 今までの吸い痕より強く、濃い。何だか申し訳なくなって、舐めた。

「んぅうっ」
「……どうした、痛いのか?」
「ち、が……」

 はあ、はあっと息を荒くしてる。肌の赤みが強くなってる。握った指の下でシーツが皴になってる。
 唇の周りが妙につやつや濡れてるのは何でだ?
 まさか、お前……。
 よだれ垂らしてたのかっ!

 濡れた唇に誘われて、改めて背後からのしかかる。いきり立った一物をすりつけながら、奴の肩に顎を乗せた。

「ダイン」
「ん」
「しゃぶりたい」

 反撃のつもりか。ナニを舐められて俺がさんざん悶えたり喘いだりするのを楽しむ気か。
 確かに気持ちいい。今まで何度もされたことだ。だけど。いやだからこそ、あっさりうなずきたくはなかった。
 うっかりしゃぶらせたら最後、フロウのしたいように翻弄され、結局はいいように鳴かされちまう。
 それが、わかっているから。

「いいぜ。だけど俺も、舐めたい」
「え?」
「フロウのを、しゃぶりたい」
「は、は、言うねぇ」

 頬を押さえて引き寄せて、にんまり笑う唇を奪ってやった。

「っはっ、はっ、ふっ、はふっ、ふ」
「んんん……っくぅ……」

 浅くかみ合わせたまま、舌だけ奥まで突っ込んで、じゅぶじゅぶ音を立ててなめ回してやった。すすった所で到底追いつかず、両方の口から零れた唾液が口をしとどに濡らす。
 散々なめ回してから唇を離すと、フロウは口を開けて水から上がったばかりのように咽を鳴らし、空気をむさぼった。

「っはぁ……っ、いいぜ。ただし俺が上な?」
「む……」
「お前が乗っかってきたら、俺が動けない」

 確かに。
 今の勢いで本気でこいつにのしかかったら多分潰しちまう。さっきもかなりやばかった。
 しぶしぶフロウの体の上からどいて、改めて仰向けになる。逆にフロウはベッドに手をついて体をくるりと回し、起き上がった。角度が変ったせいだろうか。口元と目元に浮かぶ細かい皴が。ゆるんだ喉元が、くっきりと影に縁取られる。
(あ、あ)
 どうしようもなく昂ぶった。かっかと火照る耳に、情けなくもじじくさい掛け声が飛び込んでくる。

「よっこいしょっとぉ」
「へっ、中年」
「その中年に惚れてんのは、誰だ?」
「……俺だよ」
「ん、それでいい」

 鼻にキスされた。くそ、人を愛玩犬扱いする気か!
 歯を剥き出してにらんだ先に、むっちりとした尻が突き出された。フロウはうつ伏せになってこっちに尻を向け、俺の股間に顔を寄せていたんだ。
(何つー無防備な! 丸見えじゃないか!)
 この格好、初めてだ。好きにしていいってことだよな? ならばとむしゃぶりつこうとしたが。

「フロウ」
「ん?」
「届かない」

 何てこったい。身長に差がありすぎて、フロウのナニまで口が届かない。無理すりゃいけないこともないが、腹筋が、かなりきつい。

「ったく世話の焼けるわんこだねえ」
「るっせぇっ」
「んじゃま、こうしますか」

 促されるままベッドに横向きになって、輪になって、ようやく互いの股間に口が届いた。
 濡れてかちかちに固くなったペニスが目の前に突っ立ってる。
(何だ、お前だってきっちり欲情してたんじゃないか)
 こいつはなかなか悟らせない。いつだって余裕のある表情と動きで俺を翻弄している。
 こうやって剥き出しの体を見てようやく気付く。それが、悔しい。

 手で引き寄せて、肉棒の先端を口に含んだ。ぴくっとフロウの体が震えて、俺の股間の辺りで声がする。

「うっ、この、がっつきやがって」

 お返しとばかりにしゃぶられた。前置きも何もなしでいきなり奥までずぼっと。

「おううっ、フロウ、やばいってそれっ。あ、こらくわえたまま笑うな!」

 言った所で聞きやしねぇ。
 何か先っぽにぴとっと引っ付いてる? え、咽の奥まで当たってないかこれ。苦しくないのか。

「んふっ、んー、んー、ふっ、んんっ、ん、ふー、ふーっ」

 あ、息遣いが荒い。やっぱ苦しいのか。
 でも止めない。気持ちいいのか。どっちだ?
 試しにこっちもフロウのを飲み込んでみる。

「んくっ」

 ほんの少しえずくような感触があったが、無視して進む。直に先端が咽の奥にぺとっとひっついた。
 一瞬、息が詰まる。慌てて頬を膨らませて横にすき間を作ったが、それでもまだ息苦しい。鼻でしか息ができないから、どうしたって呼吸が荒くなる。
(ああ、こう言うことか)
 咽が。鼻腔が、フロウの匂いで満たされる。
(俺のも今、そうなってるんだ)
 くわえた感触と、くわえられた感触が頭ん中で混じり合って一つになる。

