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とりねこの小枝

【おまけ2】薬草畑でそそられて★

2012/11/16 3:57 騎士と魔法使いの話十海
  • 拍手ありがとうございました。お礼に短いお話をプレゼント。
  • 畑仕事の最中に、ムラっと来たわんこ騎士がおいちゃんにちゅーするだけのお話。
  • 上半身だけですが脱いでます。苦手な方は回れ右
 
 昨日の夜、フロウは言った。ベッドの中で、俺をしっかり抱きしめて。

「明日は早いぞ? 畑の草取りやら、薬草干しやら、お前さんにやってもらう事はいっくらでもあるんだからな?」

 その言葉通り、今日は朝早くにたたき起こされ、飯食った直後に畑仕事に駆り出された。
 異論は無い。もともと農作業はお手の物だ。西道守護騎士団は開拓者を守る傍ら、自らも鍬を握って荒れ地を耕して来たんだから。
 剣だの盾だのをぶん回すのと同じくらい、土をほじったり種を蒔いたり雑草を抜くのに慣れている。馬だってそうだ。いざとなりゃ荷馬車も引くし、鋤も引っ張るように訓練してある。

 シャツの袖をまくり、裏口から庭に出る。朝の空気の中、甘い香り、つーんとした香り、すーすーする香り、腹の減る美味そうな香り。混じり合って鼻腔をくぐり抜けて咽に落ちる。
 すーはー、すーはーと深呼吸をしていたらフロウに呼ばれた。

「ダイン、ちょっと屈め」
「ん」

 言われるまま膝を屈めると、ぼすっと麦わら帽子を被せられた。

「何だ、これ」
「今日は陽射しがきつくなりそうだからな。被っとけ」
「さんきゅ!」

 見ているとフロウも自分の分の帽子を頭に載せている。妙に似合ってる。

「どうした、にやにやして」
「いや、別に?」

 こっそりちびの羽根か、ラベンダーの花でも挿してやったらどんな顔するかな。

 ……なんて甘ったるい空想は、いざ手を動かし始めると空の向こうにすっ飛んでった。
 薬草の間にかがみこんでひたすら雑草をむしり、腰から下げたカゴに入れる。間違って肝心の薬草を抜かないように、時折軽く葉のにおいを嗅ぎながら。
 薬草屋『魔女の大鍋』の裏に広がる畑は、広い。二人でやってもなかなか終わらず、太陽はどんどん高く上がって行く。
 照りつける陽射しは強く、気温も上がる。帽子を被っていても汗が吹き出し、だらだらと流れ落ちる。丸めた背中や腰も、みしみし言い始める。
 最初のうちはぴゃあぴゃあ言いながらまとわりついてたちびも、今はさっさと引っ込んで店の中。涼しい所を見つけて、ぺたーっと平たくなってるんだろうな。
 そろそろ俺も一休みするべきか。いや、もう少しだけ。この一角だけ終わらせよう、なんて考えながら手を動かしていると。

「っかー、あぢぃ。腰いでぇ!」

 すぐ隣で、俺より早く根を上げた奴がいた。

「あーもーやってらんねぇわ」

 シャツのボタンを腹のあたりまで外して襟をつかみ、ばっさばっさと煽いでる。
(うわぁ)
 目が吸い寄せられた。ばっさばっさと羽ばたく布地の合間にちらちらと、フロウの胸が。腹が見え隠れする。
 むっちりと張りつめて、年齢の割につやつやすべすべした肌に覆われて。乾いてる時はさらさらとくすぐったい。今みたいに汗ばんでる時は、しっとりと手に吸い付いてくる。
 見てるだけで手のひらが、指先がむず痒くなる。熱くなる。
 おまけに派手に煽ぐもんだから、奴の汗のにおいがふわっとこっちに漂って来てたまったもんじゃない。
 熟した体の脂に薬草の香りが混じった、ねっとりと甘酸っぱい生きた体のにおい。吸い込んだ途端、むらっと体の奥に生臭い火が灯る。

 やばい! 真っ昼間の屋外で盛ってどうする。落ち着け、落ち着け。
 必死になって自分をなだめてる所に、のほほんとした声が聞こえてきた。

「上だけ脱いじまうかねぇ」
「っ!」

 ああ、もう、たまんねぇ!
 足が動く。自分が何やってんのか判断するより早く、フロウのすぐ傍に寄っていた。熱を帯びた肌が。ねっとり甘酸っぱい汗が香る。におう。
 蜘蛛の糸みたいに伸びて広がり、頭の中をからめ捕る。

「ここで脱ぐのか」
「いや、だってあっついだろ?」

 しれっとした顔でこっち見てやがる。何の不思議があるかと言わんばかりの口調だ。
 確かに暑い。背中にも脇の下にも腹にも汗がじっとり染みて、布地が張り付き肌の色が今にも透けそうだ。

「誰かに見られたらどーする!」
「自分家の庭で、男が上半身裸で畑仕事してて、文句言う奴ぁ居ねぇだろ?」
「……………」

 確かに。今は双子月(6月)、庭を取り囲む生け垣の枝は伸び、みっしり生い茂って周りからの視線を遮っている。
 屋根にでも上らない限り、他所からのぞき込むことは不可能だ。
 うん、大丈夫。
 だったらためらう必要はない。さっさと手を伸ばしてぷちぷちとボタンを外した。もちろん、自分のシャツなんかじゃない。フロウの、だ。
(決まってるだろ?)

