▼ real-Scotsman
- 拍手用御礼短編再録。
- 【3-15】サムシング・ブルー後編中での出来事。キルトの下に何を着ける? と、言うお話。
部屋に戻ると、新郎新婦に報告するまでもなく二人の方からやってきた。
ちらりとヨーコの方を振り返ってからヒウェルは小声で伝えたのだった。
「双子のことなら心配ない。じきに戻って来る」
「……そうか」
ほっとディフが安堵の息をつき、レオンと顔を見合わせる。気が気じゃなかったらしい。ったく、心配性だな、『まま』。
「ああ、ここに居たな、マックス」
ぬっとマクダネル班長が近づいてきた。いつもの厳しい顔が若干ゆるんでいて、血色も良くなっていらっしゃる。
「こちらの美しいご婦人はどなたかな?」
美しい? そーりゃ見てくれはそこそこですがねチーフ。ごまかされちゃいけません、アレの中味は『猛獣』ですぜ!
「彼女は俺とヒウェルの高校時代の同級生で、ヨーコって言います。ヨーコ、こちらは俺の警官時代の上司でマクダネル警部補」
しずしずと一礼すると、ヨーコはにっこりと適度に控えめな笑みを浮かべた。
「ヨーコ・ユウキと申します。お目にかかれて嬉しく思います、マクダネル警部補」
「こちらこそ、Missヨーコ。よろしければ一曲踊っていただけるかな?」
「とても嬉しいお申し出ですけれど、ご辞退させていただきますわ、警部補」
くすっと笑うとヨーコは着物の両袖を広げた。
「今日は踊るのにはいささか、不向きな服装ですので」
ディフが首をかしげた。
「そうか? でもハイスクールの時は」
「あれは、浴衣だったから!」
「そうなのか」
「そーそー、着物とは違うのよ。あれは盆ダンスの時のユニフォームだから」
にこやかにさらりと言ってるが、そーゆー次元の問題じゃないだろ、ヨーコ。
俺は覚えてるぞ。
ユカタの下にショートスパッツ履いて、ジャニスやカレンらと一緒にアップビートでノリノリで踊りまくってた君を。
「それは……残念」
大げさに肩をすくめると、チーフ・マクダネルはやおら表情を引き締めてディフに向き直った。
「単刀直入に聞こう。ダンスの前にこれだけは確認しておかんとな……」
「はい」
ディフも真面目な顔でうなずく。
「Are you a real Scotsman?」
「No. 彼が望まないので」
ほんの少しの間、チーフはむっとした顔をしていた。しかし、すぐさまにやりと豪快に笑うとディフの背をばしばしと叩いたのだった。
試しに聞いてみる。
「で……チーフ、あなたは?」
ずいっと彼は胸を張って答えた。
「Yes!」
やっぱりな。
大またでざかざかと歩み去り、新たなパートナーを探しに行くチーフの背を見送りつつヨーコが小さくため息をついた。
「惜しいなあ……もろ、ツボだったんだけどなあ」
「そりゃ、確かにチーフはいい漢だが………」
ディフが首をひねった。
「年、離れすぎてないか?」
「同感だ。彼と手ぇつないだら君ら、ほとんど親子だよ」
「男は四十代からが華よ。やっぱり素敵ね、あれこそ大人の男! って感じ」
しみじみおっしゃってますなあ、ヨーコさん。
つまり、あれか。
君の目から見れば俺らも双子も同じレベルってことか? そこはかとなく納得行かないぞ。
「で。ちょっと質問したいんだけどいいかしら?」
「何だ?」
「さっきの警部補の質問って、どう言う意味? 『本物のスコットランド男か』って……」
「いや、つまり……キルトってのはスコットランドの民族衣装だろ」
ディフが答える。ほんの少しためらいながら。レオンはただ笑顔で見守るのみ。
「本来なら下着つけないで着るのが正しい着方なんだ」
「……ああ、つまり、そゆこと」
「うん。そゆこと」
「なるほどねぇ……」
しみじみうなずきながらチーフの後ろ姿と、ディフを交互に見ている。ふと思い出して今度は逆にこっちから質問してみた。
「そう言えばさあ、ヨーコ」
「何?」
「キモノも本来は下着つけずに着るもんなんだろ?」
「昔はね」
「……are you a real japanese woman?」
「…………………ヒウェル」
久々にくらった『こめかみぐりぐり』は、一段とキレが増していた。
「くうう。ひっさびさに効いたぜ」
「ったく。あんたがゲイじゃなきゃセクハラで訴えるところだ」
「訴えるのなら相談に乗るよ?」
さらりとレオンが切り出した。腕組みをして三白眼でねめつけるディフの隣から、笑顔で。あくまで穏やかな笑顔で!
「いえ、残念ながら月曜の便で帰りますので………」
ぱしぱしと手を叩いてからヨーコは事も無げに着物の襟に指をそえ、ぴしっと整えた。
「ノーパンかどうかは問題じゃなくて、要は下着のラインが上に出ないよう気をつけりゃいいってことなの。ちゃんと和装用のランジェリー着けてるわよ」
「さいですか」
(real-Scotsman/了)