「う」

 妙なことに涎がどぼどぼ溢れて来た。にじんでくる先走りと一緒になって口の中がぬめる。
(これだけ滑りがいいなら動かしても大丈夫だろう)
 顔を上下に動かしてみる。唇が、含んだ逸物の表面とこすれる。

「んぶぅっ、ふ、んぅっ」

 フロウがまた呻いてる。動くかな、と思ったら、しゃぶったまんま頬をすぼめたらしい。ぺとぉっと左右から柔らかくって弾力があってぬるぬるに湿った熱い肉が押し寄せてきた。あまりに気持ち良くて、ぞわぞわして、震えた。その瞬間、舌の先を俺の先端にねじ込んで来た。

「うぶっ、ぷっはぁっ」

 反則だ!
 呻くと同時に口を離してしまった。ぷるんっと震えたフロウの先端から、粘液が弾けて顔に飛ぶ。
 透明で、ぬとぬとして、しょっぱい。
 先走りにしちゃ粘つきが薄いのは、俺の唾液も混じってるからだ。

「ふー、はー、はー……」
 
 股間でほくそ笑む気配がした。
『その程度で俺のマネしようってか? 無理すんなよ、坊や』
 得意げな声が頭の中に響く。
(くっそっ!)
 腹立ち紛れに舐めてやった。絶対的に経験ってもんが足りないんだ、奴の真似したって芸がない。だから尻たぶをかき分けて、その奥の肉厚な入り口を。
 いつも俺が突っ込んでる穴を、ぬるつく舌で舐めてやった。

「きゃあっ」

 今度はフロウが喘ぐ番だった。
(何だ、今の声)
 ついぞ聞いた事のないような可愛い声がした。
 これか? このせいか?
 目の前の、浅く息づく濡れた穴を見つめる。だったら。
 口で全体をすっぽり覆って吸ってやった。わざと唾液を滴らせ、すすって音を立てて……。吸い込む勢いで肉ひだがめくれる。すかさず舌先で逆立てて、なぞってやった。

「ひゃあん、あ、ふ、や、よせ、あひっ」

 舐める余裕もからかう余裕もなくなったか。俺の股間に顔すりつけて喘いでる。

「お前ってさ」
「ん……な、何だよ」
「前より、後ろ舐めた方がいい反応するよな」
「あー……それは……その…」

 はぁっと愉悦のため息がこぼれる。内股に当たってくすぐったい。

「……好き、なんだ」

 その瞬間、頭ん中が沸騰した。夢中になって舌全体を広げ、フロウの後ろを舐めて、吸った。
 べちょべちょと音を立てて、唾液を絡め、滴らせて。

「ひぁっ、あ、いい、ダイン、もっと……っ!」

 高く、切なげに訴える声に誘われて口を離した。

「あン、何で、やめる?」
「止めてない」
「ふぇ?」

 濡れそぼって充血し、ぽってりふくらんだ穴に指をあてがう。ひくっと表面が収縮して吸い付いてきた。
 誘ってる。
 指に少しずつ力を入れる。

「あふぅ、お、おお、あお、ダ、イ、ン」

 徐々にのめり込み、仕上げに一押し。指先から真ん中まで、ずるっと飲み込まれた。
 ぬちっと熱い湿った肉が引っ付き、締めつける。あまりの強さについ、問いかける。

「動かしてもいいのか、これ?」
「う、う、んうぅ」
「何とか言えよ。黙ってたら、わからない」

 じわじわと一気に根元まで沈めた。どんどん強くなる締めつけと、切れ切れに上がる悲鳴がフロウの『答え』だ。
 ゆっくりと回す。

「くぅうううんっ」

 痙攣とともにフロウの中が収縮し、奥に引き込まれる。

「あっ。あっ、あーっ」

 かと思うと、緩んで押し出される。
 俺は何もしてないのに、勝手に俺の指をくわえ込んで抜き差ししてる。
 フロウの動きに合わせてこっちも指を出し入れしてやった。次第に厚みを増し、ほぐれる後ろをまさぐった。