「おい」

 眉間に皴を寄せ、じとーっと目を半開きにしてにらみ付けて来る。だが、逃げはしないし、俺の手を払いのけもしない。

「勝手にはずすなよ」
「脱ぐつもりだったんだろ?」
「まあ、な」

 やっと全部外し終わった。ぱさりとシャツの前が開く。凝脂の乗った胸が。なだらかな腹が見える。
 肌が。汗がにおい立ち、濃密な甘さにむせ返る。
 どん、どん、と心臓が凄まじい勢いで鼓動を刻む。胸の内側から外側に向ってぐっと押し出され、肋骨が軋みそうだ。こめかみの内側で、耳の奥で、ごぉおん、ごぉおおんと低い音が轟き響く。まるで水の中でぶつかり合う岩みたいに。

「……ダイン?」

 頬の表面が熱い。そのくせ指先は奇妙に冷たい。

「脱がすぞ」
「ん? おう」

 ひそっと耳元に囁いてシャツの前を広げる。待ち切れず、撫でさすりながら肩から滑り落とす。
 手のひらでしっとりした滑らかな肌の手ざわりを。丸みを帯びた肩の。肉の質感をむさぼりながら……。
 ほとんど抵抗はなかった。

(ああ、やっとお前の体をじっくり見る事ができる)

 真昼の太陽の光の下で見るフロウの体は、いつもより白い。眩しいくらいだ。つるりとした表面から透明な滴がしたたり、湯気が出そうなほど熱い。さながらお湯から引き上げて、殻を剥いたばかりのゆで卵。
 帽子だけ被ってるのがまた、妙に『裸』を意識させる。編まれた麦わらの作る影が、白い体にゆらゆらと、薄い灰色の斑を描く。肌のゆるみから鎖骨のくぼみまで、体の微細な凹凸を縁取り浮かび上がらせる。
 見ているだけで手が、指が、触れた時の感触を鮮明になぞる。

「火照ってるし、汗ばんでるし、ほんとお前って……」

 わずかに袖が手首にひっかかる程度までシャツをずり下げて、腰に腕を巻き付け引き寄せる。
 つばとつばがぶつかって邪魔になるから、自分の帽子は脱いで足下に落とした。

「ダイン?」

 咎めるように名前を呼ばれた。でもフロウ、逆効果だぞ、それ。

「そそる」
「う」

 目を逸らさずに顔を寄せて、唇を重ねる。拒まれはしなかった。うっすら開いて待っていてくれた。伸ばした舌にわずかにぴりっと塩の味がした。
 乾いた表面を突き抜け、ぬるりと中へ。

(しょうがねえなあ、このわんこは)

 そんな呟きが聞こえた気がした。
 実際、フロウは笑っていた。目元に笑い皺を寄せて楽しげに、咽の奥でくつくつ声を立てて。振動が舌を、唇を通じて伝わってくる。じわあっと口の中に涎が湧き出し、慌てて飲み込む。
 だがちょっとばかし遅かった。
 舌をつたい、フロウの口へ。さらに奥へ。
 やや遅れて、わずかに緩んだ首筋が上下し……フロウの咽がこくり、と鳴った。かみ合わせた唇を通じ、骨を伝わり、生々しく響く。俺の立てる音も同じくらい、しっかり伝わってるんだろうな。

 どちらからともなく互いの背に腕を回し、抱き合った。汗ばむ肌を。土くれと青臭い草の葉にまみれた服をぴたりと密着させた。ほんのわずかなすき間ができるのも我慢できなかった。

「う……ん……」

 もう、限界だ。股間が熱くて固くてどうにも押さえられない。耐え切れない。
 勢いに任せて押し倒そうと腕に力を込めた。だがいち早く、がずっとつま先を踏みにじられる。

「ってぇええ!」
「ちったぁ場所を考えろ、このエロ犬。所構わず盛りやがって」

 べっちべっちとデコを張り倒される。

「痛い。痛いよ、フロウ」
「作物が傷つくだろうが!」
「あ……」

(しまったーっ!)
 もうちょっとで、薬草を台無しにする所だった! 恥ずかしいやら、申し訳ないやらで立ち尽くしていると……。

「そら。来いよ」

 ぐいっと胸元を掴まれ、引っ張られる。引かれるままよろよろと歩き出す目の先に、馬小屋が見えた。
 んぐっと盛大にこみあげた涎を飲み込む。

「フロウ?」
「あぁ? どうした。あんなねちっこいキスでねだっといて、今更ビビった、なんてのは無しだぞ、ワン公」
「……けっ、だぁれがビビるかよ!」
「お、頼もしいねぇ」

 するりと股間をなでられる。呻いて前かがみになった瞬間、耳元で囁かれた。

「そっちから誘ったんだ。楽しませてくれよ、騎士サマ?」

 密やかな吐息が耳をくすぐる。ぬるりとした感触。唇が耳たぶを含み、軽く歯を当ててから離れた。
 しゃぶられた耳にひやりと風が当たる。ぞわあっと全身の皮膚が泡立った。
 心臓が。血管の中で沸き立つ血が。足の間の息子が吠え、滾り、身悶える。早く続きをしろ、これ以上待たすな、放っておくな!
 さっきまではただ、ムラっとしただけなのに。もう血の一滴、肉の一かけらに至るまでがフロウを恋しがる。
 狂おしいほど、求めてる。
 ああ。やっぱりお前って、つくづく……。
 そそる男だ。

(薬草畑でそそられて/了)

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