「はひぃっ、んん、もっと弄って……っは、あ、そこぉ」
「ここか?」

 ぬちぬちと蠢く肉の壁の中に一ヶ所、ぷくっと膨らんだ部分を見つけた。大きさはヒマワリの種ぐらいだろうか。

「何だ、これ?」

 くい、と押した瞬間、悲鳴があがった。

「いぃいっ、や、そこ、だめえっ」
「逃げるなよ」

 背筋が反り返り、手足がびくっ、びくっと不規則に震えてる。押しのけられたらたまらない。今こいつと離れたら、発狂する!
 尻をがっちり抱え込み、改めてぐいと押す。

「ひぃっんっ! っくぅ、は、あっ、あはぁ、やぁんっ!」

 首を左右に振ってる。解かれた亜麻色の髪がシーツの上に乱れて広がり、頬に、口元にまとわり付いている。

「いい、そこ、いいっ、あ、やだあっ」
「いやなのか? いいのか? どっちなんだよ」
「あ、あ、あ」

 ふるふると小刻みに身を震わせながらフロウが囁く。せわしなく乱れた呼吸の合間から、切なげな声を振り絞って。

「いい……気持ちいい……だからぁっ」

 体をよじってこっちを見てる。赤みのさした顔の、頬と目の回りが一段と濃くなっている。蜜色の瞳が潤みきって、涙の滴まで浮かべてる。

「もっと、弄ってくれよぉ、ダイン……」

 ああ、もうどんだけ可愛いんだこのオヤジは!
 すがりつくような眼差し、息も絶え絶えにかすれた声。その一言で、ぷっつんと頭の奥で何かが弾けた。

「はひっ、う、ぐぅ、ひぃ、うっ」
「あふぅっ、あ、ひゃぁ、ら、め、そこ、ん、んぐ」
「ひっ、あ、あ、ああああああ、ダイン、い、いく、いくいく、いくーっ!」

 気がつくと指二本つっこんで夢中になって奥までぐりぐりかき混ぜていた。
 我に返ってこんなに激しく動かしていいのかと心配になったが、指に伝わってくる感触からは苦痛の兆しは感じられない。
 フロウの声も表情も、せっぱ詰まってはいるが苦しそうではない。気持ち良さそうにうっとりしてるし、腰まで揺れてる。
 俺が見てるのに気付いたか、首を横に振った。

「やぁ、見る、なぁ」
「何で?」
「みっとも、ないっ」
「そんな事ない」

 言い返した途端、妙に指に力が入ったらしい。ねじれて、膨らんだ部分を強く圧迫してしまった。

「ふひぃっ、お、奥、奥がぁっ」
「あ……可愛いな……」

 みっともないくらい、何もかもかなぐり捨てて。涙と汗とよだれでべとべとになって、ひくひく震えて呻いてるフロウは……

「最高に可愛い」

 尚もぐいぐい押しながら、不規則な脈動を始めたペニスの先端にキスをした。
 その瞬間。

「あっ、ぎぃっ!」

 びったんっと背筋をしならせ、フロウの全身が跳ねた。弾む体に叩かれて、派手にベッドが軋む。ペニスの根元が震えた。膨らみが根元から先端にかけて伝わり、広がって行く。
(あ、来るな)
 敢えてぱくっとくわえた。

「も、らめ、いく、いぐぅうぅっ」

 ぷくっと口の中の亀頭が震えて膨らみ、咽の奥を穿つほどの勢いで粘つく奔流が放たれた。

「んぐっ……」
「は、あ、あっ」
「ん、んぅ」

 口の中に吐き出された生あったかい粘つく体液を、余さず味わい飲み込んだ。最初の噴出の後も、すすればすするほど面白いくらい溢れてくる。

「や……何、してるぅ……」
「……飲んでる」

 舌の奥に引っかかる、いがいがした青臭い粘つく液体。他の奴のを飲み込むなんて考えるのも御免だが、フロウのは別だ。

(俺、変だ)
(男の精液飲んで、興奮してる)

 惚れた男が昇りつめた証拠だからか。飲み込んだ分がそっくり自分の中に溜まって、血流に押し流され、凝縮し、どくっと脈打つ。

「や……お前、何、でかくしてんだよ……」

 ぐいっと無造作に手の甲で口を拭った。
 体を起こし、改めてのぞき込む。たった今、俺自身の手で果てた男の顔を。
 普段の余裕たっぷりの表情が嘘みたいだ。小刻みに震えながら、息も絶え絶えに喘いでる。震えてる。顔を真っ赤に火照らせて……。
 この熱は外側から来たんじゃない。全部、フロウの中から湧き出した物だ。

「今度は、俺の番だ」
「ひゃっ」

 涙目で弱々しく首を左右に振るが、火照った柔肌は手のひらに吸い付き、駆り立てる。早く来いと煽ってる。
 まるまっちぃ肩に手を当てて仰向けに押し倒し、足を開かせる。

「はひいっ!」

 ひくつく尻穴に己の性器の先端をあてがった。

「フロウ」
「あ……」

 フロウは自分の手で口を塞いで、こっちを見上げ………小さく頷いた。
 ほっとして、腰を沈める。
 ずぷぷ、ぬぷ、ぷちゅっ。
 濡れた肉と肉のこすれる音が、体を通して直に響いてくる。指に与えられた締めつけが、二倍三倍になって一物に与えられる。

「う、あ」
(気持ちいい)
「ひゃあ、あ、あ、あ、あ、入ってる、入ってくるぅっ」
(可愛い)
「んあうぅんっ」
(気持ちい)

 妙だ。
 確かに口を開けて、声を出してるのに自分が何言ってんだかまるで聞き取れない。音は入ってくるのに意味を成さない。
 ただ聞き取れるのはフロウの声ばかり。

「あぐ、あ、あぎ、ひ、う、お、あ、あ、あひっ、ん、あんっ」
「お、おう、ふぐっ、ひゅっ、ひっ、あ、あっ、あおっ」
「んっ、んっ、ん、あっ、あんっ、あ、あーっ、ダイン、ダ、ダインんんっ」

 甘い声。
 いやらしい声。
 可愛い声。
 駆り立てられる。煽られる。いきり立つ。
 夢中になって動く。
 ぽとぽとと透き通る汗の滴がしたたり落ち、フロウの上に零れ、弾けて珠になる。
 自分が動けば動くほど、湿った肉と肉のこすれあう音が。ベッドの軋む固い音が大きくなる。
 体の中で心臓がものすごい勢いで脈打ち、それがそのまんま、足の間に吸い込まれる。
 一瞬、意識が体を離れて浮かぶような感覚に囚われた。手も足も確かにフロウを掴んでるはずなのに、上も下もない真っ暗闇のど真ん中に浮いているような。
 煮え滾る頭の片隅で、ぽつっと氷みたいな冷たい一かけらが光ってる。

   花は、それを見て、きれいだと思う全ての人のものだ。
   手折るは容易い。されど手折れば萎れて朽ちるばかり。
   愛でられてこその花なれば……
   一人占めなんかできるはずがない。
   どんなに恋しくても。狂おしいほど求めても。

 だけど今は。
 今、この瞬間だけは!

「あ、あ、あっ、ダイン、ダイン、もっと、んんっ、あ、ダインっ!」
「フロウ!」

 夢中になって愛する男の名前を呼んだ。
 むっちり張りつめ、汗で濡れた体を抱きしめて。力の限り奥底まで打ち込み、放った。
 ……ひょっとしたら、物すごい声で叫んでいたかもしれない。
 吠えてたかもしれない。
 ぎりぎりまで張りつめて昇りつめた瞬間、振り絞ったのが声なのか。精なのか。
 わからない。
 ただ、うねり蠢く生きた体にしっかりと受け止められたのを感じた。
 呑まれるのが、わかった。
 すごく気持ち良くて……安らぐ。

「はぁ……フロウ……」

 どちらからともなく腕を絡め合い、ぴったり体を触れ合わせていた。抱き合っていた。
 やっぱりキスと同じだ。
 二人分の熱と水を重ねて混ぜ合わせ、一つにする。どっちがどっちなのか、分からなくなるまで。
 荒くなった息はまだ収まらない。抑えようとしたって、静かになる訳がない。
 汗ばみ、上下するフロウの胸に顔を押し当てる。すぐ目の前で、濡れてぴんっと尖ったピンクの乳首が揺れていた。
 ……吸ったら、怒られるかな。

「ダ、イ、ン……」
「ん? どうした」
「もう一回」

 断る理由なんか、あるはずがない。

(若者×おっちゃんで22のキス★/了)
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